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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
35/67

剣術

「と、言う訳なんです……」


 太郎は目の前の人物に、現状と

自分の望みを伝える。


「なるほど……森への恐れを克服したい。という訳だな?」

「はい」


 目の前の男、猪狩は軽く顎をつまみ考え込む。


「そうだな、先ずは恐れているものの正体を突き止めるのが先決であろう」


「正体?」


「そうだ、『何か恐ろしく感じる』や『嫌な事があったから』というあやふや(・・・・)なものではなく。より具体的に、どこで何がどうなる事が怖い。そのくらいまで噛み砕ければ、やらなければならないことが、自ずと見えてくるはずだ」


 猪狩の言葉に小さく頷き、太郎は黙り込む。

 すると徐々に太郎の顔色は悪くなり、身体は小刻みに震え始める。


「ふむ、これは中々『重症』かもしれんな……。太郎殿、無理は禁物だ。一旦深呼吸をして、別の事を考えよう」


「……いえ、平気です」


 太郎は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き

ぽつりぽつりと、話し始める。


「私は高爺さまと猪狩殿の戦いを止めたかった。片や望んで、片や仕方なく戦っているのは分かっておりましたが、大切な方が目の前で傷つくのを見るのはやはり悲しい。それ故、頭に血が上り冷静な判断が出来なかった私は、猪狩殿に飛びかかろうとしました。戦いのさなかに、飛びかかろうものならば切って捨てられていても不思議ではありません。それを察知した高爺さまは自分の身を顧みずに、私を生かすために動いてくれた。結局、私が余計な行動を取ろうとしたことで、高爺さまの命を摘んでしまった。私が森に入ることで、森の皆を危険に晒すのでは無いか、命を摘み取ってしまうのでは無いかと、怖くて……怖くて仕方がないんです!」


 徐々に感情が昂り、涙を流しながら

やり場の無い気持ちを吐露する。


「なるほど。最後のあの行動は、どうにも腑に落ちなかったが、そういう意味があったのか。しかし太郎殿、そこまで分析出来たならば、やらねばならぬ事は見えたぞ」


 両手を床につき項垂れている太郎は

頭を上げて猪狩の顔を見る。


「簡単なことよ、庇わねばならないのは『弱い』からだ。庇われずとも、何とかするだろう、と思わせるほどに強くなれば良い。強くなれば、自ずと自信も付く。そうなれば、他者を巻き込んでしまっても、庇ってやれる余裕も出てくるはずだ」


 猪狩の言葉が、高亥の言葉と重なり

太郎の涙はさらに溢れてくる。


 強くなり……たい! 太郎は、初めて強く願う。


 太郎はきつく目を閉じ、涙を断ち切った

それから居住まいをただし、猪狩に向き合う。


「猪狩殿、私に剣術を教えてください」


 猪狩は、太郎の瞳の奥の決心を汲み取り

快く了承するのであった。




 猪狩はまず、太郎の実力を見るため

適当な棒を加工して、木刀を作り太郎に持たせ

また、自身も同様の木刀を持つ。


「拙者が木刀を顔の前で横に構えているので、太郎殿は型など気にせず、全力で打ち込んできて欲しい」

「分かりました……」


 太郎は不安の色を隠せないが

猪狩は安心させるように笑顔で頷く。


 太郎は両手で木刀を握り、一度息をのむ。


「いきます……」


 意を決して猪狩の木刀めがけて振り下ろす。


「でやぁぁぁぁぁ!!!!」


 太郎の渾身の力を込めた木刀は目にもとまらぬ速さで

猪狩の木刀へと打ち付けられ、衝撃に耐えられなかった

太郎の木刀はへし折れ、回転し猪狩の顔面へと襲いかかる。

 猪狩は(すんで)の所で、体を反らしそれを躱し

太郎の顔を見る。


 ──目を閉じてる!?


