ラブストーリーは始まらない
私はどうやら、転生というものをしたらしい。
そんな馬鹿げたことを真剣に考えてしまったのは、自分が今生きている世界のことを「本当の意味で」理解したからに他ならない。
順を追って説明するので、どうか頭のおかしい女だと言わずに聞いていただきたい。
私の名前は友野かおりという。一般家庭のひとり娘として、サラリーマンと専業主婦の両親の間に生まれたごく普通の女だ。
幼稚園、小学校、中学校と特に目立った存在でもなく、ただの一生徒としてほどほどに生きてきた。
取り立てて語る壮大な過去や、高い志などありはしない、毎日をなんとなく過ごしている大多数に属する人間だった。
将来の夢なども明確なものはなく、自分の成績に見合った高校を受験して入学。気の合う友人もでき、部活も楽しい…そんな高校生活の1年が過ぎ、私は2年生に進級した。
新しい教室、担任、そしてクラスメイトたち。
私は隣の席の男子と友人になった。
彼の名前は州堂隆世、黒い前髪が目を隠さんばかりで驚いたが、話してみれば明るく気さくで、取っ付きにくさを感じさせない感じの良い人間だった。
趣味や好みが同じで、男子であったがとても仲の良い友人になった。
行動するグループは男女で異なっていたが、別にそんなことは何でもなかった。ただ隣の席で、他愛無くも面白おかしい雑談をする仲だった。
おや?と思い始めたのは、新学期が始まって一週間が経った頃、新入生と上級生のレクリエーション会があった日だ。
全校生徒が集まった体育館にて、全学年合同ドッジボール大会なる我が校の因習が執り行われた。新聞部に所属している私は校内新聞の写真撮影のため競技もそこそこに写真を撮って回った。
そこで見た州堂のチームに、私は雷に打たれたような衝撃を受けることになる。
州堂のチームには男子生徒は彼一人で、他は六人の女の子で構成されていた。といっても私が知っているのは友人の州堂と生徒会長である本城先輩くらい……。
の、筈なのに。まず現れた違和感は、この光景を私は知っているということ。所謂デジャヴというやつで、女子六人に囲まれた州堂の少し困ったような様子を、まるで一枚の写真のようにどこかで見た気がしたのだ。
そして第二の違和感は、話したこともない女の子たちのことを知っている、と思ったこと。3年生本城先輩を除いて、2年生が4人と1年生が1人。同級生ならば擦れ違ったこともあるかもしれないしそれで記憶に残っていたとしても、だ。今日初めて見たあの1年生を知っていると思うのは、流石に異常である。
途端にぐらりと謎の眩暈に襲われた私は倒れた。
倒れた私の意識は夢をみた。
夢の中で私は、テレビの前に座っている誰かの後ろ姿を見ている。テレビからポップな音楽が聞こえ目線をそちらへ動かすと、ゲームのオープニングムービーのようなものが流れていた。
その画面には、先程見た州堂グループの女の子六人が映っていく。
驚きに私が目を白黒させていると、まるでサブキャラの紹介のような短いカットの中に、自分がいることに気づく。
そこに書かれていたのは「頼れる助言者 友野かおり」の文字。
そして現れる【Perfume Love】の文字。
「ああああああ!!!」
と叫んでしまいたかった。私はこれを知っている。
これは、前世というもので女ながらに私が兄の影響ではまったギャルゲーなのだ。
決して女の子を恋愛対象に見ていたわけではないが、どのキャラクターもストーリーの完成度が高く好んでいた。私自身アニメや漫画、乙女ゲームが好きだったのも、はまった要因だろう。
そんなことと同時に、私は自分がその世界で死んだことを思い出した。不慮の事故で死んだ私は、何だかんだ輪廻転生というやつをしてこの【Perfume Love】の世界に生まれてきたのだ。
しかも、主人公に様々な助言をするサブキャラクターの、友野かおりとして。
◇