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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
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猿の覚醒

「お前、人間なのにおいらの言葉が分かるんだな」


 太郎は声のする方へ勢いよく振り返る。


「やっぱり居た! 君を捜していたんだ」


 猿はあきれ顔でため息をつく。


「それは分かってる、ずっとおいらの事を呼んでただろう。そんな事より、どうしておいらの居る場所が分かった? 村の連中には見つかったことが無いのに」

「私には『神気』という物が感じられるらしいのですが、あなたからはその神気の気配のような物が感じられるのです」


 猿は眉間にしわを寄せて、太郎の言葉を復唱する。


「感じられるらしいって、他人事かよ? それにしても神気か……おいらには良く判らないが?」

「はい、私にも良く分かりません。何せ昨晩目覚めた能力ですから」


 猿は思わずずっこけそうになる。


「昨晩!? そんな不確かな物を頼りにおいらを捜してたっていうのか……? お前、どうかしてるよ」

「その能力に引っかかったので、気になったというのもありますし……」


 猿のいうことにも一理あるので、太郎はうまく切り返せない。


「まあ、良いや。で、おいらに何の用だい? そんな必死に捜してたんだ、何かあるんだろう?」


 太郎は考え込む、放ってはおけないとは思ったが

何をする、何をすべきということを完全に失念していた。


「あ、あの……その……何か困っていませんか?」


 猿は盛大にこけてみせる。


「何だそりゃー! (あん)ちゃん、何事も『目的』って大事だぜ?」

「はい、肝に銘じておきます……そういえば!」

「なにか見つかったかい?」

「はい、あなた達は度々、村に出没しているようですが。村の人の話では何も盗られていない、とのことですけど、何故でしょうか?」


 猿は不思議そうな顔で太郎に聞く。


あなた達(・・・・)? おいらはひとりだぜ? 度々、村に行ってるのは確かだが……」

「村の人達は、徐々に大きな猿を寄越すと言っていたのですが」


 猿は合点が行ったという表情を見せたあと、大笑いし始める。


「あっはっはっはっ! そりゃあ、全部おいらだ! 徐々に大きな猿を寄越す? 何だそりゃあ、あっはっはっ!」


 大笑いをする猿を余所に太郎は困った顔になる。


「では何故、そんな勘違いを……」


 猿は込み上げる笑いを堪えながら太郎へと告げる。


「そりゃあ、おいらの成長の仕方が異常だからだろうよ」

「成長の仕方が異常……?」

「ああ、おいらはこう見えて、生まれてから一年と生きていない」


 太郎は電撃が体をはしるような感覚を覚える。


「成長がはやい……」


 太郎が驚愕しているのを見て猿は、まあそういう反応になるわなと

太郎の肩をぽんぽんと叩く。

 しかし、太郎は猿の手を両手で放さないように力強く掴み

猿の目を見る。


「わたっ、私も! 私も同じく異常な成長をしています! 私の年齢では、普通『童』だと言います!」


 太郎の圧に気圧されて、猿は若干引き気味に頷く。


「あ、あぁ……そうか。き、奇遇だな?」

「はい! 他人とは思えません、これは尚更何か力になりたいっ!」

「分かった、分かったから!」


 猿は興奮する太郎をなだめたあと難しい顔で腕組みをして言う。


「ただなぁ、おいらとお前とでは、多分事情が違うぞ? だって、おいらは一度死んでいるから」


 運命の出会いだと息巻いていた太郎が、その一言で動きを止める。


「おいらと母ちゃんは村の連中に(はりつけ)にされた挙げ句、燃やされたんだ。まあ、畑を荒らしまくったから仕方ないとも思うけどな」

「そんな……」

「でも、気付いたら今居るこの辺りで目が覚めたんだ。けど母ちゃんは側に居なかった、おいらが助かっているんだ、母ちゃんだってきっと生きてる。だから見つけるために、あの村やこの周辺を捜し続けてるんだ」


