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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第3部 人鬼決戦編
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コマ

 太郎は、弱い自分を克服するため

猪狩の誘いを受け、松吉とおハツの元から旅立ち

都へと向かった。


 道中、様々な出会いと別れを繰り返し

ようやく八郎という道連れと共に、都に足を踏み入れる事となった。




「ふう、なんとか辿り着きましたね……」

「そうだな、まわりに気を張って歩くというのは、意外と疲れるんだな」


 二人は苦笑交じりに言葉を交わし

八郎は太郎に向き直り更に言葉を続ける。


「太郎殿のおかげで迷わずに済んだ、ありがとう!」

「いえ、お互い様です。八郎殿の用事は何か聞いてませんでしたが、聞いても良いですか?」


 太郎は若干の名残惜しさを滲ませながら八郎に尋ねる。


「ん? ああ、確かにまだ言って無かった。俺の用事は、とある人物の屋敷を探すんだ、町の人に聞けば分かるって言われたんだが……」

「とある人物?」


 太郎は思わず聞き返す。

 八郎もそう来ると思っていたのか、笑顔を見せて答える。


「ああ、『猪狩(いかり) 蒼達(そうたつ)』って人なんだが……」

「猪狩蒼達!? それはまさか『侍』の!?」

「なんだ、知ってるのか? それなら案内……」

「いや、そうでは無くて! 私も、その方の屋敷へと向かっているのです!」


 太郎はそう言って、興奮した様子で懐から一通の文を取り出す。


「これが、猪狩殿から手渡された文です」


 太郎が見せた文を見た八郎は目を見開き

次第に笑顔になっていく。


「と言うことは、俺達の目的地は──」

「同じです!」

「俺の心配も、一気に解決したな!」

「はい! では、屋敷探しを始めましょう!」


 そして二人は町人に聞き込みを開始する……が

最初の一人目から、有力な話が聞けた。


「猪狩様の屋敷かい? それならお城の方へ道なりに進んで──」


 とても丁寧に教えてもらえたが、最後に町人はひと言添える。


「あのお方は、面倒見が良すぎてね……、あんたらもいずれは、ちゃあんと猪狩様に恩返しするんだぞ?」


 そこまで言うと、苦笑交じりに町人は去って行く。


「有名人……のようですね」

「そうだな、だがすぐに見つかりそうで良かった。あの説明なら俺でも迷わないな!」


 二人は案内通りに猪狩の屋敷目指して歩く。




「ここが、猪狩殿の屋敷……」

「ここがって言うより、だいぶ前から塀は見えてたけどな」


 猪狩邸の門の前に辿り着いた二人は

その広さに、ただただ圧倒されていた。


「とんでもない金持ちなのか? 猪狩殿は……」

「私が出会ったときは、そうは見えませんでしたが」

「俺の時もそうだ、薄汚れてる印象だった」


 二人は失礼極まりない事を

言われている当人の屋敷の前で話していると

背後から声がかけられる。


「あなた達、この屋敷に御用かしら? それにしては、悪口ばかりが聞こえた気がするけど?」


 二人は息が止まる思いだった。

 慌てて振り返り、平謝りをする。


「ももっ申し訳ございません!」

「すすすすすみませんっ!」


「ふふっ、ははは、あははははは! 冗談よ、冗談! 蒼達なんか、小汚い親父(・・・・・)で間違いないんだから! もう、頭をおあげなさい」


 太郎と八郎が、おそるおそる顔を上げると

艶のある長い髪をもった女性が笑顔を浮かべて

二人を見ていた。


「わたしの名前は『コマ』あなた達、ここに用事なんでしょう?」


 女性はコマと名乗り、二人に問う。


「私は太郎と申します。猪狩殿に誘われて都へ参りました」

「俺は八郎と言います。同じく猪狩殿の誘いでここに来ました。文を見せれば、分かると言われています」


 太郎と八郎は居住まいを直して名乗り、猪狩に預かった

手紙をコマに渡す。

 コマは手紙を受けとり、中に目を通す。


「ふむふむ、なる程。あなた達は『疾風(はやて)』と同じって事ね」


「疾風……?」


 コマは軽く頷き、二人に言う。


「あなた達と同じ、蒼達がどこからともなく勧誘してきて屋敷に住まわせているの。ささ、お上がりなさいな」


 コマは門の横に付けられた扉から二人を誘導し

