1臭目 夜のお仕事
初執筆初投稿の作品です。
ピッカピカの1年生です。ハイ。
クスッ程度に笑っていただければこれ以上の幸せはありません。
とある古びたアパートの一室にて。
時刻は深夜零時を回り、あたりは静けさに包まれている。車の往来する騒音も、隣の住人の迷惑な鼻歌も今は聞こえてくることがない。窓際の薄汚いカーテンの裂け目からは一筋の月光が差し込んでいる。フローリングは所々茶色に変色して痛んでおり、乱雑に散らかったコンビニ弁当やスナック菓子のゴミはその劣化に拍車をかけている。周囲には腐臭はもちろん、タバコやらキンモクセイやらの、不快な臭いのオンパレードとなっていた。
人々の10人に8人は生活することを拒むであろうこの空間で、「ワタシ」は必死に体を動かそうとしていた。傍には、この部屋の主であろう丸々肥えた豚、 もとい肥満男が寝ている。
寝ている、ねている、ネテイル…… つまり私が許せないのは、同じ空気すら吸いたくない脂ギッシュでニオイのえげつないオヤジと、よりにもよって一緒のベッドで横になっていることだ。
許されざることをしているのにもお構い無しで、男はだらしなく口元を歪め、幸せそうに寝息を立てている。どうせ淫夢でも見てるんだろう。
ああ気色ワルッ!
当分「ワタシ」の腰に纏わり付いた手は離れそうには無い。しかも男はかなりの大柄で、溺死体のようなパンパンに膨らんだ手は「ワタシ」の体をがっしりカバーして、その体温がジンワリと体に伝わってくる。
これがもし爽やかなイケイケのお兄さんだったらどんなに嬉しかっただろうか。無理矢理妄想で脳内の不快感を打ち消そうとする。
これが使命なのは分かっている!
分かっていても、だ。
ここから逃げ出したい!
たとえ無理だとしてもここから逃げたい!
心の底からそう叫ぼうとするが、私の声が夜の静寂を破ることはない。
まだまだ夜は長い。この密着が解かれるのは朝なのだ。ああ、朝日が恋しい……
しょうがないから妄想の続きでもしようk……
ん?
んん?
背筋にぞわぞわと悪寒が走る。嫌な予感がする。
ふと男の口元に目をやると唾液がそこから垂れていた。これだけならばまだ良い。いや、良くはないが豚野郎の名に免じて許そうではないか。
しかし汚物は次から次へと口から溢れ出ると、やがて豚の首筋から肩、腕へと一つのルートを確立してこちらに流れてきた!粘性のあるソレの終着点は……
「ワタシ」の頭だった\(^_^)/
…………
…………⁉︎
Noooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!
髪がっ、髪がああああああ!
いくらなんでも旦那、この仕打ちはないでしょう!
アタイがいつ何をしたってんだい?
しかもなんだコレ?クッ、クッ、クサッ⁉︎
鼻を突いて脳を突いて、そのまま宇宙にすら達する勢いだ。もはや災害だ。災害レベル文句なしの竜だ!
コレじゃあキューティクルもへったくれもねえ!
あーあ、アタイはあんたすら追い越して禿げちまうんだろうな、チキショ〜!
はあっ、はあっ、はあっ。
「ワタシ」の悪口のボキャブラリーが尽きかけた頃には、頭のネトネトした感触にも慣れてしまっていた。
いっそ殺すならひと息に…
その苦悩を、男は知る由もない。
次回「ワタシ」の正体が明らかに!
もう勘付かれた方も多数かもしれませんが……
→「多数」も読者さん居るわけないがね……