鐡の甲冑
ウラは皆に伝えた後、すぐに男鬼達を集める。
青鬼は、ウラと十に満たない子供。
赤鬼は、親が付き添ってきた、産まれて間もない赤子。
黒鬼は、これまた成人まで、数年を要す子供がふたり。
そして緑鬼は、句、その一つ年下の灰
そして九つになる子供の、合わせて三人。
「八人か……分かってはいたが、少ないな」
ウラは思わず呟く。
「ウラおじさん、元気出してよ! 俺、頑張るから!」
「そうだぜ! 俺が句より結果出してやるからよぉ!」
句と灰が、ウラを励ます。
そんな二人とは対照的に不安そうな表情で
ウラに意見する者が居た。
「うちの子も、戦闘訓練を受けるんですか……?」
赤鬼の親である。
「そうだな。だが、今すぐは無理ということは分かっている」
そして、男鬼達全員を視野におさめ、言葉を続ける。
「先程は、武装とだけ言ったが、ここで言う武装は、武器だけではなく、鐡を使った『甲冑』も含まれている。鐡製の甲冑は重量がかなりのものになるだろう。これに耐えられるのは男鬼だけだ。そして、男鬼はこの島では貴重だ。グテツやリシンを殺した人間共相手に、一人として遊ばせておく余裕は無い」
「鐡の……甲冑……」
男鬼達の反応は、分かりやすかった。
年の大小関係なく、瞳を輝かせている。
しかし、件の母親は尚も不安げだ。
それを汲んだウラが、母親に対して言う。
「だがお前の子は、幸運にも赤鬼だ。鬼術を用いれば、離れて戦うことも出来るだろう。その上、甲冑により身の守りも堅くなる。最前線に居るよりは危険性は低い」
ウラの言葉に、母親は不承不承とはいえ
理解を見せる。
母親の様子を見て、ウラは満足し、卯堂に話しかける。
「卯堂、聞いたとおりだ。この計画、お前の力が不可欠だ。共にやってくれないか?」
卯堂は、ウラの目を見て強く頷く。
「勿論だ、鐡は好きなだけ使って良いのだろうな?」
卯堂は冗談交じりに言ってみせる。
掛け値無しに『名匠』と言える卯堂の言葉に
これ以上頼もしいことは無いと、ウラは思った。
そして、ウラと卯堂が制作していた試作品が出来上がる。
「一応……形にはなったが……」
「うーむ、甲冑というのは難しい物だな」
二人とも満足のいかない結果であったが
句と灰を呼び、試着させる。
「これが……俺の甲冑!」
灰は喜び勇んで身に着け始める……が
徐々にその速度が落ち始める。
「ってかこれ、重過ぎだろ……」
灰の隣でも、句が絶望感を漂わせる表情を浮かべている。
それもそのはず、守りを重視する余り、甲冑というよりは
『全身鎧』とも呼べる物が出来上がっていた。
「やはり年少者には荷が重すぎるか」
卯堂の言葉に、ウラも同意見だった。
とはいえ、正式な物を作るには、何が良くて何が駄目かを
見極め、次に活かす事が最重要だ。
句と灰には、実験台になって貰おうとウラは思っていた。
「句、灰! 重すぎるのは、此方でも把握している。しかし、より良い物を作るには、良い所と、悪い所を見極めねばならん」
句と灰は言い知れぬ嫌な予感を感じる。
「その甲冑を身に着け、二人で組み手をしてくれ」
「やっぱりかー!」
二人の予感は的中するも、拒否権は無いに等しい。
項垂れた二人にウラは、試合形式を説明し始める。
といっても、内容はごく単純な物だ。
「甲冑を身に着けていれば、基本的には何でもありだ。攻撃に関しては、始めこそ無手で行って貰うが、使えそうな物があれば使っても構わない。鬼術も使用を認めよう。勝敗は、相手を気絶させるか、俺が勝負ありと判断した場合のみ」
