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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
27/67

出産

 安次の案内で、古びた山小屋にやって来た

松吉とおハツ。


「はあ、ここがわしらの新しい住処になるのか?」


 松吉は余りのボロさに、呆れを通り越して

感心しながら見回す。


「まあ、そう言うなってまっつぁん! 仮だからな? 掃除して、ちょっと手直ししてやれば、住むには困らないはずだから……たぶん」


 安次がなんとも言えない気休めを言うが、

松吉達としても選択肢は無いに等しく

その辺で『獣』や『怪異』に襲われて野垂れ死ぬよりは

こんなぼろ家でも、何倍もマシという物である。


 松吉がひとまず納得したところで、安次は言う。


「ここは、まだ村から近い。なるべく目立たないようにしてくれよ? 仮住まいで畑を起こす訳にもいかないだろうから、食料は俺が運んでくる。しかし、俺や長老でそれを賄うのは大変……と言うより無理だ。自分達の食い扶持は、稼いでほしい」


「食い扶持と言ってもなぁ……柴刈りくらいじゃろうか?」


松吉は首を捻りながら唸る。

するとそこにおハツが提案する。


「でしたら松吉さん、安次さんに材料を仕入れてもらって、羽織を拵えて売ってはどうですか? 私は、羽織を作っている松吉さんを見ているが好きなんです。それに松吉さんに、できるだけ家に居てもらえれば安心ですから」


