謹賀新年~新春座談会~ミュートロギアVer.
今更ですが、お正月企画を…
え、ハロウィン企画が頓挫してるだって?
来年までお待ちください……
【ミュートロギアアジト内:食堂】
「なぁ、アキト。今年の抱負とかないのかよ」
グレンお手製のお雑煮を食べていると、タツヤがそんな事を訊いてきた。抱負……かぁ。小学生くらいまでは正月の朝に墨でデカデカと書いたなぁ。でも、いつからかやらなくなった。お陰であまり意識していなかった。
そのせいで少しばかり反応が遅れる。
「え、抱負……? そうだな。やっぱり、第一志望合格かなぁ」
「アポロンくん、夢がないね」
「んなぁっ?」
新年早々、餅を既に三十個を喰い散らかし、まだ更に雑煮のお代わりを要求する……食い意地の女王こだまがジト目で俺を見てくる。
「夢があるから頑張ってんだろーが!」
「はいはい、お正月なのに喧嘩しないの。アキト、まだ食べるでしょ、お雑煮」
割って入ったのは本城夕妃。俺の姉貴。
炊事を手伝っているのだ。向こうの方には心恵さんの姿も見える。
「じゃあ、夕妃さんの抱負ってなんすか?」
タツヤがすかさず話題を振る。姉貴は少し考えてから、何故かこだまをじっと見た。
「こだまに……二桁の掛け算をマスターさせる事ねぇ」
こだまが読んで字の如く、震え上がる。顔も真っ青に……と思ったら、餅が喉に詰まったらしい。机をバンバン叩いてもがき始めた。
「あーもう、痛くても我慢しろよっ」
背中を叩く。
「いだいぃいいいいいっ!」
よし、そんだけ大声出たなら大丈夫だ。
要るとは言ってないのに姉貴が置いていってくれた雑煮から湯気だ立ち上っていた。仕方なく箸を手に取る。
横からの視線が痛い気もするけど、まぁいいや。
なにか呟いて……
「アンタも詰まらせたらいいんだよそしたら私がバンッてしてあげるんだから。早く詰まらせてよアプリケーションくん……」
うん、聞かなかったことにしよう。
この馬鹿力に叩かれたら詰まった餅どころか内臓までポロッと出てきちまう。
「んじゃ、ダイキ、お前の抱負は?」
まだこの話題が終わっていなかったらしい。
「そうだねぇ、今年一年も誠実に生きることかなぁ」
でた、聖人君子菊川大輝。おまけににっこり笑顔とウインク。お前、アイドルか何かになったらどうだ。ガッポガッポ儲かるぞ。
「じゃ、神威は?」
雑煮の中の人参と格闘していた神威がチラリとこっちを一瞥する。なんだよ、なんか付いてたのか?
「……コミケで一儲け」
随分間を置いた割にそれか……!
いや、でも何故か安心した。神威らしいし。菊川よりは親近感が湧く。うん。
それきり会話が消える。
「……おいッ!」
しかし、突然タツヤが大声を出した。
なんだなんだ、なんでそんなに震えてるんだよ。お前も餅を喉に詰まらせたか?
「俺は……? 俺は訊いて貰えないのかッ?」
成程。察した。
結局は自分のを聞いて欲しかったと。
「じゃあ、タツヤの抱負は?」
「じゃあ? じゃあ?! あぁ、俺の事なんて所詮そんなもんなんだなぁああああ! そんなだったらもう言わねぇよ、いいよいいよ」
めんどくせぇ……。突然拗ねた。
「煩いな。どうせ『今年は彼女十人以上作ります』かなにかだろ」
全て攻略したハズの人参を新たに見つけ、顰めっ面の神威が実に的確にツッコミを入れた。一応、学年は神威が一つ下だがそんなのはお構い無しらしい。
で、当のタツヤは……というと。何故かドヤ顔だ。
「残念だったな、神威」
「なんだ、違うのか?」
菊川の問いかけに、指をチッチッチと振る。そのアクション要るか?
「十人以上じゃない、二十人以上だ!」
「このえさーん、おかわりー!」
タツヤのどうでもいいタラシ宣言はこだまの声に見事に掻き消された。
「こだまちゃん、お正月から絶好調じゃない。いい事よ。お餅は幾つ入れとく?」
「みっつー! あ、このえさんのとーふって何?」
「とーふ……?」
「あ、多分、抱負です」
「そうね、よりきめ細かい皆のサポートができれば良いかな。あとこだまちゃんにメイクでも教えてあげたいわね〜」
こだまの顔がぱぁあああああっと明るくなる。
「こだまちゃんもお年頃だからね。彼氏とかいつ出来てもおかしくないでしょー?」
「ぶっ……」
……ん? 俺じゃないぞ、誰かが雑煮を吹き出した……?
「こら、神威くん。汚いわよ?」
「人参が、入ってただけ」
慌てて付近でこぼれた汁を拭く。人参なんか何処にもないが……もう飲み込んだのか?
