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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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怪異 鶼鶼《けんけん》


 隠れ里に辿り着いた一行は、怪異の気配をたどり

その場所へと向かう。


 近づくにつれて、狼の唸り声のような音が聞こえてくる。


「走狗のやつ、ちゃんと仕事してるみたいじゃない」

「コマ姉、今はそんな事を言っている場合では無いかと」


 コマが感心する横で、雪之丞を慮ってか、すかさず猪狩が諫める。


「あ……ごめんね。あいつら意外と好き勝手するから、思わず」


 謝るコマに雪之丞は気まずそうに「いえ……」とひと言だけ返す。


 やがて三人はその場に着いた。




 そこは、村の広場と言った風情で

走狗が唸り声をあげ牽制をしている方向には

升左衛門と、雪丸を抱いた女性が油断なく構えていた。


 更に奥を見れば、この里の民と思しき人々が

升左衛門達の後ろに隠れるように避難している。


「これはどう言った状況?」


 コマが思わず呟く。


 その声を聞いてか女性の怪異がコマ達に気付く。


「ああ! 良かった! お願いです、この式神(しきがみ)を下げてはくれませんか!?」


 女性の叫びに升左衛門が遅れて一行を見る。


「わ……若!? どうして、ここに……」


「升左衛門! 無事かっ!」


 升左衛門の声に雪之丞は思わず叫び、駆けだそうとするも

猪狩によって、腕をつかまれ、制止される。


「待つんだ雪! 升左衛門の目を見ろ」


 猪狩が言うままに雪之丞は升左衛門の目を注視すると

片眼は先程から閉じたまま、そしてもう片方の眼は金色(・・)

していた。


「蒼達殿の、神気(しんき)……よりは少し暗い?」

「ああ、あれは神気ではない。 おそらくは怪異に堕ち、徐々に身体が、それに寄っていっているのであろう」


 二人の会話を聞き取った女性は、はっとした顔をする。


「神気をご存知なのですかっ!? それに……怪異にもお詳しそうで」


 コマが腰に手を当て胸を張る。


「そうね、この日ノ本(ひのもと)でも、その両方に精通した者は、他には居ないかもね?」


 猪狩も目を閉じ、深く肯く。


「怪異を数多く、この手で(ほふ)ってきたからな。自然とどういった種なのか感じさせる場面も出てくる」


 猪狩が続くと、女性は力無さそうに肯く。


「そう、ですか……。皆様はもうご存知かもしれませんが、私は怪異。名を『鶼鶼(けんけん)』と申します。広くは比翼(ひよく)の鳥、と呼ばれるものです」


「比翼の鳥か……」


 コマは、誰にも聞こえないような声で独りごちる。


「私は、とある古びたお堂の傍らに生えた一本の木にて、生を受けた雛鳥の内の一羽でした。私は生まれつき目も翼も脚も欠けた状態で産まれ、やがて、家族の身動(みじろ)ぎにでも巻き込まれたのでしょう。私は巣から落ち、死にました」


