謎の女
おばあ様はエマ、おじい様はアンドレ
おばあ様と伯爵夫人の二人きり。
私は、おばあ様の膝で寝たふり。気配を消します。
お昼寝の時間ですが、寝てなんていられません。
秘密は蜜の味・・・?
「エマ」
伯爵夫人がおばあ様の肩に顔を伏せる。
「エリーズ」
「私、早くに主人を亡くして、頑張ってきましたのよ。」
「皆、知っていますよ。」
おばあ様が優しく背中を撫でる。
「この年になるまで、孫どころかフィリップに嫁も来ないとは、思ってもみませんでした。」
がばっと身体を起こし両手を握りしめる。
「全部あの女のせいですわ。殺してやりたい・・・・。」
物騒な話になってきた。
叫ぶより、呟く方が怖いって知りました。
「フィリップ様は、本当にお綺麗で、いつも真面目な優等生で。災いしましたね。うちのラウールのように能天気に、何も考えていない様に見えれば、興味を引かなかったもしれませんが。」
「ラウール様は、もうリザベータ様一筋でしたしね。」
二人が、ふふふと笑う。
「でも、ラウール殿はそうでも、ジルベール殿も狙われていたのでは?あのメギツネに。」
「ジルベールの事は心配していませんでしたわ。あの子ルイ殿下と仲が良かったですから。いくらあの方でもさすがに、堂々とはね。それに、正直私は何かあったとしても、ジルベールの心配はしなかったと思いますわ。ジルベールは・・・・・ね。」
「あの頃は、婚約者が王女でしたものね。」
「ジルベールはいつも穏やかで明るく、温かい人柄に見せていましたけど、心根、芯が冷たい所がありましたから。あの方の誘惑にのっても、きっと冷たく捨てるような事が簡単にできたと思いますよ。フィリップ殿の方が女性を近づけないように、冷たく振舞っておられても、はるかにお優しいですよ。」
「死んでしまった事は、今でも悲しいのです。けれどもリザベータ様は、ジルベールよりラウールと結婚した今の方が幸せだと思いますよ。」
う~ん。ジルベールも問題児?
「フィリップが、あのように女性を寄せ付けなくなったのも、あの毒婦のせいですよ。」
「あの蜘蛛のような女が、フィリップに執着しているせいで・・・・。」
「フィリップにも貴族院卒業の頃には、いくつか婚約話も出ていました。でも、2,3年たっても具体的に話を進めようとすると、相手の方に良い縁談が来て必ず話が無くなってしまうのです。それもあの子に父親がいなくて、後ろ盾がいないせいと仕方ないと思っておりましたの。」
「まぁ、そんな事が。後ろ盾でしたらいくらでもアンドレが、ユールヴェル侯爵がなりましたのに。」
「でも、まだ若かったですし男の子ですから。心配はしておりませんでした。でも20の頃、あの子も真剣に結婚を考えるようになって。子爵家のお嬢様で11歳になられたばかりで、それはもう、可愛らしいかたでしたのよ。」
「まぁ、そのようなお相手が存じませんでしたわ。」
「貴族院の卒業を待って結婚をという事で、婚約をお知らせしようと思っていた矢先、領地に帰る馬車が賊に襲われて、お顔に怪我をされましたの。お相手の方が。」
「あの子も優しい子ですから、怪我など関係ないと言い張ったのですが。相手のお嬢様が、ご自分の顔を見せるのが嫌だと。閉じこもってしまわれて。」
「その後直ぐ青ざめて外から帰ってきたフィリップが、部屋から出てこない、と王都から連絡が。行ってみるほとんど眠ていなかったのでしょう、蒼白な顔で座っていたあの子がただ、声も立てずに泣いていたのです。」
「それからは、もう結婚や婚約の話は『私は死神に取り憑かれているようだから、今度は怪我ではすまないかもしれない』というようになりましたの。」
「あの方もそこまではしないでしょう。が、怪我の事は利用されたのでしょうね。」
「縁談ぐらいは、持ち込んだでしょうが、内密に賊を雇ったりするまでのお力はないでしょうから。脅しに使われたのでしょう。フィリップ殿はそういうところが真面目ですから。正直に信じてしまわれたのでしょうね。」
「あの方いくつになられたのかしら?」
「たしか、ジルベールより5歳ほど年上でしたから、47くらいかしら。」
「10年前にそれほど執着されていたのなら、今は考えるだけでこわいですわね。」
「お年を召した分だけね・・。」
「でも、今回は私たちが力になりますわ。おひとりでお悩みになる事はございません。ベリンダの為でもありますし。もっと早くお話くださればもう、もう孫に囲まれていたかもしれませんよ。ベリンダは失恋したでしょうけど。」
メギツネで毒婦で蜘蛛のような女はだれ?