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【妄想異伝】曰本昔話 ももたろう  作者: 天華L
第2部 桃太郎編
24/67

希望と憂い

 長老の協力を取り付け、安次とわかれ

家には、松吉とおハツの二人きり。


「婆さん」

「お爺さん」


 二人で同時に声を上げる。

 そのことに気恥ずかしさを覚え

顔を赤くして下を向く。


 そして二人とも顔を上げる。

 おハツは微笑み、暗に松吉に続きを促す。

 それを承けて松吉が口を開く。


「わしら……本当に若返ったんじゃなぁ」

「そうですね……」

「ところで婆さん……うーむ、その見た目で婆さんは無理があるかもしれんな」

「確かに……そうですね」


 松吉は意を決して、おハツの名前を呼ぶ。


「おハツ」

「はい、松吉さん」


 気恥ずかしいような、なんとも言えない感覚が背筋を伝うが

それをぐっと堪えて、言葉を続ける。


「わしら二人、若返った訳じゃろう? と言うことは……子供を作ることも出来るんじゃあ……無いか?」

「私も、そのことを考えていました」


 二人は目を合わせ頷き、手を握りあう

その夜、二人は数十年ぶりに燃えあがった。




 ──翌朝。


 コツンコツンと、戸に何かがぶつかる音で

目が覚める。


「なんじゃ? こんな時間に……」


 松吉は戸を開けて顔を出すと

そこには村の子ども達が集まっていた。


「げっ! 出てきたっ! ほんとにこれが松吉爺さんかよ!」


 大人達の言ったとおり、若返った様子の

松吉が出てきたことに、驚き

隣の子どもを肘でつついたり、内緒話をしたり

そんなこんなをした後、結局何も言わずに逃げていった。


「何だったんじゃ?」


 すると、おハツも起き出してきて

松吉に尋ねる。


「どうしたんです?」

「いや、村の子ども達が来たんじゃが、結局何も言わずに行ってしまった」


 それを聞くとおハツは、なるほど。と呟いて

松吉に話す。


「きっと、安次さん達が皆に伝えてくださったんですよ。それで、好奇心の強い子ども達が見に来た、と」

「そういう事か……」


 それから、僅かな時間が経った時

戸が叩かれる音がする。


「松吉さん! いますかい?」


 今度の来訪者は、聞き慣れた声だった。


「今度は留吉か?」

「その様ですね」


 二人で、出迎えようと軒先へ顔を出す。


 すると留吉の後ろには、大勢の若い衆が控えており

皆一様に、驚いた顔を見せる。


「なんじゃ? 皆で見に来たのか」


 松吉は呆れて言う。

 それに対し留吉は、照れ笑いを浮かべて

頭を掻く。


「面目ないです。若返った人なんて、そう見れる物じゃ無いじゃないですかぁ」


 他の若い衆も、そうだそうだと頷きあう。


「それに、俺達と殆ど変わらない歳に見えるなんて。これは、ばあさま達が黙ってねえだろうなぁ」


 留吉が不穏なことを言うが

間もなく、それ(・・)は現実となる。


 村の若い衆連中が帰った後

村の女年寄り達が大挙して押し寄せる。


「ほんとにおハツちゃんなのかい!?」


 おトラは開口一番、目を剥き言い放つ。


 そこからは、年寄り達になめ回されるように

隅々まで眺められる。


「はぁ~、羨ましいわぁ。髪にはつやもあって、肌には張りもある。私のような、ぼさぼさのしわしわとは、比べものにならないわぁ。若いって良いわね」


 誰とも言わず、愚痴ともとれる言葉を漏らす。


 そんな様子におハツは乾いた笑いを浮かべるしかなく

されるがままに立ち尽くす。


 すると突然おトラが声を上げる。


「あらいけない! つい、長居しちまったよ。悪いね、おハツちゃん」

「いえ、そんな事は……」


 おトラの一声で、引き波のように

皆、一斉に帰って行く。


「何じゃったんじゃ? あれは……」

「次は、お爺さん達でしょうか?」


 おハツが思わずこぼす。

 しかし、松吉は違う意見だった。


「いんや、爺さん達は自分からは来んだろう。へそを曲げられても困る、全員のところへまわらんといかんじゃろうな」

