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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
31/67

高亥の教え

 角力大会から太郎は高亥の強さに憧れ

高亥の元へ通うようになっていた。


高じいちゃん(・・・・・・)は、どうしてそんなに強いの?」

「誰が、高じいちゃんだ。そもそもお前もいい歳なんじゃから、言葉遣いを直せ」


 ……もちろん高亥は太郎の年齢を知らない。


「えー? このしゃべり方じゃ駄目なの?」

「駄目に決まっておる、まるで幼子のようだ! そもそも言葉というものはじゃな──」


 こうして、高亥による年相応な言葉遣い講座が始まる。


 得てして年寄りの話は長い、高亥も多分に漏れず

……いや、中でもとりわけ長いことで有名であった。


 それを証明する様に、太郎の元へやってくる動物達は

高亥の講義中とみるや、そっ(・・)と引き返していく。


 それでも太郎は、高亥(年寄り)の話をよく聞き実践してみせる。

 そんな真摯な態度が気に入ったのか、高亥は

自分の知っている様々な知識を太郎に教えた。


「──と、言うわけじゃ。筋肉は使えば使うほどに強くなる。例えば、走り込みの際にも、重い荷を担いでやる方が足腰は強くなる。わしなんかは、若い衆を背に乗せたり、尾に噛みつかせたまま走り回っておったわ。流石に尾が千切れるかと思ったがな」


 高亥は豪快に笑ってみせる。


「そうか、では父上のやっている農作業は、鍛錬としても、とても良いかもしれませんね」

「ふむ、そうじゃな。人間の仕事を眺めていたこともあったが、土起こしや、中腰の姿勢、荷運び、どれをとっても重労働じゃろうな」

「じゃあ、手伝いの機会を増やします」

「それが良い。何より収量が上がれば、わしらもおこぼれに預かれる」


 高亥の言葉に、今度は二人で笑い合った。




 それから太郎は高亥の言いつけ通り、松吉の手伝いを

率先してやり、おハツが困っていれば何かと助けた。

 そのおかげもあってか、太郎の足腰は

力強い物となり、森の角力大会でめきめきと頭角を現した。

力押しの者、機動力で翻弄する者、

変わり手で意表を突く者、どんな相手にも対応する

柔軟性をみせ、皆からも一目置かれることとなった。


 未だ無敵状態の高亥には勝ててはいないが

吾郎とは互いに切磋琢磨し、技を磨き

森の二強と呼ばれている。


 そして、その日は訪れる。


 今日も今日とて、森では角力大会が開かれる。

 無双高亥に二強が挑むのも、最近ではお約束となっており

開会式と言っても過言では無い様子だった。


 未だ無双高亥には全敗だが、それでも吾郎は意気込む。


「よーし、今日こそは爺さまを打ち負かしてやるぜ!」

「いいや、吾郎には悪いけど私が先だね」


 吾郎は太郎の顔を見て言う。


「太郎……最近は馴れてきたが、そのしゃべり方どうなんだ? 俺は昔の方が良いと思うんだが」

「そうか? 高爺さまには、板についてきたと言われたのだけど。段々、こっちで話す方が楽になって来ているし、諦めてくれ。それより吾郎こそ、少し言葉遣いが乱暴になってきた気がするけど?」


