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繋がれた命

 あれからしばらく経ち、

白のお腹もだいぶ大きくなり、

その子が産まれるのを、皆で今か今かと

待ち遠しく感じている頃。

 ウラの元に一つの知らせが舞い込む。


 ──都で、占が討ち取られた。


 その報せを受けたウラは勿論だが

しかし、それ以上に衝撃を受けたのは白だ。

 身重な体をおして、起き上がろうとする。

 

「白は、休んでいろ」


 ウラは、そんな白をなだめ

知らせてくれた女鬼に、事情を尋ねる。


「どういう事だ? 食料調達の時以外は、都へ行くことは、禁止していたはずだが?」


 聞くに、食料調達班が都へ行った際に

大々的な立て看板と共に、見世物にされている

占の晒し首を見たという。

 ウラは、より仔細な情報を得るため、

目撃者の女たちの元へ向かうことにする。


「白、俺は詳しい事を聞いてこなければならない。空を呼んでおくから、お前は安静にしていてくれ」


 白は、そう言うウラに頷いて見せ、その背中を見送る。

 やがてウラの姿が見えなくなった頃

白は、顔を隠して泣いた。


 しばらくすると、白の元へ空がやって来る。


「白、聞いたかい?」


 白は再び溢れてくる涙で、顔をぐしょぐしょにしながら

嗚咽と共に頷く。


「今回が最後だって言ってたのにさ、その最後で死んでりゃ、世話無いって話だわさ」


 空は辛辣な言葉を吐きつつ、その顔は悲しみに暮れ

涙を流している。


「白、アンタのせいじゃないさ。だから、自棄(やけ)になっちゃいけないよ」


 空が優しい言葉をかけるも

白の自責の念は、未だ心に重くのしかかる。


「大……丈夫よ。もともと覚悟はしてた」


 震える声で言う白に、空が叫ぶ。


「だからそれじゃ、ダメだって言ってるのさ! じゃないと……占が報われないじゃないのさ」


 そのまま抱き合い、互いに涙した。




 一方、ウラは買い出し班の女たちに

直接話を聞いていた。


「産婆に化けていた……? そう、書いてあったのか?」


 ウラの問いかけに、女たちは首肯し、

立て看板の内容を(そら)んじてみせる。


 ──この女鬼、産婆に化け母子の命を狙い候。

 いち早く気付きし、我が(たつみ)家家臣、

子津ねづ 奇一きいち』らの手により討ち取り候。

 尚、この女鬼をかくまったとして、老婆一人も打ち首に処した。


「ふむ、確かに。だが、一体どういう訳だ? 鬼には産婆など居なくとも、子を取り上げるのに苦労は無いはず……まさか!?」


 ウラは走り出す、白の元へと。




「白! 居るかっ!」


 飛び込んできたウラに、おどろく様子も見せずに

白と空が、どこか諦めたような表情で並んで座っている。


 こうなる事が分かっていたかのように。


「ウラ、アンタなら大凡のあたりはついているんだろう?」


 空の言葉に、ウラは沈痛な表情を浮かべ

静かに頭を垂れる。


「白……お前まで……」


 崩れ落ちそうになるウラに空が手を貸す。

 その様子を見ていた白は、ひとつ深呼吸をする。


 それは、深呼吸と呼ぶのも憚られるほど長く

息が続く限りの時間を持ってして

様々な感情を押し込めようとするようにすら見えた。


「おじ様……いえ、ウラ様。順を追って、お話しします」


 覚悟の見える白の様子に、黙って頷き

ウラと空は白に体を向け、腰を下ろす。


その様子を確認し、白は語り出す。


「以前、人間の知識を学んでいたときに、何人かの病人にふれる機会がありました。とはいえ、重症ではありませんが。彼等曰く、『日常的な物』であると言っていました。それらの病は私には、とても見覚えが……いえ、身に覚えがありました」


 白は、小さく息を吸う。


「私の体調を崩したときの症状に、とても似ていたのです」


 桃仙の話によれば、鬼は元々人だった。

 であるとすれば、症状が似てきても不思議は無い。

 しかし、鬼は殆ど病にかかることは無い。

 白の『しゅ』は、神仙桃の影響を強く受けた結果

人間の『それ』に近づいていた。


「私は偶然を疑い、更に人間の病気についてや、その対処法について調べることにしました。その時、ある人物と会います」


「ある人物?」


「はい、仙人(・・)と名乗る老人でした」


 ウラは愕然した。

 あれ程、皆の前に出ようとしなかった桃仙が、

自ら白の前に現れたというのか? と。

 ウラは、居ても立ってもいられず白に尋ねる。


「その老人の名は?」


「──桃仙と」


 やはり、という思いを抱くウラ。

一体何を企んでいるのか?

