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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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思わぬ再会

 猪狩の帰還から少しして

この館に一人の男が訪れる。


「蒼達はおるか!」


 その声に反応して、疾風がいち早く来客のもとへ

駆けつける。


「『奇一様』!? 直ぐに蒼達様を呼んで参ります!」

「ああ、頼む」


 疾風は直ぐさま猪狩を呼びに駆け出す。

 直後、入れ替わるように太郎と八郎

それに雪之丞の三人が、客人を迎え入れる。


「お見えになられたのですね、子津殿」


 顔見知りである様子の雪之丞が話しかける。


「ああ、コマ姉に帰ったと聞いたゆえ、寄らせてもらっ──!!」


 挨拶をしようとした太郎と子津の視線が交わる。


「貴様はっ!?」

「あなたはっ!!」


 太郎は身構えるが木刀は置いて来てしまったので

無手で構える。


 二人のただならぬ様子に八郎は訓練用の槍を手に

太郎の前へ割って入るが──


「邪魔をするなっ!」


 子津の一太刀により、八郎は大きく吹き飛ばされる。


「八郎殿!」


 八郎に気を取られた太郎に再び子津の刃が迫る。


 ガキィィイィン!!


 金属と金属が激しくぶつかり合った音が響く。


 思わず目を閉じてしまった太郎が

おそるおそる目を開けると、太郎を庇うように

見慣れた背中があった。


「何故邪魔をする、蒼達!!」

「『何故』では無いわ、奇一! そっちこそ太郎殿に刃を向ける理由を話せ!」


 猪狩は油断なく子津を牽制し

奇一は太郎を視界に入れたまま猪狩に語り始める。


「都からほど近い村にて、怪異が出る騒動があった。(それがし)は村の者に助けを求められ、その場に駆けつけた。しかし某が駆けつけた時、既に事態は変わっていた。暴れていた怪異は、より強大な力を持つ怪異によって殺されていた。その強力な怪異を処理せんが為動いたとき、その者が怪異を庇い立てしたのだ」


 子津の言葉に即座に猪狩は反論する。


「拙者は太郎殿の生い立ちの事、ご両親の事、この目で、この耳で、見聞きしている! 太郎殿に限って、人に害なす為に怪異に肩入れするなど、到底考えられない!」


 子津は刀を押し込み、鍔迫り合いの形に持ち込む。

 子津は、太郎から視線を外し

猪狩を真っ直ぐに見やり、はっきりとした口調で

言い放つ。


「並の怪異を、赤子の手をひねるように殺した怪異。どのような理由があれ、ほおって置くには危険すぎるのは、蒼達も分かるであろう! その者は『神気』を使ってまで怪異を庇った!」


「なん……だと!?」


 猪狩は神気という言葉に、驚愕ともいえる

反応を見せ、ふるふると小さく震え動きを止める。


「幸いにも怪異は処理出来たが、怪異に肩入れし神気を使う者など、斬り捨てるのが妥当であろう? どれ程甘く見積もっても捕縛──うおっ!」


 子津が話している最中に猪狩が急激に動き

鍔迫り合いの状態から一気に子津の刀を打ち払う。

 そして、太郎の元へ駆け寄り、その両肩を掴む。


「太郎殿! 神気が使えるのか!? それは凄い! 何を隠そう、拙者も神気が使えるのだ! 太郎殿の鍛錬は、そちらを中心に変えていこう!」

「え、ええ……」


 興奮状態の猪狩に圧倒され、太郎は

ひと言発するのが精一杯だった。

 そこへ、子津の怒りがこもった声が響く。


「蒼達!! お前はまたそうやって、自分の関心のみに走る! 某の話を聞いていたのか!!」


 猪狩は慌てて向き直り

憤怒の表情の浮かべる子津に、弁明を始める。


「いや、待て奇一! 聞いていなかったわけでは無い! しかし、拙者にはどうしても太郎殿が訳も無く怪異に肩入れするとは思えん。だから、太郎殿の処遇は拙者に任せてくれはしないか? この屋敷において監視していれば、おいそれとは怪異と内通する事は出来ぬであろうし、有り得ぬ話しだが、万が一太郎殿が怪しい素振りを見せようものなら、拙者が責任を持って斬り捨てよう」