 そんな素人の木刀から繰り出された斬撃(・・)

猪狩は驚愕すると同時に、湧き上がってくる感情を抑えきれない。


「太郎殿! 都に来ないかっ!?」


 猪狩は木刀の残骸(・・・・・)を握ったままの太郎の両手を握り

興奮気味に詰め寄る。

 しかし当の太郎は、そうっと目を開けたところで

手を掴まれ、突然熱のこもった言葉をかけられ

まったく理解が追いつかない。


「な、何ですか……?」


「拙者は、山野に埋もれた武芸の才のある者を集め育て、巽家繁栄の為に守りの要となる『巽家十本刀』の組織編成を任されている。太郎殿の才は野に捨て置くには余りに惜しい! 是非、都へ来て十本刀候補として、鍛錬に励んで欲しいのだ!」


 余りに前のめりな猪狩の様子に、太郎は気圧(けお)されてしまい

話の流れを変える為の妙案が出て来ず、何とか言葉を絞り出す。


「あ、あの私は『元服前』の身ゆえ、父上、母上に無断で事を決めることは出来ません」


 太郎の言葉に猪狩は、はっとして太郎から離れる。


「そうであったな……太郎殿は見た目も立ち居振る舞いも大人と見紛うばかりゆえに忘れていた。すまん! しかし、その気があるならば、拙者もご両親の説得に吝かでは無い」


「分かり……ました」


 太郎のその言葉を聞いて満足したのか

猪狩はそれ以上、詰め寄ることはせず

太郎は太郎で、強くなりたい気持ちと、

両親や森の皆と離ればなれになる事を怖れる気持ちの

間で揺れ動いていて、その日のうちに結論が出ることは無かった。




 何日か過ぎ、猪狩の傷も大分癒えた頃

猪狩は役目に戻ることを松吉に伝える。


「そうですか、お役目を立派に務められることを祈っております」

「ありがとう、大変世話になった! この礼はいつか必ずさせて貰おう」

「いえいえ、猪狩殿にそんな気を使わせるわけには」


 猪狩は松吉の肩に手を置き、首を振る。


「それでは、拙者の気が済まぬ。……ところで太郎殿は?」


「ああ、太郎なら庭で剣術の鍛錬に励んでおります。余程肌に合ったのか、昼夜問わず熱心に」


 あれから猪狩は太郎に刀の扱い方を指南していた。

 それはまさに、初めて刀を手にした子供(・・)に教えるように

ごくごく基礎的な、握り方や力の入れ方等を、入念に教え込む。

 そしてそれ以上に『素振り』を繰り返し何度も行わせた。


 太郎の様に力が強いうえに、振り抜く速度も速い者は

刀そのものへの負荷が強く、誤った握り方をしたり

誤った力のかけ方をした場合、

よほど強度に自信のある名品でない限り破損する。

 太郎には刀の扱い方のみに重点を置いて指導する事で

万一、太郎が都へ来なかったとしても

武器を用いて人並み以上に戦えるだろうと

猪狩は考えた故の決断だった。


「太郎殿、やっているな!」


 猪狩が声をかけると、太郎は素振りをやめ振り返り頭を下げる。


「拙者は今日、役目に戻る。太郎殿も達者でな」


 猪狩がそう言うと、太郎は弾かれるように顔を上げる。


「そう……ですか」


 少しだけ沈んだ声でつぶやいた後

かぶりを振って、いつもの表情に戻し言葉を続ける。


「猪狩殿、やはり都へ行ってみようと思います」


 猪狩は思わず喜色を滲ませるが、直ぐに持ち直す。


「太郎殿の申し出は大変嬉しいが、ご両親の了承は大丈夫なのか?」

「はい、しっかりと話し合って説得してみせます」

「拙者は役目がある故、共に都に戻ることは出来ぬが……」

「それも、何とかしてみせます!」


 力強く答える太郎の言葉に猪狩は頷き

懐から一枚の紙を取り出し、太郎へ手渡す。


「都へ着いたら、拙者の屋敷へ行き、家の者にその書状を見せると良い」

「分かりました」

「太郎殿、共に鍛錬出来る日を楽しみにしている! では、拙者は松吉殿と少し話をしてから()とうと思う」

「はい、お世話になりました」


 太郎が頭を下げると、猪狩は苦笑いを浮かべ

『世話になったのは此方だが』という言葉をのみこみ

その場を後にする。




 猪狩を見送った松吉達は、急に静かになったような錯覚を覚える。


「なんだか祭りの後の様じゃな」

「そうですねぇ……」


 松吉とおハツがそんな事を言っている横で

太郎は両親をどう説得するか考えていた。

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