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平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第1章 闇を抱えて
9/26

第9話 やっぱ異世界なら…?

朝起きて心臓が止まりかけましたよ。ええ。

布団手前で寝落ちしてたし、何故か血塗れだったし。いや、血塗れの原因は判ってるけど。


もう、ちょっとした殺人事件の現場みたいな感じでしたよ。

重いけど、割とスッキリしてる体を起こし、軽く伸びる。

「…掃除しなきゃな。」

思えば昨日の店主も、よく店内にこんな奴を入れてくれたもんだ。店が汚れるだろうに。

多少の筋肉痛とかなりの空腹感、血に染まったシャツと床。さて、何から手をつければいいのやら…。

取り敢えず飯か。腹の虫がうるさいし。


昨日から煮込み続けておいた鍋と、昨日の残りのバターロール似のパン1個を勢いよく平らげ、腹の虫を一時的に黙らせた。

鍋の中身を多少温め直す必要はあったが、これは大した労力でもない。問題は、温野菜が煮崩れ?を起こしてもうドロドロだった事くらいか。

今度からジャガイモには気をつけよう。

あ、大根やら人参は食いやすかったです。はい。寧ろグジュグジュでした。

え、痛んでなかったかって?知らん。それどころじゃねぇ。多少のリスクは覚悟の上だ。


サッと朝食を終えた次は、洗濯に取り掛かる。と言っても、数日着っぱなしだった&血がベットリ付着してるシャツなので、中々汚れは落ちるわけもなく。

かといって、着替えがほぼないわけで。こいつダメにして捨てるわけにもいかんのですよ。

「…ダメだ、落ちん」

ガシャガシャとお手製桶&適当な石ころを核にタワシみたいな刺々した物で擦り続けてはいたのだが、どうにも手強い。

いつまでも洗濯ばかりに時間を割くわけにもいかないので、適当に日当たりのいい切り株の上で天日干ししておく。


午前中はこんな風に家事に精を出し、敷き布団手前の血も掃除して、買い出しに出かけた。

村に着いて食料を買い求める途中、何故か皆、落ち着いてない様子だった。

試しにおっちゃんに何があったのか聞いてみたところ、「な、何もねぇよ?」と明らかに何か隠してる様子ではあった。(てか隠すの下手すぎだろ…)


根掘り葉掘り問いただしたいところだったが、まだまだやらなきゃならないことがたくさんあるので、大人しく引いた。


そうしてまっすぐ家に戻ると、家の前に来客があった。

「あれ、どうしたんですか?」

午前中に天日干ししておいたシャツが置いてあった切り株の上に座り、ご丁寧にシャツを畳んでくれている赤髪司祭…いや、魔導師に声をかける。

…まだそれ濡れてないか?

「おはようございます。…と言っても、もう昼ですけどね(苦笑)昨日のお詫びに来ました。」

お詫び?と言われたが、特に何かされた記憶はない。いや、あるけど、それはまた置いとこう。そもそも昨日の話じゃないし。

「昨日って…あぁ、用事があったなら仕方ないよ。」

多分、同行できなかったことを言ってるのだろうと思い、特に気にしてないというフォローを入れとく。

「いえ、まさかガルハウンドが現れるとは…流石に想定外でした。」

悔やむに悔やまれないといった表情で、申し訳なさをアピールされてしまう。

…いやマジで気にしてないんだけど。

「いいよ、生きてるし。あ、飯の準備するけど…いい?」

「ええどうぞ。」

雨晒し簡易キッチンに薪を追加して、野菜を取り出す。

「そういや、アレってそんな強いモンだったの?確かに死にかけたけど(苦笑)」

「ランクで言えばCランクですからね。並の人間じゃひとたまりもないですよ。」

ふーん?というか、俺的にはランクの概念から説明を求めたいところだな。大凡の予想はつくけど。

「そのランクってのは?Cがどんだけ強いのかも判んないだけど。」

「ランクはただの等級ですね。単純に強い順でA〜Eまであります。」

その五段階という事は…、やっぱ特権階級みたいなもんでSランクとかありそうだな。例えばテンプレ魔王とか最古のドラゴンとか。

「Eは無害なモンスターばかりですが、D以降がこちらに危害を加えてきます。Cランクモンスターを1人で倒せれば一人前という風潮もありますね。」

「ならゴブリンは?」

割と複数を相手しなきゃなんないから、ゲームじゃ弱いけど意外に強い部類に入るとおもうのだが…。

「ゴブリンはDですね。稀にCランク相当の個体もいますけど。」

ムーアの説明に少し違和感を覚えながらも、皮を剥き一口大に切った野菜をフライパンで炒める。

「それじゃあ、ゴブリンってその、ガルハウンドってのより弱いんだよな?」

「ええ」

…なら…。

(なんであのゴブリンがガルハウンドを使役できたんだ…?)

