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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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潜伏場所へ


 門番より言伝を受け取り、何とか合流できた猪狩だったが……。


「コマ姉、この空気は一体……?」


 コマは複雑そうに微笑みながら答える。


「えーっと、雪丸くん捜索には……これは都合が良いのかしら? でも雪ちゃんにとっては、どう転んでも良くない事態になっちゃったみたい」


 ふむ、と猪狩は唸り首をかしげる。


「説明、してもらっても?」


 もちろん、とコマは先程より少しだけ柔らかく微笑む。


「私が都を出るとき、この鳥居領に怪異の気配を感じたって言ったわよね? きっと、そいつが一枚噛んでると思って、居場所を探ってみたの。」


「また、神楽(かぐら)を使ったのですね? やはり、いくら何でも便利使いし過ぎな気が……」


「大丈夫よ、いくら神様とは言え、何の見返りも無く力を貸しているわけ無いわ。まあ多分、この身を賭さなければならない御告げが、その内来るでしょ?」


 あっけらかんと言い放ったあと、コマは咳払いをし

話の軌道修正をする。


「話を戻すわね? 怪異の居場所を探ったのにも関わらず、そこに映ったのは雪丸くんを抱いた升左衛門さん、それと協力者と見られる女性だったわ。」


「と言うことはつまり……」


「少なくとも、その三人の内の一人が怪異。最悪、全員怪異になっていてもおかしくないわ」


 猪狩は腕を組み低くうなる。


「もちろん行くんでしょ? そこへの道筋は鮮明に覚えているわ。近くはないけど、行けない距離じゃ無し」


 猪狩は強く肯いた後、雪之丞を見て問う。


「雪、お前はどうする。辛い思いをするかもしれぬが」


 雪之丞は内から来る震えを抑え込むように、自分の体をぎゅっと抱き

目をきつく閉じて俯く。


「わ、私は……」


 三人の間に、シンとした空気が張り詰める。


 誰も先を促さず、打開案を提案するでも無く

ましてや、強要もしない。


 つまりは、雪之丞自身に決断させるべきだと猪狩とコマは踏んだのだ。


「升左衛門は、私の幼い頃、鳥居家に私のお目付役として仕官してきました。升左衛門は、私が女子だという事をいち早く察し、鳥居家の『若』としてだけでは無く、秘密裏に女子として生きていく事になっても困らぬよう、女子としての教養も教えてくれました。その分、厳しくもありましたが。升左衛門は、鳥居家のあり方との齟齬(そご)(おもんばか)り、いつでも私の身を案じ、行動してくれた。升左衛門は、今回の私の都行きにも同行してくれるはずでした。きっと今回の雪丸誘拐の件を察知し、それが最善と判断し行動したのでしょう。升左衛門は、常に私に寄り添ってくれる、家族の様な存在です……」


