再び、恋バナは世界を巡る
フィリップが失恋!?
「ふーっ。」
「母上なんだか力が抜けました。」
フィリップが倒れて乱れた衣装を整える。今日の衣装はグレーの長めの上着に銀糸の刺繍。小さな赤い花と伯爵家の紋章入りの黒いボタンがアクセント。細身のズボンは黒。胸元は銀の縁取りのレースが飾る。
なんだか吹っ切れている。整え上げていた前髪が落ちて来て10歳若返ったよう。
晴れ晴れと笑う顔は、ニヒルダンディが消えて、爽やか優等生フィリップだ。
残念。私的には、ニヒルダンディ・フィリップがお気に入りだったけど。ベリンダにはお似合のようだ。
ベリンダが首を傾げている。爽やか優等生よりニヒルダンディが好みだったかな?
「なんか、思ってたのとフィリップちがう~。」
なんて言い出さないで欲しい。
エリーズママが泣くから。
おじい様が苦笑している。
「これほど大勢の前で馬鹿な事をしたな・・。」
「また、我が家の事を吟遊詩人に唄われるようになるかもしれん。覚悟せねば。頭が痛いことになりそうだ。」
「そうだ、ふむふむ。外交の仕事はお前に代わってもらおう。そろそろ良いだろう。」
「吟遊詩人の唄?ベリンダの恋物語ですかな?」
「そんなもので、頭を抱えたりせん。」
「では、どんな物語が語られると?」
「気が付かぬか。迂闊なやつだな。」
「はて?」
「お前とフィリップ殿の悲恋物語に決まっておる。」
「ひっ!」
「吟遊詩人が唄うさまが目に浮かぶようじゃ。」
「想い合っている二人だが、お互いに跡継ぎ。泣く泣く別れてお互いに意に染まぬ相手と結婚する。という話になるか。」
「フィリップがずっと慕い続けていた相手、この場合お主だが、その相手と結婚できぬならせめて…、恋心を胸に秘めてその思い人の娘と結婚する話とどちらになるか・・。」
「ラウールお前は当事者としてどちらがよい?」
「ひっ!そんな物選べませんよ。当事者ではありません。」
「私の物語はすでにあるので、これ以上いりません!断固拒否します!」
「そうか、では。フィリップ殿こちらへ。」
フィリップが呼ばれたよ。
未来の義父&義祖父だからね。
婚約の事、なんだか言われそうだよね。緊張している。
もちろん、抱っこをせがみフィリップについていく。親友だもの。
「フィリップ殿、お主はどちらが良い?」
「何の話ですか?」
「お父様の話は本気にせぬ方が良いぞ。いや聞かぬ方が良い。」
「ん?なんです?婚約なら本気です。ベリンダ殿を第1夫人として屋敷にお迎えいたします。お許しをいただければですが。正式な申し込みは1度屋敷に帰ってしきたりに沿ったものにするつもりでおります。大事なお嬢様ですから。」
「当然だ。第1夫人以外絶対に許さんからな!」
「婚約は、ユールヴェル侯爵家当主として、正式な申し込みがなされた時点で許そう。」
なんだか、硬い話でつまらない。
「で、選ぶとは?」
「フィリップ忘れてなかったか。聞かぬ方が良い。後悔する。知らない方が良い・・!」
「で、侯爵様どのようなお話ですか?」
「フィリップ、私は忠告したからな。聞いてないとか言わせぬぞ!」
お父様が走って去る。
「でな、フィリップ殿。」
おじい様が楽し気に話し出す。
「ラウールとその方が想い合っているが、跡継ぎ同士。泣く泣く別れて家のために各々女性と結婚する話と。ラウールへの叶わぬ想いを胸に秘め、せめて近くにいたいとラウールの娘と結婚する話とどちらが良い?」
「だれがですか?」
フィリップ、きょとん。
「フィリップ殿が。」
「はぁ?何が?誰と?どうして?」
「これから、色々な国の宮殿で吟遊詩人が語る悲恋物語だよ。涙なくしては語れないフィリップとラウールの恋物語だ。」
「はぁ!」
「どちらが好みかな?」
「選べるのですか?いや、選ぶより否定したいですが。」
「唄われた時に、そこはこちらの方がより真実に近いようだ。とこっそりアドバイスという形で耳打ちする事が出来る。」
「そこは、まるで嘘だという所では無いですか。面白がっていませんか?」
「あの口づけが致命的だったな。ラウールとのキス、噂は千里を走るというし。」
「ラウールのやつめ・・あいつのせいか。ベリンダ殿が、叶わぬ恋人の代わり、と唄われるのは可哀そうです。」
「しかし、ベリンダは信じぬだろう?」
「信じられては困ります!」
「だから、恥ずかしかろうが、そこは笑って唄われておけ。」
「ええっ!世界中の吟遊詩人にですか・・・。」
「女郎蜘蛛の糸に絡みつかれたり、女吸血鬼に囚われ夜な夜な生き血を吸われる薄幸の美少年として唄われる方がこのみかな?」
「ぐむぅ。・・・・ご存じでしたか・・。」
「遅きに失したが。間に合わぬでも・なかろう?もう少し早ければなお良かったがな。」
「贅沢は言うまい。じじいの贔屓目じゃがベリンダは素直な心根の子じゃ。一緒にいて心地よいぞ。大人になれば美しい良き妻になろう。」
「大人になったら、ねえねは、おじいしゃまになるでちゅよ。似てるでしゅ。」
「プっ!確かに。フハハハハハッ。」
フィリップのツボにはまったようです。