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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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ウマとそり


 疾風は太郎達に自分の過去を語って聞かせる。


 もちろん、自分の目で見て感じた範囲でしか

語ってはいないが、それでも他の二人が

沈痛な面持ちになるには十分であった。


「疾風殿は、大変な……大変な思いをされてきたのですね」


「そうじゃな、けどそれだけじゃ無い。あの経験が今のわしを生かしてくれてる」


「何かと誇らしげに言うと思ったら、そういう事か。それなら、わからないでも無いな」

「まぁ、わんころ(・・・・)に理解しろとは思わん」


「何だと! このエテ公(・・・)! 人が下手に出てりゃあ!」


 八郎と疾風は取っ組み合いを始める。


角力(すもう)……か。吾郎はどうしているだろうか?」


 太郎はひとり、故郷に思いを馳せる。


 すると三人から、だいぶ遅れて雪之丞が

追いついてくる。


「はぁっ、はぁっ、はぁ……太郎殿、これは一体どういった状況ですか?」


 太郎は雪之丞の疑問に答える。


「あ、鳥居殿。これは模擬戦の様なものだから、無暗(むやみ)止めなくても良いと、以前二人(・・)から聞いています」


「え……それを、信じて……」


 雪之丞の言葉は尻すぼみになり、最後の方は

太郎には聞き取れなかった。


 すると疾風が雪之丞に気付き、声をかける。


「雪、お前はまだまだじゃな。良いとこの育ちとはいえ、もっと体力つけんと、やっていけんじゃろうな」

「はい、精進します」


「なーにを偉そうに。またこいつが先輩風吹かせる前に、鍛錬を再開しようぜ」


 八郎は太郎を促して走り始める。


「これだから体力馬鹿は……」


 疾風は深くため息をついた後、雪之丞を見て問う。


「で、お前は何を隠しとる?」


「──!?」


 雪之丞は思わず驚きの声をもらしそうになったが

それを必死に抑え込む。


「何の事でしょうか?」


「しらばっくれるか、まあ良いじゃろ。じゃがな、いざという時、隠し事をしている間柄で、本当に背中を預けられるか? っちゅう事を良く考えとけ。裏切る気が無くても、人間っちゅうもんは心に引っかかりがあると、どうにも疑ってしまうもんじゃ」


「承知しました……」


 疾風は背中を向けて太郎達が進んだ方へ歩き出す。

 その最中、雪之丞の反応に思わず笑いが込み上げてくる。


「そりゃあ、ほとんど隠し事をしとるって言っているようなもんじゃ」


 誰にも聞こえないような、小さな声で呟く。


 遅れて雪之丞も走り始めるのを確認し

疾風は速度を上げた。




「それにしても……疾風じゃないが、太郎殿の成長は確かに驚かされる。身体能力もそうだが、技術の飲み込みも早い」


 八郎が頻りに感心したという表情で太郎に話しかける。


「いえ、私などまだまだ、八郎殿、疾風殿、雪之丞殿に遠く及びません」


 八郎は謙虚過ぎる太郎に苦笑を浮かべる。


「確かに、私の身体能力はいわゆる普通(・・)では無いことは理解し始めました。が、それを振るうための技術が圧倒的に足りていないと感じているのです。八郎殿の尽きぬ体力と、そこから繰り出される、止むことの無い槍術。疾風殿の周囲を把握する能力、そこから最善と思われる手段を選ぶ才能と器用さ。雪之丞殿の先の展開を読む力と、正確無比な狙いで確実に相手の機先を制する精密な武技」


 太郎の言葉に八郎は、一瞬きょとんとするが

すぐに笑顔になり太郎に向けて言う。


「なるほどな、太郎殿は目が優れているのだな。共に過ごし鍛錬に励んでいるとは言え、長所と狙いをそこまで正確に見抜いているとは。物覚えも良いわけだ。だが……相手の短所や欠点も見えた方が良いな、いざという時、打開するための切っ掛けにもなる」


「短所……ですか?」


 八郎は頷く。


「例えば、俺の様に大振りな攻撃が多い相手や身体の大きな相手には、懐に飛び込んで戦った方が相手の有効打を減らせる……とかな?」


「なるほど……しかし八郎殿の槍を掻い潜っての接近は骨が折れそうです」


 太郎は苦笑いを浮かべて言う。


「そりゃあ、俺だって自覚(・・)があるんだ、対策くらいは考えるさ」


 八郎はにっと笑い胸を叩く。


「簡単じゃ、そのわんころ(・・・・)は矢鱈と槍を振り回したがる。振りかぶる瞬間が隙になるのにな?」


 突然の疾風の声に太郎と八郎は驚いた顔で

声の主の方へ振り返る。


「わしくらいになれば、振りかぶる音を聞けば、目を瞑っていても躱せるわい。そうじゃな……太郎なら、神気(・・)を使えば背後に回るのも容易いじゃろ? 追い回された事のあるわしなら分かる」


