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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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捨てる者と拾う者

 猿少年は、育ての親ともいえる

頭領の死を目の当たりにして

いままで感じたことの無い怖ろしさをおぼえ

思わず尻餅をつく。


 腹の底から来る震えで

奥歯をがちがちとならし

その目からは涙が流れる。


「む? 何やつ!」


 子津が猿少年の潜む茂みに目を向ける。


「子供……? おい、あの子供も貴様らの仲間か?」


 子津は頭領の一行では無く、物陰の方へ

疑問を投げかける。

 すると少し遅れて、返事をする人間が現れる。


「ぎゃはは、誰かと思えば『猿』じゃねぇか! あいつも見捨てられたんだな!」

「確かに、あの子供も山賊団のひとりだ」


 その二人を見た猿少年は戦慄する。


「お、お頭といつも一緒にいた二人がなぜ!?」


 子津は油断なく、山賊の二人は気軽な感じで

猿少年の方へと歩みを進める。

 しかし彼らよりも早く猿少年の元へ駆けつける者があった。


「待て、奇一。この子はまだ子供だ、きっとやり直せる!」


 猪狩は神気を用いてまで、先回りし

猿少年を庇うような位置取りで、子津の説得を試みる。


「何だ今のは……? 一瞬で移動したのか!?」


 驚愕する山賊を余所に、子津は

聞く耳を持たないとでも言うように

吐き捨てる。


「またそんな戯れ言を……蒼達、山賊など生かしておく価値は無い!」


 子津の強硬な姿勢に頭領一行は身を固くし

子津、猪狩両名に協力していると思われる二人も

神妙な表情で子津を見やる。


「旦那、まさか俺達も殺そうって言うのか?」

「さすがに、そいつは笑えねぇな」


 子津は一旦足を止め、二人に言う。


「本来ならば、そうしたいところだが。協力者を殺したと噂が流れれば、今後の仕事にも影響が出よう」


 子津の感情のこもらない言葉を聞いて

山賊の二人は胸をなで下ろす。


「だったら良い」

「ぎゃはは、そうじゃなきゃな!」

「…………」


 子津は再び、歩き出す。


「奇一! こんな幼子(おさなご)が、どれ程の事を出来ようか!?」

「確かに、その風貌で大人とやりあっても力負けが関の山だろうな、とは言え……」


 少し悩む素振(そぶ)りをみせた子津に

猪狩は言葉を畳みかける。


「そうだろう! だからここは拙者が──」


 ところが、そこまで言いかけた猪狩の言葉を

遮るように山賊達がしゃべり出す。


「ぎゃはは! ところがどっこい、そいつは赤ん坊の頃から、犯罪をすり込まれてる」

「確かにまだ人殺しは(・・・・)やっていないが、他の考えられる悪事は、一通り済ませているんじゃ無いか?」


 子津と猪狩は、驚いた様子で山賊達に目を向ける。


「なんと言うことを……それではこの子は、親の温もりも知らぬと言うのか!?」


 猪狩が絶句していると、山賊達は愉快そうに

話し出す。


「ぎゃはは、そうそう! そいつの村は俺達と、そこに転がっている奴で襲ったんだ」


 元山賊団の頭領の亡骸を指差しひとりが言うと

もう一人が頷いて、口を開く。


「その村は酷く貧乏で、猿の親も殺されてほっとした(・・・・・)顔をしていたくらいだ。ここまで生きながらえた事を感謝して欲しいものだ」


 猿少年は初めて聞く自分の両親の事に

目を大きく見開き硬直し、猪狩は余りの怒りに

額に青筋を立て山賊を睨む。


 そんな中、ひとり静かに聞いていた子津が呟く。


「ふむ、やはり山賊など怪異にも劣る存在だな」


「旦那、まあそう言うなって! 今や立派な『協力者』だろ──」


 そう言いかけた山賊の片割れの頭部が

口の辺りから、上下に分かれ鮮血が噴き出す。


「き、協力者は殺さないんじゃ無かったのかよ!!」


 もう一人が喚き散らして、その場から

逃げ出そうと試みる。

 しかし、瞬く間に子津は追いつき

手にした『黒い刀』で山賊を切り飛ばし

返す刀で捕らえていた

