表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/67

二人

「今日はこの辺にしておこう」


 ウラは汗を拭いながら句と灰に言う。


「やっと……か」

「もう、無理……」


 地面に伏したまま二人は呟く。


 あの後、幾度となく打ちのめされたが

最後までやりきった二人に

ウラは満足そうに頷く。


「鉄甲は使い勝手が良さそうだ、俺も取り入れよう。だが、灰。お前は直線的な動きが多すぎる、それは、どちらかと言えば黒鬼達向けの戦い方だ。お前の一撃は、黒鬼に匹敵するが、緑鬼故に、それ以外は肉体的に劣る。緑鬼の強みである鬼術を磨き、確実に叩き込める状況を作った方が良い。小石や砂埃で牽制するだけで、ずっと戦いやすくなるはずだ」


 灰は、言い返すことが出来ない。

 実際に、石ころを用いたウラに散々にやり込められていたからだ。


「それから句。お前の背後を取る技術や鬼術の巧さ、シキョウを彷彿とさせるものがあった。だが、臆病過ぎるきらいがあり、正面からからの攻めになると、途端に決め手に欠ける。これでは、後ろから攻めると言っているような物だ。お前は、正面から相手を打ち倒すための術を身に付けろ。そうすれば、相手は全方位を警戒せねばならなくなり、判断を誤り易くなり、より安全に戦えるだろう」


 句にもウラの言葉が刺さる。

 背後をとれても、視線も向けずに対処される回数が増え

正面からあたれば、途端に攻めあぐねいてしまう。


 要するに、今日一日は二人の長所短所を理解させ

解決の糸口を見つけさせる為の指導(・・)だった訳だ。


「もうちょっとやれるって思ってたんだけどなぁ。ウラさんって、こんなに強かったんだな……」

「そういえば、あんまり戦ってる印象ってなかったかも」


 投げやりがちに、ぼやく二人に

ウラは発破をかけ、立ち去っていく。 


「二人なら、どちらが『羌鬼』を継いでも不思議では無い。互いに励め」


 その言葉に、二人は跳ね起きる。


「聞いたか、今の!!」

「ウラおじさんが、あんなに期待してくれてるんだ!」

「俺にな!」

「僕だよ!」


 二人は、不穏な笑顔で相手を睨む。


「絶対、負けない!」

「絶対、負けねえ!」


 元気になりすぎた二人は、今度こそ

倒れるまで鍛錬を再開するのであった。




 ウラは鍛冶工房へ戻る。

 近頃はここで寝食を済ませることが多くなっていた。


 夜間は、誰もいないはずの工房に誰かの気配を感じる。


「卯堂か……?」


 ウラは慎重に、気配がする方へ向かう。

 どうやら、寝床にしている場所に居るようだ。


 寝所の板戸の前まで来て、ウラは深く呼吸をし

その扉を、そっと開く。


 ──女性?