広い庭を通り抜け、屋敷へと招き入れる。


「疾風ぇー! 疾風は居るぅー?」


 コマは屋敷に入ると、大きな声で疾風を呼ぶ。

 すると、まるで瞬間移動したかのように

コマ達の前に、小柄な青年が姿を現す。


「呼びやしたか! 姐さん!」

「あのね、姐さんはやめてって言ってるわよね?」

「じゃが! ……いえ、何でもありません」


 コマの鋭い眼光に身を縮めて、反論を諦める。

 そんな様子を満足げに眺めるコマ。


「さ、疾風。今日からあなたのお仲間になる二人に、ご挨拶」

「あっちが先に名乗るのが……『(ませ) 疾風(はやて)』じゃ。……よろしゅう」


 コマに威圧されながら、しぶしぶ挨拶する疾風をみて

太郎と八郎は姿勢をただして、それに応える。


「本来ならば、私達が先に挨拶するべきのところを、申し訳ございません。私は『太郎』と申す者です、よろしくお願いします」

「同じく、失礼した。俺は『犬養 八郎』と申す、よろしく頼む」


 八郎の自己紹介を聞き、疾風は顔をしかめる。


「なんじゃあ? 太郎はまだ良いが、わん公(・・・)はろくに挨拶も出来んのか?」


「わん公……」


 太郎は思わず絶句し、八郎はこめかみに血管を浮かべ

八郎を睨み、言う。


「なんだと? 別に俺とお前は主と奉公人(・・・・・)じゃあない。だったら必要以上に畏まる必要はないだろう?」

「わしの方が先に、ここにおったんじゃ! 先輩の顔をたてるのが筋じゃろうが!」

「どれ程先に居るのかは知らんが、歳もそう離れていないようだし、何よりこの屋敷で世話になってる者同士、立場は変わらぬだろう。先輩風なぞ、吹かそうとする神経が分からん!」

「……ちょ、ちょっと二人とも!」


 太郎が何やら慌てた様子で声をかけるが

時既に遅し。


「やぁかましい!!!! ほう、ほう、ほう、ほう……あんた達、どこかに行くあてでも出来たのかい? だったら、とっとと荷物をまとめて出て行くと良いわ。ね、太郎?」


 一喝のあと、低くドスの利いた声で二人に言い放つ

コマを見て、太郎は背筋が寒くなるのを感じ

八郎と疾風は、仲良く背中に棒を入れたような直立から

勢いよく頭をさげて、声を合わせる。


「申し訳ありませんでした!!!!」


「分かれば良し!」


 コマが二人の肩を軽く叩き

思わずびくっと体を震わせる様子を見て

愉快そうに笑いながら、皆を厨に案内する。




「あなた達、お腹空いているでしょう? 今からわたしが、何か作ってあげるわ。待ってて」


 コマは袖をまくり、ひとり厨房での作業に入る。


 コマの様子を横目に八郎は小声で話す。


「コマ殿はいったい何者だ? 思わず謝ってしまった」

「わしの見立てじゃあ、姐さんは蒼達様より権力(ちから)を持っちょる」

「コマ様は、猪狩殿の奥方なのですか?」


 雰囲気的に小声で疾風に聞いた太郎。


「ばっ──!!」


 疾風が何かを言おうとした瞬間に、厨房の方から

ダンっ!! という音が響く。


 突き立った包丁の陰から、幽鬼のような表情のコマが

ゆらりと皆に(にじ)り寄る。


 コマは太郎の横に腰を下ろし、ぶつぶつと何やら話し始める。 


 太郎は何が何だか分からず

八郎と疾風に助けを求めるが

二人は青い顔で、太郎から距離をとる。


 その間もコマは語り続け、声量も徐々に大きくなる。


「確かに昔は──だけどっ! ──なのにっ! ……まったく冗っ談じゃない!!」


 コマは勢いよく立ち上がり、太郎の襟首を掴み

座った目で睨め付ける。


「だぁれが、あんな朴念仁の妻だってぇ? ふざけるのも大概におしっ!!」

「……す、すみません」


「……分かれば良いのよ」


 コマは小さな声で言うが、どこか危なっかしい足どりと

ふふ……ふと、不穏な笑い声をあげながら

厨房に戻っていく。


 放心状態の太郎に疾風は近づき、ため息混じりに伝える。


「もう分かっちょるじゃろうが、あれは『禁句』じゃ。今回は運良く何も壊れんかったが、ただじゃ済まないとおぼえとけ」


 太郎に加えて、何故か八郎もこくこくと頷いた。




 そのあと、コマの手料理が完成し

太郎達はそれに舌鼓を打ちながら

猪狩邸での規律や仕事、稽古についての説明を受ける。


 受け答えに、一瞬たりとも気が抜けなかったのは

言うまでも無い……。

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