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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
37/67

予期せぬ再会

 太郎と松吉は順調に歩みを進めて……はいなかった。


 松吉の手入れのお陰もあってか、森という認識が薄れたのか

何とか進むことは出来ていた。

 しかし、太郎の様子は思わしくない。

 顔面蒼白で、足取りは覚束ない

進んだ距離に見合わぬほど、太郎の顔には

疲労の色が浮かぶ。


「太郎、此処いらでいったん休もう」


 見かねた松吉が提案する。

 もう何度目の休憩になるだろう、十回を超えた辺りから

数えるのをやめた。


「はぁはぁ……いえ、一刻も早く森を抜けて──」

「そんな荒い息と子鹿の様な足どりでは、進むに進めん」

「すみ……ません」


 松吉は、やれやれと肩をすくめて

太郎の肩に手を置く。


「太郎、何度も言うが慌てる必要はない。猪狩殿からも、具体的にいつまでに来いとは言われていないのだろう?」

「それは……そうなのですが。このままでは、余りにも自分が不甲斐なすぎて」


 そこまで言って太郎は俯く。


「そうじゃな。だが、その弱さを克服するために、生まれ育った場所を離れ、都にまで行くのだろう? それに、どのみち時間も時間だ。そろそろ野宿に適した場所を探さねばならん」


