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神仙桃を得る者は

 シキョウと謡の子が産まれた。

 その知らせは、あっという間に鬼達に

響き渡り、島は祝福の空気に包まれた。


 シキョウの元へと集まった四鬼達は

それぞれの言葉で二人を祝福する。


「シキョウ、やったな! 謡があんな(・・・)だから、子は絶望的かと思ったが」

「アタイも、魂が集まるよりも先にシキョウが、おっんじまうと思ってたけど。桃のおかげで、何とかなったねえ」

「シキョウ、おめでとう。子の……色と、名は?」


「お前ら……言いたい放題だな、覚悟は出来て居ろうな?」


 彼等の、あんまりな物言いに、流石のシキョウも

苛立ちを隠さない。


「いやいや! アタイらも、心の中ではちゃんと祝ってるんだよ?」

「そ、そうだぜ! ウラだって、こんなに……いつもと、あんまり変わんねえな」


 そんなやりとりを見て、シキョウは諦める。


「まあ、そういう事にしておこう。そして、名と色だが……」


 そこまで言い、シキョウは一旦言葉を切る。

 そして一呼吸置いた後、一気に言いきる。


「我が子の名は『こう』! そして色は、儂と同じ『緑』であった!」


 鬼の体色は、出生時に、『素質によって』決定される。

 遺伝では無いため、両親と色が違うのは

むしろ当たり前であった。

 しかし今回、偶然にもシキョウと同じ緑であった為

喜びもひとしおだったのは言うまでもない。


 シキョウが言い終わるかどうか、という時に

どこからか桃仙が現れる。


「ホッホッホ、めでたいな、緑の。では、分かって居るな?」

「神仙桃の事だろう、分かっている」


 桃仙の言葉に、努めて平坦な物言いで返す。

 流石に不審に思ったリシンが尋ねる。


「どういう事だい?」


 シキョウは、四鬼へと顔は向けずに答える。


「神仙桃の効果は確かだったと伝え、皆に製鉄事業に励むよう、喧伝しろという、お達し(・・・)だ」


 その言葉で、少なからずげんなりする四鬼。


「ホッホ、まあそんなところじゃ。緑の、長くは待てんぞ?」


 そう言い残し、桃仙は帰って行く。


「あのジジイ、久々に顔を見せたと思ったら、言うだけ言って、帰って行きやがったな」


「グテツ、リシン、ウラ。神仙桃の効能ちからについて、どう思う?」


 突然、シキョウは皆に問う。


「何だ、突然? そりゃあ、魂を集められてない謡が、子を成したんだ。効いたって事だろう?」

「例えば、儂が魂を百、集めたかも知れないだろう?」

「そうか、それでも大丈夫だったんだよねえ」

「集めたのか?」


 少しの間、遠くを見つめたシキョウは、首を振る。


「いや、わざわざ桃の効果の程が不明瞭になるような、真似はしない。今後も桃を使い続けるならば、他の鬼達には、魂の割合の話はしない方が良いだろうな」


「確かに。神仙桃の効果を疑う者や、狩りを強行して魂を集めようとする者も出てくるだろう」


 ウラの言葉に頷き、シキョウはグテツに言う。


「グテツ、狩りを我慢させて済まないな。桃仙の指定する数の内では、優先してまわしてはいるが、もの足りなかろう?」


「確かに、もの足りねえな。だが……人間の奴ら、どんどん力を付けてる。中には鬼術めいた物まで使う奴も居やがる。早いところ卯堂に金砕棒を仕上げて貰わねえとな」


「鬼術は鬼だけの物じゃ無かったのかい? アタイも、ちょっと見てみたいもんだね」

「安心しろ、金砕棒はもうじき出来る」


 リシンは『鬼術めいた物』という部分に興味を惹かれ

ウラは金砕棒の進捗について報告する。


「あん? なんでウラが……って、卯堂と一緒にやってんだったな。じゃあ、愉しみに待つか!」


 シキョウは、グテツとリシンに鬼を集めるよう頼み

ウラには、ここに残るよう話した。


 グテツとリシンが、文句を言いながら

鬼を集めに行った頃、シキョウはウラに

相談を持ちかける。


