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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
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街道へ

 あれから松吉と太郎は、なんとか森を脱出し

無事に、松吉が羽織を卸している町へとたどり着いていた。


「なんとか、辿り着いたのう」

「はい! 町とは、賑やかなところなんですね!」


 太郎は道中の疲れなど見せずに

活気のある町を見て 

何処を見ても、見たことの無い景色だと

目を輝かせていた。


 そんな太郎の姿に、松吉は微笑ましい気持ちになる。


「そうじゃな、だか『都』はもっと大きくて、人で溢れているらしい。ほら、太郎、あまり離れるな。最初はわしの羽織を卸しに行く約束じゃろう?」


 太郎は色々な店が並ぶ様子に気をとられ

ふらふらと離れて行きそうになったところを

松吉に引き留められる。


「あ、はい。そうでしたすみません」


 太郎は少し頬を赤くし、詫びる。


 その後、松吉の馴染みの羽織問屋に立ち寄り

松吉のこしらえた羽織を引き渡し、その報酬を受け取る。


「太郎、これはお前が持って行きなさい」


 報酬として貰った金銭を太郎にすべて渡す。


「これは? お金ですか?」


 太郎は馴染みが無い、貨幣を眺めながら言う。


「そうじゃ。旅をするには何かと物が要る。物を調達するときに何かと便利なのがそのお金だ。最初に注意しておくが、お金は誰にとっても便利でどうにかして手に入れたい物じゃ。人の目に触れるように持ち歩けば、途端に泥棒や山賊に狙われることになる、まあ太郎なら撃退出来るかもしれんが……太郎の場合、スリ(・・)に一番気をつければ良いかの?」


「スリ?」


「人に気付かれないように、財布や貴重品を抜き取って行く輩じゃ」


「なるほど、気付かねば対処出来ませんからね」


 松吉は肯き、お金の使い方の説明にうつる。


 お金の使い方は、口頭で説明するのでは無く

実際に店をまわり、旅に必要な物品を買い物をさせ

覚えさせる。


 やがて一通り揃ったところで

松吉は太郎に向き直り、口を開く。


「これで、お金の使い方は分かったと思う。だが、注意する事が幾つかある」


「なんでしょうか?」


 太郎は首を傾げる。


「先ずは、太郎。お前はお金を稼ぐ術が無い、無駄に使わない様に。お金が無くなったら、誰かの手伝い等を請け負って駄賃を稼ぐしか無くなる。その場合、大きな額は手に入らない上に、都へ着くのが遅れる事になるじゃろう」


 太郎がはっとした表情を浮かべるので

松吉は安心させるように諭す。


「今回の稼ぎは、そこそこまとまった金額じゃ、無駄にしたり、高い買い物をせねば、都へ着いた後も、しばらくは保つだろう」


「ほっ……。分かりました、大切にします」


「よろしい。次に、いかにお金が便利といえども、街道から外れた田舎では、お金自体の使用頻度が極端に低い場所もある。そう言う場所では、お金の価値は無いに等しい。物々交換か困り事を解決してやれば、物を融通してくれるだろう」


「なるほど……」


「とはいえ、物々交換は期待しない方が良い」

「何故ですか?」


「信用の無い、よそ者(・・・)との交換で、等価値は望めない。よほど良い物をこちらが提示しなければ、ろくな物はもらえないじゃろう。何かしらで信用を得られれば、話は変わってくるじゃろうが」