 猪狩の言葉に太郎は思わず固唾をのむ。


「奇一とて、拙者が負けるとは思って居るまい?」


 猪狩は駄目押しとばかりに

瞳の色を金色に変えてみせる。


「確かに。某が相対した時、立ち回りや、神気の扱いが『未熟』であると感じたが……逃げる際のあの速度は、某にはどうにもならなかった。同じ神気の使い手ならば、その対策も容易であるかもしれぬな……」

「だろう? だからこの件は、拙者に任せてくれ!」


 猪狩の熱弁を聞き、しばし葛藤していた子津だが

「好きにしろっ!」と言い残し、屋敷を後にしていった。


「ふう、あの石頭をなんとか丸め込めたな」


 猪狩が汗を拭うふりをしてみせる。


「えっ!?」


 太郎、八郎、疾風、雪之丞の四人が

思わず声を合わせる。


「蒼達様……、まさか出任せを言って、子津殿を追い払われたのですか!?」

「猪狩さまも、案外やり手だな」

「蒼達殿、奇一殿に知られたら厄介では……?」

「えっと、私の処遇はどうなるのでしょうか……?」


 それぞれ違う反応を見せる四人に

顎を掻きつつ猪狩は笑う。


「奇一は、こうと思ったら譲らないからな。ああでも言わねば、引き下がらぬ。ばれた時は、その時に考えようではないか」


 それから太郎の方を見て言う。


「やはり、拙者には太郎殿が意味も無く怪異に肩入れするとは思えなくてな。監視などしよう物なら、ご両親に顔向け出来ぬ」

「猪狩さま、その件なら俺も太郎殿から聞かせて貰いました。是非、聞いて頂きたいと思います! 太郎殿、良いよな?」


 太郎は小さく頷く。


「分かった、このまま皆で事情を聞こう」




 怪異(コタロウ)の件を太郎と八郎で

猪狩達に詳しく説明した。


「なるほど、そのようなことが……」


 猪狩は何やら考え込む。

 一緒に聞いていた疾風や雪之丞も

かける言葉が見つからず神妙な表情をしている。


「とはいえ、私の言を信じるならば(・・・・・・・・・・)と言うことになる様ですが」


 太郎が皆に心配させぬように

努めて明るく言う。

 その言葉に猪狩は苦笑しながら頷く。


「奇一は、そう言うだろうな。彼奴は猜疑心の塊のような奴だ」

「蒼達様、流石に言い過ぎじゃないですか?」

「いや、昔はまだ可愛げがあったが、最近の奇一は頭が固すぎていかん」


 猪狩は笑顔で言っていることから

お互いの信頼関係が出来ている上での

悪態なのであろう。


 そうこうしていると、新たな来客がやって来る。


「こんにちは蒼ちゃん(蒼達)、今日も来てあげたわよ?」


 何やら手荷物を持ち、猪狩へと歩み寄り

その荷物を手渡す。


「はい、お届け物」


 猪狩は困惑しつつも荷物を受け取る。


「これは……?」


 コマは少しだけ思い出し笑いをもらしながら

猪狩に事情を伝える。


「門の前できぃ坊(奇一)が、うろうろしていたから話を聞いたの。その荷物を渡すために来たのに一悶着起こしてしまった挙げ句、飛び出してきちゃったから、戻るに戻れず困ってたんだってさ。仕方ないからわたしが預かって来たって訳。ふふっ」


 猪狩も見る見る表情を崩し

太郎達を見て言う。


「彼奴も、まだ可愛げが残っていた(・・・・・・・・・)らしい」


 反応に困った太郎達は

苦笑い浮かべるしか無かった。

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