「神仙桃の効果は実証された、あとは、年に一つしか手に入らない桃を、誰が使うのか? 使用権をどう決めるかだが……ウラならどうする?」


 ウラは、腕を組み目を閉じる。

 思考をしているときの体勢と知っているシキョウは

ウラの答えが出るのを待つ。


「今までは、狩りに特化した者のみが子を成せた。だが、これから先、神仙桃の作用で、純粋な力は落ちるはずだ。ならば、もっと多角的な強さが必要になるだろう。最初は、各分野で最も優れた者に使用させて、その後に、まだ子を成してない者、特に女鬼に使用させる」


「女鬼に……? それは、何故?」


「狩りを得意としない傾向が強い女鬼は、昨今の状況では、出産を半ば、諦めざるをえない者が多数派だ。そんな女たちに使用させる事で、実績と、桃への信用を確固たる物にする。そうすれば、この先も、神仙桃を使っていこうという機運に向かいやすいと、俺は思う」


 ウラの先を見据えた考察に、シキョウは唸る。


「なるほど……な。しかし、男鬼に選択権を与えなくて良いのか?」


「男鬼に選択権を与えれば、女鬼を力で屈服させる手段も選択肢に上がってきてしまう。女鬼からの不満は避けられない。それに男達は、女に指名されれば嬉しいものでは無いのか? おそらく、喜んで相手をするだろう。そこに、偏りが出来ないようにはしたいが」


「で、あれば……女鬼に選択権を与え、各分野での成績順で順番にすれば、己の強みを伸ばす努力をするだろう。男鬼は、女鬼に選ばれるために己を磨き、女たちに無体を働くことも無くなる……か」


 流石はウラだ、とシキョウは感心する。


「すまないが、それを採用させて貰おう」


 シキョウがそう告げると、ウラは短く

「分かった」と言い、鬼の召集に向かった。




 ────日がとっぷりと暮れた頃。


 漸く最後の鬼が集まった。


「ほんとに何だろうね、この集まりの悪さは!」

「お前それ、前も言ってたよな」

「声を掛けてから、どれくらい経ってると思ってるんだい!」


 リシンとグテツは、相変わらずの集まりの悪さに

苛々を隠せないでいた。

 そんな二人をよそに、ウラは平常通りだ。


「シキョウが来たぞ」


 ウラの言葉通り、シキョウが奥から現れ

全員を見渡せる、壇上へと上る。


 シキョウは、自分と謡の場合を引き合いに出して

神仙桃の有用性を説く。

 一つも魂を得られていない事で有名な謡が、

子を産んだのだ。

 誰も信憑性を、疑う様なことは無くなった。


 その様子に、シキョウは満足そうに頷くと

先程、ウラと話した件に言及していく。


「……という訳だ! 男たちは、女たちに選ばれるよう自分を磨け! そして女たちは、他より早く桃にありつくため、己が才能(武器)を、更に伸ばせ!」


 シキョウの演説により、鬼達の盛り上がりは

最高潮に達している。


「では! 今年の神仙桃は『鬼術』にて、飛び抜けた才を持つ、リシンに託したいと思う! 異論のある者は居るか?」


 流石にリシンの名前が出ると、誰一人として

文句を言えようが無い。

 それほどリシンの鬼術は優れているのだ。


 ……だが、当の本人は


「えっ!? アタイかい!? えっ、あっと……ほら! あれだよ! えーっと、アタイは、魂を集め終えてるから、別に無くても……ほら、大丈夫なんだよ! だ、だから辞退させとくれ!」


 赤鬼ゆえに顔色では分かりにくいが

リシンは、拒否の意を伝えんと、手をばたばたさせ

頭からは、湯気が出そうなほど照れていた。

 そのあまりの照れように、他の女鬼たちも

なかなか言い出せない雰囲気になってしまった……。


 流石にシキョウは責任を感じ、訂正とお詫びをする。


「……あー、すまぬ。女たちの心情をおもんばかれなかった、儂の責任だ。その年の優秀者には、秘密裏に渡し、当人同士で済ませられるように配慮しよう」


 誰からといえず、安堵のため息が漏れた……。

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