その日の為に、出来る事
ウラは鐡の甲冑の製作を進めつつも、
男鬼達と共に、基礎体力向上のための鍛錬、
実践形式の組み手、甲冑装着による試験を繰り返す
ある意味、戦いのような日々を送っていた。
それとは別に、人生においての大勝負を
控えている者が居た。
──『白』だ。
神仙桃獲得者に決まったあと、
速やかに受け渡しが行われた。
今回は、女鬼達の総意であるため、
戦う力の無い白であろうとも
奪われる心配はない。
「はぁ……」
──ため息。
もう何度目だろうか? 両手で大事そうに桃を包み
思い詰めたような顔で眺めては、先程の様にため息をつく。
桃をそっと置き、手で顔を覆い、頭を横に振る。
「どんな顔をすれば……」
そんな白の所に、二人の女鬼がやって来る。
二人とも、まだ桃を手にしていない鬼だ。
白は二人を見て、表情を引き締める。
「占と空だったかしら?」
占と空は、互いに驚いた表情で
顔を見合わせて、少しの間を置き、笑い出す。
「いやねぇ! 桃を奪いに来たんじゃ無いわよぅ、あっはっはっ」
「あははっ、そうそう! そんな事したら、他の鬼に袋叩きだわさ」
占と空が、あまりにも笑うため、白は更に表情を険しくさせる。
「じゃ、何の用?」
「ウラに、告白するんでしょ?」
「アタシらが、手伝ってやるって言うのさ!」
白は目を白黒させ、動揺する。
「な、ななななな……なんっで!?」
占と空は、おかしくてたまらず
涙を滲ませながら「もうやめて」等と言いながら
腹を抱える。
そんな二人の様子に、腹立たしいやら恥ずかしいやら
色んな感情が巡り巡ってむしろ、冷静になった。
「で、一体どういう風の吹き回し?」
白の刺々しさも、むしろ微笑ましく感じてきた二人は
穏やかな顔で、当初の目的を伝える。
「あんたの想い人がウラなのは、みんな知ってるよ。ウラもまた、あんたに気を許してる」
「そうさね、ウラも前よりは、皆のことを見てくれるようになったけど、未だに気を許しているのは、卯堂の爺さんと、白だけさ」
「…………」
白が大人しく聞いているのを確認した占は続ける。
「あたいらは、あんたならウラに寄り添えると思ってる……いや、あんたしか寄り添えない。……かな?」
「昔のウラを知るアタシ達としては、アイツには幸せになって欲しいんだよ。信頼していたシキョウを失い。対立しながらも理解し合っていたグテツを失い。……挙げ句の果てには、好きだった女にまで先立たれちまった」
「……リシンさん、ね」
白は小さく呟いた声を、占と空は耳聡くひろい
「そういう事」と伝える。
「ウラはきっと、四鬼が自分一人になってしまって、全てを自分ひとりで背負い込んじまう気でいるんだろうさ」
「前は、何を考えているか分かんない奴だったけど、今はあたいらにすら、
手に取るように分かっちまう」
「そんなに追い詰められてるのかと思うと、痛々しくて……見てられないじゃないのさ」
占と空は、沈痛な面持ちで語る。
白は、二人を見て思う。
これほどにウラの事を見ているのは、彼女らもまた
同じように思っているのでは無いか? と。
「よく見ているのね。あなたたちも、おじ様のこと……」
白の一言で、二人は慌てた様子を見せ
早口で反応する。
「は? ははっ! ないない! ウラが考え事をしているとき、黒鬼の男共が『寝ている』何て言ってたのを、言い得て妙だと、一緒に笑ってたくらいだよ!」
「そ、そうそう! だから、ウラとは何にもないんだわさ!」
白は、自分もこんなだったのかと
少し自己嫌悪に陥る。
本人達がああ言っている以上、追求しても意味がない。
「だいたい分かった。で、何をしてくれるって言うの?」
占と空は、我に返り白をまっすぐ見る。
「あたいらに出来ることなら、何だってするよ!」
「その日の為の人払いや、必要な物の調達、髪の手入れ……」
「ありがとう……でも」
