鐡
「あっはっはっはっ、アンタ達へばってんのかい」
リシンは男鬼達を見るや、大笑い。
「自分なんか、岩を砕いて運ぶを、一人でやってきたっていうのにねえ」
「ぐっ! 馬鹿言うな、あんな重労働だとは聞いてねぇ!」
「お前が堰を作る前に繋げたからだろうが!」
「シキョウが、水を止めてくれなければ、全て台無しになるところだった」
「ホッホッホ、いや上出来じゃ。さっそく試してみようかの」
桃仙はそう言うと、おもむろに水路を操作し
川と水路の一番最初にある貯水池に繋げる。
岩石を押し流すには、水量が必要だ
貯水池に水を溜め、程良く溜まった所で放流する。
流れ始めた水に、岩石を投入し押し流す。
そして水路にある幾つかの池に、順番に溜まる。
その際、充分にかき混ぜてやる事で
重い物は沈み、軽い物は浮かび上がり
やがて押し流される。
最後に黑金を集めてやれば、不純物の少ない物となる。
「この頭数でやる作業じゃねえな……」
「確かにな……」
「ホッホッホ、そう言うな。これが『黑金』じゃ」
「黒い砂みたいだな」
「ホッホッホ、そうじゃな青鬼。じゃが、炉に入れて溶かしてやれば、砂とは違うとはっきり分かるぞ。さあ、黑金を集めて、炉へ向かうぞ。くれぐれもこぼさぬようにな」
四鬼達は慎重に運び、炉へと辿り着く。
「慎重に運ぶというのは、いやに疲れるな」
「普段、しないからだろうな」
「グテツには向いてないねえ」
「こればっかりは、自分でも同じ意見だ」
そんなやりとりをしていると、桃仙が何やら
難しい顔をして呟く。
「炉が乾ききっておらんな……。ホッホ、製鉄は明日にしようかの? 青鬼、明日から一番大変なのはおぬしじゃ、覚悟しておけよ?」
こうして、この日は解散となった。
次の日、炉の乾燥具合も進み
作業が始められる事となった。
「ホッホッホ、先ずは黑金を炉に入れ火をつけるぞ……」
慎重に黑金が投入され、その後かまどに
種火となる火がつけられる。
桃仙はリシンとシキョウに指示を出し
炎の温度を調整させる。
「青鬼、炎の色を良く覚えるんじゃ、片時も目を離してはならん」
ウラは、息をのみ頷く。
「ホッホ、火の加減は良い感じじゃの。適宜、指示を出して調整しては貰うが、まあ問題ないじゃろう。後はただ夜通し三日間続けるだけじゃ」
「何だって!?」
「何……だと!?」
リシンとシキョウが愕然とし
ウラも少なからず動揺している。
そんな中、手持ち無沙汰なグテツだけは
皆の表情がツボに入ったのか、大笑いしていた。
「ほれ、黒いの! おぬしは木炭を、機を見て入れるんじゃよ、鬼術使い達の休憩になる、重要な仕事じゃ。しっかり覚えろよ?ホッホッホ」
リシンとシキョウの鋭い眼光にさらされたグテツは
キリキリと働くしか無かった。
罵声と怒号が飛び交いつつも、火力の方が安定し
注視する必要が無くなると、桃仙はウラの元へ向かい
仕事を覚えさせる事を主眼に置いた
細やかな指示にきりかえた。
やがてウラに任せても、問題ないと判断し
四鬼の面々を見て言う。
「ホッホッホ、ワシが居ない間は、他の鬼を呼び、鬼術使い達を交代させ、適宜休憩を取らせるんじゃぞ。では三日後」
いつもの笑い声を残し、桃仙は帰って行く。
「おい、ウラは三日間休憩無しか?」
「そのようだ……」
桃仙が居ない間、他の鬼を呼んだこともあり
リシンやシキョウは、かなり負担が減ったが
それとは、反比例するようにウラの負担は増える。
「ウラ、水を持ってきたよ」
「すまない、リシン」
視線も寄越さないウラに文句を言うでも無く
リシンはとなりに腰掛ける。
「すまないね、アタイらだけ休んじまって……」
「いや、始めから決まっていたことだ。それに前段階では俺の仕事はほぼ無い、これくらいやらねば文句の一つも出よう」
「そう言ってくれると、助かるよ」
もともと口数が多くないウラが相手なので
すぐに会話が途切れる。
しばらくの沈黙あと、リシンが再び口を開く。
「アタイら鬼は、一体どうなっちまうんだろうねえ……」
「分からない……が、今、この瞬間が、大きな分岐点であることには間違いないだろう。……昔の方が良かったか?」
「分からないね、確かに楽だったし、愉しかった……。だけど、良かったかどうかは、これから次第じゃないかい?」
「そうだな……」
そろそろアタイの番だ、と立ち去るリシンの背中を
しばし見つめ、独り言ちる。
「これから次第……か」
そこまで言うと、手渡された水を一息に飲み干す。
────三日後。
ウラは、桃仙が指示していた通りに
火力を落としていき、炉を壊す。
燃え残った木炭などを取り除き、冷ます。
「ホッホッホ、まずまず上手く出来た様じゃの」
狙い澄ましたように、桃仙が現れ
『鐡』の品定めをする。
「ホッホッホ、この出来なら充分じゃろう」
その言葉に四鬼達は、安堵の表情を浮かべる。
「やっと、終わったぜ……」
「ホッホッホ、まだ、終わりでは無いぞ? 変化の出来る女鬼達に売り込んで貰い、銭を得て、食糧を買って戻ってくる……これで一回じゃ。それに、炉は毎回作り直しじゃからの? ホッホッホ」
「今、それを言うかい? まったく意地の悪い爺さんだよ」
「全くだ」
リシンとシキョウは口々に言い合い、流石のウラでさえも、頷く他なかった。
その後、変化の得意な者を数名選抜し
売りに行かせる訳だが、そんな経験が
鬼達にあるはずも無く、
間違いなく苦戦するであろう事は
誰の目にも明らかであった。
島の者達は、ただただ祈るしか無かった……。