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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
25/67

桃待ちと長老会の決定

 松吉とおハツが若返ってから

数か月がたち、当初冗談交じりに『桃待ち』等と

呼ばれていた行為が、村での問題として

取り沙汰される様になっていた。


 桃待ちをしているのは、専ら老婆であり

そのかん、女達は家事も、農作業などの仕事も放棄し

日がな一日、川沿いに待機し川上を睨みつけている。


 あれから月日が経ち、とうに桃の季節などは終わっているのだが

執念という物なのか、女達は諦めない。


 村の者達からは苦情が毎日のように長老に寄せられ

長老も、何度も対処しようと働きかけたが

桃待ちをしている女達と、その夫の一部から強い反発が出る。


 驚くべき事に、桃待ちを支援している旦那も

少なからず居たのである。


 ──そして、事件は起きる。




「わー! やっぱり、おらの舟が一番だぁ!」

「なにをー! おらの舟だって負けてないぞー!」


 やいのやいのと、子ども達が葉っぱで作った舟を

川に浮かべ競争させて遊んでいたが

そのうちの一人が、どこから見つけてきたのか

大人の掌ほとの大きさがある朽ち木を拾ってきて

水に浮かべて『舟』だと言って遊び出す。


 それを見た他の子らも、その大きさ、

簡単には沈まない安定性に魅了されるまで

たいした時間はかからなかった。


「すっげえな! 間違いなくお前の舟が最強だ」

「次、おれにも貸してくれよー」


 皆でその舟で遊んでいる内に、最後に使っていた子供が

朽ち木(ふね)を取り損ねる。


 それは、どんどん下流へ流れ

桃待ちをしている老婆達が待ち受ける

河原へ付近へと流れていく。


 子ども達は、朽ち木(ふね)を失いたくない一心で

必死に追いかける。


 一方、老婆達は

待ちに待った『桃』かと空見し、我先にと

なりふり構わず川の中へ押し寄せる。


「これはあたしのだよ!」

「いいや、あたしだね!」


 互いが互いに、蹴落とし踏み倒す勢いで

朽ち木を奪い合い、そのうちの一人が

ついに朽ち木(それ)を手にする。


「なんだい? だだの腐った木かい……」


 死力を尽くして勝ち取った物が、ごみであったことの

落胆は大きい。

 ちょうどそんな折、子ども達がやってきて

老婆達が舟を回収してくれたんだと思いお礼を言う。


「ばあさまがつかまえてくれたのか! ありがとう!」


 加齢によって凹んだ目がぎょろりと、子供を睨む。


「あんた達が、こんなごみを流したのかい!」


 老婆は怒りに任せて、朽ち木を地面に叩きつけ、踏み砕く。

 それを見た子ども達は、恐怖に体が竦み、声も出ない。


「こんな物のせいで、肝心な『桃』を見逃したらどうするつもりだい!? あんた達が責任取ってくれんのかい!?」


 追い打ちをかけるように、次々と罵声を浴びせ続けられ

子ども達の中には泣き出したり、漏らしたりする子供が出始める

このままではいけないと、ガキ大将が勇気を振り絞り前に出る。


「おら達は、舟で遊んでただけだ! なんもわりい事なんてしてねえ!」

「……なんだって?」

「そ、それに川は皆の物だ! 婆さん達の為だけにあるんじゃねぇ!!」

「言いたい事はそれだけかい……?」

「え……?」


「言いたい事はそれだけかって言ってるんだよ!!」


 老婆は、完全にガキ大将を標的に定め

手近にあった棒で、激しく打ち据える。

 ガキ大将は余りの痛みに泣き叫ぶ

しかし、老婆は怒りのまま罵声を浴びせ、棒で打ち付け続ける。


 ようやく我に返り動けるようになった子が

家に逃げ帰り、親を連れてくるまで、それは続いた。




「これは困ったことになった……」


 長老は思わず漏らす。


「まさか、おトラがあそこまでするとは……」


