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ウラと次代の鬼

「謡……俺が許そうが許すまいが、結果は変わらない。頭を上げてくれ……。卯堂、俺は少し疲れた……、しばらく独りにしてくれ」


 ウラが珍しく弱音を吐くのを見て、

卯堂の脳裏に嫌な光景がよぎり

即答するのを躊躇わさせる。


「俺は、居なくならない。居なくなるわけにはいかない」


「……分かった、信用しよう」


 卯堂が頷くのを確認すると、ウラはふらふらと何処かへ向かう。




「母さんただいま! って、泣いてるの……?」


 彼はコウ、シキョウと謡の子だ。

 今年で十五歳になる。


 鬼の子供は成育が早く、十歳にもなれば

大人と変わらない見た目になる。

 流石に、巨大化や変化、鬼術等の練度はおちるが

働き手として数えられる位にはなる。


 神仙桃の影響でしゅえきが軽減されたとは言え

それは大きくは変わらなかったようだ。


 句の声に、謡は顔を上げる。


「おかえり……ウラが目覚めたんだよ」

「え! ウラおじさんが! どこっ! どこに行ったの?」


 句はどういう訳か、ウラに懐いていた。


「ウラ殿は、しばらく独りになりたいそうだ。句殿、『(ハク)』殿にも伝えてくれるか?」


 卯堂の言葉に、句は難色を示す。


「卯堂じいちゃん、白に言うのは良いけど……多分、聞かないと思うんだよね。ウラおじさん以外には、基本的に冷たいし」


 謡は「それでも、伝えるだけ伝えてね」と諭す。


「はぁい……じゃあ行ってきまぁす!」


 句は帰ってきたばかりだというのに、元気に駆けて行く。


「句殿は、素直な子に育ったようだな」

「少し、そそっかしいですけどね」


 卯堂と謡は、次代の鬼を微笑ましげに眺めていた。




 句は、白を探していた。


「だいたいこの辺に居ると……あっ! いたいた!おーい、白ー!」


 句の視線の先には、透き通るような白い肌(・・・)の女鬼が居た。


「うるっさい! 気安く私の名前を呼ばないでって言ってるでしょ!」


 彼女は、『ハク』、句より数年後に産まれた女鬼だ。

 彼女は、産まれた時から白い肌をしていたが

本来、白鬼という物は存在しない。

 また、鬼術は全く使えず、変化は自分の角を隠すのが精一杯

身体能力は人間並で、免疫も低く、すぐに体調を崩す。

という有様で、当時は桃の呪いでは無いか? と

神仙桃の信用を疑う声まで出た。


 仕方なく、当時の首領(グテツ)が、桃仙に確認したところ。


「ホッホッホッ、救う(・・)と言うてるのに、わざわざ呪いなぞ、かけるわけが無かろう? それは、『突然変異体』じゃな。人間には時折起きる物じゃ。たった一度の使用で、その様な兆候が出るとは驚きじゃな」


 その後も、くどくどと厭味を言われて帰ってきたグテツが

だいぶ荒れていたのは、言うまでも無い。




「そーんな事、言っても良いのかなぁ? せっかく、良い知らせを持ってきたのに」


 句が腹いせとばかりに、回りくどい言い方をするが

白は、刺々しい態度を崩さない。


「何よ?」


「ウラおじさんの目が覚めたってさ! だけど……」

「──!? それを早く言いなさいよ! 死ねっ!」


 白は全速力で走り出し、句とのすれ違いざまに

ふくらはぎに蹴りをお見舞いしていく。


「痛っ! しばらく独りにして欲しいんだって……って、言おうと思ったのに」


 白の背中は、既に小さく見える程になっていた。


 白は、件の呪いと噂された時期に『育児放棄』されていた。

 それをウラと卯堂が引き受け、足りないところをリシンや

他の女鬼達に頼りながら、育てて来た。


 白は病気がちながらも、順調に育ち、

本人のたっての希望で、早くから『売り出し班』に

混ざり働いた。

 その合間を見ては、人間の学問を学び、

こと人間にまつわる知識に関しては、もはや鬼ヶ島では

右に出る者が居ない。


 だが白は、鬼ヶ島では孤立していた。

 それも、自らそうしている節があり、ウラ以外とは

まともに話そうともしない。




「はぁ、はぁ……おじ様、どこに居るの? もしかして……」


 白は刀鍛冶の工房に飛び込む。


「おじさ! ……ま?」


 白の目には、異様な雰囲気を纏ったウラが映る。


 それは、怒っているような、嘆いているような

それでいて泣いているような……。


 ただ言えることは、白が出来ることは

『今は無い』と言うことだけだ。


「……また、来ます」


 そう、一言だけ言うと白は去って行く。




 ウラは、リシンの事が好きだった……

その時のために魂も集めていた。

 だが、なかなか言い出せないでいた。


 そして、リシンが島から去る。


 全てどうでも良いと感じるほどの無気力感に苛まれ

今、こうして引きこもっている。


シキョウが身を挺して繋いだ、鬼という種を

途絶えさせるわけにはいかない。

 そう思っていても、実際は半数ほどに

減らしてしまったも同じ状況だ。


 いっその事、一切を投げ出して

逃げ出してしまいたい気持ちであった。


 だが、グテツを引き留めようとしたあの時の、

自分の言葉が、その想いが

自らに鎖のように絡み付き、踏み留まらせる。


 グテツの最後の泣き顔も、脳裏にこびりついて離れない。


 そんな、やり場の無い気持ちを地面に叩きつける!


 当然、それで気分が晴れることは無い……が

ウラの目に、グテツが置いて行った『潰尽』が映り込む。

 それは、何かを訴えているような、不思議な感覚を覚える。


 ウラは、『潰尽』を鋳つぶして、刀にする事を決める。




 それからウラは、食事はおろか、睡眠すらもろくにとらず

鎚を振るい続けた。

 辺りには鐡を打つ音が、昼夜を問わず鳴り響き、

ウラは自分の想い全てを、鐡に込める。


「おじ様、お食事をお持ちしました。……前のがそのまま。また、食べてくださらなかったのですね」


 白は、悲しげに俯き、前の食事と新しい食事を、

取り替えて帰って行く。

 もうこんな事を、何日も続けている。


 ウラは、白に気付いていたが、一時(いっとき)でも止まれば

余計な事を考えてしまう事が、簡単に想像できた。

 だから、この刀が出来上がるまでは、決して止まらないと

心に決めていた。




 やがて、一振りの刀が出来上がる。

 完成と同時に、ウラは倒れる。


「おじ様っ! ようやく、出来たんですね……」


 ちょうど、工房を訪れた白は、満足そうな顔で寝ている

ウラの腕を、両手で抱きしめる。

 結局、白は一日たりとも欠かさずに通い詰めた。




 ──翌朝。

 ウラが目覚めると、自分の腕に寄り添うように眠る白が居た。

 その寝顔を見て、ウラは救われたような気持ちになった。

 独りじゃ無いんだと、実感出来たような気がした。


「ありがとう」


 ウラは、素直な気持ちでそう呟いた。


「う、ん……、おじ……さま!? ご、ごごごごごめんなさいっ! あのっ! そのっ! か、勝手な事をしてしまって!」


 慌てふためく白を、ウラは優しげな眼差しで見つめ、頭を振る。


「いや、良い。それより、腹が減ったな」

「だったら、私が持ってきた食事が……もう、冷たくなっちゃってますね」


 白が肩を落とすが、ウラは意に介さないとばかりに食べ始める。


「一緒に食うか?」

「はいっ! ご一緒しますっ!」


 二人で食べる食事は、とても美味しく感じたのであった。

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