山賊団頭領一行だった者達(・・・・・)を斬り伏せる。


 余りの光景に、猿少年は腰を抜かし失禁し

がたがたと震えている。

 そんな様子を気にもとめずに子津は呟く。


「ふん、噂が立たなければ良いだけだ」


 その言葉に、思わず額をおさえる猪狩へ

追い討ちのように子津は言い放つ。


「蒼達、その子供は貴様に任せる。煮るなり焼くなり好きにするが良い。だが、其奴が逃げ出したり、よからぬ噂を吹聴するようなことがあれば、貴様の手で斬り捨てろ」


 猪狩は引き攣った笑顔を浮かべながら

頷いた。


「承知した」


 そして猪狩は、漏らしてしまった猿少年を

気にとめることも無く背負い帰路へつく。


「さて、野犬の餌にしても良いが……人目につくのは、面倒だ。『呪縛刀 禍怨』!!」


 子津が(あか)い刀身の刀を振りかざすと

一面に紅蓮の炎が立ち上がり、死体を焼き尽くす。


 背に膨大な熱量を感じ猪狩はため息をつく。


「奇一の奴、証拠隠滅ばかり上手くなりやがって」




 猪狩は猿少年を自身の屋敷に招き入れ

自身の提案を高らかに宣言しようとするが

名前を聞いていない事に気づく。


「少年! 今日から……そういえば名前を聞いていなかったな名はなんと言う?」


 猿少年は、俯いたまま答えない。


「ふむ、さすがにあんな物を見せられて。急に心を許すわけが無いか」


(さる)……」


「おお! そうか! だが……それは本名なのか? あまり名として用いられるものでは無いと思うが……」


「わしにはその名しか無い! あの山賊達が言ったことが本当なら、それしか無いじゃろう! わしの名を知ってどうする!? あの化け物みたいな侍に売り渡すか! それとも侍所に連れて行き、牢屋にぶち込むか!」


 猿少年はこの屋敷でも地獄が待っていると

確信し、猪狩を威嚇するふり(・・)をしながら

何とか逃げ場所を探し始める。

 猿少年の言葉を聞いた猪狩は少しきょとんとし

その後、大笑いを始める。


「くっ! ははははははっ!! 化け物みたいな侍(・・・・・・・・)か! これは良い! 今度拙者も言ってみよう!」


 猿少年は猪狩の様子に、あっけにとられるが

直ぐに我に返り、猪狩に気付かれぬよう

そっと距離を取り始める。


 すると、猿少年の肩に猪狩の手が置かれる。


「まあ、待て。逃げたいならば、それも良いだろう。だが、拙者の話を少しだけ聞いて行かぬか?」

「いっ! ……つの間に」


 猪狩は笑みを浮かべて猿少年を頷き

向き直って座るように促す。

 猿少年とて、即座にこの場から逃げ出すのは

不可能と判断し、しぶしぶ猪狩の言うがままに

向き直って座る。


逃げても良い(・・・・・・)何て言っても、捜し出して殺すんじゃろ? それに何の意味があると言うんじゃ?」


「ふむ、少し違うな。逃げられるものなら(・・・・・・・・・)が、前に付くと思って貰って良い。それに拙者は、少年の事が気に入った、出来れば殺したくはない」


要するに、いつでも殺せる(・・・)という事を

言外に猿少年に突き付けながら言葉を続ける。


「ということで少年はこれから、雑用や鍛錬を熟しつつ、この屋敷で生活して貰う。その間に逃げ出すのも良いだろう、勿論出来るならば。もし、まんまと逃げおおせたならば、拙者が少年を捜すことはしないと約束しよう。とは言え子津は捜すだろうが、な」


 猿少年は少し考える。


 ──追っ手が減るならば

それだけ逃げ切れる可能性が上がる。


そう、ふんだのか渋い表情ながらも

猪狩の提案を受け入れる事にする。


「しゃあない、今のところ『選択肢』もなさそうじゃ」


「まあ、そうであろう。よろしく猿少年! ……やはりしっくりこないな、何か考えておこう……。今日はこの部屋で休んでくれ。なるべく部屋から出ないでいてくれると助かる!」


 そう言い残すと、猪狩は部屋から去って行く。


「何て言いながら、物陰で隠れているんじゃろう?」


 猿少年は慎重に辺りを探る。


「本当に居ない……あの侍は阿呆なんじゃろうか?」


 猿少年の呟きが、誰もいない廊下で

誰に聞かれるでも無く消える。

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