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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
60/67

予感の的中


「やっぱりね」

「やはりな」


 猪狩とコマが腕を組んで唸っている所へ

遅れて子津がやって来る。


「何の話だ?」


 猪狩とコマは同時に子津に目をやり

訴える。


「鳥居家が使者を寄越したわ」

跡継ぎ(・・・)の雪を、引き渡せとな」


 二人の言葉を聞いてなお、子津は首をひねる。


「渡せば良かろう、わざわざ使者まで寄越して来たんだ、お家の問題なのだろう?」


 猪狩は溜息をついたあと、子津に説明をはじめる。


「奇一、人事だと思ってあっさり言ってくれるがな。雪は『巽家十本刀』の候補だ、そう簡単には引き渡せない」


 それにコマも続く。


「それにね、跡継ぎ(・・・)なんて言ってるけど。じゃあ、何で家から出るのを許したの? って事にならない? というか、半ば追い出す形で蒼ちゃんに押しつけたのにね?」


 子津はふむ、と唸る。


「今回、雪の弟が誘拐されたと言う話だ。弟と言っても、まだ赤子だがな。……雪は故あって、鳥居家宗家では厄介者扱いを受けている。その雪を、跡継ぎと呼び、この状況で呼び戻そうとしている」

「弟の事は、早々に諦めた、と言うことか?」


 子津の問いに猪狩は深く頷く。


「誘拐した犯人の目星がついていて、助かるはずがない、或いは助かっても不利な取引に使われるのが目に見えている。それならば、雪を跡継ぎとして立て、その行為が無駄であると相手に見せつける狙いが有るのだろう」


「本音を言えば、単なるふり(・・)で、弟くんを無事に取り返したいんでしょうけど。側室の子とはいえ漸くできた男の子だもんね」


 コマの言葉に子津は眉根をよせる。


「雪之丞は男では無い、と言うことか……?」


 猪狩とコマは向き合い肩を落とす。


「まあ、きー坊だしね……」

「興味の無いことはとことん興味が無いからな」




 猪狩は屋敷へと帰り、雪之丞と話し合いの場を設けた。


「雪、お前は鳥居家に戻ることを良しとするか?」


 雪之丞は少しの間、俯き押し黙った後

猪狩へと視線を戻し、答える。


「一度、戻ろうと……思います。父上にとって、私の価値は跡継ぎが確保出来なかった時の保険(・・)でしか無いであろうし、私が次期当主のふりをする事で雪丸(ゆきまる)が助かるならば。それに、何の音沙汰も無い升左衛門(しょうざえもん)の事も気にかかるので」


