人に、頼れ
今回は、いつもより物語が長いです。
隼咲は、高校を卒業してから、免許を取った。なぜ、取ったかというと、
「お前らに、何かあったらすぐに駆けつけたいからな!」
さすが、過保護の心友だと思った。そして、運転がうまい。安心、安全に運転をしてくれる。
そして、隼咲との帰り道。
「本当に無事に叶翔が生まれてよかったな」
「・・・」
「遼?どうした?体調でも悪いのか?」
「隼咲」
「ん?」
「俺は、お父さんになったんだよね?」
「あぁ、そうだ。遼は、父親になったんだ。もしかして、まだ実感がないのか?」
「ううん。実感はあるんだ。でも・・・」
「でも?」
「俺みたいなのが、お父さんで良いのか不安なんだ。自信が無いんだ」
「さなに、大丈夫って励ましてもらったんだろ?二人で親なんだよって言ってくれたんじゃないのか?何が、不安なんだ?自信がないんだ?」
「俺には、両親って呼べるものが無いんだ。両親に育ててもらったことがない。おじいちゃんとおばあちゃんは、親代わりをしてもらったけど、両親ではない。自分の子供に対してどう育てていったら良いのか分からない。接し方が分からない。自分は、してもらったことがないから分からない。さなえちゃんに、お互いを支えながら、育てていこうって言ってくれて、嬉しかったんだ」
「そうか。だったら、俺のとこの親に聞けば良いじゃないか?」
「今までも、お義父さんとお義母さんに頼ってばっかりだ。これ以上迷惑をかけたくないんだ」
「遼、お前はバカなのか?こういうときこそ、頼らないといけないんだ!お前は、昔から人に頼ることをしなかった。お前は、親に捨てられて、おじいちゃん達に育ててもらって、これ以上迷惑をかけたくないってわがままを言わず、頼ることもしなかった」
ハァ、とため息をついて、今までたまっていたものを吐き出すように、隼咲は、一気に話し出した。
「やっと、わがままを言ったと思ったら高校を行かないってどういうことだ?いくら入退院を繰り返すからって授業が遅れて勉強が追い付けなかったと言っても、お前は勉強するのが嫌では、なかったはずだ。だって、お前が病室で必死だけど、どこか楽しそうで勉強しているのを俺は、知っている。何で、高校を行かないって・・・。俺はお前と高校生をやりたかった。本当の理由を知りたい。本当は、別の理由があると思った。おじいちゃん達の喫茶店のアルバイトをしても、倒れる。だから、俺はお前のことが心配なんだ。少しは、わがままや人に頼れ!そうしないと、自分を苦しめるだけだぞ!むしろ、今以上に頼れ!安心しろ!俺達家族は、根っこからのおせっかいやきだからな。迷惑なんて思ったことなんかない。分かったか?このバカやろう!」
隼咲は、途中から涙声になりながらも、俺に自分の思っていることを伝えてくれた。
そして、俺の顔を見て驚いた顔をして謝ってくれた。
「遼、っ、すまん言い過ぎた。泣くなんて思わなくて・・・」
「だ、大丈夫。隼咲、伝えてくれてありがとう。さすが、俺の心友だな。・・・俺、本当は高校行きたかった。隼咲と高校生やりたかった。勉強も好きだった。確かに、じいちゃん達に迷惑をかけたくないって思っていた。高校を行くのをやめたのは、隼咲が言うように別の理由があった。隼咲は、気付いていないと思うけど、俺は、いじめられていた。俺と違って、隼咲は、女子からモテるし、クラスの人達にも人気もあった。そのクラスの人達が俺と隼咲の話をしていたのを聞いてしまった」
それから、俺はその話をした。
『はぁ、災厄だ』
『何、お前ため息してんの?』
『だってさ、今日席替えしたじゃん』
『したな』
『楠木遼と同じ班になってしまった』
『マジで?かわいそうに、御愁傷様』
『それが、どうした?』
『これだから、無頓着は』
『何が悪い?』
『何が悪いっていうとだな。楠木は、体が弱いとかで、良く入退院を繰り返すだろ?』
『あぁ、しているな』
『あいつが長期入院をするたびに見舞いの寄せ書きやら、千羽鶴を作るやら、をするのをクラスに呼び掛けて、自分等が主にしないといけない。今は、長期入院も、まれになったけどな。面倒くさいんだよな。前もしたんだ。小学校が同じだったから。何でしないといけないんだ』
『そういうことなんだ。確かに、面倒だ。誰が主導でやってんだろう。教師?』
