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残された者達

 失意の内に、鬼ヶ島に帰った面々は

謡に事情を説明する。


「謡、すまない。シキョウを見つけられなかった」

「アタイらも、手は尽くしたんだけどねえ」


 ウラやリシンの言葉に絶望する謡。


 あれから謡は、何事も手がつかず

(赤ん坊)の世話を、他の女鬼が

買って出る始末だった。

 それでもウラ達を信じて祈っていた

それしか出来ない自分を呪いながら。


 謡の気を強く持たせようと

皆で手を尽くす。


 そうこうしている内に、鬼達の元に歩み寄る、

一つの影があった。

 鬼達の一人が、それに気付く。


「あれは……、グテツ?」


 ウラやリシン達も、そちらを見ると

一様に、驚愕する。


「グテツ!! 一体どうしたんだい! その血は!」

「グテツ、シキョウはどうし……!?」


 血に塗れ、顔から生気が消えたグテツの腕には、

シキョウの頭部が、申し訳なさげに、

そして大事そうに抱えられていた。


 それを確認した謡は、普段からは

想像できないような速度で、グテツに駆け寄り

シキョウ(頭部)を奪い取る。

 間近でみるシキョウの顔は穏やかではあったが

謡には到底受け入れられる物では無い。


「いっ! イヤァァァァアアアァァァ!! どうしてっ! と゛う゛し゛て゛ぇぇぇぇ………だって! ずっと一緒だって、言ったのにぃ……!!」


 謡の絶叫が辺りに響き渡り、聞いている者も

シキョウと謡の馴れ初めを知っているだけに

直視出来る物では無かった。


 呆然としているグテツは、

涙を流しながら土下座をする。


「すまねえ! 謡! シキョウは……シキョウは、俺を庇って死んだんだっ!」


 それを聞いた謡は、グテツをも圧倒する

眼光で睨みつけ、グテツを拳で打ち据え続けた。


「どうしてっ! どうしてよっ!!」


 グテツには、謡の拳による痛みは無いが

心には、抉られるような痛みが走る。


 これ以上は不味いと感じたウラとリシンは

二人を引き剥がす。

 謡を他の鬼達に任せ、グテツを連れ

いつもの集会場所へと向かう。




「グテツ、何があったんだい?」


 リシンが、なるべく刺激しないように尋ねる。

 今のグテツは、謡とシキョウ、そして句に

申し訳なくて、すぐに泣き崩れそうになる。


 それを、なだめ、時には叱り、根気強く

グテツを持ち直させる。


 ようやくグテツは、今回の事を話し始めた。


「成る程な……。大方の予想通り、シキョウが連れ出したのか。で、あれば……」


 ウラがそこまで言うと、卯堂が現れる。


「左様、シキョウ殿の狙いは……己が死ぬことだ」


「卯堂?」

「どういう事だい?」


 ウラとリシンが同時に振り返り、

グテツはひと呼吸遅れて、卯堂を見る。


「シキョウ殿は、近いうちに自分は死なねばならぬと仰っていた。仔細は存ぜぬが、それは死期を悟る(・・・・・)等では無く、必要に迫られている。という感じであった」


 ウラは、目を閉じ考える。


「して……出発前に、これを預かっておる」


 卯堂は、手紙を一人ずつに渡す。


「手紙かい?」


「シキョウ殿が、皆に一通ずつ。謡殿には、まだ渡せそうも無いが……」


 ウラは手渡された手紙に目を通す。



 ──ウラ、突然このような事になり、本当にすまない。


 しかし、これから先も神仙桃を使って行くには

我が身を捧げねばならなかった。

 神仙桃の木には、『百の人間の魂』に触れさせておく必要があったのだ。

 だが、桃仙の技術を持ってしても、

魂の固定化(・・・)には到達出来なかった。

 そこで目を付けたのが、鬼の体だ。

 鬼の体には、魂を貯め置けるのは知っておるだろう?

 謡との子が欲しくて、魂を八十余り集めていた儂に

白羽の矢が立った。

 桃仙は、最初から見ていた(・・・・)のだろうな。

 それからは、秘密裏に百になるまで、魂を集め続けた。

 その結末が、今回の出来事だ。


 誰かが、気に病むことでは無い。

 謡には、本当に申し訳ないが……な。


 今頃、儂の体は桃仙に回収されているだろう。

 だから、弔いなどは無くて良い。


 それから、ウラは首領には興味無かろう?

だから、グテツを指名する事にした。

 奴は馬鹿だから、お前とリシンで

支えてやってくれ。 


 ────斉羌(シキョウ)



 ウラは手紙を読み終えると、顔を上げる。

 リシンは何やら複雑そうな顔をしているが

事情は理解したようだ。


 そして、グテツはというと……。


「俺が……首領……?」


 グテツの手紙を持つ手が震えている。


「の、ようだねえ」

「その様だ」


 と、リシンとウラが、呟きに対して返答する。


「俺には無理だっ!! 俺には、リシンの様に纏めることも上手くない! ウラの様に、頭も回らない! そして何より、謡がっ! 謡が赦してくれるはずがねえ!」


 ──パァン!


 リシンの平手が、グテツの頬を叩く。


「しっかりおし! 気に病むなって、シキョウの手紙にあったんじゃ無いのかい!? だいたい、アンタが馬鹿な事くらい、みぃーんな知ってるってんだよ! 謡は! 謡は……赦しちゃくれないと思うけど、アンタの気持ちが通じるまで、謝るのが『筋』なんじゃ無いのかい?」


 項垂れるグテツと、涙を流すリシン

神妙な表情で見守る、ウラと卯堂。


 奇妙な静寂が支配する中、卯堂が。

 次いでウラが。

 そしてリシンが、グテツが、それぞれの場所へと戻っていく。




 結局、グテツは首領に就いた。

 勿論、反対する者も居たが、シキョウの遺志を

伝えると、概ね(・・)静かになった。


 未だ反対しているのは、謡と……グテツ自身だ。


 首領になってからというもの、グテツは

がむしゃらに働いた、謡への罪滅ぼしの為、そして、

罪の意識を忘れる為に。

 だが、首領として過ごす日々は、グテツにとって

己の無力さを痛感するだけの日々だった。

 やがて、グテツの顔から覇気は失われ

神仙桃を取りに行く以外の仕事は、ほぼウラとリシンに

任せっきりになっていった。




 グテツは、ある日決心する。


「こんなんじゃ、ダメだ! 俺が、俺じゃ無くなる! ……もう、俺じゃ無くなってるのかもしれねえが……」


 こんなところで、のうのうと生かされているより

戦って死んでこそ、徹鬼の流れを汲む者として相応しい。


 ──島を出よう。

 皆に失望され、蔑まれ、一人島を出る。

 そして、何処かで戦い、最後は野垂れ死ぬ……。

 きっとこれが、俺には似合ってる。


「おや、グテツ。久し振りにいい顔してるじゃ無いか」


 リシンはどこか嬉しそうだ。


「ああ、皆に伝えたい事がある。鬼達を集めてくれるか?」


 ──悲愴な決意を固めてしまったとも知らずに。


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