表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
57/67

疾風の去来


「たっだいまぁ! 喜びなさい!」


突然猪狩邸を訪れたコマは、開口一番

意味の分からない事を言い始めた。


「コマ姉、何があったか分かりませんが、屋敷の戸を壊すのはやめて頂きたい」

「細かいことは、あとあと!」


細かいことでは無いのだが、と言う言葉を飲み込み

猪狩はコマに尋ねる。


「何か喜ばしい事があったのですか?」


義旭(よしあきら)様にお願いしていた事に、お許しが出たのよ!」

「というと、まさか!」


コマは胸を張り、大きく頷く。


「そのまさかよ! で、疾風(・・)は?」


猪狩は、小さく笑みを浮かべて


「そういえば、今日は見ていないな。近頃、腕をあげた故か、気配を消すのが上手くなり……そろそろ、一度くらい屋敷を抜け出す事もかなうやも」


コマは非難がましい表情を浮かべる。


「嬉しそうにしないでよ。それは結構不味い事でしょ……。きー坊が知ったら、私の努力も水の泡よ?」


「拙者から逃げおおせるのならば、奇一から逃れるのも出来ぬことでは無いでしょう」


「いや、それ自体がもう不味い事だから」


コマの呆れ顔に、猪狩は微笑む。




一方、疾風はといえば

近頃は猪狩の課す鍛錬に真面目に臨み

その結果として、屋敷から逃げ出せる

かも(・・)しれない方法を思いつき

昨晩から実行に移していた。


「あの『神気』っつうもんは、発動されたら最後、絶対に逃げきれん。じゃったら……」


疾風の見立てでは『神気』を

身体能力の大幅な上昇と踏んでいた。

移動速度の上昇、それに伴うように

反射神経も上がり

刀を振るう速度が上がるという事は

膂力の上昇も意味する。


しかし、速く動けるが故か、足を止めて

辺りを覗う事をしているのを見たことが無い。


そして疾風はこう考えた。


──長い時間は使い続けられないのでは? と


「あれが発動する前に距離を取り、例え『神気』が発動されても息を殺して一定距離……いや、少し多めに距離を取って時間切れを狙えばやり過ごせるかもしれん」


猪狩を上回る様な聴力を誇る疾風でなくては

出来ないやり方ではある。


「今は来客中、出来るだけ距離を取って脱出口に近づいておきたい」


そう呟いて疾風は移動を始める。




猪狩はふむ、と唸りコマに目配せをする。


「コマ姉、今日は楽しくなりそうだ」

「それってもしかして!」


コマは大きなため息をついた。


「もう! しっかり責任取ってよね!」




疾風は、予め調べておいた

いくつもの脱出口のうち、自分にとって都合の良過ぎない場所に目星をつけ潜む。


「あの馬鹿げた運動能力では、推測で目鼻をつけられると一瞬じゃからな、少し意外な場所でなくてはならん、かと言って自分の身の安全も大事じゃ……うん?」


疾風は猪狩の動きが変わったことを察する。


「もう勘づかれたか」


疾風は警戒態勢に入る。

極力物音を立てず、気配を殺して

自身の選定した脱出口へ進む。




「ほう、もう見失った。これは中々……」


呟く猪狩の脇腹をコマが肘で突く。


「ほんとに! 真面目にやってよね?」

「それは問題ない、大真面目に取り組んでいる。その上で、気配を掴みかねている」


コマは額を抑える。


「あまり時間を与える訳には行かないな。先程、感じた気配の場所から予測して……」


猪狩の瞳が金色に染まる。

──刹那、猪狩の姿が掻き消える。


コマは誰も居なくなった部屋を見回しため息をついて呟く。


「蒼ちゃん、絶対笑ってたでしょ。すぐに楽しんじゃうのよね……」




疾風は猪狩の移動に気付くが

それでもにやりと笑う。


