捜索と結末
ウラは一心不乱に走る。
その全力の疾走に、並び立てる者と言えば
グテツしか居ないと言われる程の速度だ。
「逢魔洞の中で、追いつく事が出来れば」
しかし、一向に人影が見えることは無い。
やがて、無情にも逢魔洞の出口が見える。
「追いつかなかったのか……」
ウラは息を切らし、膝をつく。
それからしばらく後、リシンが数人の鬼を連れて
追いついてくる。
「ウラ! ……見つからなかったんだね」
「ああ……」
ウラは立ち上がり、リシンとその他の鬼に告げる。
「仕方が無い、手分けして探そう。あれだけ広い都は、除外しても良いだろう、それ以外の道、若しくは人間が群れで棲んでいそうな川沿い、開けた土地を探してくれ。もし、シキョウを見つけたら、謡が心配していると伝えてくれ、刻限は……夜明けにする」
集まった鬼達は頷き、思い思いの方向へ散っていく。
──ウラは、走る。
グテツの性格からして
寝込みを襲うのを良しとはしないはず……
少なからず戦闘音がするはずだ。
ウラは、時々立ち止まり耳を澄ます。
時には獣の動く音や声に耳を傾け、手がかりを探す。
──リシンは、空中から見下ろす。
シキョウはいったい何を考えてるんだい?
グテツは、こんな時間からの狩りは好きじゃあ無い
それを態々説得して、連れ出すなんて……。
リシンは鬼術を用いて、風で自らを高く吹き飛ばす。
より高度から、捜そうという腹づもりだ。
他の鬼達も、己の得意とする方法で捜索する。
シラミ潰しと言っても良いほどの広範囲を
鬼達は探し続ける。
一方その頃。
「おい、シキョウ。こんな時間に狩りをしたって。面白くねえし、それに金砕棒の価値が分からねえだろ?」
グテツは困惑しながら、シキョウに問う。
「まあそう言うな、始める前には口上の一つでもして全員叩き起こせば良いだろう?」
「そういうモンか? それは、シキョウに任せる」
シキョウは「良いだろう」と乗り気だ。
「おっと、ついたぜ。あの村だ」
その村は、他の村から隠れるように
鬱蒼と茂った竹に囲まれており、
夜も遅いと言うのに、灯りがともっている。
「どういう事だグテツ?」
「いや、分からねえ」
グテツは少し考えて、心当たりに辿り着く。
「いや、待てよ……。前も変な婆さんが居たな」
「変な婆さん……?」
グテツは大きく頷くと、言葉を続ける。
「まるで俺が来ることが、先に分かってたみてえな、とにかく気色の悪い婆さんだ。もしかしたら、今回も待ち構えてるかもしれん」
シキョウは、ふむと少し考え
「ちょうど良いでは無いか、この村……。狩り尽くそう!」
グテツは牙を剥き出しにし嗤う。
「おもしれえ、あんの小憎たらしい武士は俺が獲るぜ! 後は、シキョウが好きにすれば良い」
「ふっ、良いだろう」
二人は、隠れ里ともいえる村に向かって走り出す。
シキョウは村に向けて口上をあげ、グテツは
咆哮と共に、獲物を探す。
「我が名はシキョウ! 我を恐れぬならば、かかってくるが良い!」
「うおおおおお!! 出て来い! クソ侍!」
待ち構えていたとも見える、村の面々は口を揃えていう。
「『一ツ鬼』に『黒き颶風』……本当に来た」
「おばば様の言うとおりじゃ」
グテツの前には武具もばらばらな数人の武士が。
シキョウの前には、武具が統一され統率の取れた
言わば『部隊』とも見える一団が躍り出た。
「我が名は、『猪狩 善蒼』! 『黒い颶風』! 今度こそ、ケリを付けてやるっ!」
「出たな! クソ侍! 叩き潰してやるぜ!」
グテツと猪狩が、激突した頃、シキョウの前にも
一人の男が立ち塞がる。
「我が名は『子津 奇平』! 『一ツ鬼』、お相手仕ろう!」
「お手並み拝見、といったところか」
シキョウは興味深げに笑う。
グテツは金砕棒《潰塵》を携え、敵陣へと突っ込む。
「何だ! あの武器は!?」
相手から動揺の声が漏れるも、グテツを
撃退したことがあるだけに、判断は誤らない。
弓を持つ者が、グテツの足や肩の付け根などを狙い、
行動の阻害を狙う。
しかし矢は、金砕棒で全て薙ぎ払われる。
金砕棒を振る、一瞬の硬直を狙い
槍を持つ者が槍を叩きつける。
グテツは、空いている手で受ける。
叩きつけた槍が戻る隙を補うように、
刀を手にした猪狩、手斧を持つ者、
鎖分銅の様な物を持つ者達が
死角から絶え間なく攻撃を仕掛ける。
「くそったれ、相変わらず鬱陶しい! まとめて塵になれやっ!」
金砕棒を大きく振り回すことで、間合いの短い
武器は近寄ることすら出来ず、槍は叩き割られ
矢さえも、直に触れて折られたり、風圧でその勢いを殺される。
「今度は、こっちの番だよなぁ……?」
グテツは、恐るべき速さで矢を射る者を粉砕し
その勢いのまま、槍の者も叩き潰す。
「はっはは、この程度かよ!」
グテツは残りの面子を見て嗤う。
その瞬間、鎖分銅が金砕棒に絡み付く。
「猪狩殿! 後は頼んだ!」
面倒くせえと、鎖を手で引きちぎらんと
動かそうとするが、逆の手には手斧で斬りつけられる。
「猪狩殿!」
二人の決死の時間稼ぎはたった一瞬だった。
直後に頭を握りつぶされ、
あるいは金砕棒で薙ぎ払われた。
しかし猪狩には、一瞬で充分だった。
「覚悟っ!!」
猪狩の刀が、グテツの首を刎ねた!
──ハズだった。
猪狩の刀が、グテツの首に迫る瞬間
緑の風ともいえる者が割り込む。
シキョウだった……、シキョウの首は宙を舞い
そして、地に落ちる。
「うおおおぉぉぉ!!」
グテツの金砕棒が、猪狩を叩き潰す。
グテツは、直ぐにシキョウを見る。
「シキョウ!! 何故だ!!」
頭だけのシキョウは笑う。
「他の者では、手応えが無すぎたのでな……横取りしようとしたら、この……ざまだ……ごふっ」
大量の血を吐き、シキョウはそれっきり喋らなくなった。
確かにシキョウの言葉通り、他の者は全滅しており
村は、さながら地獄絵図ともいえる状態になっていた。
しかし、グテツは納得出来ない。
嘘だ……、あの動きはどう考えても
自分で攻撃に割り込んできた。
まさか、俺を庇って……。
グテツの頬を一条の涙が伝う。
辺りは、夜が明けようとしていた。
結局見つけられなかった……。
ウラの表情には悔しさが滲む。
各方面から撤収して合流した、リシンを始めとした
他の鬼達も、疲労と無力感からか
言葉を発する事無く、逢魔洞を
引き返して行くのであった。




