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鍛冶師と守り刀

 売り出しに向かった女たちが帰ってきた。


牽いていった荷車に、大量の食糧と

……麻袋から顔を出した、人間の老人を連れて。


「女たち、ご苦労だった。これほどの食糧が手に入るとは思ってもみなかったぞ! ……だが、その老人は何だ?」


 シキョウはあきらかに困惑して、女鬼達に問う。

 すると、女鬼達も困惑の表情になる。


「すみません、実は……」


 女たちの話では、都で鐡を売ろうとしたものの

全くといって良いほど売れず、途方に暮れていたところ

何やら興奮した様子の、この老人が

鐡に飛び付いてきて、危険に思い、

引き剥がそうとするも

意外にもこの老人が、粘りに粘って

しばらく押した引いたを繰り返し

ようやく引き剥がせたと思ったら

清々しいほどの土下座で、「譲って欲しい!」と

頼まれたらしい。


 しかし、老人は一銭も持っておらず

女たちも困り果てた所で、

老人の息子を名乗る人物が現れる。

 息子が現金で払う旨を伝えてきたので

一件落着……かと思いきや、この息子

女たちを素人と見るや、鐡を買い叩こうとする。

 しかしここで、何故か(・・・)この老人が怒り狂う。


結局、根負けした息子が、

老人の言い値で買い取った。


「何だそりゃあ……」


 グテツを持ってしても言葉が出ない老人の所業に

他の四鬼も引いているのが見て取れる。


「あの、まだ終わりでは無いんです……」


 鐡の代金を現金でぽんと出してくれたので

さっそく、食糧の買い出しへ向かおうとしたところ


──何故か老人がついてくる。

 その上、買うものにまで

いちいち口出しをしてくる始末、

本来なら「いい加減にしろ!」と言いたくなるところだが

老人の目利きと、値切りの技術は素晴らしく

金額を以上の食糧を手に入れてしまった……。


 全て終わったところで、老人が再び土下座。


「頼む! 其方らの里に連れて行ってくれ! わしは、刀匠の『卯堂うどう 綱秀つなひで』と申す者! 其方らの鐡で刀を打ちたい! 製法は秘中の秘であることは、想像に容易い! 勿論、口外などせん! 其方らが望むなら、簀巻きにして麻袋に詰めてくれても構わない! だから、どうか、其方らの里に!!」


 判断に迷った結果、簀巻きにして

麻袋に詰めて持ち帰った、と言う次第。

 最悪、絞めて喰っちまえば良いか位の感覚だったのは

卯堂には、伝えていないが。


「何と! 鬼の住処であったか! 其方が頭か? あの様な素晴らしい鐡は、初めて見た! この卯堂、感服つかまつった! 是非! わしに刀を造らせてくれ!」


 シキョウは、あまりの出来事に、少し瞑目する。


「如何にも、儂が首領じゃ。お前の言うように、ここは鬼の住処だ、無事に帰れるとでも思っているのか?」


「いや! 帰る必要は無いと心得る! 見てのとおり、わしは既に老いぼれ! ここの鐡で刀さえ打てれば、いつ土に還っても良い!」


 そんな大層な覚悟を語っているが

麻袋から顔が出ている状態では、今一つ、締まらない。

 そんな様子に、リシンは「駄目だね、これは」と

肩をすくめ、グテツは額を押さえ

ウラですら、顔が引き攣っている。


 連れ帰ってきた女鬼達は、ひたすらシキョウに謝っている。

 もう、どうでも良くなったのか、シキョウは諦めた。


「好きにしろ、ただし……逃げだそうとした場合、取って喰っても良いと、皆に伝えておくがな」


 ゴクリ……卯堂の唾を飲む音がはっきりと聞こえる。


「これで、刀が打てるぞ!! して、鍛冶場は何処に!?」


「鍛冶場など無い」


 ウラが至極平坦な声で言う。


「なっ、何だってーーーー!!」


 卯堂は、分かりやすくがっくりと肩を落とし

何やら嘆いていたが、直ぐに立ち直る。


「鍛冶の道具は、わしを連れて来てくれた、おなご達に工房から運んでくれるよう、お願いするとして……。青鬼の方、鍛冶場の作成の手伝いをしてくれぬか?」


 ゆくゆくは、武具を作るつもりで居たので

肯定の意を伝えた。


「ウラ、アンタまた爺さんに気に入られたのかい?」

「じじいに懐かれる呪いでもかかってんじゃねえのか?」


 リシンとグテツに茶々を入れられつつも

ウラと卯堂は鍛冶場制作に勤しむのだった。



──それから、しばらく月日が経って。


「ついにこの日が来た……」


 卯堂が感激の声をもらす。

 結局、付き合ってしまった四鬼も

感慨深そうだ。


「これだけの設備があれば、刀も打てるだろう。しかし、普通の刀を打っても仕方が無い。ここは鬼の国、鬼の為の太刀を打ちたい」


「なかなか分かってるじゃねえか爺さん!」


 何だかんだ、グテツとも仲良くなった卯堂。


「む、すまぬグテツ殿。一番最初はやはり、首領たるシキョウ殿の為に打つべきと考えている」


「だったら、しょうがねえな……」


 卯堂はグテツに頭を下げると、シキョウに向き直る。


「シキョウ殿、全身全霊を込めて造り申す。要望はありますかな?」


 シキョウは迷い無く告げる。


「であれば、慣れているであろう人間用の刀にして欲しい。儂自身が使うのではなく、謡に守り刀としてのこしたい」


「……あいわかり申した」


 そして、卯堂はウラと数人の鬼を引き連れて

工房へと向かう。

 一世一代の大仕事と言わんばかりの

雰囲気を醸し出す卯堂は、

普段とは違い、気迫に満ち溢れていた。



──それから更に半年程経つ。


 鬼達は、繰り返し製鉄を行い、その練度を更に上げ

卯堂は、全てを賭け刀剣の作成に没頭した。

 そして、ついに完成の時を迎える。


「つ、ついに……完成だ。素晴らしい……思った通りだ」


「して、『名』は?」


「そうじゃな……、初めて鬼の国(・・・)で造られた刀『鬼國きこく 綱秀つなひで』としよう」

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