白は、ここで一旦言葉を切り
自分の気持ちを落ち着かせる様に深呼吸をしてから
再び口を開く。
「おじ様に寄り添って生きていくのは、私にはきっと出来ない」
白が、どこか諦めたような顔で言う。
占と空は、ここまで言っているのにと、納得行くはずがない。
「一体どういう事なのさ!?」
「ウラとは別の相手でもいるのかい!?」
「そうじゃない、それは──」
白の口から紡がれた言葉は、占と空に大きな衝撃を与え
二人の今後の行動に大きな影響をもたらす事となる。
それから、占は島であまり見かけなくなり。
空は、白と一緒に行動しているのを、よく見かけられるようになった。
そんな様子を、今日は今日とて戦闘訓練をしている
句と灰が、口々に言い合う。
「白って空さんと、あんなに仲良かったっけ?」
「いんや……全員敵! って感じだったけどな」
句は苦笑しつつも、何度も頷く。
「でもさ、空さんって、占さんと一緒にいた印象なんだけど?」
「噂によると、占は裏でこそこそ何かしているらしいぜ……」
灰がそこまで言った所で、背後に人影が近づく。
「俺がどうした?」
──ウラだ。
二人はビクンと体を震わせ、一斉に振り返る。
「ち、違うって! ウラさんじゃなくて!」
「そうそう! 噂話をしていて……」
「訓練中に噂話か。二人とも、今日の予定は変更だ。以降はお前達と俺とで、甲冑を纏っての組み手とする」
二人は膝から崩れ落ちる。
「そんな……」
「馬鹿なこと言ってるんじゃ無かった……」
「早く用意して来い」
ウラは自身の甲冑を着込みながら、二人を急かす。
少し間を置いた後、甲冑を着込んだ三人が揃う。
結局、甲冑は防御よりも機動性を重視し
個々人で好みの調整にしていく事になった。
灰は胸当てとも言えるほど鐡の面積を削り
心臓等の急所、それに防御の際に使いやすい部位を覆うに留めている。
一方、句はというと、肉弾戦よりも鬼術を搦めた戦略を重視する為か
灰に比べ、防御に重点を置いていることが見て取れる。
とはいえ、あの重さは耐えられないという事で
上半身を中心に守りを固めた様相をしていた。
そしてウラは、動きを阻害しないように工夫をした
ほぼ初期の型を使っている。
「句と灰、お前達二人と、俺とでやり合う。禁じ手は無し、気絶または降参で終了だ」
緊張から来る喉の渇きか、ごくりと唾をのむ音が聞こえる。
ウラはごく自然体に構え、言い放つ。
「いつでもかかってこい。だが、独力で勝てると思うなよ?」
ウラの言葉に弾かれるように、灰が駆けだす。
「やってやらぁ!!」
灰は無手のまま、正面から突っ込み拳を突き出す。
ウラはあえて受ける事にする。
防御した両腕から、凄まじい衝撃が伝わる。
なるほど、小手の部分を鉄甲の様にしたのかと
思ったのも束の間、ウラは炎に包まれる。
「──句か!?」
即座に自身も鬼術を用い、鎮火させる。
その隙をつき、背後から句が鋭く尖らせた岩で
守りの薄い間接部を狙い、灰は正面から足捌きで撹乱しつつ
再び、鉄甲での殴打を試みる。
ウラはニヤリと嗤うが、二人は気付かない。
ウラは灰へめがけ急速に加速し、句の攻撃の間合いから外れる
その先に突き出された灰の拳を、やや体勢を低くし
自らの拳で下から上へ打ち上げる。
大きく体勢を崩した灰の胴に、振り抜く腕の勢いを利用した
回し蹴りを叩き込む。
続けて、背後に迫る句の気配に向けて、振り向きざまに
踏鳴(いわゆる、震脚の様な物)の動作で
地面を砕き、鬼術で礫を飛ばす。
目に入るのを恐れ、僅かに怯んだ句に、
踏鳴の反発力を利用した肩当てによる体当たりを
お見舞いする。
ほんの僅かな時間で一連の動作をやってのけ
二人の鬼を吹き飛ばす。
未だその戦闘能力は健在ということか。
「二人ともなかなか悪くない。さあ、時間はまだたっぷりある、続きをしよう」
島には、句と灰の嘆きがこだましていた。