『嫌、違う。成瀬隼咲が主導でやっている』
『よく知っているな。成瀬も同じ小学校?』
『あぁ、そうだ』
『何か、思いあたることある?』
『小学校の時に、楠木に母親が死んだのは、父親に捨てられたのは、お前の病気のせいだって、いじめたんだ』
『お前、最低だな』
『その後に、クラス担任とか色んな先生に叱られた』
『だろうな』
『担任とか先生に叱られるのは、いいとしてだな。成瀬にも叱られた』
『何で?』
『知らねぇ』
『変化とかあった?』
『それからって、いうと今まで接点の無かった楠木と成瀬が、一緒にいるようになった。そして、あいつが長期入院するたびに、成瀬が同じ班のやつらにするぞって一人呼び掛けてするはめになった。教師は、成瀬に期待していた。俺は、同じ班になってないのに、強制でやるはめになった』
『なるほどね。まぁ、お前が悪い』
『それだけじゃない』
『他に何があるの?』
『俺の好きだった、女子が成瀬や楠木を好きだったことが何度もあった』
『個人の恨みか』
『確かに、その二人って女子にモテるからな』
『でも、成瀬のことを好きな女子からすると。楠木が学校にいる時は、告白が出来ないんだよね。成瀬君が、ずっと楠木といるから』
『必ず、楠木と机、隣だからね』
『楠木が入院した時に、告白しようとしても、今はそれどころじゃないって、って、フラれるんだよね。でも、成瀬君の楠木に対しての過保護って、感じがいいんだのね』
『楠木のことを好きな女子は、いつも、恋愛に興味がない。体が弱いから、無理。ってフラれるんだよね』
『だから、女子の間では、楠木は顔だけいいけど、邪魔なやつってなっているよ』
『かわいそうな、やつら』
『それに、体が、悪いからって楠木のことを教師は、特別扱いしすぎだ』
『そうだ!いいことを考えた。みんな、こっちに耳を傾けろ。楠木の机の中に・・・』
それは、放課後だった。
いつもは、隼咲と一緒に登下校をするけど、その日に限って隼咲は委員会があるため、その間は保健室で勉強をしていた。
勉強をしている途中で、忘れ物をしていることに気が付いた。
俺は、教室に忘れ物を取りに来ていて、話し声が聞こえたから廊下でいた。
最後まで聞こうとしたけど、声が聞こえなくなったので、保健室に戻った。
次の日、机の中の忘れたノートを見た。隼咲が席をはずしている隙にトイレでノートの中を確認した。
声にしたくない言葉がたくさん書いてあった。吐きそうになった。
分からないように、靴の中にも同じ内容の紙が入っていた。隼咲がいないところで、帰れと言われた。
その他にもたくさんあった。
「なぜ、俺に言わなかった」
「言えなかった。誰にも」
「えっ?」
「それは・・・。必ず、同じ言葉があったんだ。それは、『誰かに言えば標的を成瀬隼咲に対象を変える』って、それは、隼咲を傷付けることを意味する言葉。それだけは、耐え切れない」
「それが、原因なのか?高校を行くのをやめた本当の理由なのか?」
「そうだ」
「許さない」
「ごめん」
「遼もそうだが、クラスのやつらに、そして俺自身にも許せない」
「隼咲は、悪くない。誰も悪くない。言えなかった俺だけが悪い」
「いや、俺も悪い。その状況にいる遼に気付けなかった。気づいてやれたら、遼に、辛い思いをすることが無かったはずだ」
「でも、良かったんだ」
「?」
「確かに、辛かったよ。その経験が、いつか役に立つことが、出来ると思うんだ。もし、誰かが俺と同じような経験をした人がいたら、言えるだろ?こうしてたら、良かったのにって、いうのもあった。だから、同じような経験でなくても、相談にのることが出来ると思うんだ」
「お前は、強いな」
「だから、隼咲。自分を責めないで。俺は、隼咲を守ることが出来て良かったって、思うんだ」
「だが、俺は、自分を許せない」
「隼咲が、自分を許せないのだったら、俺が許す。今まで、言わなかったのは、隼咲が、優しいから自分を苦しめるって思ったんだ。だから、自分を苦しめるのは俺だけでいいんだって。その時の俺は、思ったんだ」
「分かった。これからは、俺にも言えよ?さなの、次でもいいからな」
「うん」
「よし」
「でも、良かったって言ったのは、もうひとつ理由があるんだ」
「そうなのか?」
「それは、さなえちゃんに出会えたこと」
読んで、いただきありがとうございます!