ふむ。と頷き、松吉は納得と同時に不安を見せる。


「身重なおハツをほったらかしにするよりは良いか……しかし、安次なんかに生地選びが務まるとは……」


「なな……な! 出来らぁ!」


安次は、売り言葉に買い言葉とも言える

ただ勢いに任せて安請け合い(・・・・・)してしまう。


「そうか、じゃあわしがいくつか注文をつけるから、それに沿って買い出しを頼むな、やっさん」


「俺が……生地選び……」


そんなこんなで、ひとまずここでの生活の

指針は決まった。

松吉は安次に、生地の発注をし

小屋の掃除と補修を始める。

おハツは体に障らぬよう、空気の良い、外の木陰で休み。

安次は村に戻り、長老に報告やら自分の仕事をこなすために

帰っていった。




ある日の事、松吉達が暮らす山小屋の戸が

ドンドンと叩かれる。

松吉は、相手が誰であるか察して

迷わず戸を開ける。


そこにいたのは、松吉が想像していたものではなく

一人の老女が、大きな荷の山と一緒に立っていた。


「やっさ……え!?」

「おサキちゃん!」


松吉とおハツは同時に驚きの声をあげる。


「どうも、久しぶりです松吉さん。それからおハツ(はっ)ちゃんも、顔色が良さそうでよかった」


おサキは、柔らかく笑うと

やや目付きをキツくして荷の山に声をかける。


「ほら! 味噌みそじじい! 二人に言う事と渡すものがあるでしょ!」


……味噌のつまみ食いがバレたらしい。


「味噌爺って……そりゃあ、あんまりだろ……」


と、そこまで言った安次だが

おサキの視線により黙殺される。


まっつぁん、長老と相談しておサキにも協力してもらう事になった」

「そりゃあ、最初こそ若返りに憧れたけど。今は桃に未練は無いわ。安心して? だって、若返ったら『この人』とずっと一緒に居なきゃいけないじゃない?」


松吉とおハツは、安次を僅かに気の毒に思いつつも

苦笑いを浮かべる。

安次も、しばらくはおサキのあたりが強いのは

覚悟している様で、反論せず話を進める。


まっつぁん! それより生地を見てくれよ!」


安次が次々に生地を並べていく様を見て

松吉は目を見張る。


「やっさん! さすがに多過ぎじゃろう……む、これはなかなか良いな……こっちも悪くない。まさか、やっさんにこんな才能があったとは」

「どういう意味だよ……って言っても、おサキに選んでもらったんだけどな!」


松吉とおハツは、得心がいったとばかりの表情で頷く。

おサキは軽く笑いながらも、安次の名誉のために付け足す。


「この人も一応、頑張ったんだよ? ただ、柄の違いがわからないから、生地の選定の役には立たなかったけどね。値切りやら運搬は見事だったよ。味噌爺の癖にさ」


安次は思わず、ガクッとずっこける。


「おサキ、そりゃねえよ……。最後のがなければ、嬉し泣きしそうなところだったのに」


安次はいじけながらも、裁縫道具や台所用品、食料から

次々と松吉に渡し、松吉は搬入して配置する。

言葉を交わさなくても、阿吽の呼吸というやつである。


そして全て運び込んだところで、松吉とおハツは

安次とおサキにお礼を言う。


「二人とも、本当に助かった。ありがとう!」

「これだけあれば新居に移るまで、きっと不自由しないわ。ありがとう」


その言葉を受けたおサキはにっこりと微笑み

安次はなぜか苦々しい表情を浮かべる。


「何言ってるの、これで終わりじゃないわよ? また、顔を見に来るわね」

まっつぁん……新居の事なんだが。ちょっとばかり遅れそうなんだ」


意を決して言った安次の言葉に、松吉、おハツのみならず

おサキも驚いている。


「はぁ!? そんなの聞いてないよ? あんた、一体どういう事なんだい?」


おサキの言葉に安次は、頷きつつも言葉を続ける。


「ああ、言うかどうか迷ったんだがな。なにせ、具体的にいつ頃出来るとも言ってないのに、『遅れる』ってのもなって──」


安次の話によると、新居の建設予定地近辺で

大熊が出没し、猟師達が手傷を負わせ

なんとか撃退したが、

手負いの熊が、いつ襲って来るかわからない場所で

職人達が作業を嫌がり、まったく完成の目処がつかない状態らしい。


「そうかぁ、そりゃあ熊に襲われるのは誰だって嫌じゃからの」

「本当にすまねえが、まっつぁんとおハツ(はっ)ちゃんの子は、この小屋で取りあげることになりそうだ。その為の多めの物資なんだ……」

「いや、わかった。頭を下げることはない。わしらとしては、住むところを用意してもらっただけで充分すぎるほどじゃ」


松吉の言葉に、おハツも笑顔で頷く。


「二人がそう言ってくれると、助かる」

「本当にごめんなさいね」


安次とおサキは何度も頭を下げ

全ての用事がすむと帰っていった。


「さて……それじゃあ、もう少し本腰をいれて綺麗にしないとな」

「松吉さん、お手伝い出来ずにすみませんね」

「何言ってるんじゃ、丈夫な子を産むのがおハツの仕事じゃろ?」


二人は本格的に、山小屋での生活を

始めたのだった。




そして、おハツの出産の日がやってくる。


松吉や、安次におサキだけではなく

長老と、歳の差の離れた女の二人組がその場に集っていた。


「長老、その方たちは?」


松吉は思わず長老に尋ねる。


「ああ、彼女たちは子を取り上げてくれる産婆じゃ。村の者に頼むわけにもいかず、昔のよしみで遠くから来てもらったんじゃ。腕は確かじゃ、心配するな」


長老の言葉を受けて、二人組の片割れの老女が

松吉に声をかけてくる。


「ふぇっふぇっふぇっ、ご紹介に預かった『八重やえ』って者だよ。よろしゅう」

「これはご丁寧に、わしは松吉っちゅうもんじゃ。何とぞよろしく頼む」

「……? なんじゃ、若いのに年寄りみたいな喋り方じゃな? 爺様と話してる様な気分じゃ」


八重に言われて、松吉はしまった。と思い

愛想笑いを浮かべる。


「まあ、ええわい。嫁さんは若くて体力も有りそうじゃ。今回は、弟子に任せることにしよう。ほら! 『おセン』! こっちに来て、挨拶をおし」


八重に呼ばれて、元気の良さそうな女子おなご

かけよって来て、ぺこりと頭を下げる。


「あたいは、おセンってもんだわさ。八重さんの元で助手をさせてもらってる」


おセンは、あっはっはっと笑いながら

自己紹介をする。

そんなおセンに八重は、今回のお産を任せる旨を伝える。


「おセン。今回、子を取り上げるのはお前だよ。お前は真面目だし、筋も良い。場数だって、アタシの隣でかなりの数踏んできた」


おセンは、少しだけ表情をかたくする。


「母体を第一に考えられる、お前だからこそ任せるんだ。大丈夫、やれるよ」


八重に励まされ、おセンの顔に

明るい色が差す。


「わかったよ! やってみる」


そう言って、おセンは段取りやおハツの様子を確認し

説明に入る。

その動きはテキパキとしていて無駄がない。


「ふぇっふぇっふぇっ、あの子なら間違いないよ、安心をし」


その動きと、八重の言葉が相まって

おセンの腕を疑う者は、

その場にはいなかった。


順調に処置が進むなか、八重が頃合いを見て

皆に告げる。


「さあ、あと少しで赤ん坊が出てくるよ。おセン、ここが一番大事だ! 気を抜くんじゃないよ!」


八重の言葉に、松吉達は前のめりになり

おセンは汗をぬぐい、気を引き締め直す。


おハツは布を強く噛みしめ、痛みに堪えながら

体全体を波打たせるように荒い呼吸をする。


赤ん坊が出てくる兆しだろう。

おセンはそれを励ましながら、徐々に見えてきた

赤ん坊を慎重かつ大胆に、取り上げる。


「ああぁっ!!」


おハツが大きな声をあげると、少し遅れて

オギャアオギャアという

元気な赤ん坊の産声が辺りに響き渡る。


おセンは八重に赤ん坊を預け

おハツの処置に入る。


赤ん坊を受け取った八重は

手早くお湯で洗い、清潔なきれに包む。


「おめでとう、男の赤ちゃんだよ」


そう言って手渡された赤ん坊を腕に抱き

松吉は涙を流しながら喜んだ。

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