「かかった……が、次の候補へ順番に回られるだけでも十分に厄介じゃ」


疾風は息を潜めながらも、猪狩の気迫とも言える

気配を感じながら、目的地へ急ぐ。


「まだ、神気は続くのか!? 制限時間なんてなかったのか?」


などと、言葉には出さないが

何度も脳裏に過ぎらせる。


ようやく出口間際までやってきて

息の音すら発しないように気をつけつつ

深呼吸をする。


「ここで気を緩めたら負けじゃ」


疾風はこれまで以上に慎重に、かつ迅速に

出口をくぐり屋敷を抜ける。


そして、出来るだけ距離をとるために静かに走り

やがて人混みに紛れると、ようやく一息つき

汗を拭う。


「ふう、何とか撒いたか……?」


すると突然、何者かに肩を掴まれ

呼び止められる。


「お前、猿だよな?」


疾風は全身の毛穴から汗が吹き出すのを感じた。


疾風は恐る恐る振り返る。


「やっぱり猿じゃねえか!」


そこには、共にお頭に見捨てられた(・・・・・・)山賊団の団員がいた。


疾風は素早く山賊仲間の口を塞ぎ、物陰に連れ込む。


「お前、何でこんな街の中に居るんじゃ!?」


山賊は呆気に取られた表情を浮かべ言う。


「何でって……お頭達や、猿を探していたんだろうが!」


疾風は思わず額を抑える。

そして、神妙な顔をして山賊仲間に言い聞かせる。


「いいか? お頭は死んだ。いや、殺されたんじゃ」

「何だって!? 一体誰に!?」


疾風は、少し間を置き答える。


「この都の殿様に仕える、恐ろしく腕の立つ『侍』じゃ。お頭はおろか、今行方が知れない山賊団の顔ぶれは、一刀のもとに皆殺しじゃった……」


山賊仲間はごくりと息を呑み尋ねる。


「じ、じゃあ、猿はどうして──」

「生きてるのか? ちゅうことじゃろ? その侍達は二人組でな、その片割れにガキじゃということで、目を掛けられ、屋敷におかれとる」


山賊仲間は目を見開く。


「更に言えば、もう一方の侍には目を付けられておって、今この瞬間も見つかれば命は無い(・・・・)じゃろう」


そこまで聞くと山賊仲間は、顔を青くして

疾風の顔を見る。


「じゃから、お前も山賊だなんてバレたら……」

「殺される、って言うのか!?」

「間違い無いじゃろうな、じゃから、悪いことは言わん。山賊から──」

「だ、だったら、俺と一緒に都を離れて、また『気まま』に山賊団を始めよう! 猿は目も耳も鼻も利く、俺は前の仲間を何人か見つけているし、上手くやれりゃ食い扶持には困らんはずだ!」


突然の誘いに疾風は黙り込む。


「何なら、お前が頭でも良い!」


必死な元山賊仲間をよそに

疾風は自分の心が全く動かないことに戸惑う。


自分の居場所は、山賊団しか無いと思っていたし

もっと大きな仕事がしたいと願っていた。


なのに、今、この誘いに何も感じない。


「何故じゃ……?」


ぽつりと呟いた疾風を

あれやこれやと捲し立てていた元山賊仲間は

怪訝そうに見やる。


疾風の心に、コマの言葉がよみがえる。


「これからは、私たちと一緒にご飯を食べて、家族(・・)の温もりを感じて行けば良いわ!」


家族……じゃあ、今の自分は

何から逃げているのか?


今の疾風には答えは出なかったが

元山賊仲間に背を向けて、はっきりとした口調で伝える。


「わしは行けん。何よりわしは顔が割れてる。山賊団は……出来るだけ都から遠く離れた場所でなら、やったら良い。お前らの事を侍所に言うつもりも無い。お前らも、わしにとって家族(・・)みたいなものじゃったからな」


項垂れる元山賊仲間のもとを後にしようとした時

疾風の前に誰かが立ちはだかる。


「やはり、他の山賊と繋がっていたか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