「それで、怪異になって蘇ったと……。で、貴女がそれほど理性的なのは何故?」


「それはおそらく、お堂で奉られていた存在の気まぐれ……あるいは情けによってこの身に神気を宿したのだと聞きました」


 怪異に状況を説明できる者などそう居る者ではないので

猪狩は思わず聞き返す。


「聞いた? 一体誰に」


 鶼鶼は少し困った表情を見せる。


「……通りすがりの老人、としか」


 そんな胡散臭い話があるものかと、言われると思い

肩をすくめて、申し訳なさそうに絞り出す。

 しかし、コマや猪狩の反応は想像とは真逆であった。


「あー……あー、あー。完っ全に理解した。そうねー、神様は気まぐれだし、あの爺はそういうの見逃さないか」


「ふむ、彼奴か……」


 続けざまに、コマはふとした疑問を投げかける。


「じゃあ、人の姿をしているのは爺から?」


「はっ、はい! 少しでも長く生きたくば、怪異としての能力(ちから)を使わず、その姿のまま、自分は『人』なのだと、そう思い込みながら暮らせ。との指南を受けました」


 コマと猪狩は何やら考えを巡らせ、黙り込む。

 一人だけ取り残された形になった雪之丞は鶼鶼に聞く。


「私には深い事情は分かりませんが、今の升左衛門の姿は、貴女の能力なのではありませんか?」


「そう、ですね……」


「だったらなぜ! 升左衛門を怪異になんてっ! 長生きをするには能力を使わず人として生きろと、言われたはずなのに! ……どうして」


 雪之丞は無念さを滲ませるが、鶼鶼は申し訳なさそうに答える。


「分かりません……」


 そこへ升左衛門が間に入る。


「若! お待ちください! 鶼鶼(かのじょ)のお陰で、雪丸様の救出がなったのです!」


 升左衛門の言葉に雪之丞は困惑する。


「どう言う事だ……?」


 猪狩やコマも升左衛門に注目する。


「私は月久様の元より雪丸様を救出したものの、勘づかれ追っ手をかけられもうした……懸命に逃げたものの、そこは多勢に無勢、徐々に追い詰められ、鳥居領の外れの林にて、いよいよ取り囲まれてしまい、雪丸様とこの命もこれまでか、という場面で鶼鶼(かのじょ)が通りかかったのです」


 黙って聞いていた猪狩が呟く。


「怪異が人を助けるか……太郎殿の話が無ければ(にわか)には信じられなかったが」


 その言葉を拾った鶼鶼が、小さく首を振る。


「いいえ、助けた(・・・)と言うと語弊があると思います。私の能力(ちから)は、健常な人間を自分の(つがい)として、怪異に堕とす物。その副作用として怪異へ至る最中、人とは思えぬ膂力や生命力を発揮します。今回は偶々、それが都合の良い方へと働いただけなのです。」


 鶼鶼は、力無く笑い、ため息をつく。


「……きっと私が、番として升左衛門様を欲したのでしょう」


 その言葉にその場に居る者達は、言葉を失う。


「私たちは、まもなく完全な怪異として変異してしまいます。雪丸さんの引き受け先に困って居ましたが……貴女にお願いしますね。」


 鶼鶼は雪之丞に歩み寄り、すやすやと眠っている雪丸を

壊れ物を扱うように慎重に受け渡す。


「あなたは……いえ、何でもありません」


 雪之丞は名残惜しそうな彼女の表情を見て

言葉をのみこむ。

 そんな雪之丞の気遣いに鶼鶼は静かに微笑む。


「さて、私が神気を宿しているのは先程話しましたが、こんな話はご存知でしょうか?


 『神気を持った者が、神気を宿した者の命を奪うと、その神気を得られる』


という話を──」


 各人それぞれの反応を見せるが、言葉を選んでいるのか

誰も口を開かない。


 そんな様子を見かねたのか、コマが一歩進みでて問いかける。


「私としては、神様の遣い……いや、つかいっぱしりかしら? それを、やってる身としては、知らない話じゃないわ。でも何? その身を差しだして糧になってくれるって言うの?」


 大袈裟な身振り手振りを交え、肩をすくめてみせるが

鶼鶼は決意の籠もった表情でまっすぐコマを見据え言う。


「はい、そのつもりです」


 その圧に気圧されて、一瞬だけ驚いた表情をみせるが

すぐに持ち直す。


「そう。でも升左衛門さんもそれで良いの?」


 コマは升左衛門の意思も確認する。


「はい、私もその様に思っております」


 静かに答える升左衛門に、雪之丞が取り乱す。


「そんなっ! 私は認めないぞ! 私はまだ、お前に教えて──」


 升左衛門が雪之丞の言葉を遮り、口の前に一本指を立てる。


「静かに。雪丸様が起きてしまいます」


 それから升左衛門は雪之丞に、努めて優しく語りかける。


「若、出来るならば私も若や雪丸様が、立派に鳥居家を治める様子を見とうございました。しかし、この身になってしまった以上、放っておけば怪異となり、人を襲うでしょう。それは流石に看過できません。なれば猪狩殿の糧となり、怪異から人々を守る力として奮っていただけるならば、これ以上のことは無いでしょう?」


「そんな……」


 雪之丞は目をつむり涙を浮かべ嗚咽をもらす。


 そんな雪之丞を見てか

コマがやや不安げながらも提案する。


「そんな簡単に命を投げ出さなくても、もしかしたら良い方法があるかも──?」

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