強さのランクで言えばガルハウンドはゴブリンより強い。実際に強かった。

稀に強い個体がいるといっても、俺が倒した中にそんな強いのはいなかった。数の暴力ってのもあるが、アレじゃあ割に合わない…多分。

となると…。

「なぁ、ムーア。ゴブリンってのはそんな頻繁に格上のモンスターを仲間に入れたりするのか?」

仮にそうだとしたらマズイ。なぜって、あんなのが10体もいたとして、村を襲いに来たらかなりの人達が被害に遭ってしまう。

「…何やら懸念がある様ですが、恐らく心配することは何もありませんよ?」

いつの間にか知識も経験もないのに、悪い方向に思考がいってしまっていたのを見透かされた。

「いや別に、心配なんて…」

「村の人達もソワソワしてましたけど、端的に述べると、またゴブリンの王でも生まれたのではないか?と騒いでるんですよ」

…へ?王?ゴブリンキングとかいう在り来たりなアレ?

理解が追いついてない俺に、続けて説明してくれた。

「クロキがガルハウンドを狩ってきたでしょう?ここら辺の群れにそんな優秀なゴブリンなんて居ないですから、よその群れから貰ったんじゃないかって皆が思ってるんですよ。」

つまるところ、あのガルハウンドは輸入品ってことか。

「でも、そんな貴重な戦力をこんな辺境にまで渡せる余力があるなら、優秀な指揮官や個体がどこかで増えたという証なんです。」

「ということは、その優秀な個体ってのが王かも知れなのか。…って、それ結局ゴブリン達が強くなってることに変わりないだろ!」

素人考えだけどもう少し危機感を持った方がいいんじゃないかと思えてならない。

「ええ、確かにそうですね。けど、そんな貴重な一匹を簡単に倒してしまったんですから、ゴブリンからしたらたまったもんじゃないでしょ?」

「まぁ、そうだけど…。」

それなら報復に来るんじゃなかろうか…。違うもんなのか…?

「暫くは大人しいでしょう。もちろん対策も取りますよ。」

適当に炒めて作った昼食と、出来合いのさっき買ったパンを取り出す。

正直納得できてないが、素人があれこれ考えても疲れるだけだし。


「よっと」

適当な中身スカスカのテーブルを作って、地面に座り込む。

「それで、それだけの為にわざわざ来てくれたのか?」

フォーク擬きを作りながら、ムーアに問いかける。

「えぇ。あ、お昼はもう食べてあるのでお気になさらず。」

いや、そもそも一人分しか買ってないから、もてなせないんだけどね。

「じゃあ、これから時間ある?」

「ありますよ」

「なら、魔法の練習に少し付き合ってほしいんだけど。」

魔法の同時行使や、維持、それと『永続化』なんかを取得したい。

その途中で家具増やしたり…フフッ。なんて、それはフツーに頼めばやってくれると思うけどね。


手早く野菜とパンをかきこんで、サッと諸々片付ける。

「それで、私は何をしたら?」

切り株に畳んだ服を置いて、立ち上がる。

「取り敢えず…、上手い魔法の使い方が知りたいんだ。」

「使い方…ですか?」

「あぁ。昨日、トラム君は火の玉?を飛ばしたりしてたんだ。」

ファンタジー世界の真骨頂。爆ぜる火球、空を割く雷、停滞させる氷。そんな在り来たりな魔法が使いたい。

「俺も“一応”火は使えるし、どうにか真似できないかなって。」

威力こそ弱いけど、数日で俺の“生成魔法”もニョキニョキと成長してたし、覚えればかなりの手札になるはず。

しかし、そんな期待とは裏腹にムーアの顔は暗かった。

「それは…。その。」

「?」

「覚えていますか?私が魔法適性を調べた時のこと。」

調べた時?

「えーと、…あっ。」

死線を潜り抜けたから忘れていたが、確かにハッキリと言われてた。

『ロウソクの火ぐらいしか灯せない』と。

「もしかして…、俺には使えない…とか?」

無言のままでいる彼の姿は、俺を気遣うようでいて、その実、肯定の意味を示していた。

「んな、マジか…。」

ちょいガッカリ。

「クロキは魔法こそ単純ですが、オリジナルの比重が他の魔法より大きいので、普通の魔法を使うのには向いていないんですよ。」


つまるところ、俺は某チート能力である『分○』と『再○』の所為で、通常魔法が実戦では使えないと…。

いや俺の魔法は『○解』でも『○生』でもないけど。


「近いことはできなくもないですけど…、あまり意味はないかと。」

「…んじゃ、何かこう、俺にできることってない?あ、『永続化』!アレって覚えられないのか?」

アレがあればこの先、独り立ちしても道具に困らないで済む。

実際、道具というよりは家具や調理器具に使うんだけどね。

「それでしたら、覚えられ…いえ、クロキならもう覚えてますよ?」

…ウェイトミニッツ?なんて?え、ドユコト?覚えてるって言った?いや、うん、確かにそう聞こえた。ホワイ?