ほんと、変なやつだな。
「もう、ティッシュとか取ってきてあげるから……って、あ、グレンちゃん! ティッシュ持ってたわよね?」
丁度グレンさんが近くを通りかかる。エプロンのポケットから……流石だ。サッとティッシュが出てくる。
「はい、神威くん。なんだか、抱負っていう言葉が聞こえてましたね! 皆さん楽しそうでいいですね〜」
「グレン! グレンのほーふは?」
「私は勿論、皆さんに美味しい料理をお届けすることですよ! 強いて言うなら、本場のカレーを作れるようになりたいものです。スパイスの研究しなきゃ! ですね」
だめだ、可愛い。エイエイオー! 等と恥ずかしそうに拳を掲げるグレンさんに俺だけじゃない、周囲の視線が集まる。岸野に見つかったら新年早々どうなる事やら……。
【ミュートロギアアジト内:指揮官室】
「ブゥエックショーーーンッ!」
「おや、どうしたんだい? 正月早々に風邪かな?」
メルデスの心配を他所に日本酒をグイッと煽る彼こそ、岸野充である。頬は赤く染まり、そろそろ出来上がりそうな雰囲気だ。
「もう、諦めるのか、弟よ。明日から、ヘタレ、と呼ぶぞ」
「ぅうううるせぇええええ! まだ飲め……ゲホッゴホッ」
「オルガナ〜? 程々にしないと医者がアル中で死ぬよ?」
「構わん」
更にこちらでは、あろう事か医者である筈のレンがオルガナに挑んでいた。もう勝敗は見えているも同然だが。焼酎が二升にウォッカが三瓶。それでもオルガナは顔色一つ変わっていないのだから。
「お姉様っ! 次は何に致しましょうか」
「私は、そろそろ、シャングリア、でも、貰おうか」
「俺は……ウーロン……」
「シャングリアとウーロンハイですわね! 賜りましたのです」
「違っ……ウーロンちゃ……」
ガクッ……とレンの身体が机に突っ伏す。使ったグラスが雪崩を起こした。先程オルガナに忠告したセギが苦笑いをする。
「あれ? そう言えばフレイアは食堂に行かなくていいのかい? お酒を飲む大人はここで飲むことになってるけど」
「メルデスさん、私はお姉様をそのへんでのさばっている獣共から警護するために、ここにおりますの!」
「あぁッ? だぁーれが、獣だ?」
出来上がりつつある岸野が食ってかかったが、フレイアは歯牙にもかけない。出際よくシャングリアとウーロンハイを用意して、オルガナには恭しく、レンには……乱暴に差し出した。
しかし、レンは反応は愚かピクリとも動かないが……大丈夫だろうか。と思ったらガバァ! と起き上がった。ウーロンハイを一息で飲み干す。
「俺のぉ! 今年の目標はぁ、コイツに妹だと認めさせることだァ! お前は兄貴に対する礼儀がなってないんだよこのやろぉ」
「何を、言うか、ならば、私は、お前に、今年こそ、諦めさせる」
珍しい。オルガナが幼稚な発言にムキになった。つまりは、彼女もまたかなり酔いが回っているということ。メルデスはワイングラスを傾けながらそれを微笑ましく見守っていた。
「フレイアの今年の目標はないのー?」
ツマミのサキイカを口にくわえたセギが訊ねる。
「私はもちろん、お姉様のように強くなることですわ!」
「ぶれないねぇ〜そういうとこ好きだよ」
「そう言うセギさんは、何かあるのですか?」
自分が振っておきながら、話を振り返されるとは思ってもいなかったらしい。目を丸くして、ピーナッツを一粒放り込んだ後……
「悔いなく生きることかな〜」
微笑しながらそう言った。
すると、メルデスの眼鏡がキラリと光る。少し身を乗り出してきた。
「奇遇だね、セギ。僕もだ」
メルデスの体調のことは、大人達だけの秘密だった。よって、フレイアはメルデスの発言で一瞬ピリリとした空気の意味を知る由もない。
「や、やだなぁ……なんでそんなに変な空気になるんだい? ほら、岸野、君は何か目標は?」
全く。メルデスとは、空気が読めているのか読めていないのか……本当に分からない人物である。瞼が落ちかけていた岸野を揺さぶり起こす。
あからさまに不機嫌な岸野だったが、流石、酒が入っている所為でノリは良かった。
「俺はだなぁ……ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
何か言いかけた瞬間に、岸野の意識は夢の世界へと飛び立った。
「ねぇ、岸野なんて? 聞こえた?」
「聞こえたけどねぇ、言ってもいいんだろうか……」
隣にいたメルデスは語尾がきちんと聞こえたらしい。が、何故か口篭る。だが、かえってその行動が周囲の憶測をうみ、さらにその憶測は万丈一致、それが解なのである。
「今年こそは実るといいけどねぇ〜」
「こんな、低能に、グレンが、良いと、言うか?」
「まぁまぁ、人の好みは人それぞれ。温かく見守ってやろうじゃないか」
……To be continued
余力があれば
ネメシス+作者の部屋+α
としてもう一作お届けいたします
余力があれば……orz