表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/67

鬼の明日へ

 その日、鬼ヶ島は喜びと悲しみ、

両方に包まれる事となった。

 白との別れに沈む一方、

ウラと白との子の誕生を祝った。


 両人の子は、珠のような女の赤ん坊だった。


 名は、白を忘れぬようにその字を入れ、

ウラの力を、少しでも受け継ぐようにと、一画足し、

魂を百集めて出来た子のように

丈夫になるようにとの願いを込めてよ

ビャク』とした。


 百の容姿は、父譲りの黒い髪と短い角

母譲りの白い肌、牙らしき物も見当たらず

その見た目は『人間』とほぼ変わらない。


 ここまで来ると、上位魂魄というよりも亜人(あじん)

呼ぶ方が適当に思える。


 ウラは、桃を使い続ければ、島に

白や百の様な、力を持たない者ばかりに

なる事を知っている。

 何も知らずに、そこへ至れば

皆の混乱は、想像に難くない。


 ウラは、今が潮時と

神仙桃の効能を皆に伝える事に決める。




 ウラは今まで秘してきた神仙桃の所謂、不利益とも言える部分を

公表するため、機を見て、皆に招集をかけた。


「先ずは、集まってくれた事、礼を言う。皆に集まって貰ったのは他でも無い、神仙桃の真の効能について知ってもらうためだ」


 聴衆はいまいちピンと来ない様子で

不安な様子で聞き入っている。


「皆には、神仙桃が『百の人間の魂』の代替になる、とだけ伝えたと思う。しかし、当時は伝えぬ方が良いと判断し、秘してきたことがある」


 ウラは、皆の動揺を感じ取り一旦待つ。

 すると、謡がウラに問う。


「それは、シキョウ様の判断でしょうか?」


 ウラは謡を見て頷く。


「そうだ、最終的な決定はシキョウがくだした。だが俺も、当時の状況では、それが最善だろうと反対意見を言うことは無かった」


 その言葉を聞き、謡は納得したのだろう、深く頷いて

ウラの話の続きを待つ。


 ウラと謡のやりとりで少しは落ち着いたのだろう。

 先程よりは、静かになった様だ。


「先ずは、魂の代替だが、これは間違いない。安心して欲しい。皆に伝えなかった効果は、桃を使い、代を重ねるほど鬼の力が減少する事だ」


 この言葉に、句や灰の世代がどよめく。


「しかし、これも微々たる物というのは、句や灰を見れば明らかだろう。だが……白のように、稀に極端にその効果を受けてしまう事もあるようだ」


 白の名前を出す直前、僅かに言葉を詰まらせたウラに

一同は、しんみりとした空気になる。


「だが鬼の力の減少と共に、子を成すために必要な魂の数もまた、減少するとのことだ。だから俺達『四鬼』は、無理なく魂を集められるくらいになる迄は、桃の使用を推進した」