 そう、怒り狂って子供を甚振っていたのはおトラだった。


 ほんの少しの差で、桃を取り逃したという事実が

おトラの中で、おハツに桃を奪われた。という思いに変わり

表面上こそ、気にしてないように振る舞っていたが

その実、誰よりも執念深く桃を追い続け、最後の一人になっても

続ける覚悟を持っていた。


 今回、そんな深すぎる、どろりとした思いが

暴走した結果、起きた事件である。


「これは、『長老会』を開く外ないな……」


 長老会とは、この村の長老である自身と、

男年寄りの年長者から順に七人、それに加えて

最寄りの神社の神主、隣村の長老の二人を招き

計十人で行う会議であり、その決定には強制力を持たせるため

破った者には、厳しい罰を与える事になっている。


「はあ……、余所に自分の村の恥を広める様で、開きたくは無かったが、こうなってしまったらやむを得ん」


 長老の嘆きは、誰の耳に留まるでも無く

空中に浮かんで、消える。




 長老の迅速な手配により、当月中に長老会が開かれる事となった。


 長老会が開かれるまでの僅かな時間でさえも

桃待ちは行われていて

おトラの一件からその数を減らしはしたが

未だ何人も河原へ張りつく老婆はいた。


 もちろん、おトラの姿も確認できる。




 そして、長老会当日。


「長老会に、わしじゃ無くて、やっさんが呼ばれた?」


 驚く松吉に安次は、長老に説明されたことを伝える。


まっつぁんの、その見た目で長老会に出るのは、納得しない者が出るかもしれないって言うんで、まっつぁんを抜いて、繰り上げたら、俺が入ってきたって話だ」


 松吉は確かに、と頷いた後

感慨深げに言う。


「やっさんも、年を取ったな」

まっつぁんは、若返ったけどな」

「違いない」


 二人はは笑い合ったのち、安次は長老会へ

松吉は、それを見送った。




「皆様、良く集まってくださいました。御礼申し上げます。これより、長老会を始めたいと思います」


 長老の挨拶で会議が始まる。


 先ずは事情に明るくない、招待された二人に

丁寧な説明がなされる。


 川で拾った桃を食べ、若返った二人の事。


 それを羨ましく思った、老婆達が第二の桃を求めて

川岸に居座り、普段の生活を放棄している事。


 制止しようとしても、夫にも理解者が居り、それらが反発すると

村としては無視できない数になり、困ったことになっている事。


 そんなにっちもさっちもいかない状況で

老婆達の桃を得たいという欲求が満たされず

つい先日、子供に大怪我をさせるという事件が起こってしまった事。


 恥も外聞も捨て、包み隠さず話す。


「そんな事が……」

「それは問題ですね」


 隣村の長老は絶句し、神主は難しい顔で考え込む。

 長老は、二人以外の出席者に視線を戻し言う。


「他の皆も、意見や提案があれば、是非言って欲しい」


 そこから本格的な話し合いが始まり

最終的に、桃待ちへの対処が決まったのは

日も落ち、すっかり夜になった頃だった。


 夜遅くなってしまったので隣村の長老と、神主には

受け入れられる家に泊まって貰うことになり、

各々解散という形になった。


 しかし安次は、その場にのこり

長老に追い縋っていた。


「長老! 本気ですかい!? あれじゃあいくら何でも、まっつぁんとおハツ(はっ)ちゃんが可哀想でさぁ!」

「落ち着け安次! これは長老会での決定じゃ! それに……」


 長老は安次にそっと耳打ちをする。

 すると安次の表情が変わり、長老を見る。


「本気ですかい? そりゃあ……」

「ああ、本気じゃ。だがしかし、完成までのあてが無い、安次は心当たりは無いか?」

「それなら、昔使ってた──」


 二人は他の者に、気づかれないよう

周囲に気にしながら、秘密裏に話を詰めていくのだった。



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