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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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升左衛門の行方


 鳥居家のやり方に不満を募らす猪狩とコマ

二人の様子を見て萎縮する雪之丞。

 三人は、とりあえず(・・・・・)雪久に面会すべく

鳥居家の屋敷へと足を運ぶ。




「猪狩 蒼達様ですね、少々お待ち下さい」


 門番役の男が覗き窓から応対し、小姓を走らせて

屋敷の奥へと入っていくのを確認した後

無言の間がうまれる。


「何て言うまわりくどさなの。蒼ちゃんちの簡便さを見習ってほしいものね!」


 コマの愚痴りを猪狩がなだめる。


「拙者の所は、ただ人が居ないだけ。それを見習うのはいかがなものかと。それに、この位は普通であろう? 奇一の所でもコマ姉以外にはあの様な対応をしているかと」

「私も良く見慣れた風景ですね」


 続く雪之丞の言葉に、コマは渋々引き下がるが

素朴な疑問を口にする。


「でも蒼ちゃんじゃなくて、跡取り(・・・)殿の名前が出ても良いのにね」


 猪狩と雪之丞は顔を見合わせて

小さく息をはく。


「父上は、そういう人ですから……」

「お目通りも、もしかすると──」


 猪狩がそこまで言ったとき、門番役が声をかけてくる。


「猪狩 蒼達殿、主が会われるとおっしゃっています。しかし、女人と雪之丞殿には遠慮していただきたいとのこと」


 猪狩は嘆息して受け答える。


「承知した」


 閂が抜かれ、ぎしぎしと軋む音を立てながら

門戸が開かれる。


 門番役が猪狩に向け、お辞儀をし

コマの方へ目配せし、軽く会釈する。


 その後、猪狩が案内されて奥へと向かうと

門は再び重々しい音を響かせ閉じ、閂がかけられる。


 コマはやり場のない怒りを身震いと

指をわきわきと動かし発散を試みる。


「なんっで! 当人が遠慮する必要があるのよっ!」

「コマ様、父上はそういう人なので。これは昔からなので、今更変わらないと……」


 発散しきれず漏れた怒りを、雪之丞は

気にしていない素振りで、猪狩が戻るまでの

時間をつぶす手段を提案する。


「それよりも、ここで待っていても仕方がありません。どこかで時間をつぶすとしましょう」


「もうっ! 雪ちゃんもそんなだから舐められるのよ? でも、そうねぇ……ちょっとお腹が空いたかしら?」


 腹をさすりながら言うコマを見て

雪之丞は少し微笑ましく思う。


「では、『六花亭(りっかてい)』へ参りましょう。そこの亭主ならば、きっとコマ様の口に合う料理もありましょう」


 乗り気なコマは場所も知らぬと言うのに

出発しようとする。

 そんなコマを引き留めて、雪之丞は

門番の元へと走り寄り、何かを伝えたあと

戻ってくる。


「蒼達殿が戻った時に入れ違いにならぬよう、私達の行き先を伝えておきました」

「そうね、そう言うのも必要かぁ。蒼ちゃんならどうとでもなりそうな気がしてた!」


 あんまりなコマの言い様に雪之丞は

苦笑いをこぼす。




 二人はしばらく取り留めの無いことを話ながら歩き

一軒の店の前で足を止める。


「なにか良い匂いがするわね」

「はい、ここが『六花亭』になります」


 雪之丞が案内したのは庶民向けの食堂『六花亭』

表通りからは一本、裏手に入っているが

店の中から聞こえる喧噪と漂ってくる匂いから

その繁盛振りはうかがえる。


「あら? これは期待出来そうじゃない? かすかにお酒の匂いもするわね!」


 うきうきとした表情でコマは雪之丞に投げかける。

 しかし、コマとは対照的に雪之丞は微妙な表情をする。


「うーん、いかに店の者に知り合いが居るとは言え、女人にお酒を出してくれるか……、それもこんなにも日が高いうちに」


「えー、未だにそんな頭の固い事言ってるの? そんなだから──え? 知り合いが居るの?」


「はい、この店に居る者はほとんど顔馴染みです。幼い頃から升左衛門が、お忍びで度々連れてきてくれたもので」


