大人の話
フィリップは危険
ちょっと泣いてみる。
卑怯な手を使って子供部屋からの脱出を図る。
「きょうはおかあしゃまの部屋で寝ます。」
母の隣をゲット。
「おや、レオンにリザベータの隣をとられたか。」来た!お父様。
抱え上げられ部屋に戻そうとするので全力で抵抗。
こんな面白そうな大人の話が、聞けそうな夜を一人で過ごす馬鹿はいない。
しがみ付いて泣きながら
「お父ちゃまとお母しゃまと寝ましゅ。」「お父ちゃま。ちゅき。」
どうだ!可愛いだろう。勝てないだろう。
「ん、仕方ないな。レオンは、お父様が好きなのか・・・・・。」
ちょろいぜ、お父様。
大きなベッドに川の字。初!
何だか隣のお父様にドキドキするのは、中身のせい?せいだよね。
「全く、ベリンダには驚かされる。」
「ふふふ・・・・。」
「あのように騙されやすくては心配になる。貴族の第1夫人として嫁に出すのが不安になる。」
「それなら、老獪なフィリップ様なら、丁度お似合いの相手ですわね。でも、あれがお芝居という事はありませんかしら、もしかして、ですけど。」
「あんな芝居ができるようなら、ベリンダはフィリップの嫁にはせぬな。必ず、アンリ殿か隣国のチャールズ王子の第2夫人にする。」
「フィリップ様に嫁ぐ為の芝居でもですの?」
「あんな芝居ができるようなら、フィリップの妻になりたいなど言い出すまい。王の第2夫人の方が面白い事ができよう。権力も楽しめるはず。」
フィリップ様問題児?
「しかし、あれが芝居でないから頭が痛い。」
「ですわね。」
「フィリップならば、友人との食事の後、一緒に噂になるような所行くわけがない。酒を飲むとしても、絶対知人が顔を出さない場所しか行かぬだろう。名前も身分も偽って、平民のふりさえ難なくできる男だよ。あれは。決して自分に本気になりそうな相手には近付かない男だよ。」
「でも、ベリンダには油断なさったのですね。」
「近づいてはいないだろうが、確かに油断はしていただろうな。」
フィリップ・・・思ったより危険な男じゃないか。
姉様大丈夫?・・・完全に騙されていますけど。
「でも、くっ・・あんな噂があって、それを信じるなんて。フィリップ様の相手が貴方だなんて・・」
「いや・・・、あれは全て私に責任がある。」
「まぁ。」
「貴方が、修道院にいる間私が手紙を出していただろう。」
「ええ毎日お手紙を頂きましたわ。」
毎日・・重い。知ってたけどお父様って情熱家。
「はじめの頃は、兄上を思い出して貴方を泣かせてしましそうな気がしてね。明るい手紙にしたかった。しかし、どんな手紙が良いかフィリップに相談していたんだ。毎日読んで聞かせるのが習慣になっていたんだよ。」
「あの手紙をですか・・・・。毎日。まぁ確かに、噂も仕方ないですわね。」、
「ある日、貴族院の図書室の長椅子でうたた寝していたフィリップが『ラウール駄目だ。私は貴方をを愛していない。やめてくれ・・。』とか寝言を言ってるのを聞いてね、フィリップの側仕えに聞いたら、ほとんど毎晩うなされている。もう手紙を読んで聞かせるのはやめて欲しい。こちらからは言い出せず困っていた。この機会に是非!と懇願されたよ。」
「それは、フィリップ様に同情いたしますわ。人に聞かせるような物ではありませんもの。・・可哀想に。」
お父様どんな手紙を書いたんですか?
「しかし、ベリンダの事は別だな。嫁がせるしかあるまいが。・・・・どうするか・・・。貴女に任せる事になりそうだが、リザベータすまぬな。」
「デリケートなお話ですから、当然ですわ。幸いきちんと口に出すような事はせずとも、知っていますわよと仄かしたり、遠回しに匂わせるだけで身を引かれる方ばかり・・・でしょうから。その点ではフィリップ様に抜かりはないですね。噂になった時点で困るような方ばかりですから、身辺整理は思いの外簡単でしょう。」
私の女の感も捨てた物じゃないな。フィリップ全く。ファーストキスを奪われなくて良かった。
「そういえばエレンがこの間『フィリップ様はお屋敷以外にも王都にお部屋をお持ちですの?』と聞いてきたのですが。」
「ふむ。エレンは、シャルル殿下の妻が立派に務まりそうだな。」
「あれは、2人が迂闊なのですよ。我が家を待ち合わせの場所になど・・・。ロザリンダにはきつく言っておかなければ。地味な服を着てきて、その時にだけフィリップ様が『馬車で送りましょうか?』とおっしゃるのですから。あれでは、目隠しされていても分かりますわ。」
「まぁ、ロザリンダ樣はギーズ伯爵夫人とは言っても夫はかなり年上だったし、もう亡くなっているのだから気が緩んだのではないか。」
バブバブ坊やのおばあさま!!ジュリアス・・未来の友人にもう秘密ができました。
「エレンに気づかれるようでは、困りますわ。」
「同じ場所で同じ場面を見ても、ベリンダとエレンではまるで違うのだな。」
「そうですわね。どちらが良いとも悪いとも言えませんね。」
「しかし、皆が気持ち良く、身を引いてくれるとは限らないぞ。フィリップは、見た目だけでも砂糖菓子のように甘い男だから、手放すのを嫌がる方も、いるのではないかな?」
「それは、あの方のお話かしら。やはり本当でしたの。」
「誰かと口に出しては言えぬが、本当だと思って良い。」
フィリップ・・口に出せないような方とも付き合ってるの?
「では、そちらが揉めるようでしたら、フィリイプ様のお母様、伯爵夫人にお願いいたしましょう。それとなく・・。」
「ベリンダは、可愛い娘ですものね。」
大人の話って怖いわ。