 その後、幾つかの質問にも誠実に答え

全員の、一応の納得を得る。




 集会を解散した後、卯堂が歩み寄る。


「なるほど、鬼が人を喰らうのは理由があったのだな」


「そうだ、と言いたいところだが違う。鬼の気性は基本的に好戦的だ。魂を集めるのはついで(・・・)という者も居ただろう。失望したか?」


 ウラは試すように問う。


「いや、変わらんよ。種を繋ぐのに必要ならば、人間としては非情かもしれんが、それが『自然しぜん』なのだろう」


 思った通りの達観ぶりに、ウラは思わず笑みをこぼす。

 つられた卯堂も笑いながら言う。


「ふっふ、何よりいつ死んでもおかしくない年だ。変わろうと思っても変われんよ。もっとも、『鐡鬼衆てっきしゅう』の備が完成するまで、死ぬつもりはないが」


 鐡鬼衆とは、鐡の甲冑を纏い戦う男鬼の総称として定め

最強と謳われた黒鬼の祖『徹鬼』を意識している。


「頼りにしている」


 ウラの偽りの無い言葉に満足したのか

卯堂は、自分の居場所へと戻っていく。


 その背を見送った後、ウラは百を世話している、

空の元へと向かう。


「空、いつもすまない」


 空はどうって事ないと笑ってみせる。


「そもそも、万一の時はアタシが面倒みてくれって、白とも約束してあったからさ……」


 自分で言って、自分でしんみりとしている空に

なんと声を掛けたら良いか分からず見守る。


「ま、しんみりしてたって、しょうがないさ! 女手が必要なときは、いつでも言っとくれ」


 女は強い生き物だ、ウラはしみじみと思う。


「ありがとう」


 そう言うウラを見て、空は嬉しそうに笑う。


「この子が大きくなる頃にはさ、今みたいにコソコソ隠れなくても良い世の中にしとくれよ」


 ウラは強く頷き、宣言する。


「神仙桃頼らずとも、自らの手で繁栄していける『新たな鬼の形』を完成させてみせる」



 ──それから幾年もの年月が過ぎる。



 鬼ヶ島には、その数を徐々に増やし、

かつての賑わいを取り戻しつつある鬼の姿がある。


 それを眺め、ウラは一人で満足そうに頷く。


 あの時の言葉通り、ウラは鐡鬼衆の鍛錬、製鉄、鍛冶のみならず

生活していく上で起きる諍いの解決や、鬼が独力で生きていく為の

仕組み作り等、鬼ヶ島にまつわる全て(・・)と言える

事柄に精力的に取り組んだ。

 

 ここ数年で、鬼ヶ島での生活は様変わりしていた。


 狩猟中心で、足りない物を人間から買うという

今までの様式は、今も続いているが

鬼達が作った鐡を用いた農具にて、

小規模ながら農業にも着手しており

島を散策すれば、幾つかの畑と

作業に勤しむ鬼達の姿が見えるようになった。


 防衛の面では、鐡鬼衆が各々特色のある甲冑を纏い

その勇壮な姿に、子供達の憧れの的となっている。


 もちろん、実力は折り紙付きだ。


 彼等の甲冑は、言わば卯堂の遺作だ。

 鐡鬼衆達の求める物を、数え切れないほどの

打ち合わせの末、完璧に再現してみせ

最後の一人の一備を作り上げ、間もなく逝った。


 職人の意地を見せた卯堂に

鐡鬼衆は、鬼と人間という種族を超え

心からの敬意をもって、弔った。


 ウラは過ぎ去った年月を振り返りつつ呟く。


「まだまだ、道半ば……と言ったところか」


「ホッホッホ、そうじゃな」


 ウラは視線を向けずに、声の主に問いかける。


「桃仙か、何をしに来た?」


「ホッホッホ、そう邪険にする出ない。おぬしに知らせねばならぬ事が出来た、だだそれだけじゃ」


「知らせなければならない?」


 ウラは桃仙を見る。

 桃仙は相変わらずの笑みを浮かべている。


「ホッホッホ、そうじゃ。近々、鬼の存亡をかけた戦いが起こる。そして舞台は……ここじゃ」


 桃仙は地面を指差して言う。

 その言葉に、ウラは目を大きく見開く。


「ここで、だと!? ようやく軌道に乗り始めたというのに!」


「ホッホ、どのみち戦いから生き延びねば『皆殺し』じゃ。心してかかるんじゃな」


 そう言いつつ、桃仙は背中を向け歩き出す……が

一旦立ち止まり、ウラに問う。


「──ところで、おぬしの得物(・・)……名は何というのじゃ?」


「潰尽の事か。名は特にない……」


「それはいかんの。名には力が宿ると言うし、決めてみてはどうか?」


 桃仙の提案に、ウラはしばし考える。


「そうだな……『開陣かいじん 白溫びゃくおん』としよう」


「開陣は、潰尽の音に、別の字をあてたとして、白溫? 白は、あの変異体の娘か……?」


「俺の名は『溫羅ウラ』だ」


「ホッホッホ、そうかそうか。想いの詰まった良い名前だ。では、生きていたら(・・・・・・)また会おう。ではな、溫羅」


 今度こそ、桃仙は帰って行く。


「──!! 奴が名前を呼んだだと!?」


 勢いよく振り返ったウラの目には桃仙の姿が映ることはなく

代わりに、小さな人影が飛び込んでくる。


「父! ……誰か来てたの?」

父上(・・)だろう? また、空に叱られるぞ」


 ウラの娘、百だ。

 百は、鬼としてはとうに成人していても

おかしくない年頃にもかかわらず

あどけない少女の様な雰囲気を

色濃く残していた。


「空はうるさすぎ! あれはダメこれはダメって」

「そう言ってやるな、空とて、百の事を思えばこそ」


 ウラが、在り来たりな言葉で諭すと

百はにっこり笑って


「うん、分かってる。私も空の事は大好きだもん! でもね──」


 百が笑顔で、空への思いをあれやこれや喋っているのを

半分くらい聞き流し、ウラは心に誓うのだった。



 この笑顔を、この身に代えても必ず、守ってみせる。

鬼編は一応の区切りとなります。

お付き合い、ありがとうございました。


桃太郎編も、続けて投稿していくので

そちらも、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