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黙示録(アポカリプス) SS  作者: 天雨美姫
2/10

こだまの、日常。その1

こんかいは、ヒロインのこだまちゃんの話です。


前回の話とほぼ同時期だと思ってくださって結構です。

 

 今日も彼女はご機嫌である。


 廊下をフンフンと鼻歌を歌いながら大股で歩く。

 アンティークな扉や柱の並ぶ長い廊下にはもう少しで天頂に届きそうな太陽が放つ金色の光が木目調の床を照らす。


 この少女は保健室で昼寝(昼寝と言っても現在の時刻はAM11:55であるが。)をし、流石に彼女の成績を案じたのだろう、保健室の先生が教室へ帰るように促したのだ。

 しかし、もちろん彼女が教室に帰ってすることと言えば、教科書、ノート諸々を枕にして眠ることなのである。


 彼女は杏色の髪をポニーテールにしており、最も特徴的なのは頭頂部につけた大きな白いリボンであろう。

 蝶々結びではなく一度だけ固結びをして上向きにぴょんと立てている。その様子はまるでウサギのようだ。


 隣の席の少年は一生懸命ノートを取り勉強をしているというのに。



(眠い~)



 彼女が眠りについてからどのくらい経っただろうか。かなり古く錆びたようなスピーカーからかすれたチャイムが鳴り響いた。廃れた音でも、その響きは校内に共鳴しているのか独特の荘厳な雰囲気を帯びている。

 こだまはその音を聞きつけ、ガバァッと飛び起きる。目は先程までの寝ぼけ眼じゃない。ランランと輝いている。


 隣の席の少年……もとい、本城暁人がその姿を見て軽く溜息をつく。その口元は少し笑っているが。

 担当の教師はその光景にすっかり慣れているのか、何も言わずに授業の終了を指示する。


 するとこだまは勢いよく教室を飛び出した。実のところ、先程の授業は4時間目。つまり、




「おひーるごはぁーーーんっ!!!ふぁはははははははは!」



 廊下を走り、階段を下る。踊り場で一回転し、また階段を下り、食堂のドアを勢いよく開け放つ。



「こだまちゃん、いらっしゃーい」



 初老のふくよかな顔つきの女性がこだまをカウンターの奥から出迎える。



「おばちゃん! おはよー!!」


「いつものところに届いてますからね。飲み物は?」


「んー、オレンジジュース!」



 いつもの光景である。いつものところというのは、奥の方にあるテーブル席のこと。こだまはいつもここで食事をするのだ。そこに今日は大きなダンボール箱が二つも並んでいた。異様な光景ではあるが、まだ誰もいない食堂では驚くものも騒ぎ立てるものも居ない。


 こだまは大喜びで箱を開けた。中からは香ばしく甘い香りが広がる。先行するのはシナモン独特の香り、そしてその後には砂糖と小麦の香り、少しばかり酸味のある香りは焼けたリンゴの発するものである。


 そう、今日の彼女の昼食。それは……



「グレンのアップルパイ~!」



 彼女は頂きますも言わずに彼女の顔ほどの大きさもあろうかというアップルパイにがっついた。



「はふぅ〜♡ 口の中に広がるなんとも言えない芳醇な香り、りんごの酸味が素材の良さを引き立たせ、なんとも言えないハーモニーを奏でてるんだよっっ!」



 そう言いながら口をもごもごさせるこだまの顔は、幸せそのものだ。普段は馬鹿な発言しかしていない彼女だが、スイーツのことになると途端にボキャブラリーが増幅する。



「あれ? こだま、今日はプリンじゃないのか?」



 人がまばらに集まってきた食堂。殆どの生徒及び教師は彼女には気にも留めないが、彼だけは違う。こだまのクラスの転入生、そう、隣の席で真面目に勉強をしていたあの青年だ。



「ふぁふはひはっふぃーーふぁへはひんははらへー!!?」


「……何言ってるかわかんねぇから。口ん中空っぽにしてから喋れよ、行儀悪い。」



 そう言いつつも向かいの席に腰を下ろす。



「あら、こだま。今週はアップルパイ?」



 後ろから声をかけてきたのは本城夕……もとい、本城先生。この青年の姉であり、2人のクラスの担任である。



「今週は……?」



 謎の発言に本城暁人は顔を顰める。その会話の間にもこだまはアップルパイを凄まじい勢いで食べ続ける。いや、もうこれは(むさぼ)るの方が正しいのか。



「あ、ポロポロこぼして~。ちゃんと拾うのよ? んもう、グレンったら、こだまを甘やかしすぎなのよね~。今週はこれ食べたい! って言ったらその通りに全部しちゃうんだから。先週のプリンだって、全部グレンお手製なのよ? まったく……あんまり甘やかしちゃダメだっていっつも言ってるんだけどね……」



 やれやれと夕妃は腕を組んで溜息をつく。と思ったらこだまがポロポロとこぼしたパイ生地を拾って集め始めた。


 本城暁人は心の中でツッこんだ。



(いやいや、姉き……本城先生も充分に甘やかしてると思います)



 本城暁人はこだまが何故かミュートロギアの大人達から手厚い待遇を受けているように感じる。が、理由はよくわかっていない。彼なりの考察では彼女の自由奔放さに大人が振り回されているんだろうという結論に至っている。

 真相やいかに……。




 今日もこだまは元気いっぱい。


 みんなの愛を存分に受けながら、今日も……



「レン~! ベッドかーしーてーーー!」


「てめぇに貸すスペースも酸素もねぇよバァーータレっ!」


「えぇーー。ぶーぶーーっ!」


「えぇいっ! 騒ぐなガキがッ!」



 バスッバスバスッ



 毎日が楽しいこだまさんのお話でした。


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