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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
26/67

追放

 長老会の翌日、昨夜の決定が発表される場が設けられ

各家の代表が広場に集い、長老の前に顔を並べている。


「皆、集まったな? では、長老会での決定を発表する!」


 静まり返った広場に、誰かが唾をのむ音が聞こえる。

 長老はたっぷりと間を置いてから、言葉を続ける。


「先ずはじめに『桃待ち』じゃが、これは全面的に禁止する!」


 これには納得できないと、桃待ちをしていた者や、その夫達が

反発を見せる。

 しかし、長老はそれらを、言語道断とばかりに一喝する。


「あの様な事があってもまだ言うか!! 下手をすれば、子供の命が失われていたのだぞ! 村の将来を担う者の命より、来るかすらも怪しい『桃』なんぞが大事か!? 恥を知れ! 馬鹿者が……」


 長老は荒らげた声と呼吸を整え、発表を再開する。


「尚、この禁を破った者は、『村八分』とする」


 村八分という単語に、村民達は騒然とする。


 過去に掟を破り、村八分にされた者がおり

結局『死ぬまで』それは実行された。


 村八分は、された(・・・)方は勿論だが

する(・・)方も、大変な苦痛を伴う。

 それは、親しい間柄であればあるほど

身を裂く思いで臨まねばならない。


 違反者が出れば、全員に負担がかかるという訳だ。


 長老は、ここまでで質問があるか問うと

一人の村人が、おずおずと手を挙げる。


「洗濯と桃待ちは、どうやって見分けるんです? 勘違いで村八分なんて、まっぴら御免ですよ?」

「そうじゃな……年寄りが、いつまでも洗濯物を始めなかったり、終わらせなかったり、途中で手を長く止めているようならば、桃待ちと見て良いだろう。とはいえ、わしが四六時中見張っている訳にもいかん。そこで、桃の必要の無い者……若い衆や、子供達に見張って貰うことにしようと思う」


 今度は、名前のあがった若い衆達から疑問が出る。


「それは、交代で……ということですか? それに子供が見つけても、今回の一件のように力づくで来られると、どうにもならないんじゃ?」


 長老は想定していた疑問に、満足そうに頷く。


「いいや、当番等は考えておらん。通りかかったときや、子供ならば川で遊んでいるとき、怪しい動きをしている者が居る様ならば、大人ならば声を掛け、子供ならば大人に報せ、その大人から桃待ちをしていると思われる者に声をかけて欲しい」


 若い衆達は、なるほど。と思いつつも

質問を重ねる。


「でもそれじゃあ、穴があるんじゃ?」

「もちろんそうなるな。じゃが、互いに互いを四六時中見張り合う状況ならば、村の雰囲気は確実に悪くなる。穴があるくらいが丁度良いじゃろう。それに、例え桃待ちをしていたとしても、声かけに応じ即座に止めれば、罪は不問としよう。……そうじゃな、報せてくれた子供や、声を掛けてくれた者には駄賃でもやろうかの」


 村人達はどこかほっとした表情になり

それなら、そう簡単に違反者は出ないだろうと

胸をなで下ろす。


「さて、次はおトラの件じゃが……おトラは来ていないようじゃな?」


 長老が見回すと、一人の男と目が合う。

 その男は、なんとも気の弱そうな男で、

名を『秋吉あきよし』という。


 ──おトラの夫だ。


「秋吉……、おトラの件は、状況から見て、妄執しても仕方のない状況であったのは事実じゃ。しかし今回の行動は、流石に目に余る……」


「へい……。も、もしかして村八分に……?」


 秋吉は上目遣いで、伺いをたてる。


「そうじゃな。しかし、一度だけ免れる機会をやろう。おトラ自身が、怪我をさせた子供と、その親に、誠心誠意謝罪し、和解が成れば、今回の件は不問とする。しかし、それが成らねば……村八分は避けられん」


 長老の言葉を聞いた秋吉は、へなへなとへたり込み

天を仰ぎ、何かをぶつぶつとうわごとのように繰り返すだけになった。


 長老は、そんな秋吉から視線を外し、

聴衆に視線を戻す。


「そして、最後に──」


 長老の言葉を聞いた安次が、僅かに体を固くする。

 松吉はそんな安次に気付くが

後で聞けば良いか。と長老の話に集中する事にした。


「此度、桃待ちが起きる原因を作った者達……松吉とおハツを騙る(・・)二人を村から永久追放とする!」


 松吉は、頭を鈍器で殴られたような錯覚を覚え

視界は真っ白になり、しばし呼吸さえも忘れ

聴衆達のどよめきすらも、水の底から聞いているような

くぐもった音しか、拾うことが出来ない。


「安次! その者と、松吉の家に居る、おハツの偽物を縛り上げ、村の外に放り出せ!」


 長老の強い言葉に、安次は瞳を震わせながら、強く頷き

手にした縄で、松吉の腕を縛る。

 そして、ぼう然としたままの松吉を引き連れて

おハツの居る家の方向へ歩き出す。


 そんな様子をただただ見ているだけの村人の中から

留吉が前に進み出て、長老に詰め寄る。


「長老! 本気でいってるんですかい!? あれはどう見ても松吉さんでさあ! 何ヶ月も一緒に居て、ぼろを出さねえ偽物なんて居ねぇ! そもそも、長老のお墨付きで、皆が納得したんじゃねぇですか!」

「そうじゃ、わしもまんまと騙されてしまったという事じゃ。奴らは最初から、村に混乱を齎すため、紛れ込んだんじゃ」


 長老から語られる『事実』に、村人達は愕然とし

留吉のように詰め寄る者、ぼう然とする者、

おろおろと右往左往する者、未だに天を仰いだままの秋吉を含め

混沌としていった。




 安次は松吉を引き連れ、おハツの元へと辿り着く。


「安次さん! これはどういう事!? 松吉さん! 松吉さん!」


 おハツは、松吉に駆け寄り呼びかける。

 安次は、胸が締め付けられる感覚を押し込め

おハツを押しのけ、床に座らせ

松吉へと向き直り、その頬を叩く!


 ──ぱしぃぃん!!


まっつぁん! 目をさませ!」


 松吉は少し目を泳がせた後、我に返る。


「──!! やっさん! これはどういう──」

「時間がねえ! これを読んでくれ!」


 松吉の声を遮り、安次は一通の手紙を松吉の胸に押し付ける。


「……手紙?」


 松吉はおずおずと手紙を開き、目を通す。



 ──松吉、こんな事になって本当にすまない。


 しかし桃での若返りの生き証人である二人が

村に残っている限り、桃待ちをする者達は諦めぬ。


 それは、掟で縛ったところで

無くならないどころか、不満が募り

老人達から二人への風当たりが強くなるのも

目に見えている。


 これから子を産み、育てる為には

心身への負担は禁物じゃ。


 だから、それらと距離を置くため、

心苦しいが、追放という形を取ることにした。


 行くあてについては、心配しなくとも良い

新たな住処を建てるための土地は確保し

家は隣村の大工に依頼してある。


 家はまだ出来ておらんが、

出来上がるまでは安次が使っていた木こり小屋を使ってくれ。


 出来るだけの事はする、じゃから……生きるのを諦めないでくれ。


 ────源造(げんぞう)



「長……老……」


 松吉は涙を堪え、おハツにも手紙に目を通させる。

 安次はそれを見て二人に向かって言う。


「まあ……そう言う事だから、俺の猿芝居(・・・)に、もうちょっとだけ付き合ってくれよ?」


 松吉とおハツは安次に伴われ、人目に触れぬように

最低限の荷物だけ持って村を脱出した。

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