道連れ
あれから太郎と八郎は集合場所を決め
銘々、山菜取りに励む事になった。
太郎は松吉や安次に教えられた食べられる山菜を
次々に収穫し、木の蔓を簡単に編んだ物に布を張った
簡易的な籠に入れていく。
やがて太郎の籠は一杯になり、入れ物が一杯になり次第
落ち合う予定の場所へ向かう。
「八郎殿は、もう来ているだろうか?」
そう呟いた後、太郎は深く呼吸をして
懐かしい森の香りを楽しみながら歩を進める。
やがて太郎が約束の場所へ行くと八郎は既に
満杯の籠を脇に置いて休憩していた。
「お、太郎殿! もう集めて来たのか? 流石だな!」
「そういう八郎殿だって、もう満杯ではないですか」
言われた八郎は、自身の籠を見やり、あぁと頷いたあと
ばつが悪そうな表情で太郎に言う。
「これは、適当に集めただけだよ。よくよく考えてみたら俺、食える山菜とそうじゃない物を見分けられなかったなって、別れてから気付いた」
鼻をかきながらへへっと笑う八郎に
太郎も少しの呆れと微笑ましさを感じ、まあ空よりは良いかと
八郎に提案する。
「分かりました、八郎殿の籠の中も私が選別しましょう」
「本当か! 助かる!」
ころころと表情の変わる八郎をみて、太郎は本当に
犬なのではないかとすら思えてくる。
手際よく山菜を選り分けていった結果
八郎の籠は半分ほどになってしまった。
「面目ない……」
八郎は眉尻を下げ詫びるが、直後にぐうという盛大な腹の虫を鳴らす。
「ぷっ!」
どちらともなく噴き出し、二人で笑い合った。
それから二人は、山菜を調理して食べるのだが
そこからの八郎の活躍は目覚ましかった
手持ちの料理道具や調味料を駆使して
手際よくご馳走と言って差し障りない物を作り上げる。
「さあ、食べようか!」
「それだけ出来て、食べられる山菜が分からないとは一体……」
「ははは、俺の名前は八郎だろ? 兄弟は多いし料理当番なんかも、しょっちゅうやらされてたが、材料調達は何故かやらせて貰えなかったんだ」
太郎は何やら察して、愛想笑いと共に頷いた。
「いただきます!」
二人は食事を摂りながらたわいもない話で親睦を深める。
「ところで太郎殿は山の育ちだと言っていたが、この近くの山なのか?」
「いや、ここから何日も歩いた場所にある山です。故あって『都』へ向かう旅の途中なのです」
すると八郎は目を輝かせ、太郎の両肩に手を置いて興奮気味に言う。
「本当か! そりゃあ良かった! 俺も都へ向かう最中なのだが、如何せん土地勘がなく、こうして食うに困る状況だったんだ。良かったら、一緒に行かんか!?」
太郎は、浪人との諍い巻き込んでしまうかもしれないと思い
八郎に告げる。
「わたしは、故あって人に追われているのです。巻き込んでしまうのは忍びないので……」
「なんだ? 犯罪でもやったのか?」
「いや、話の通じる怪異を庇ったのを、咎められ追われているのです。結局、その場から逃げられたのも、その怪異が身を挺して私を庇ってくれたからなのです」
八郎は見る見るうちにシュンとして太郎に同情する。
「そうか、それは大変だったな……」
「『怪異』を庇ったのですよ? そこは気にならないのですか!?」
「ああ、だって命を賭して庇ってくれるなんて、相手が何であれ、よほどのことが無ければ有り得ん。その怪異は確かに太郎殿を信頼し、生き延びて欲しいと思ったんだろう」
八郎の言葉に、再び涙が込み上げてくるのを
堪えるので精一杯だった太郎に、八郎は言葉を続ける。
「悪人は他人から、それ程の信頼を勝ち得ることは出来ん。だから太郎殿も善人なんだろう。だから俺も、善人の太郎殿を信じる! 相手が誰なのかは知らないが、こう見えて腕っ節には自身があるんだ! だから、一緒に行こう! でないと……」
「でないと?」
八郎はにっと笑い言い放つ。
「俺が飢え死んでしまう!」
太郎も、ふっと笑い八郎に告げる。
「もう、都は目と鼻の先なのだし、それは無いと思うのだけど?」
「そうか、確かに!」
二人は笑い合って、固い握手をする。
「八郎殿、迷惑をかけるかも知れないが、宜しくお願いします」
「こちらこそ、都まで俺が迷わないように導いてくれよ!」
そうして二人は森を出る。
「街道からは外れてしまったけれど、方角は大体分かっている。大丈夫」
「そうか、街道を進めば良かったのか!」
八郎はじゃあ、どうやって来たんだと聞きたくなる台詞を吐く。
「……ともかく、進みましょう」
「そうだな!」
一緒に歩いてみると、八郎はあっちこっちを見ながら進み
時には興味を引く物に駆け寄ったりと、とにかく忙しない。
「あれで体力が保つのだろうか?」
「え? 何か言ったかい?」
そして耳も良い。
「あ、いえ。それ程動き回って体力が保つのかと思い」
八郎は先行していた足を止め、太郎に
屈託のない笑顔を見せる。
「俺、体力は誰にも負けない自身があるぜ! ──おっと、この辺りはもしかして」
「知っているのですか?」
八郎は得意げに肯き、語り始める。
「この十字路一帯は、『鬼』が出ることで有名で『大禍辻』って呼ばれているんだ」
「鬼……ですか」
「ああ。と言っても、俺が見たわけじゃ無いし、まだ日の位置も高い、出会すことは無いだろう。太郎殿は本物の鬼、見たことがあるのか?」
「いえ、妖怪変化が鬼に化けていたことはありましたが、本物の鬼は、話には聞いた事がある、というくらいですね」
「妖怪変化の鬼? 何か凄そうな武勇伝だな、良ければ聞かせてくれないか?」
太郎は少し悩んだが、八郎に聞かせてやることにした。
「そんな事があったのか……、大変な旅だったなぁ」
八郎は頻りにうんうんと頷いて
涙ぐみながらも、太郎を労うような言葉をかける。
結局八郎は、妖怪変化の鬼だけで無く
山姥と成り果てたおトラや
クルミ達との一件、
そしてコタロウの話の最中には
目頭を押さえながらも、話の続きを促す程に熱中し
結局太郎は、今回の旅の殆どを聞かせる羽目になった。
太郎は自分で振り返っても、大変な旅だったと思い頷く。
「良し! 決めた! 俺は、太郎殿と共に生きていく! 絶対に裏切らん!」
感極まった八郎が、突拍子も無い事を言い始め
流石の太郎も慌てる。
「き、気持ちは有難いが、都で何か用事があるのでは!?」
すると八郎はぴたりと動きを止め、太郎を見る。
「確かに! 忘れていた! どうした物か……説明すればなんとかなるか? いや、しかし……」
半分独り言のようなかたちで何やら言っている八郎をみて
太郎は、穏やかな声音で八郎に提案する。
「とりあえず、都に着いてから考えましょう。ほら、街道が見えてきました」
「そうだな、そうしよう。それにしても、その浪人の口ぶりは都の者のようだし、追っ手をかけられてなければ良いな」
「たしかに、ここからは目立たぬように進みましょう」
二人は頷きあって、都まで歩いて行くのであった。