「ああ、確かに」


 二人は朝の支度を手短に済ませ

年長者の家から順に、一見無意味ともいえる、

顔見せ(・・・)をしてまわった。


 それが終わる頃には、昼を少し回っていた。


「松吉さんの言うとおりでしたね。皆、満足そうな顔をしていました」

「年寄りなんてそんなもんじゃ。わしも逆の立場なら、同じだったろうな」


 苦笑いを浮かべる松吉を、おハツは微笑ましそうに見つめていると

ぐぅと松吉の腹が鳴る。


「帰るか、流石に腹が減った」

「ええ、そうですね」


 二人は家へと向かって歩き出す。




 昼食を食べながら、午後の予定を話し合う。


「結局何も出来なかったな、午後からはどうしたものか」

「私は、昨日洗えなかった分の着物を洗濯に行ってみようと思います」

「そうか、わしも柴刈りの途中じゃったな。どれ、わしも昨日の続きとするか」


 昼食を食べ終え、それぞれの予定をこなすために動き出す。


 松吉は昨日と同じ出で立ちで、同じ山に入る。

 しかし、明らかに昨日とは様子が違う。


「こりゃあ凄い、全く息切れせん! これならいくらでも仕事が出来そうじゃ」


 松吉は、いきいきとした表情で

次々に薪を集めていく。




 一方、おハツの方も昨日とは違っていた。


「何……かしら?」


 いつも洗濯をしている場所に、何やら人集りが出来ている。

 その中におトラを見つけ、おハツは声をかける。


「おトラちゃん、これは何の騒ぎかしら?」

「あ、おハツちゃん。ばあさま連中が自分も若返りたいって、桃が流れてこないかと待ってんだよ。馬鹿だよねぇ」


 おトラの身も蓋もない言いように、おハツは

軽く愛想笑いをし、おトラの隣で洗濯を始める。


「でもさ、あたしもどんな風に桃を取ったのか、興味があるね。詳しく、聞かせておくれよ」


 おハツは、その位ならと快く承諾する。


「おトラちゃんが帰ってすぐくらいかしら? 向こうの方から桃色の何かが流れてきて……」

「ふんふん、向こう岸の方から……それは間違いないのかい?」

「ええ、最初に目についた時はその辺りから流れてきて来てたわね」

「その辺に桃の木なんてあったかしらね?」

「聞かない……わね」


 おトラは、はっとして小さく頭を振り

おハツに続きを促す。


「それから桃だって気づいて、なんとか取ろうとして、長い棒を探して……」


 おハツは、棒で取ろうとしたが届かず

夢中になるあまり川に入って、結局手でつかまえた話を

身振り手振りを交えて、おトラに話す。


「あっはっはっ! おハツちゃんは結構無茶するね! あたしと変わらない年寄りだったのに」

「松吉さんにも、年寄りの冷や水(・・・・・・・)って言われたわ」


 おトラと、それ以外の話もしている内に

おハツの洗濯物が終わる。


「こっちの洗濯は終わったので、そろそろ帰るわね」

「ああ、お疲れさま!」


 何気ない挨拶を交わし、おハツは荷物をまとめて

川から離れる。


 家へ帰る途中、一人で畑仕事をする安次を見かける。


「あら安次さん、今日は一人?」


 安次は、その声に気づき振り返る。


「誰だ……? って、そうか! おハツ(はっ)ちゃんか。その格好なら、川へは行ってきたんだろう? おサキも、あん中に混じってんだよ。全く、仕事どころか家事すらもしないで『桃待(ももま)ち』だとさ」

「そうなの……見当たらなかったけど、居たのね」


 おハツは、自分のせいで

こんな状況になったようで、申し訳なさを感じていた。


「なんか、ごめんなさいね」

「はっ! おハツ(はっ)ちゃんが謝ることじゃねえさ。とっとと飽きてくれれば、それで良いさ」


 おハツは軽く会釈をして、その場を立ち去る。

 安次も片手を上げて、またな! と見送る。


 帰り道、おハツは色々な事が頭を巡る。


 自分のせいで、大事(おおごと)にならなければ良いが、と

この時のおハツは、祈ることしか出来なかった。


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