 たしかに暗くなってから寝床探しを始めたのでは

遅いのは事実だが、日が落ちるまでにはまだ時間はある。

 松吉は太郎を納得させるために

やや早めに寝床探しを始めることにした。


 とはいえ、即座に動き出すことは

不可能と言って良い状態のため

無理矢理、太郎に小休止をとらせた後

松吉と太郎は雨風が凌げる場所を探す。


 しかし、そうそう良い場所は見当たら無い。


「なかなか無いものだのう」


 普段ならば足早に森を抜け、その先にある

民家なり、洞穴(ほらあな)なり、幾つかの心当たりがあるのだが

これほど手前となると、普段通っている道以外の土地勘は

全くないと言っていい。


 日が傾くほど、木々が作る影が伸び

辺りの闇を深くしていく

それに伴って、太郎の状態は悪くなる

あの日(・・・)の状況に近づけば近付くほど

呼吸は乱れ、足取りは重くなる。


 いよいよ、太郎をおぶらねば移動すら

侭ならないところまで来たところで

松吉の視界に、民家の灯りらしき物が飛び込んでくる。


「よ、よし。あの民家に泊めてもらえないか、聞いてみよう」




 トントントン──


「誰か居りますか? 良ければ一晩泊めてもらえないでしょうか?」


 松吉がそう言うと、木の戸がすぅっと開き

一人の老婆が出てくる。


「誰だい? こんな時間に? ──!!」


 老婆は松吉の顔を見るやいなや、気怠げだった表情を

一変させ、松吉に詰め寄る。


「あんた、松吉さんじゃないかい!」


 松吉は老婆の顔を良く見る。


「……まさか、『おトラ』か!?」

「ええ、ええ、そうですとも! ところでおハツちゃんは居ないのかい?」

「ああ、今は家で留守番してもらっている。ところでおトラ──」

「好きなだけ泊まっていくと良い! 昔は同じ村に住んでたんだ。遠慮なんか要らないよ」


「……助かる」


 松吉はおトラの前のめりな様子に、やや違和感を感じつつも

太郎を休ませるために、おトラの言葉に甘えることにした。




「今、風呂を沸かしているから、落ち着いたら入ると良いよ」


 おトラが松吉に言う。


「風呂まであるのか、それは凄いな。……だが、『秋吉』より先に入ってもよいのか?」

「なーに言ってるんだい、馬鹿旦那に文句なんか言わせないよ! 遠慮なんかしないで、お連れさんと一緒に入っとくれ」


「ああ、すまない」


 少し調子が戻ってきた太郎は、どこか温度差のある

二人のやり取りを聞いて、たまらず松吉に問う。


「父上、お知り合いの方ですか?」

「ああ、以前同じ村に住んでいたんじゃ」

「そうですか、威勢の良い人ですね」


 松吉は腕を組み考え込む。


「ああ、確かに昔から威勢は良かった。……だが、今のおトラは、何というか……上手く言えんのだが」


 そんなところに、おトラの声が響く。


「良い湯加減になりましたよ! 早く入ってくださいな!」


 松吉と太郎は、顔を見合わせる。


「とりあえず、風呂をいただくか」


 松吉は太郎に近付き、おトラに聞こえないように

耳打ちをする。


「何か様子がおかしい、あまり気を許すな」


 太郎は、そっと頷く。




 何事もなく湯浴みを済ませた二人は

おトラに気付かれないように荷物を確認し

特に物を盗られた様子が無い事を確かめる。


「杞憂……じゃったか?」


 首をひねりながら、居間に戻る。


「湯加減はどうでしたか? もうすぐ食事も出来ますからねえ」


 おトラが夕食の支度をしながら声をかけてくる。

 おトラを疑っているという

やましい気持ちがあるからか、つい驚いてしまうが

表情には出さず何とかつくろう。


「いやっ、それは流石に申し訳ない。わしらが持っている食料で済ますつもりじゃ。どうか、気を使わんでくれ」


 松吉がそう言うと、おトラは大袈裟に驚いて首を振る。


「何を言ってるんです! たまたま再会出来たのだから、お祝い(・・・)しなければ、しょうがないじゃないですか! でないと……」


「でないと……」


 松吉は無意識に言葉を繰り返し

ごくりと息をのむ。


「せっかく作った『鍋』が、無駄になってしまうじゃないですか。他のご馳走は諦めますから、どうか鍋だけでも」


「わ、分かった……鍋だけ、いただこう」




「ささ、どうぞ」


 おトラは鍋を椀に(よそ)って、松吉と太郎に渡す。

 心なしか、松吉のお椀には多くの具材が入っているように思える。


「これは豪勢じゃな……しかし、秋吉はまだ来ないのか? 鍋が冷めてしまう」

「今は、お風呂に入って居るのではないですかねえ?」

「そうか? なら仕方ないな」


 松吉は何食わぬ顔で聞き流したふりをしたが

今の言葉で不信感が一気に増した。


 風呂は火加減をみる者が居らねば

適温を直ぐに外れてしまう、にも拘わらず

秋吉は風呂に入っているとおトラは言う。


 ──おそらく、秋吉はこの家に居ない。


 そして、おトラはそれを隠そうとしている。

 何を狙っている? 荷物に手をつけなかったということは

『物盗り』では無い。


「これほど豪勢な鍋じゃ、秋吉より先に食べるのは憚られるが、いただこう。じゃが、せめて一番良い(・・・・)ところは、おトラが最初に食べてくれ」


 こうすれば、おトラが最初に食べなければならない。

 その時点で、きっと害、無害が分かるはず。


「そうですか? ではお先に失礼して」


 そう言うと、おトラは躊躇うことなく鍋を自身の椀へと装り

両手を合わせる。


「いただきます」


 おトラは大口を開けて美味しそうに頬張る。


「ああ、美味しい。ささ、皆さんもお上がりください?」


 松吉と太郎は促されるまま、おずおずと

食事を始めるの。


「これは美味いな」

「はい、本当に」


 松吉と太郎は、あまりの鍋のおいしさに

思わず声を漏らす。


「そうでしょう、そうでしょう」


 おトラもまんざらでも無い表情で頷き

他愛もない話をしながら

食事は滞りなく、進められる。


 結局、その後も何事もなく床についた太郎と松吉は

要らぬ気遣いだったかと、ため息をつく。


 日中での肉体的疲労と

おトラへの警戒から来る、精神的疲労で

直ぐに眠りに落ちる。




 ──しかし、その時はやってくる。


 物音を立てぬように、そうっとふすまが僅かに開けられ

ぎょろりとした目が、松吉達を覗く。


「ようやく寝たかい。あぁ~わくわくするねぇ! 結局『桃』は食べられなかったが、桃を食べて若返った者を喰えば………どうなるんだろうねぇ、ふぇっふぇっふぇっ」


 おトラが漏らした言葉で、松吉が目をさます。


「──! ──!! ──!?」


 ……が、声が出ない。

 それどころか、体も動かないようだ。

 そんな松吉を見て、おトラはニタァと嗤う。


「おやおや、起きてしまったのかい? まあ、そろそろ毒も効いてきたところだろうし、どうと言うことは無いねぇ」


「──!?」


 松吉はあれほど警戒していたにもかかわらず

どこかで毒を盛られた事に驚愕する。


「ああ……毒と言っても、命を落とすような物じゃあ無いから安心しなぁ? これから食べるモノ(・・・・・)に余計な者を入れたく無いじゃないか」


 松吉は声も上げられず、身動きもとれず

太郎を起こす事も出来ないことに絶望し

悔し涙を流す。


 おトラは、そんな松吉を愉しそうに一瞥し

自身の食事(・・・・・)の準備を始める。

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