表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
45/67

神気の発現

 鴉昏は駆け出し、まずは挨拶とばかりに

翼を広げ太郎へと叩きつける。


「ぐっ! なんという威力……翼で打っただけというのに、猪の当たりの様だ」


 太郎はその威力に驚愕の表情を見せ

鴉昏は、それを見て満足げににやりと笑う。


「ふむ、問題なく打撃に使えそうだ。であれば──」


 鴉昏の猛攻が始まる、両の翼を巧みに使い

右から、左からと次々に打ちつけ

徐々に足技も絡めていく。


「受けるので手一杯で、攻めることが出来ない!」

「あれだけ派手に動かれると、隙も何もありゃしない!!」


 狭い通路で回避する事も出来ず、苦戦を余儀なくされた太郎だが

角力の経験から、なんとか打撃を受け流すことには成功していた。

 そしてそれと同時に、太郎が遮蔽物となりクルミもまた

前に出ることが出来ない。


「あぁ、愉しいですねえ! この、力の増した私の攻撃を、こうも受け止める強者がいるとは! ならば、これならどうです!」


 鴉昏は高揚した口調で、鋭い鉤爪を太郎の首元目掛けて繰り出す。


「これは受けられないっ!」


 前蹴り気味に繰り出された鉤爪を

太郎は体を(はす)に捩り、相手の外側へと一歩前へ踏み込み

蹴り出された脚の膝辺りを抱えて押し倒す体勢に入る。


「そうは、させませんよっ!」


 鴉昏は軽く羽ばたいて跳び、掴まれた足を軸に独楽のように回転し

その勢いのまま太郎の側頭部付近に蹴りを叩き込む。

 太郎は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「かはっ!」


 鴉昏は直ぐさま追撃の体勢に入るが

そこへ茶色の影が飛び出し、鴉昏の目玉を抉る。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!!! おのれっ! 残り(かす)の分際で!」


