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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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紫電と巻き起こる風


 比翼の鳥が舞い上がり、翼を広げると空の表情が一変し

昼だと言うのに暗闇に似た空間が創り出される。


 引切り無しに、野獣の唸り声の如き雷鳴が轟き

無数の稲光と、地を這う球電がそこかしこに現れる。


「攻撃行動を取った訳でもないのに、この有様か……これは中々に愉しそうだ!」


 嬉々とした表情で踏み込む猪狩もまた

さながら紫電と見紛(まご)う程の速さと気迫で

空中を舞う比翼の鳥へ迫る。


「全く、最初からこんな状況じゃ、私が消し炭になるのも時間の問題だったわね。ありがとう神様……いや、神様の結界……を張った私」


 コマはのんびりと、戦況を見守る。


「さて、空を飛ぶ相手に、蒼ちゃんはどう戦うのかしら」


 猪狩は手近な樹木を蹴り比翼の鳥に向けて跳び

斬撃を加えようと試みるが、上手く躱されてしまう。


 躱されたあと、落下時に紫電を食らっては

無事では済まない事は、猪狩も理解しているため

木から木へ間断なく跳び続ける事で

自由落下の隙を殺している。


 比翼の鳥もまた、それを理解しているかのように

木々の直線軌道に入らないよう立ち回り

そして木よりも高い高度を出来る限り維持

しようとしていた。


 そんな状況にもかかわらず、猪狩は微笑む。


「ふむ、なかなかあの高さに斬撃を当てるのは難しいな……では、あれを使うのが良いだろうな!」


 そう言うと猪狩は使用していた刀を鞘に収め

腰に差していた『もう一振りの刀』を抜き放つ。


 その刀は、それまで使っていた

美しく艶のある刀身ではなく

傍から見れば、表面がざらざらしているような

印象を覚える。


「頼むぞ、『風切丸(かざきりまる)』!」


 猪狩が些か大振りとも言える動作で

風切丸を虚空に向かって振りかぶる。


「なるほど……あの爺に貰った刀よね。確か、風切丸だっけ? ほんとに使えるのかしら?」


 コマの心配を他所に、猪狩の放った一撃は

比翼の鳥を掠める。


「どういうことっ!? あの距離から斬撃が!?」

「これは刀を振るった時におこる、風による衝撃波のような物なのかも知れませぬ。事実、掠めた斬撃で翼が両断される様な事態には陥っておりませぬ」

「ならば、もっと距離を取る必要がありますね……」


 比翼の鳥は更に高度を上げる。


「これは、困った……思いの外、判断が早い。しかし、距離を取ってくれれば、あの紫電も幾分躱しやすくなるというもの。であれば……だ。お次は、あれを試してみようじゃあないか」


 そう呟く猪狩はおもむろに息を吐き

そして、目を閉じる。


「あーあ、蒼ちゃん目を瞑っちゃったじゃない。あんな状態で雷を避けられるの?」


 コマは笑いながら言う。


 猪狩ならなんとかする(・・・・・・)、そう信じているのだろう。


 ──その瞬間、猪狩の居る位置に一条の稲妻が襲いかかる。


 それを猪狩は(すんで)の所で躱す。


「紙一重って感じね、でもアレを躱せるって事は、攻撃の気配を感じ取ってからの回避で間に合うって事よね? ……これは、なかなか」


 何やらうんうんと頷きながら、考え込むコマ。


「何か、コマ姉がよからぬ事を考えていそうな気配を感じるが……おっと!」


 比翼の鳥から放たれた稲妻が猪狩の髪を掠め焼く。


 ふう、と猪狩は内心で安堵の溜息をつく。


 掠めただけで肌を焼くような熱量、まともに貰えば

ひとたまりも無いのは明白。


「いかんな、集中せねば」


 猪狩の頬に汗が流れる。




 相対している鶼鶼もまた、焦りを覚える。


「猪狩様には私の紫電の行方が見えているようですね」


 升左衛門も同じように感じていたが

猪狩の立合いを見た事のあった者としては

ある意味(・・・・)不思議は無かった。


「はい、そのようです。それにしても、得物が太刀な以上、高空から攻めれば、何とかなると思っておりましたが、あのような隠し玉があったとは」


「距離を取れば安全なのでしょうが、より近距離の紫電を躱し続けている相手に通用するでしょうか……?」


「いや、確実に当たるよう搦手を増やしていくほかありますまい──っ!?」

「──っ!?」


 鶼鶼と升左衛門は猛烈な悪寒を感じ

同時に猪狩を見る。


「……目を、瞑っている?」

「早く距離をっ!!」


 升左衛門の意識を感じ取ったのか

鶼鶼は即座に高度を上げ、旋回を始める。


 ──留まっていたら斬られる(・・・・)


