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シキョウの行き先

 桃に関する枠組みが出来たことにより

鬼達の行動は、目に見えて変わった。

 自分の得意とする分野には率先して関わり

存在感を振り撒かんとする。


 特に女達は顕著だった。

 どこの世界でもそうだが、

女が元気な場所には活気が満ちる。


「まったく、どこもかしこもうるせぇ女ばっかりだな」


 グテツはウンザリした様子で呟く。


「女が元気なのは良いことだぞ、グテツ殿」

「元気が過ぎるんだよ!」


 卯堂がたしなめるも、

グテツが納得出来る物では無かったらしい。


「そんな事より卯堂、俺を呼び出したって事は……」


「左様、金砕棒が完成致した」


 そんな卯堂の言葉に、グテツは

はやる気持ちを抑えきれない。


「本当か! で、どこに!」


 卯堂はウラに頼み、運んできてもらう。


「何分、大きいゆえ、わしでは運べなんだ。ウラ殿が居らんかったら、完成まで漕ぎ着けたかどうか」


「そ、そうなのか……」


 グテツは複雑な表情でウラを見る。


「グテツ、これがそうだ」


 そんなグテツを余所に、ウラはいつもの様子で

金砕棒を運んで、グテツへ手渡す。


「それが、グテツ殿の為に造った金砕棒……『潰尽(かいじん)』だ!」


 潰尽は、人間の成人男性の背丈を

優に超える長さを誇る。

 通常、金砕棒は取り回し易さを確保するため、

硬い木材に鉄製の鋲や(たが)を用いて補強するが

この潰塵は違う。


 鬼達が作り上げた、純度の高い鐡をふんだんに使い

それらを徹底的に鍛え上げた。

 ゆえに、常人はおろか、並の鬼でさえ

持つのがやっとという重量だ。

 しかし、怪力無双のグテツにかかれば

『攻守共に優れた武器』に変わる。


「か、潰尽……、最っ高じゃねーか!! この無骨(ぶこつ)な感じ、まさに俺好みだ!」


「グテツ殿が、無骨(・・)などという言葉を知っとるとは」


 冗談めかして卯堂が言うと、グテツはげんなりする。


「シキョウやリシン、その他諸々の奴らみたいな事言うなよ……」

「いや、言われすぎであろう」


 そんなやりとりをしているところに

シキョウがやって来た。


「儂がどうしたと? ……おお、それがお前の得物か? ふむ、これはこれで良いな」

「だろう? ああ、早く狩りに行きてぇぜ!」


 シキョウは少しの間、目を閉じ押し黙る。

 再び目を開き、いつものように話し始める。


「良いだろう。そろそろ儂も狩りに出たくなっていたところだ!」


 グテツは、更に機嫌を良くし

シキョウにいつにする? だの、何処にする等と

質問攻めにする。


「明日にしよう。折角だ、グテツが以前、敗れた獲物に復讐しようじゃ無いか」


 シキョウの言葉に、グテツは一瞬苦い顔をする。

 しかし直ぐに、野性的な笑みを浮かべて


「やってやろうじゃねえか! かぁ~! 楽しみになってきたぜ!」


 ……等と言いつつ、帰って行く。


 工房に残った、シキョウにウラは尋ねる。


「どういう風の吹き回しだ?」


「なに、深い意味など無い。息子に良いところを見せたいと思ってしまったのかもしれんし、ただ久し振りに、暴れたくなっただけかもしれん」


 シキョウの言葉に、一応の納得を見せるウラ。


「ウラ殿、今日の作業は終いにしよう」


 卯堂の言葉にウラは頷き、やがて帰って行く。


「さてシキョウ殿、人払いは済みましたぞ」


 シキョウは、苦笑いを浮かべる。


「卯堂には、敵わないな。まあ、そういう事だ。これを預かっていてくれぬか?」

「決心は固いのですな」

「ああ、すまない」


 卯堂は首を振り、シキョウから預けられた物を

大事にしまう。




 ウラは自分の住処に戻り、考える。

 何かが引っかかる……。

 シキョウの言動に不自然なところがあったろうか?

 考えても答えは出ない。


「明日、出発前に問いただせば良いか……」


 ウラは浅い眠りにつく。




「誰か! 誰かシキョウ様を知りませんか!」


 皆が寝静まった夜更け頃、赤ん坊の泣き声と

女の悲痛ともいえる叫び声が響き渡った。


「この声は……謡?」


 ウラは体を起こし、外の様子をうかがう。


 やはり、謡だ。

 手には(赤ん坊)を抱え、今にも泣き出しそうな顔で

叫び続けている。

 ウラは状況を確認するため、謡に近寄り声を掛ける。


「どうした謡?」

「ウラ! シキョウ様が……シキョウ様が居ないの!!」


 ウラは、これほど早く出発するとはな……と思いつつ

謡に伝える。


「シキョウなら、グテツと狩りに行ったはずだ。それほど慌てることでも無い」


 謡は、大きく頭を振り。


「違うの! 普段ならそれでも納得出来たけど……今回は、絶対におかしいの」


「おかしい?」


 謡は、再び泣き出した句をあやしながら頷く。


「シキョウ様が愛用していた食器とか、着る物とか……とにかく全部処分されてて、まるで……もう二度と……」


 謡はそこまで言うと、耐えきれずに泣き出し

母親の不安を察したのか、句は殊更大きな声で泣き出す。


「俺は、狩り場の位置が分からない、リシンに確認してみる」


 謡はその場にへたり込み、句に頬を付けうずくまっていた。




「リシン!居るか!」


 夜中に起こされたリシンは、事情が分からず困惑する。


「い、いったいどうしたって言うんだい? こんな時間に」


 ウラは、シキョウの事をリシンに伝え

向かったであろう狩り場の位置を聞こうとするが。


「ウラ、すまないね、アタイも場所までは聞いて無いよ。だけど、『逢魔洞(おうまどう)』は必ず通るんだ、急いで追いつく可能性に賭けてみようじゃ無いか」


 逢魔洞とは、鬼ヶ島から対岸へと続く

唯一(・・)の地下洞窟だ。

何をするにも必ず通る場所である。


「そうだな、リシンは鬼を集められるだけ集めてから来てくれ、俺は今から向かう!」

「わかったよ!」


 ウラとリシンは同時に動き出す。


 ……きっと、追いつけると信じて。




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