そんな思いに駆られるウラを余所に

白は話を続ける。


「桃仙は、初見(・・)で私の変化を見破りました。と言っても、私の変化は、角を隠す程度ですが」


「まあ、奴なら識っていたのだろうな」


「ウラ様も、知っているのですか?」


 ウラは頷き言う。


「俺も桃仙には会ったことがある。奴はおそらく、鬼の全てを識っている」


「そう……ですか」と、白。

 それならば話が早いとばかりに話し出す。


「彼は私を見て、『想像以上に人間』と、言い放ちました。そして様々な事を語り始め、肌の色の事、病気の事、果ては大凡の寿命にまで言及し、最後の最後に、『人間の出産は命がけじゃ、努々(ゆめゆめ)忘れぬ事じゃな』と言い、去って行きました」


 ただの助言か? ウラは訝しむ。 


「私は子を産みたい。しかし命を落とす可能性が高いと思っています。鬼にとって、出産による身体的負荷は大きくありませんから、命を落とさせない為の技術は、人間の様に発展するはずも無いのですから」


 ここで、空が口を開く。


「故あって、アタシと占はその話を聞くこととなった訳さ。それで、アタシは白の身の回りの世話を、占は人間に化けて、産婆に弟子入りしたのさ」


 ウラは、そこまでする道理が思いあたらず

思わずこぼす。


「なぜ、お前達がそこまでしてくれる?」


 空は、やれやれとため息をつき

ウラに言う。


「もちろん、白の為でもあるけど……一番は、アンタの為だよ!」


「俺の為……?」


 明らかに困惑するウラに空は微笑む。


「ウラを昔から知っているアタシや占は、シキョウやグテツ、それにリシンの事で、自分を追い込んじまってるアンタが見てられなかったのさ! そもそも、何で狩りもそこそこ出来て、子を産んでもいない、アタシと占が島に残ったと思ってんだい?」


 ウラには答えが出ない。

 空はウラに近づき、はっきりと伝える。


「アタシも、占も、アンタの事が好きだったからさ。もちろん、こっちに振り向く事は無いと分かっていたけどね。それでも、いっぱいいっぱいのアンタを見ているのはつらい物があったのさ。じゃあ、どうやったらウラが幸せになれる? って話し合った結果が、白の想いを後押しする事だった……って訳さ」


「それじゃあ占も、俺のせいで死んだのか?」


 空は、盛大にため息をつく。

 白ですら苦笑している。


「だからそうじゃないって言ってんのさ! 占の悔いるんじゃなくて、想いに報いてくれなきゃ、困るんだよ」


 ウラは軽く咳払いをする。


「そうだな。これまで以上に鬼の未来を、そして、俺の幸せ(・・)を守るため戦おう」


 ウラの言葉に強く頷く二人、これから来る大一番に向け

大事なのは栄養と体力と考え、食事と適度な運動と

充分な休息を持って備えた。




 それから間もなく、その時は来る。

 白が産気づいたのだ。


「ウラっ様! はぁはぁ……!」


 白の伸ばした手を、両手で包み白に応える。


「大丈夫だ、ここに居る」


 ウラの温もりを感じてか、白の表情が僅かに緩む。

 しかし直ぐに、苦悶の表情に戻る。


 ウラは即座に、人を呼び準備を整える。


 子を取り上げた事のある、女鬼と

気心の知れた、空や謡を補助として動員し

ウラが見守る。


 それからは長い戦いだった。

時に汗を拭い、時に手を握り励まし

水分補給を勧めたりと

各々、自分に出来ることを尽くし

白と共に戦った。


 やがて赤ん坊の頭が見えて来た頃。


「いけないっ! 血が、血が止まらないよっ!!」


 産婆役をしていた女鬼が叫ぶ。

 一同に緊張がはしる。


「白! しっかりおし!」


 空も叫び、女鬼に向いた視線を

再び白に引き戻させる。


 白は虚ろな目で、空中を掴む。

 ウラはその手を取り、白に届かせようと叫ぶ。


「俺はここだ! しっかりしろ!」


 白はかすれる声で、何かを言っている。


「ウっ! ラ……様……。赤ちゃっ! んを……よろしく……お願っ! い……します……」


 言葉を紡ぐたび、大量の血が噴き出す。

 その都度、身を捩り苦しそうにもがく。


「何を言っている! お前も共に生きるんだ!」


 ウラの言葉に、弱々しく微笑んだ白。

 その目には、一条の涙が伝う。


「ありが……とう……」


 それっきり、反応しなくなった白。

 血の気はすっかり失われて、明確に死の香りを感じさせる。


 また、それとは対照的に、生命の息吹とも言える

力強い産声が、その場にこだまする。


 ──ウラと白との、想いの結晶。


 新たな生命の誕生である。

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