首領として
桃仙とシキョウら四鬼は、速やかに話をまとめ、
さっそく、仙界への門となる社を建てるべく
場所の選定から、建築まで一気にこなした。
荘厳さを微塵も感じさせない作りであったが。
「こんなオンボロで良いのかよ?」
「ホッホッホ、使えれば、何でも構わんよ」
……等というやりとりを経て、無事に社が完成し
桃仙がシキョウを伴い、仙界へと向かう。
残りの鬼は、事の成り行きを、皆に説明する為
他の鬼達に召集をかけ、集合を待った。
三十余人程しか居ないはずの鬼達が、
全員集まったのは、すっかり日も暮れた頃だった。
「まったく、何でこうも、集まりが悪いのかね」
「オマエだって、興味が無ければ来ない事すらあるだろ」
「ほう、言うようになったじゃ無いかグテツ……ここで、アンタとアタイ、どちらが強いかやり合ったって良いんだよ?」
「おもしれぇ!」
「止めておけ、それにシキョウが戻って来たようだ」
仙界から戻って来たシキョウは、
片手に木製の箱を抱えている、おそらく神仙桃が
中に入っているのであろう事は予測できる……が、
気になるのは、シキョウの表情が
何処か重苦しいものに見える。
それはリシンも感じたようで、シキョウに声を掛ける。
「どうしたんだい、シキョウ? しけた顔してるじゃないか。あの爺さん、法螺を吹いてたのかい?」
「いや、そうでは無い。確かに神仙桃はここにある。少し疲れただけだろう。それよりも、鬼達を集めてくれて礼を言うぞ、リシン、ウラ、グテツ」
「相も変わらず、なかなか揃わなかったけどな」
「そうか……すまんな。さて、今回の顛末を皆に伝えねば」
冗談めかして言った、グテツの言葉にさえ
いまいち反応を示さず、シキョウは聴衆の前へ歩みを進める。
リシンとグテツは、顔を見合わせて
ウラは、目を閉じ考えていた。
「皆、召集に応じてくれた事、礼を言う。我ら鬼が、その数を減らしている事は、皆も知っていると思う。儂は……いや、我ら四鬼は、その解決法に辿り着いた!」
聴衆達はどよどよと思い思いの言葉を口にし、
シキョウ以外の四鬼は
桃仙の存在を隠すような物言いに、違和感を感じていた。
「一体、どんな方法なんです?」
一人の鬼が尋ねる、他の鬼も聞きたいところだったようで、一気に場が静まる。
その言葉を待っていたように、シキョウは傍らに置いていた木箱を手にし、蓋を開く。
箱の中には、『人間の赤ん坊の頭』程の大きさはあろうかという桃が入っていた。
「この桃は『神仙桃』と言い、この桃一つで、人間の百の魂と同様の働きがあるという。つまり、この桃を喰らえば、誰であろうと子を成すことが出来る!」
その言葉に、魂を集められる見通しの無い者達から歓声が上がる。
「ただし! この桃は一年に一度しか実らず、その数も一つより増えることは無い。その上この桃は、人間の魂を嫌う性質がある、安定して手に入れるには、皆に人間狩りを自粛して貰う必要がある!」
今度は、狩りを好む者、得意な者達から不満が出る。
「人間を狩って、狩って、狩りまくれば、そんな桃なんかに頼る必要は無いですぜ!シキョウ様!」
その言葉に今度は、桃の使用に肯定的な鬼が掴みかかる。
「てめえ、何言ってやがる!皆が皆、狩りが得意な訳じゃねえんだぞ!」
「はんっ!そんなもん、てめえらが弱いからだろうが!」
「んだと!」
こうなると、彼方此方で掴み合いの喧嘩が始まり
収拾がつかなくなる。
この混乱に乗じて、ウラはシキョウの真意を確かめるために歩み寄る。
「シキョウ、良いか?」
「ウラ、か。分かっておる、何故、本当の事を伝えないか? だろう」
ウラは声には出さず、小さく頷く。
「儂は、この計画をどんな手を使ってでも通したい。それが例え、同胞を騙すことになろうとも。ウラはどう思う? 事実を伝えて頼むのと、儂がしたように、事実を偽って話を進めるのでは、鬼達には、どちらが受け入れられる?」
ウラは少し考え、口を開く。
「どちらもそう変わらないと思うが、人間狩りの自粛の面では、事実を話さない方が受け入れやすいかもしれん」
「そう、桃仙は信用に値するか、未だに迷っている。現に、あの場に居たグテツは否定しているし、リシンもどちらかと言えば否定的だ、ウラはどうだ? 実際に居た者達でさえ、信用しきれていないのだ、桃を手にしてなお……だ。事実を話せば、同意は半数も得られないだろうな。だから、少しでも、勝算の高い……いや、藁にも縋る思いなのだ」
そこまで言うと、シキョウは自嘲的に笑う。
ウラは、それ以上問い詰める事が出来なかった。
「さて、そろそろ収めるか……ウラ、耳を塞いでおけよ?」
ウラは耳を塞ぎ、急いでシキョウから離れ
グテツとリシンに目で合図する。
「すぅ……静まれぇぇぇぇえええい!!!」
何回もこだまする大音量が、鬼達の動きを止める。
彼等は今、何も聞こえていないだろう、
耳を塞いでいたウラ達でさえ、耳鳴りに苦しんでいるのだから。
頃合いを見て、シキョウは再び口を開く
「それぞれの言い分は、儂とて分かっておる。しかし、狩りが上手くいかないことが、増えたのも事実であろう? 儂が首領の間だけでも良い、この桃を使っていってくれぬか? なに、こんな老いぼれ、直に死ぬ。それまでの辛抱だ」
「(あの人、殺しても死ななそうなんだよな~)」
誰かが言ったのを、すぐさま感知しその者に視線をやる。
視線を受けた側は、それだけで射殺されそうな圧に
口を閉じるしか無かった。
「狩りを縮小するに当たって、食い扶持の不安があるだろうが、そちらも手を打ってある、必要時には数人に召集をかけるが、速やかに集まるように」
「シキョウ、やけに力が入ってるよな」
「何か思うところが、あるんじゃ無いのかい?」
グテツとリシンも、議題が決したことを感じ取り
無駄話を始める。
場の空気も似たような物だが、そこでシキョウが再び
皆を静まらせ、言葉を発する。
「この『神仙桃』だが、まだ効果の程を確認できておらん。先ずは儂が、実験台として食おう。相手は……『謡』頼めるか?」
「し、しし、シキョウ様……。つ、謹んでお受け致します」
顔を真っ赤にし、涙目になりながらも謡は応える。
謡は、特に狩りが苦手な女の赤鬼だった。
しかし、シキョウとは馬が合ったようで
何かと世話を焼き、共に行動していた。
周囲の者からも、相思相愛なのは
火を見るより明らかで、この発言によって、
祝福の声が飛んだのは言うまでも無い。