「分かりました、あなたの母上捜し、私も手伝いましょう」


 太郎は努めて明るい表情で、猿の手を取り協力を申し出る。


「あなたと同じように神気があれば、分かるかもしれませんし!」


 猿は嬉しいような恥ずかしいような

不思議な気持ちになったが、あえて憎まれ口を叩く。


「考えなしに飛び出してくる奴に、手伝いが務まるのかね? それにもう夜だ、人は寝る時間じゃ無いのか?」

「ぐっ! 確かに。いやしかし、そんな身の上を聞いたら引き下がれません!」

「はいはい、好きにしなよ」


 ここで太郎はお互いの名前を知らないことに気付く。


「私は太郎と申します。あなたのお名前を伺っても良いですか?」

「おいらの名前は『コタロウ』だ。でもまあ、好きに呼んだら良いよ」

「ふふふ、太郎とコタロウなんて、兄弟の様ですね」

「ばっ、馬鹿な事言うなよ!」


 こうして太郎とコタロウは、母猿の捜索を始めた。




 ──そして明け方頃。


「そう簡単には見つからないか……」


 太郎が呟いた時、不意にぐうと太郎の腹が鳴る。


「ははは、流石にお腹が空いた。母上の黍団子を食べよう。コタロウも一緒に食べよう」

「何かくれるのか?」


 すっかり打ち解けたコタロウが寄ってくる。


「はい、私の母上が持たせてくれた『黍団子』です。もう残り少ないのですが、一緒に食べたほうが美味しいから」

「じゃあ、少し貰おうかな?」

「はい、どうぞ」


 ふたりは残りの黍団子を分け合って食べた。


「おいし、かったな……。母ちゃんとも一緒に食べたかった」


 あまりに哀しそうなコタロウに

気休めにしかならないとしても、太郎は言葉をかける。


「黍団子はもうありませんが、母上を見つけ出して、また一緒に食事をすれば良いのです。今度は、他人の者を盗りすぎないことをお勧めします」


「たしかに。ありがとな、太郎」


 コタロウも太郎の慰めを受けて、心を入れ直す。


 そんな時、村の方から悲鳴が上がる。


「何だろう!? まだ人々は寝ていてもおかしくない時間なのに!」

「なんか嫌な予感がする、太郎! 村へ行こう!」

「はい!」


 太郎とコタロウが村に着いたときそこには

一体の怪異が一人の村人の首を掴み吊り上げ

喚き散らしていた。


「カエセ! アノコハドコダ! オマエノカオハオボエテイルゾ!」


 徐々に力が入っていき

そのうちにその村人は手足をだらりと下げ絶命する。

 その様子を見た他の村人達は阿鼻叫喚といった様子で

逃げ惑い、捕まった者から殺されていく。


「何だ、この状況は……」

「嘘だろ……」


事態に困惑する太郎と、絶望の表情を浮かべるコタロウ。


「母ちゃん……」

「え?」

「間違いない、あれはおいらの母ちゃんだ……」

「そんな!」


 太郎の声を聞き取ったのか、怪異がふたりの方を見る。

怒りで赤く染まったその双眸で、太郎を睨む。


「キサマガウチノコヲ!!」

「太郎逃げろ!」


 コタロウが言うも、怪異の瞬発力の方が強く

あっという間に太郎は掴まれてしまう。

 気を抜けば先程の村人と同じ末路なのは明白なので

太郎は自らを掴む怪異の手首を持てる限りの力で握り返す。


「ギャアァァ!!」


 あまりの痛みに母猿の怪異は、牙を剥きだし威嚇しつつも

太郎から距離を取る。


「ウチノコヲカエセ!」


 再び真っ直ぐに向かって来る怪異に迎え撃つ姿勢を取る太郎。


「太郎、駄目だ!! そいつは『幽駆(かすがけ)』だ!」


 太郎は咄嗟に、コタロウと出会った時の

あやしい術と言われていた技を思い出す。


「あれか! でもどうやったら破れる!」


 太郎が悩んだ隙に背後を取られ、噛み付かれようとしたその時

コタロウが怪異の前に躍り出て制止しようと試みる。


「母ちゃん! もうやめてくれ! 太郎は関係ない!」

「アノコヲカエセ!」


 怪異はコタロウを弾き飛ばし太郎に襲いかかる。


 母猿は、己の身も顧みずに捜し続けた我が子すら

判別できないほどに理性を失っていた。

 太郎は襲い来る牙を、なんとか押しとどめ、コタロウの身を案じる。


「コタロウ! 大丈夫か!?」

「ぐあぁぁぁ! 熱い! 体が熱い!」


 弾き飛ばされたコタロウは、その痛みよりも

体の内からくる、謎の熱に身を焼かれて身もだえる。

 やがて大きく脈打つように体を反らせると

体が再構築を始める。


鴉昏の時(・・・・)と同じ!?」


 太郎はコタロウが鴉昏の様になってしまわぬか

不安に思う気持ちが、胸を支配するのを感じた。

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