「な、なんだとぉ……」


 怒りに打ち震える八郎と

嘲笑う様な視線を送る疾風。


 まさに一触即発な雰囲気を醸し出しているが

雪之丞が追い付いてきたところで止めに入る。


「は、疾風殿! わ、わざわざ喧嘩を吹っかけるような物言いは如何な物かと思います! それに! 八郎殿も、あのような安い挑発に乗るべきではありませんっ!」


 思いもよらない人物からの制止に

疾風と八郎は呆気にとられ、太郎も驚きを隠せないが

徐々に事態を理解し始めた疾風と八郎が

顔を見合わせ、思わず笑みをこぼす。


「ふふんっ」

「へへっ」


 むしろ、止めに入った雪之丞が

事態が飲み込めなくなってくる。


「雪、まあまあじゃな!」

「馬鹿言え、だいぶ進歩しただろう?」


「それはどう言う……っ!」


 戸惑う雪之丞の肩に、八郎が手を置く。


「お前はどこか、他人行儀が過ぎる。俺や疾風だけじゃ無い、みんなそれを気にしてる。だが、今の言葉は中々に良かったぜ!」


 雪之丞は八郎の言葉をうけてはっとする。


「まさか! 今の喧嘩は演技という──」


「いや、あのエテ公が気に要らないのは間違いない」

「言っとれ、わんころ」


 肩透かしを食う雪之丞だったが

太郎が歩み寄り、小声で補足として言葉を付け足す。


「鳥居殿、あの二人は意外と世話好きで、皆の事を見ているのです。気になれば声をかけ、良い方向へ導こうとする。似たもの同士、余計に気になる部分があるのは本人達も自覚している様で、喧嘩になるのは模擬戦と割り切って、お互いに有効に利用しているみたいですよ」


 雪之丞は、苦笑交じりにつぶやく。


「ウマは合うが、そりが合わない。という事ですか」


「そんな感じです」


 太郎も雪之丞に同調し頷く。

その場から少し離れた場所では

疾風と八郎の模擬戦(けんか)が繰り広げられていた。




 一方、猪狩邸では猪狩、子津、コマの三名が

集まって何やら話し合っている。


「で、それぞれの育成状況はどうなの?」

「拙者の方はそれなりに形にはなってきた。それぞれ非凡な才を見込み集めた面々、成長も早い」


「そうね、蒼ちゃんの所は今のところ順調よね。雪ちゃんが今一つ溶け込めていない感じはあるけど。ところで鳥居家は、まだ何の音沙汰も無し?」


 猪狩が目を伏せ頷くと、コマも小さく溜息をつく。


「なんか、ろくな事にならない予感がするのよねぇ」

「升左衛門が奮闘してはいるのだろうが、拙者も同意見だ」


 腕組みをして、不機嫌そうな顔をした子津は

吐き捨てるように言う。


「他所の心配なぞしているほどのゆとりは、我々には無かろう」


 子津の言葉を聞き、微妙な表情をして

猪狩とコマは向き直る。


「じゃあ聞くけど、きー坊の所はどうなのよ? 特に羊心」

「うぐっ!」


 痛いところを突かれた子津は、苦悶の声をもらす。


「はっはっは、奇一。うぐっ! などと口に出して言う輩は初めて見たぞ!」

「う、うるさい! 貴様に何が分かるっ!」


 じゃれ合っている二人を呆れ顔で眺めていたコマは

少しだけ真面目な表情を見せる。


「でも、本当に大丈夫? 羊心はともかくとしても……辰浪(たつなみ)殿、馬淵(まぶち)殿は、あんまりきー坊の所へ足を運んで居ないんでしょう? 足並みは揃えられるの? (うしとら)だって、まともに動いてくれるか……。蒼ちゃんの所より、よっぽど深刻よ?」


 子津は事実を突きつけられ

自らの不甲斐なさから顔を紅潮させ

大声で啖呵を切って、屋敷を飛び出していく。


「分かっている! そんな事は!! 御前試合までには、何とかしてみせるわっ!」


 猪狩とコマは顔を見合わせて溜息をつく。


「ああ、また奇一の悪い癖が出たな」

「そうね……間に合うと良いけど」


 猪狩邸に束の間の静寂が訪れるのであった。

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