「分かりました、先ずは人助けすれば良いのですね!」


「うーん、まぁそういうところかの」


 少々極端な事を言う息子に、一抹の不安をおぼえる松吉だったが

気を取り直して、言葉を続ける。


「太郎、今日はまだ日が高い。早めに出発すれば、日が暮れる前に次の集落に着けるだろう、道は分かるな?」


「はい、街道を伝って行けば都まで迷うことは無い。ですよね?」


「そうじゃ、街道は幾多の人々の往来により踏み固められた道じゃ。それを辿るのが一番間違いない……」


 松吉は空を見上げ軽く目を瞑る。

 その様子を不思議に思った太郎は松吉に尋ねる。


「父上……?」


 呼びかけられた松吉は一つ深呼吸をしてから

太郎を見て、諦めたような表情で言う。


「そろそろ、旅立ちの時が近付いているのだな……と、思ってな」

「……はい」


 ふと再認識させられた太郎は涙ぐむ。


「怪我や病気に気をつけるんだぞ!」

「はい!」

「猪狩殿の(もと)で、鍛錬に励み、強くなるんだぞ!」

「はい!」

「そしていつしか……元気な姿を、わしとおハツに見せてくれ」

「はいっ!!」


 しばらくその場で父子は抱き締め合う。


 そして、いよいよ別れの時がやってくる。


「それでは父上、行ってまいります!」


 松吉は力強く頷く。

 それを確認した太郎は、松吉に背を向け歩き出す。


 太郎が少し行ったところで、松吉は叫ぶ。


「元気でやるんじゃぞー!」


 太郎は松吉を見て、深々とお辞儀をし

その後、再び歩き出す。




 松吉と分かれてから太郎は、止めどなく溢れてくる涙を

何度も拭いながら、それでもなんとか、歩みを止めずに進んでいた。


 そんな不甲斐ない自分に思うところがあったのか

太郎は一度立ち止まる。


「父上、母上、必ず誰もが強き者(・・・)と認めてくれる男になって見せます! だからっ」


 太郎は強く目を瞑り、体を強張らせる。

 その後、勢いよく目を開き両手で頬を打つ。


「もう、泣かない!」


 道行く人が振り返るが、太郎は気にせず

力強い足どりで目的地を目指す。




 太郎がしばらく歩いたところで、路傍に一人の老人が横たわっていた。

 しかし、近くを通る者達は見向きもしない。


 太郎はそれを不思議に思うと同時に

世間の冷たさに、少し哀しくなった。


 自分はそうはなるまいと

太郎は迷わず老人に近寄り声をかける。


「ご老人、この様なところで横になって、どうなされたのです?」


 老人は振り向きもせずに、言葉を返す。


「ホッホッホ、腹が減って仕方ないのでこのまま死んでしまおうと思ってな」


 太郎は老人の言葉に驚愕する。


「そ、そんな! 死んでしまおうなんて……そうだ! これをどうぞ」


 太郎はおハツに作って貰った黍団子を取り出し

老人に手渡す。


「ホッホッホ、黍団子か、久しいな……どれ、一つ貰おうか」


 老人はおもむろに黍団子を一つつまみ、口へ運ぶ。

 その所作は、およそ空腹で倒れていたとは思えないほど

のんびりとしている。


「ホッホ、美味いのう……作った者の愛情が感じられる。残りは自分で食べるのが良いじゃろう」


 太郎はにっこり微笑んで頷く。


「そうします」

「ホッホッホ、お礼にやれる物は無いが、変わりに一つ忠告をしておこう。助けられた身で言うのもなんじゃが、行き倒れ(・・・・)には無闇にかかわらない方が良い、最悪『疫病』を持っているかもしれんし、良くても『面倒ごと』を抱えているのが殆どじゃ」


「そういう……もの、ですか」


「ホッホ、納得いっていないようじゃな? では、これを渡しておこうかの」


 老人は思い出したように、懐から何かを取り出し

太郎に手渡す。


「お守りですか?」


「ホッホッホ、多少の厄なら払ってくれよう。ワシが持っていても、仕方ない物じゃ。なにせ、行き倒れ(・・・・)になってたくらいだしの? ホッホッホ」


「は、はぁ……」


 太郎は笑うに笑えない、曖昧な返事をするしか無かった。


「ホッホ、そうじゃ、おぬしの名を聞いておこうか」


「私の名は『太郎』と申します!」


「……『太郎』か、良い名じゃな。その名、決して忘れること無きようにな」


 流石に自分の名前を忘れるとは思わないが

太郎ははっきりとした口調で返事を返す。


「はい! 父と母から貰った名です、これからも大事にします!」


「よろしい」


 老人が一言そう呟くと、一陣の風が吹き抜け

その風が巻き上げた土煙に太郎は思わず目を瞑る。


 風が通り過ぎた後、そっと目を開けた

太郎の視界に映るのは、先程まで見ていた景色ながら

老人の姿は無い。

 それはまるで、老人の影だけを切り取ったかのような

奇妙な違和感を太郎に残す。


「幻だったのか……?」


 そう呟いた太郎だが、掌に残る『お守り』を見つめ

首を振る。


 そこで太郎は、神様から貴重な『忠告』を頂いたのだ

と思うことにして、目的地へ向けて再び歩き出す。

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