 雪之丞は、様々な思いが溢れてか

知らずに涙がこぼれてくる。


 猪狩とコマは沈痛な面持ちでそれを見つめる。


 雪之丞は涙をふき、意を決して前を向く。


「でも! だからこそ、私が真実をみさだめて、最悪の場合は私の手で決着をつけるのが筋だと思います!」


「うむ! よくぞ言った。拙者も、雪がその想いを遂げられるよう、全力で力を貸そう!」


 猪狩が力強く言うと、コマは優しげな表情で言葉を続ける。


「でも、今は升左衛門さんが怪異に堕ちていない事を祈りましょ?」


 三人で肯き合う。




 雪之丞達は太平に協力を仰ぎ、雪丸救出の為の旅支度を整える。


「若の頼みとあらば、いくらでも人手を用意出来ましょうに。本当によろしいので?」


 太平は雪之丞を思い、提案するが

雪之丞の意思は固かった。


「太平の気持ちはうれしいのですが、あまり大事にして、月久叔父さまの耳に入ってしまえば、これ好機とばかりに雪丸や升左衛門諸共に、亡き者にされかねません」


 太平は有り得る事だと言外にあらわし、納得する。


「何、この手の荒事ならなれているゆえ、拙者達にお任せあれ」

「そうそう、蒼ちゃんは言ってみれば『専門家(・・・)』みたいなものだしね」


 太平は鳥居家当主の覚えめでたい人物、猪狩と

ただ者ではない気配をまとう女人のコマを

信用しないわけではないが、やはり不安は拭えない。


「太平、そう心配しないでください。この方達ならば、並の怪異どころか『鬼』が出ようとなんとかしてくれるはずです」


 太平は雪之丞の言葉に苦笑いを浮かべる。


「若、流石にそれは言い過ぎでは……」


「いや、幼い頃、拙者の父が鬼を撃退した場面をこの目で見た。今の拙者ならば、同等……いや、それ以上の働きを約束しよう」


 猪狩が太平に力強く宣言する。


「ま、鬼の出現は久しく報告されていないけどね。怪異なんかに後れをとるような私たちじゃないわ」


 コマの口ぶりを聞き、太平は表情をこわばらせる。

 昨今、怪異による被害は後を絶たず、むしろ増えているというのに

女人であるコマでさえ、苦も無く倒せる(・・・・・・・)と言わんばかりの態度である。

 その言が出鱈目ならば、鼻で笑うところだが

先程から醸し出している雰囲気が、事実(・・)であることを

如実に語っている。


「わ、分かりました……。では私どもは、雪久様、月久様の動向を見つつ、若達の妨げにならぬよう、動く事にいたしましょう」


「有り難う太平、感謝します」


 三人は、太平に見送られ六花亭を後にした。




「あっ、あの! コマ様、ここを本当に通られるのですかっ?」


 狼狽える雪之丞の言うとおり、眼前には

まるで人が踏み入れたことが無い、と言わんばかりに

鬱蒼(うっそう)(しの)が生い茂り

三人の行く手を阻んでいる。


 その状況は、人の行く道はおろか、獣道さえ見当たらなかった。


「コマ姉、本当にこっちであっているのでしょうか?」


 さすがの猪狩でさえも、やや困惑顔を浮かべる。


「あー、あー、あーははは……そうね、そうだったわね! あの時は『精神体』だったものね! こんなのへっちゃらだったのよね! でもでも、ここを真っ直ぐで間違いないのよ? ずっとまーっすぐ! 逸れたら分からないけど……」


「この先に升左衛門が居るならば、何かしらの痕跡があってもおかしくないが……見たところそれも無い。コマ姉の言葉を信じるならば、目的地はこの先にあるのは間違いないのだろう」


「つまりこの道は、正規の道筋ではない。と言うことでしょうか? しかし、この篠をかき分けて進むとなると、細かい傷や、葉についた虫等に手を焼くことになりそうですね」


 猪狩と雪之丞は、真面目に考え込む。


「さ、最短距離を教えてくれるなんて、神様のお茶目さんっ」


 やけっぱちなコマの言葉に、猪狩や雪之丞は能面もさながらな顔を披露する。


「分かったわよ! なんとかするわよ!」


 コマは硯箱を取り出し、件の札を取り出す。


「行く手を遮る篠をなんとかなさい! 網剪(あみきり)! 急急如律令!」


 コマが呼び出したのは、テナガエビの様な見た目をした怪異で

その両手にはいかにも切れ味が鋭そうな(はさみ)があり

コマの狙いは、誰の目にも明らかではあったが……


 網剪は、ちらりとコマを見やる。


「いかにも不服そう……ですね」

「そうだな……」


 猪狩と雪之丞も苦笑いを浮かべるほどの雰囲気を

網剪は醸し出していた。


「……あんた、やりたくないって言うの?」


 コマが凄むと、網剪はそそくさと篠を剪定し始める。


「中々いい調子じゃない! そのまま頼むわよ!」




 篠の群生地を抜け、渓谷を越え、深い森を進み、洞穴を抜け

三人はようやくその場所に辿り着いた。


「これは……隠れ里か?」

「そうよ、ここで間違いないわ。それにしても、なんか親近感湧くなぁ」


 のんびりとした雰囲気の二人とは打って変わって

奥へ奥へ進むごとに、口数が減り焦りを見せ始めた雪之丞は

目的地がここだと分かると、その心情をあらわにした。


「升左衛門は一体どこに!?」


 コマは表情を真剣なものに変え、指をさす。


「あっちよ、怪異の気配が三つ、一つは走狗……残り二つは大人ね」


「そうか……」


「そん……な…………」


 ──告げられたのは非情な現実だった。

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