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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
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別れと出会い

 コタロウの再構築が終わった後

その場に佇んでいたのは、すらりと伸びた手足

赤みがかった金色とでも言えそうな体毛

その顔は穏やかで、先程までの悪がき(・・・・)っぽさは消えている。


 その変容に怪異すら動きをとめてコタロウを見ている。


「鴉昏とは違い、禍々しさは無いが……」


 コタロウの動き次第では、敵が増えたと考えねばならないと

太郎はコタロウの動向を窺う。


 そんな太郎を余所にコタロウはそっと微笑んで

太郎と母猿の方へ歩み寄る。


「母さん、もうやめてくれよ? 大好きだった母さんが、本当に居なくなってしまった様で、おいら哀しいよ。だから……おいらと一緒にいこう(・・・)?」


 しかし母猿の怪異にその声が届くことは無い。

 コタロウの姿を見ても、我が子と分からなかったのだから

それもそのはずではあるが。


「そうか……、残念だよ」


コタロウは寧ろゆるりとした動作で怪異の頭を刎ね

心臓部分を抉る。

 静かに崩れ落ちる怪異を腕に抱きコタロウは顔をうずめる。


「母さん、御免な……」


 その様子を太郎は息を呑みながら眺めていた。


 そこへ一人の男が割って入る。

 村の衆が怪異撃退の為の、助けを求める声に応じた

武の者である。


「そこが若人! すぐにその(・・)怪異から離れろ! お主には手に余る!」


 母猿の怪異の命は尽きているのが、見た目にも分かる。

 その上で、男は怪異(・・)から離れろと言う。


 太郎は慌てて男に説明する。


「違うんです! 彼はちゃんと意識もあって!」


 そこまで言いかけたとき、太郎の肩に手がかかる。


「太郎、おいら……疲れたよ」


 コタロウは太郎の背中にもたれかかり脱力する。

 それを見た男は太郎が襲われると判断したのか腰に差した刀を

抜き放ち、コタロウへと向かって走り出す。


 太郎の背中で、元の猿の姿に戻ったコタロウを背負い

男から庇うように立ち回り、諦めずに説明をする。


「コタロウは、確かに普通の猿では無くなったのかもしれません! しかし、彼は私と出会ってから一度たりとも人間を襲おうとしなかった! それに私は彼と共に一晩中母猿捜しをしていましたが、その際も猿としての振る舞い以外は見せることは無かった!」


 それでも男は油断を見せず構えを崩さず問いかえす。


「見せなかっただけ、とは考えられぬか? 信用させて、最後に襲い掛かってくるという話も山ほど聞いたことがある。それに先程の力、おぬしも見たであろう? そこに転がっている怪異を赤子の手をひねるかの如く殺してみせた。今は姿が戻った様だが、いつあの姿に戻るか分かった物では無い! 今が好機とみて処理しなければ取り返しのつかぬ事になる」


 男は太郎へ手を伸ばし、強い口調で言う。


「若人、その猿を渡してくれぬか?」




 ──そして今に至る。


 目を覚ましたコタロウは自ら男の方へ向かおうとするが

どうしても認められない太郎は

コタロウを抱きしめ、男へ渡さないよう留める。


「駄目だ! コタロウは何も悪いことをしていない! どうしてもコタロウを殺すというならば、私が相手だ!」


 太郎は男に相対峙し、睨み付ける。


「怪異を庇うと言うのであれば、致し方ない。若人ごと斬り捨てるまで!」


 男は言葉通り、太郎諸共コタロウを斬り伏せんとする

鋭い斬撃を見せる。


 太郎は辛うじて、初撃を躱すが次もそう上手くいくとは

思えないほどの力量の差を感じていた。


「しかし! ここで私が諦めれば、コタロウは死ぬ! 守り抜かなければならない!」


 太郎が裂帛(れっぱく)の気合いを入れたとき

太郎の体に異変が起きる。

 瞳の色が金色に輝き、髪は風も無いのに微かになびいている。


 それを見た男は、距離を取り

ほんの僅かな時間だが、驚愕から動きを止める。


「あれは『神気』!? 蒼達(そうたつ)の他にも使い手が居たというのか!? ならば、やむを得ん」


 男は腰に携えたもう一振りの刀を抜き放つ。


 男の抜いた刀は、今までの刀とは明らかに異なる雰囲気を持ち

どちらかと言えば、禍々しい気配を感じさせる物だった。

 太郎は本能的にそれを使われては(まず)いと感じ

刀を奪う、もしくは使えない状況にするため動く。


「させない!」


「よくよく見れば、蒼達程の使い手では無い様だが。人間の敵になるというならば、ここで死んで貰うほかない! 目覚めろ! 『呪縛刀 禍怨(かえん)』!」


 男の掛け声と共に、熱波の様な物が迸り

太郎の頬にちりちりとした感覚を覚えさせる。

 形振(なりふ)り構っていられない太郎は

持てる力を速度に注ぎ、男に迫り刀を奪い取りにいく──が。


「やはり使いこなしているとは言い難い。気の毒だがここで終わりだ!」


 太郎の行く手に白刃が迫り、避けきれないことを悟る。


「最早これまでか」


 悔しさを滲ませる太郎の背中から

コタロウが躍り出て、男を側面から突き飛ばす。

 コタロウは先程の形態とは違う

普通の(・・・)怪異の姿になっていた。


「太郎、少しの間だったけど、二人で過ごした時間は楽しかった。だから、太郎にはこんな所で死んで欲しくないよ。おいらは、母ちゃんが、あんな姿になっているのを見た時に決めてたんだ。一緒に死んでやろう(・・・・・・)って。自分だっていつ母ちゃんみたいになるか、分からないんだ。きっとそれが一番良いんだ!」