 吾郎は片眉を上げて肩をすくめる。


「太郎が、爺さま二世になっちまった」


 大袈裟な動作で茶化すが、

直ぐに普段の表情に戻り言う。


「まあ、俺も年頃だからな。雌に力強さを売り込まにゃならん。実際の力強さは問題ないと思うが……」

「力で解決するよりも、威圧だけで処理できれば無駄が無い……ということか」

「まあ、そういうこった」


 二人で仲良くしみじみしていると

他でもない高亥から声がかかる。


「さあ! 今日はどっちだ? 叩きのめされたい方が出てくるが良い!」


 太郎と吾郎は顔を見合わせて苦笑いをする。


「そろそろ爺さまに『年甲斐も無く』って言葉を教えてやろうぜ」

「本当に言うなよ? 後が凄いんだからな?」


 そして恒例の挑戦者決めが始まる。


 方法は簡単だ。片方の者が、片手に木の実を握り

もう片方の者が言い当てる。


「今回は俺が隠す側だったよな?」

「ああ」


 吾郎が太郎の錯覚を誘発させようと

妙な動きを織り交ぜたり、あれやこれやと手を尽くし

やがて両の手を突き出す。


「さあ、どっちだ!」


 太郎は途中で笑ってしまい、最後まで見ていなかった。


「くそう、笑ってしまって分からなくなってしまった。ええい、ままよ!」


 太郎が左の手を指差す。


「ほ、本当にこっちで良いんだな?」


 吾郎の様子を見て太郎はニヤリとする。


「今ので分かった、間違いなくこっちだ」

「ああー! くそ! 今回は太郎が先か!」


 挑戦権を獲得した太郎は高亥の待つ土俵へと

足を踏み入れる。


「今日は太郎が先か」

「吾郎へ番は回しませんよ」


 二人はにこやかに睨み合う。


 行司役の栗鼠は高亥と二強の角力では

巻き込まれないよう土俵外から掛け声を叫ぶ事にしている。


 ……栗鼠も学習しているのだ。


「はっきょい! のこった!!」


 距離がある分、大きな声を出す必要があるが。


 高亥はお約束の突進で先手必勝を狙う

単純な攻撃だが、その巨体と速度を持ってすれば

躱すも受けるも難い、必殺の手となる。


 以前にも増して威力を増す突進に

内心苦い顔をし、太郎は受け止める態勢に移る。

 これは最初期から太郎が変えない戦い方

真っ向勝負を是とする高亥の教えもあるが

太郎もまた、相手の全力引き出し

それを上回って倒すことを好み、努力を重ねてきた。


「まったく。お前も少しは変わり手を覚えないと、命がかかった戦いでは、まさしく『命取り』になる……ぞっ!」


 太郎は、高亥が衝突する直前に牙をつかみ

以前吾郎がして見せたように力の方向を僅かにずらしつつ

腰を落とし、足で力一杯(ちからいっぱい)踏ん張り受け止める。

 もちろん吾郎の時と同じ状況ということは

次に待ち構えているのは『跳ね上げ』だ。


 太郎は突進の勢いが止んだことを確認し、直ぐに

体を後ろに傾け、目一杯の力と全体重をかけ

高亥の頭を上げさせまいと引きつける。


 太郎を跳ね上げられずに頭を垂れる高亥だが

ただ押さえ付けられているだけでは無い。

 事実、高亥を横転させるべく

太郎は幾度となく試みているのだが

首や体を捻らせて、高亥はそれを躱す。


 こうして、互いに攻め手が無いまま

膠着状態に陥る。


「いい加減に、諦めたらどうだ?」

「いやいや、そういう訳にはいきません……よっ!」

「見切っておるわ!」


 会話の最中にも駆け引きを行う二人。


 ──太郎は考える。


 このままでは体力勝負になってしまい

自分の望む結果を得られない。


 ──ではどうするか?


「私はこうするっ!」


 太郎は引きつけていた牙への力を僅かに緩める。

 高亥は、それを即座に察知し太郎を大きく跳ね上げる。

 もちろん、太郎が何かを企んでいるだろうという

予感はあったが、地に足の着いていないものに

負けるはずは無いと、勝負を決めにいった。


「手応えが無い!? 自ら跳んだか!」


 跳ね上げの勢いを利用して、太郎は自ら跳び

跳ね上げで場外にならないように

落下中に突進を合わせられないように

まんまと高亥から距離をとり構える。


「高爺さま、真っ向勝負といきませんか?」

「生意気なことを言うようになった」


 高亥はそう言いつつも、

不意に口元に笑みがこぼれる。


 互いに真正面から向き合い

ぶつかり合いにて勝負を決めるべく構え

機をうかがう。


 つい先程まで、吾郎や解説役を決め込んでいた

他の参戦者や見物に来ている獣たち等

騒がしくあれやこれや言い合っていた観衆達はなりを潜め、

そんな獣たちとは打ってかわり

草木がざわめくように、葉擦(はず)れを響かせるのみ。


 そんな一瞬が永遠に続くような静寂のなか

突如、太郎と高亥は動く。


 きっかけは、誰かの息をのむ音? それとも

葉が落ちる音? それは二人にしか分からない。


 高亥は普段よりも頭を低くして突進していく

これは如何に高亥といえど、自らを止めてみせる

剛力を持つ太郎に顎下から、かち上げを喰らえば

無事では済まないことを理解している。

 だからこそ、より確実に勝つため

つけいる隙を極限まで減らし、勝ちを求める。


 太郎は高亥と同時に走り出したが

隙の無い高亥に内心舌打ちをしながら

勝ち筋を考える。

 時間にしてはほんの僅かな、

それこそ数秒有るか無いかの時間だが

諦めずにぎりぎりまで考え、決断する。


 二人が激突する直前で、太郎は体を斜め前方へ沈めて

高亥の顔の側面方向へ。


「太郎が、変わった!?」


 思わず吾郎が叫ぶ。


 ここでいう『変わる』とは角力でいうもので

真正面から当たらず、進行軌道を右や左にずらし

側面から突く、いわば『奇襲戦法』で

太郎は今まで、殆ど使うことは無かった。


 それは単純に太郎が、あまり好まない

戦法であるからなのだが、この土壇場で

太郎が変わった(・・・・)事に、吾郎のみならず

周りの観衆もそうだが

何より、太郎自身が驚いていた。


 高亥はすぐさま視線で追うが、運悪く自らの牙で

死角になってしまう。


 しまっ──


 高亥がそう思うのも束の間、頭に凄まじい衝撃がはしる。




 観衆の目には両手をかぎ型に構えたまま

大きく仰け反る、太郎の姿と

弾かれるように頭部と前脚が浮き、吹き飛ぶ高亥が映る。


 音が無くなり、時の流れがゆっくりになった世界に

いるのでは無いか? という錯覚を覚えるほど

緩慢に流れる光景を、衝撃と共に眺めていた。


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