 鴉昏の注意は直ぐさまクルミへと向かう。


「アンタの言う残り滓(・・・)相手にそんなザマじゃあ、アンタは何の滓(・・・)だい?」


 クルミの挑発を受けてか、鴉昏は俯き、その動きを止める。

 いや、厳密に言えば細かく震えている様であった。


「なんだい? びびっちまったんじゃ無いだろうね?」


 クルミは少しでも太郎では無く、自分に注意が向くように

挑発を続ける。


「──まさか、まだ強化の余地があったなんて……最高じゃあないか!!」


 しかし顔を上げた鴉昏の表情には『怒り』では無く『歓喜』が

刻まれていた。


「なんだい? アンタ。狂っちまったのかい?」

狂う(・・)? それも良い! 狂喜乱舞してしまいそうな気分だ」


 鴉昏は潰れた目玉から流れ落ちる血も気にならないとばかりに

両翼を広げクルミを仕留めんと歩み出し

クルミもまた、ひるむこと無くもう一方の眼を攻撃する機会を狙う。

 そして太郎も、一瞬だけ気を失ってはいたものの

目を覚ましクルミが応戦しているのを確認した後

自らも鉈を手に虎視眈々と隙を窺う。


 そして、事態は動く。


 鴉昏がクルミを亡き者にせんと、翼を伸ばしたところへ

太郎は翼のつけ根目掛けて鉈を振るう。


「しぃっ!」

「見えて居るんですよ! 先程からずっと!」


 鴉昏は舞でも踊るように両翼を広げたまま、その場で回り

太郎とクルミを同時に薙ぎ払おうとする。

 ……が、太郎は転がるようにしてクルミが居る方へ回避し事無きを得る。


 クルミは鴉昏の潰れた眼の方へ回り込むように移動し

なるべく相手の狙いが定まらないように動き

回転する翼をくぐり抜け、鴉昏の脚に鉤爪による一撃を浴びせる。


「喰らいなっ!」


 クルミの爪が鴉昏の脚に深く刺さる……はずだった。


「だから言ったでしょう? 貴女は残り滓なんだと。もはや貴女には私を傷付けられないっ!」


 そのまま鴉昏に蹴り飛ばされ、クルミが宙を舞う。

 慌てて太郎が受け止めて無事であったが、もはや戦闘には

参加させられない。


「すまない……ね、太郎。ウチにもっと力があれば……」


 太郎は静かに首を振り、クルミをそっと雛のそばへ降ろす。

 再び鴉昏へと向き直り、太郎は闘志を燃やす。


「いえ、私の方こそ消極的過ぎて攻め手を欠いていました。すみません」


 鴉昏は先程同様、足を止め肩を震わせ始める。


「来た来た来た来た来たぁ!! ごほっ!」


 突然何かに弾かれたように、体を仰け反らせ

堪らずにと言った様子で、溜まっていた肺の息を吐き出す。


 その瞬間、鴉昏の体に変化が起きる。


 翼のつけ根辺りから骨が突き出し、それを追いかけるように

血をまき散らしながら肉が盛り上がってくる。

 あまりの光景に、太郎達は思わず足を止め、息を呑む。


「何が、起きているんだ……」


 そうこうしている内にも鴉昏の体の再構成は進み

両翼のつけ根辺りには、人の物と変わらぬ腕が生えていた。


「あは、あハッ、あひゃヒャヒャひゃひゃ!!」


 鴉昏は荒い呼吸を落ち着けようと、深呼吸を試みるが

興奮醒めやらぬ様子で、笑みが漏れる。

 どちらかと言えば『理知的』とも言える雰囲気があった鴉昏だが

今の彼の双眸には狂気が浮かび、先程とは打って変わって

怪異(・・)である事実をありありと見せつけてくる。


「──行クゾッ!!」


 鴉昏は先程よりも更に速度を上げ、太郎に迫る。


「私が退くわけにはいかない! 必ず守り通す!」


 太郎はむしろ迎え撃つ形で、鉈を手に斬りかかる。


 しかし、鴉昏は翼を体の前に展開し斬撃を弾き、身を守る。

 そして翼を戻す瞬間に入れ替わるようにして拳を突き出し

太郎の腹部を殴りつける。


 太郎からすれば、何の予備動作も無い拳打を受けたような

錯覚を覚える物で、守りを固める暇は無かった。


「不味……い!」


崩れ落ちそうになる太郎の体が不意に止まる。

殴打をした腕とは別の腕で太郎の首元を掴み吊し上げたのだ。


「シぃネっ!!」


 そこからは、両翼と拳による激しい乱打が始める。


「太郎がっ! 太郎が死んじまうよ!! クソッ、動けウチの身体!!」


 クルミは必死に身体を動かそうともがくが

全身の痛みと、目の前で繰り広げられている凄惨な光景から来る

『恐怖』から、ぴくりとも動けない。


「終ワリダ!」


 鴉昏は太郎を地面に落とし、その首元目掛け鉤爪を繰り出す。


 ──が、太郎がその足首を掴み

振り回すようにして鴉昏を壁へと叩きつける。


「太郎! 生きていたのかい! ……?」


 クルミは途中まで言いかけて、太郎の異変に気付く。


「白目を剥いている!? まさか、意識が無いのかい!?」


 確かに太郎は完全に意識を失っていたが

その動きはどんどん速くなり、そして獣のような獰猛さで

鴉昏を付け狙う。


「キサマはイッタイ何者ダ!」


 あまりの豹変ぶりに鴉昏を持ってしても動揺を隠せない

それもそのはず、今や完全に太郎は鴉昏を圧倒している。


「ホッホッホ、ようやく『神気』が発現したか」


 クルミは突如として現れた老人に眼を剥く。


「アンタ一体何処から!? いや、そんな事はどうでも良い! 太郎を、太郎を助けてやってくれ! 体中血塗れで、あんなに動いたら死んじまうよ!」


 クルミは相手が誰であろうと関係なく、わらをも掴む気持ちで

老人に縋る。


「ホッホ、そうじゃの……じゃが、直に終わる。いや、もう終わってると言っても良い。ほれ雉子、見てみろ」


 老人が指差す方を見ると、太郎が膝をついたまま停止している。


「そん……な……」

「ホッホッホ、何を勘違いしておる。怪異(・・)の方を見ろと言うに」


 クルミは老人に言われ、改めて鴉昏に目をやる。

 するとそこには、太郎に鉈で首を刎ねられ

灰になっていく鴉昏の姿があった。


「ホッホッホ、まあ首を刎ねずとも時間の問題であったがな。怪異風情が『魂魄変転(こんぱくへんてん)』するならば、力に溺れてはならん。その力に魅入られてしまった瞬間から、神気は怪異の魂と魄を蝕んでおった」


「???」


「ホッホッホ、まあ獣には難しすぎたかの? とは言え、太郎がこのまま死んでしまっても困る。ホレ、そこが雉子、機を見て太郎にこれを飲ませてやれ」


 そう言って老人はクルミに小瓶を渡し

背を向けて歩き出す。


「……神気が出たのは良いが、あれではまだ──にならん、猪狩に稽古──ばなんとかなるか? まったくあの──は余計なことを……そうじゃ」


 思い出したように老人が振り返り、クルミと雛に釘を刺す。


「くれぐれもワシが来たこと、太郎には話してくれるなよ?」


 クルミはどこか鴉昏よりも(・・・・・)恐ろしい(・・・・)気配を感じ

口をつぐんで頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