 コタロウがそこまで言った所で、男の刃に両断される。


「うあああぁぁぁ!! コタロウ!!」

「太郎、逃げて……『生き延びた者が勝者』だよ……」


 コタロウが命を振り絞って掛けた言葉に

太郎ははっとする。


「その言葉は、コタロウと母猿の……」


 太郎とコタロウは、母猿捜しの際に

色々な話をしていた。

 なかでも、母猿の教えとしてコタロウが何度も聞かされた言葉

『生き延びた者が勝者』

 群れから追い出された母猿が自分に

そしてコタロウに言い聞かせ続けた言葉。


 太郎は激しく葛藤したが、コタロウの遺志を叶える為に

男に背を向け走り出す。


「む、逃げるか! 捕らえて洗い浚いはかせねば、脅威となるやもしれん」


 男が追いかけてくる気配を感じながらも

太郎は懸命に走る。




 息があがり、脚がもつれても走り続けて

逃げ込んだのは森の中、太郎は息を潜め

男の気配を慎重に探る。


「振り切った様だが、コタロウ……私のせいで」


 太郎はぐっと歯を食いしばり、涙を堪える

そして深い深い深呼吸をして自分を落ち着かせる。


 あれほど怖れていた森の中だというのに

太郎はどこか、故郷に帰ったような安らぎを感じていた。


「あれほど恐ろしいと感じていたのに、今は寧ろ縋りたいと思う程に安心する」


 そう呟くと、太郎は急激な眠気が襲ってくる。


 ──そして太郎は夢を見る。


 松吉とおハツが現れて、太郎に語りかける。


「太郎、焦らなくても良い。一歩ずつ、確かに歩みを進めれば、望みは叶う」

「そうですよ。太郎はまだ幼いのだから、全て一人で背負う必要なんてないのよ」


 そして次に吾郎が現れる。


「太郎、お前の力は確かな物だ! だが、命を懸けた戦いに於いての甘さが目立つ。それを身につけるために旅立ったんだろう?」


 そして高亥が太郎に語りかける。


「太郎よ、お前は今回の旅で守る為には、戦う力や強固な意思が必要な事を学んだじゃろう。あの人間の元で学び、それらを身につければ、今はまだ手の届かない者達も助けられるやもしれん。わしは何時でも見守っている」


 そしてハチが太郎に寄ってくる。


「太郎のおかげで、おユウ母さんを助けられた。感謝しても仕切れないよ! 僕ひとりじゃあ、きっとみんなやられてた。だから自信を持って!」


 そしてクルミは太郎に言う。


「逃げたのを恥ずかしく思ってるのかい? それはいくら何でも自信過剰ってものさ! このアタイでさえ、山奥に隠れ住まなくちゃならないんだからね? 世の中には上には上がいるって言うものさ、だから恥ずかしい何て思っている暇があるなら、一歩でも進みな」


 そして死別したばかりのコタロウが太郎に手を差し伸べる。


「さあ太郎、そろそろ進もう。今はまだ無理でも、生き延びて、力をつけて、おいらのような奴を減らしてくれれば、それで良いんだ。焦らずに進もう」


 太郎はコタロウの手を取り立ち上がる。

 前に進まなければならないと。


 夢は太郎の妄想が見せた物かも知れないが

それでも、みんなの言葉は太郎の背中を押す。

 太郎は決意を新たに一歩足を踏み出す。




(あん)ちゃん! おい、しっかりしろ!」


 太郎は何者かに頬を叩かれ目覚める。


「う、ん……君は?」


 目をこすりこすり、見た相手はそれほど良い身なりとは言えず

一見山賊かと思うほど薄汚れていたが

はつらつとした雰囲気と、にっこり笑う顔が

害意を持った者では無いと感じさせる。


「俺か? 俺は『犬養いぬかい 八郎はちろう』って者だ。腹が減ったから山菜でも採ろうかと思ったら、(あん)ちゃんが倒れてるもんだから、びっくりしたよ!」


 太郎は『犬』で『はち』な男に

つい親近感がわくのを覚える。


「お騒がせしました、私は太郎と言う者です。お詫びといってはなんですが、『山菜取り』手伝いましょう。山の育ちなので役に立てると思います」

「本当かい? それは頼もしい!」


 それから二人は、共に山菜取りをした。

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