思いの外実践に近い形で、句と灰のやる気も上がってくる。
「では、位置につけ!」
二人はある程度距離を置いた場所で構え、互いに睨み合う。
「どっちが上か、思い知らせてやるぜ!」
「負けない!」
二人の闘争心が昂ったのを見計らい、ウラが開始を告げる。
「始めっ!!」
先ずは手始めとばかりに灰が飛び出す。
「先手必勝!」
──が、遅い。
これなら避けられると思った句の動作も遅く、結局一撃を貰ってしまう。
「いってぇ!」
「いったー!」
何故か二人とも痛みに悶えている。
その様子をウラと卯堂は冷静に観察している。
「全力で飛びかかるつもりが、重さで速度を出し切れず。避ける側も判断に動作が伴わず、受けてしまうか。重さはだいぶ削らねばならないな」
「だがウラ殿。一撃をお見舞いした灰殿は拳を痛め、かたや攻撃された句殿の甲冑は変形しておらん。強度は充分という事では無いか?」
「確かに、だが句も痛みを感じている様だが?」
「それは重量がある故、体に密着するように作ったが為に、衝撃が直に伝わってしまったのかもしれん」
そんなやりとりをしている内にも、句と灰は
激しい戦いを繰り広げる。
開いている兜の両目部分にめがけ、鬼術で礫を飛ばしたり、
衝撃は有効な事が分かり、棒状に加工した
岩石を叩きつけたり、
倒れると起き上がり辛いのを利用しようと
足払い等の搦め手を多用してみたり等々……
甲冑の過剰とも言える重量を背負い動き続けたため、
二人の体力は限界に近い。
ここで先に動いたのも灰だった。
灰は兜を脱ぎ、手に持ち、それごと叩きつけるように
句を殴りつける。
灰は、兜を拳の保護に加え、重量も強度もある
打撃武器として使おうと考えたのだ。
「これで決める!!」
灰の攻撃を両腕で衝撃に備える句、
拳が触れ合った、その刹那──
灰が炎に包まれる。
「それまでっ!」
即座にウラが試合終了を告げる。
炎は即座に収まる。
「灰! 早く甲冑を脱げ!」
言うや否や、ウラは即座に灰に駆け寄り、
甲冑を外しにかかる。
甲冑を外し終え、一息ついた頃、灰が呟く。
「何が……あった……?」
「句、説明してやれ」
ウラが促すと、句は言いづらそうに答える。
「甲冑同士が触れ合った瞬間、火花が見えたんだ。だから、鐡ってそういう物なんだなと思って……」
「鬼術で増幅させた……と」
ウラが引き継いだ言葉で、灰ははっとする。
「そんな一瞬に、合わせたって言うのか……くそっ」
鐡は熱を持つと、その熱を保持する。
そのまま甲冑を着ていれば、灰は
大火傷を免れなかっただろう。
「二人とも、実際に着て戦ってみた感想はどうだ?」
句と灰は戦闘を思い出しながら、言葉を選ぶ。
「やっぱり重すぎる」
「動くときに、邪魔になる個所が何ヶ所かあったかなぁ」
「硬さは、とにかく硬い。素手で殴れば手がやられるし、武器で叩いても効果があるかあやしい。隙間を狙うか、転ばせるしかない」
「慣れれば、自分で火花を起こして鬼術の起点に出来るかもしれない」
「それから……」
次から次へと良い意見、悪い意見に関わらず出てくる。
それらを全て受け入れ、ウラは思考する。
「二人とも、今日は助かった。自分が使うならこうしたい、という希望も聞こう」
二人は先程以上に饒舌に語り始め、ウラと卯堂が
呆気にとられるのであった。
「若い頃のグテツと俺を見ているようだ」
ウラは苦々しい笑みを浮かべ
卯堂はそれを、微笑ましげに眺めているのだった。