「こんなにも繁盛してたらお忍びも何も無いでしょ……」


「いえ、客のほとんどは常連客ですし、こう言っては何ですが──」


 と、雪之丞は前置きをし声を潜める。


その筋(・・・)の者の情報交換の場、としての色合いが強い様です」


「なぁる程ね……」


 コマは(おとがい)に指を当て

ほんの少しだけ思案顔を見せるが、すぐに

普段の笑顔に戻り言いはなつ。


「まあ、味が良ければ全て良し!」


 深刻な気配を感じた雪之丞は

肩透かしを食いつつも、六花亭内へとコマを案内する。




「いらっしゃ──あら、坊ちゃん!」


 出迎えてくれた女性店員は言いかけた言葉をのみこんで

久しぶりの再会に顔を綻ばせる。

 その店員の言葉で雪之丞に気付き

駆け寄ってくる者、目配せして挨拶をする者など

反応は様々なれど、彼らの表情は一様に喜色が浮かぶ。


「あら、ご宗家様(・・・・)の所とは打って変わって、大人気じゃない」


 コマはどことなく嬉しげに言うが

雪之丞は何度味わっても慣れることが無い空気に

赤面し、下を向く。


「コマ様っ! か、からかわないでください……。皆さん、ご無沙汰していました。故あって、しばらく鳥居領(こちら)に逗留する事になりました、また以前と同じように宜しくお願いします」


 雪之丞が頭を下げると、皆笑顔を浮かべ頷く。


 すると恰幅の良い中年の男が雪之丞の前へ進み出て

声をかけてくる。


「若様、ここで立ち話も何ですし、こちらへどうぞ」

「そうですね『太平(たへい)』、案内をお願いします。コマ様、参りましょう」


 『太平(たへい)』と呼ばれた、この男は

六花亭の主人であり、鳥居家……特に升左衛門と

懇意にしていた者であった。


 やがて奥の座敷に通された二人は

手厚い歓待を受ける事となった。


「もう、最高じゃない『六花亭』! 出してくれたお酒の量以外は!」


 上機嫌なコマは、すっかりここが気に入ったようで

にこにこと笑いながら悪態をつく。


 頃合いを見てやって来た太平は、神妙な面持ちで

雪之丞へと耳打ちをする。


「ここへいらした理由は、雪丸様の件と升左衛門殿の行方……と言ったところでしょうか?」


 雪之丞は無言で肯く。

 それを確認した太平は、今度は通常の声量で

話し始める。


「でしたら、こちらをお持ち下さい」


 と、一枚の紙を差し出す。

 その後、太平は店の奥へと戻っていく。


「何て書いてあるの? それ」

「あ、はい。ちょっと、待って下さい……ええと、ふむふむ──えっ!?」


 太平から渡された手紙には次のように書かれていた。



 升左衛門殿の居場所は未だ、掴めては居りませんが

いくつか推測できる事はあります。

 升左衛門殿は、この六花亭や、その他の情報筋から

月久様周辺の動向を探られておりました。

 そして、若様が都行きを決心され

雪久様の許可がおりた辺りから

升左衛門殿は姿をくらませました。

 おそらく、今回の雪丸様誘拐事件の裏がとれ

単身、救出に向かったのだと思われます。


 かなり早い段階で、今回の件について掴んでいた

様子から、雪丸様は月久様の手勢による

『誘拐』では無く、升左衛門殿による『救出』である

可能性が高いと思われます。

 幼子を連れての潜伏でありますから

母乳が必要になゆえに

乳母にあたる女人の協力者が存在すると思われます。

 その女人も食べるものが無ければ、出るものも出ません。

 おそらくは、雪丸様と升左衛門殿はどこかしらの

食糧事情の安定した集落に身を潜めているはずです。



 太平からの手紙には他にも、様々な情報が書かれていた。


「ふぅん、これだけの情報があって見つけられてないの?」


 コマは腕を組み、首をかしげ天井の隅の方を見る。


「これは何かあるわね! ちょっと雪ちゃん、戸締まりと人払いをお願い」


 突然ふられた雪之丞は驚きつつも、コマの言うように手配する。


 完全に締め切った一室は、薄暗い。

 いつの間にか部屋中の家具が移動させてあり

その光景はさながら祭壇のようであった。

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