 どういった手段で、などは分からない

しかし、確信に近い勘が働いたとしか言えない。


 数瞬遅れて比翼の鳥のいた場所に光の筋のようなものが走り

──遅れて、弾けるような暴風が巻き起こる。


「くっ!!」


 その風圧には比翼の鳥と言えど、体制を崩す事になる。




「当たらぬか」


 猪狩の手にはいつの間にか二振りの刀が握られていて

腕からは血が流れ出していた。


「はあ!? 何あれ! あんなの、この結界でも防ぎ切れるかどうか! ……もう、蒼ちゃんの人間離れも大概ね」


 コマは呆れともとれる言葉を吐く。

 集中を深めている猪狩は

そんな事を言われているとはつゆ知らず

次の一手を思案する。


「さて、どうしたものか。そう乱発出来るものでもなし、これ以上距離を取られたら、なかなかに厳しいものがあるな……」


 そう呟きながらも、体勢を崩されている比翼の鳥に

追撃を仕掛ける。


 跳躍により鶼鶼に迫り

風切丸を振るう遠心力で体を捻る。


 さらに、そのままの勢いで刀を叩き付ける(・・・・・)


 風切丸の切れ味は決して良い訳ではない

しかし、こと丈夫さにおいては比肩するものの無い程の

剛性を誇っていた。


「叩き付けるのが、正しい使い方なのかしら……そんな訳無いって言いきれないのがまた、厄介なのよね」




 ──一方、叩きつけられた方の鶼鶼は


「──かはっ!!」

「──ぐっ!!」


 首元に鉄の塊を叩きつけられ鶼鶼は意識を手放す。


「鶼鶼さん! くっ、体の自由が効かない!」


 升左衛門は半身を失ったかのような感覚を覚える。




 確かな手応えを感じた猪狩はもう片方の手に握られた

刀で追撃を試みる。


 しかし升左衛門は(すんで)のところで

その刀を側面から翼で叩き受け流す。


 当然、大きく体勢を崩す事になり

錐揉み状に比翼の鳥は墜落していく。


 猪狩もまた、思わぬ反撃により吹き飛ばされるも

その口元には笑みが浮かぶ。


「升左衛門め、衰えて無いな!」




 ──どしん!


 大きな音と共に地響きを立て比翼の鳥が

地面に叩き付けられる。


 樹木の高さをゆうに超える高空から落ちたのだ

いかに怪異と言えど、無事では済まない。

翼は折れ、内臓を損傷したのか、口元からは

どす黒い血液が流れる。


 しかし、升左衛門にとって不幸中の幸いは

先ほどの衝撃によって鶼鶼が目を覚ましたことだ。


「く、升左衛門様、これは一体……」


「すまぬ、鶼鶼殿。両断を防ぐ為とは言え、この様なざまに、相成った」


「ふふ升左衛門様、何やら楽しそうですね。心なしか笑っている(よう)……」


 表面上は変化は無いが

繋がっている鶼鶼だからこそ感じ取れたのだろうか

升左衛門は心は、確かに(たかぶ)っていた。


「見透かされてしまいますか」

「ええ」


 二人は小さく笑う。


「升左衛門様、どの道もう長くは戦えません。なれば、心残りの無いように戦って下さいませ」


 鶼鶼そう言い、自らに(いかずち)を落とす。


「私の紫電により短い間、無理やり身体が動くようにしました。さあ、自由に動けるのはこれが最後です」




 その様子をコマは目の当たりにし

何が起こるのか注意深く観察する。


「ありゃりゃ……何が起こっているの?」


 直後、地面に伏していた

比翼の鳥がむくりと起き上がる

その容貌は、所々『怪異』の特徴はあるものの

概ね『升左衛門』そのものであった。


「猪狩殿、最後に全力での手合わせを願いたい」


 升左衛門の言葉に、より笑みを深くし

猪狩は答える。


「この猪狩 蒼達! その申し出、承った!」




 猪狩と升左衛門が死力を尽くして打ち合う様は

さながら颶風(ぐふう)のように

激しく、そして美しかった。

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