 そこには、月明かりに照らされた女性が佇んでいた。

 女性は、ウラの気配に気付いた様で

ゆっくりと振り返り、微笑みかける。


「おじ様、お帰りなさい」

「白……か?」


 髪を結い、着物も普段とは違う雰囲気の物を纏っていて

肌や髪の色は、白のそれだというのに

ウラは、確信が持てなかった。


「ふふ、なんか、私が私じゃないみたい……ですか?」


「すまん、見たことも無い女性が居ると思ってしまった」


 正直なウラに、白は柔らかく微笑む。


「空が、してくれたんです。今日は、精一杯おめかしした方が良いって」


 白は恥じらいながらも、空にして貰った着付けや化粧をウラに見せる。


「そうなのか? ところで、わざわざここへ、足を運んだんだ、俺に用事があるのだろう?」


 ウラはいつもの調子で、白に尋ねる。

 そんな様子に、白は少しばかり落胆するが

すぐに立ち直る。


「今日は、『ご褒美』を貰いに来ました」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべながら

ウラを上目遣いで見る。

 そんな視線も物ともせず、ウラは

ああ、製鉄の時の約束か。……等と考えていた。


「ようやく決まったのだな」


 ウラは、あまり褒美について触れてこない白を見て

何にするのか決めていないのだろうと結論付けていた。


「はい、やっと決心がつきました」


 そんな事とはつゆ知らず、白は

真剣な、それでいて熱のこもった目をウラに向ける。


 流石に真剣さが伝わったのか

ウラも居住まいを正して聞く。


「では、聞こう」


「私と……一夜を共にして頂けませんか?」


 白の精一杯の勇気を振り絞った言葉が

ウラへとぶつけられる。


「それは!? 俺との……子が欲しいということか? いや……」


 驚いていたのも束の間、突然、落胆の色を見せるウラ。


「そうか……、この島には今や、成人した男鬼は俺と、句と灰だけだ。にもかかわらず、桃をお前に渡し、無理矢理選ばせるような真似をしてしまったのか……すまない!」


「へっ!?」


 思いもよらないウラの暴走に、白も変な声が出る。


「ちっ! 違います! 私は! おじ様が良いんです!」

「無理をするな、句や灰ならいざ知らず、俺のような年の離れた……いや、待て消去法とはいえ、何故わざわざ年の離れた俺を選ぶ?」


 白はついに泣き出してしまう。

 空に施して貰った化粧も崩れ、

しゃがみ込んでしまった白を見て

ウラは、白が本気であったことにようやく気付く。


 ウラは、すぐさま白に歩み寄り、頭に手を伸ばす。


「すまん、その……俺はそういうのは、苦手でな。正直、良く分からない。お前が、どれ程本気なのかも、はかれなかった」


 白はウラにしがみつき泣きじゃくる。

 ウラはどうして良いか分からず、白の小さな背中を抱き

頭を撫で続けた。




 やがて、白は落ち着きを取り戻す。

 その間、ウラは片時も離れずに寄り添い続けた。


「……私、最初は恩返しがしたかったんです」

「恩返し?」


 昔を振り返りながら、喋り始める白に

その想いを汲み取ろうと、慎重にうかがっていく。


 白は小さく頷く。


「そう、恩返し。私は、親に捨てられた。それを拾い上げてくれた、おじ様に、何としても恩を返さなければ! と、幼心に思った」


 白は、ウラに向き直り問いかける。


「何故、私を拾った(・・・)のですか?」


 ウラは、あまり考えずに答える。


「特に意味は無い。鬼が育児放棄をするのは……今でこそ少ないが、俺の若い頃には珍しくは無かった。そういった場合、手の空いている者が面倒を見るもの。という風潮があった。それに従ったまでだ」


「肌の色が白で無くても、拾ってましたか?」


「おそらくな、目を引いた物があったのは確かだが。シキョウが繋いだ、鬼の数を減らすわけにはいかないという思いのほうが、強かったな」


「きっと、そう言うと思いました。おじ様は、他の誰とも違い、色や、力で私を区別していない。それに気付いた時、私は嬉しかった。だからもっと強く、おじ様の力になれるよう、色んな事をした」


 ウラは目を閉じて腕を組み、ふむ、と唸る。


「まだ幼い内から、買い出し班に混じったりしていたのは、そう言う事だったか」


 白は寝ている(・・・・)ウラを微笑ましげに眺め

言葉を続ける。


「そうですね、でもそれだけじゃ無いんです。ある程度の年になったとき、自分が女と言うことに気付きました。そして今、鬼の数が減っている……私が出来る、最大限の事は『子を産む事』では無いかと。ですが、私には桃を手にするための、強みが無い。他とは違う、力を手に入れる必要があった」


「それで、人間のついての知識を学んだ、か」


「はい、でも。思ってた方法とは、別の方法で桃が手に入りましたけど……」


 白は困ったような顔をしながら言うが

どこか嬉しそうでもあった。


「最後に相手を選ぶ必要がありました。私は鬼としての力は無い。鬼という種族を繋ぐためには、より強い鬼が理想です」


 ウラは神妙な表情で呟く。


「それで、俺に白羽の矢が立ったと言うことか。だが、白。それではお前の心はどうなんだ?」


 ウラの問いに白は、ぱあっと花が咲いたかの様な

笑みを浮かべて訂正する。


「おじ様、違いますよ? 私は、その結論に辿り着いたとき。本当に……本当に嬉しかったんです」


「どういう事だ?」


 ウラは理解できないとばかりに、顔をしかめる。


「私が恩を返そうとする思いは、いずれ恋慕へと変わる。しかし、恩を返すためなら、それさえも捨てようという覚悟でした。ですが、選ぶべき相手(・・・・・・)と、選びたい相手(・・・・・・)が同じだった。その時、はじめて自分の『運命』に感謝をしました」


「そうか……」


 ウラは、そこまでの覚悟に気付いてやれなかった、

自分の未熟さを悔いる。

 白は、そんなウラの手を両手で包み

目を見ていう。


「私と、契りを交わして欲しいんです」


 曇りのない白の瞳を受け、ウラは強く頷き

巨大化を解く。


「精一杯、お相手しよう」




 ──その日、二人は初めて体を重ね合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