 雪丸(ゆきまる)とは、鳥居家現当主『鳥居(とりい) 雪久(ゆきひさ)』の側室の子で

雪之丞とは異母兄弟にあたる。

 歳の程はまだ二つにみたない赤子であるが

鳥居家宗家では、誰もが待ち望んだ男児だ

愛されないはずが無い。


雪丸(ゆきまる)が利用できないとなれば、次に狙われるのはお前の命だぞ?」


 それを踏まえたうえで、猪狩は雪之丞の

言葉の意味を再確認する。


「私とて、武家として誉れ高い鳥居家に名を連ねる者、その覚悟(・・)も迎え撃つための研鑽も怠ってはいないつもりです。とはいえ、相手は叔父上の手勢でしょうが……」


 やや自棄の色を見せる雪之丞の表情を見て

猪狩は深い呼吸を一度し、口を開く。


「分かった。他の者への説明は拙者がしておこう。雪はすぐに支度を始めてくれ。使者殿には、必ず送り届けると伝えてある」


「もし、私が断っていたら……いえ、何でもありません」

「その時は、何とかして有耶無耶にしたさ」


 そう言って猪狩は笑って見せた。




「さあ、行くわよ!」


 そう言って張り切るコマを見て

猪狩と雪之丞は苦笑する。


「蒼達殿はともかく、なぜコマ様まで来ることになったのでしょう……?」

「コマ姉いわく、きな臭い気配を感じた……らしく」


 コマが二人の間に割り込んで、話し始める。


「そ、鳥居家周辺で、(よこしま)なる気配を察知したの。あれは十中八九、怪異が絡んでるわね」


「鳥居家に怪異!?」


 驚きの表情を見せる雪之丞に

猪狩は説明を始める。


「コマ姉は、拙者達の故郷で対外勢力の把握が可能な、この能力(ちから)で、村の安全を守る巫女(・・)として力をふるっていたのだ」


「とはいえ、気配を感じられるだけなんだけどね。昔はお婆様も居たから、何とかなってた所はあるけど……」


 雪之丞は何かあるのだろうと思い、口をつぐむ。


「まあ、今回は蒼ちゃんもいるし、何とかなるわよね!」


 軽口を叩くコマに、呆れながらも猪狩は頷く。


「余程強力な怪異でなければ、充分対処出来るとは思う、心配はいらぬ」


 雪之丞は、猪狩の頼もしい言葉に

少し安堵しつつ、素朴な疑問を投げかける。


「ところで、奇一殿は……」


 その言葉に、猪狩は笑いそうになるのを

(こら)えながらこたえる。


「奇一は、怪異絡みとあれば捨て置けぬ、とは言っていたが」

「あーの顔、傑作だったわよね~」


 コマの余計な一言に、猪狩は噴き出してしまう。


 雪之丞は今ひとつ状況が掴めず困惑していると

コマが助け船を出してくれた。


「もう御前試合も近いじゃない? きー坊のところの巽家十本刀候補の仕上がりが今ひとつだから、お留守番。それを伝えたら……フフッ、捨てられた仔犬みたいな顔をしているんだもの」

「コマ姉、その事はもう触れないようにしてくれ!」


 猪狩は涙目になりながら訴えるも、コマはどこ吹く風だ。


「あら? 蒼ちゃんも笑ってる場合かしら? 雪ちゃんが抜けたら、頭数足りないわよね?」


 そんな言葉を受けて猪狩は、何とか笑いを

抑え込み、不敵に笑ってみせる。


「それは、上手くやるさ」


「もう、少しくらい慌ててくれれば可愛げがあるのにね?」

「わ、私に振られても困ります」


 コマのお陰か、道中暗くなる事も無く

鳥居家領内まで辿り着く。




 鳥居家領内をしばらく進んだところで

猪狩は足を止める。


「ふむ、気に入らないな」

「ほーんと、いい性格してるわよね」


 二人の言葉に申し訳なさそうな表情の雪之丞が

謝罪を口にする。


「申し訳ありません、私のせいで」


「雪ちゃんは謝らなくて良いの。ぞんざいな扱いを受けてるって聞いていたし。でもね、今回はそっちが呼んだんじゃないの! って思うわけ」

「あの様に、遠巻きに(・・・・)とはいえ、見張るような真似、跡取りとしてまつりあげるなら、相応の扱いを、ふり(・・)でもすべきと思うがな」


 ますます雪之丞はいたたまれなくなってくる。


「まあ、雪久(ゆきひさ)殿にお目通りをしたら、目下(もっか)、もっとも怪しい月久(つきひさ)殿周辺に探りを入れよう」


 鳥居家当主であり、雪之丞の父

鳥居(とりい) 雪久(ゆきひさ)

 そして、雪之丞の叔父

分家の『鳥居(とりい) 月久(つきひさ)

 この二人は双子だった。


 幼い頃こそ、仲の良かった二人だが

成長するにつれて、順風満帆な長兄の雪久(ゆきひさ)

自分の置かれた状況に不満を募らす月久(つきひさ)の間には

埋めようのない溝が出来てしまっていた。


 厳しい箝口令(かんこうれい)を敷いているものの

月久(つきひさ)は鳥居家の深刻な跡取り問題を知る人物で

雪久(ゆきひさ)の側室の子『雪丸(ゆきまる)』が

産まれるまでは、雪久(ゆきひさ)暗殺を幾度となく企てていた。


 雪丸(ゆきまる)が産まれてからは、暗殺はぱたりと止んだものの

今回の『雪丸(ゆきまる)誘拐』の件は、十中八九『月久(つきひさ)』が

手を回したものだろうと、誰しもが思っていた。

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