数秒の沈黙を経てから、俺の思考は改めて稼働しだした。

「いやいやいや、何言ってんだ?そんな魔法覚えた記憶ないぞ?」

しいて言えばムーアが使う所を見ただけだし。

「そうですねぇ。自覚がないだけかもしれないですね。」

何、睡眠学習でもしてたって言うんですか?俺にそんな器用なことできませんよ?

ちなみにこの場合の睡眠学習とは、眠る事ではなく、眠ってる間に何かを覚えることね。

「って言われてもな…。」

例えば、いきなり剣術の才能があるぞ、と言われても、無手なので実感できるわけもなく。

「なら、術式でも使いますか」

「へ、術式?でもそれって…」

俺の記憶が正しければ、感覚で使えてる既存の魔法に支障が出るはずじゃ?

「いえいえ、私が書くのでクロキがそれに魔力を入れるだけですよ」

「…えっと、つまり?」

よく判らないが、それで使えるようになるのか?

「簡単に言えば、公式を見ながら計算を解くようなものですよ。」

(なぜ数学で例えたし…)

というか、この世界に数学ってあるんだ。

いや日本語がある時点で…あれ、これって日本語じゃないんだっけ?まぁいいか。

懐から紙とペンを取り出して、サラサラと何か書き出している。

「このように、簡易的ですが式を書けば…。出来ました。」

手渡された紙には円形の図と文字が書かれていた。

「これに魔力を流せばいいんだな?」

「ええ。ただ、配分を間違えないでくださいよ。多すぎも少なすぎも失敗の元ですから。」

軽い注意を受けてから、適当にナイフでも作ってみる。

ナイフくらいなら割と簡単に作れるようになった。デタラメに棍棒を作っていた時期が懐かしいよ(苦笑)

多分、食器とか作ってて練度が上がったのかな。

「ん、これに…。この紙って持ってるだけでいいのか?」

今、右手にナイフ左手に紙を持った状態な訳だが、近づけたほうがいいのだろうか。

「特に決まりはないですね。お好きなようにどうぞ。」

あぁ、持ってるだけでいいんだ?

「ん、よっ。」

特に指定がないので、ナイフに紙を当てながら集中する。

やっぱこういうのは形から入らないと(笑)

「…ん?なんか。違和感…。」

当てて一秒経ったかどうか。唐突に違和感を覚える。

「成功してますね。」


…はい?


「え、終わり?」

軽くナイフを振ってみるが、特に変わりはない。

「疑うなら、それに魔力を付け足したらどうです?」

言われるがままに、ナイフのサイズを一回り大きくしようとしたのだが、上手くいかない。

『永続化』って、こんな簡単に出来るモンだったのか…。なんか複雑。

「…えー。いや嬉しいけど…これマジか。」

気合い入れてたにも関わらず、呆気なかったな…。

「ちなみに、質問される前に言っときますが、この方法は任意の魔法が予め使えることが前提ですから、中級の炎は扱えませんよ」

もうなんか脱力感が…。つまるところ、俺はどうやっても“今は”トラム君みたいに火球を飛ばせないと…。

…この続きはレベルアップしてから考えよう。レベルとか言う概念がこの世界にはないけど…。


サラッとファンタジーの醍醐味がすぐ叶わないと知った俺は、後、何を聞いたらいいのか思いつかなくなった。

というか、良くも悪くもショックが大きい。トラム君のを見て期待してたのと、一度希望を持ってた分ダメージがデカイ。

「あの、大丈夫ですか?」

『永続化』成功で喜べる筈なのに、寧ろ少し凹んでるクロキを見て、心配になる。

“視える”限りでは正常なのに、なぜかゲンナリしてるし。

「あー、ヘーキヘーキ。」

ナイフ片手にぎこちない笑顔を向ける。

「それより、えーと。他に何か、俺が覚えられそうな事ってない?」

これ以上、特に思いつかなかったので、ムーアに投げてみた。

「他に…ですか?基礎は出来てますし…。あとは座学位しか」

どうやら彼もお手上げのようで、このままだと、また延々と知識を叩き込まれるようだ。

「それは…ちょっと」

「ですよね。…あ!」

「なら、少々専門外ですが、杖でも見に行きますか?」

…え、杖?

「杖って…。まさか魔法を強めたりできる?」

まぁ、このタイミングでお年寄りが使うありきたりな杖のことじゃないだろう。

「その杖ですね。」

「杖、ねぇ。」

俺の勝手なイメージでしかないのだが、杖って魔法使い専用の武器って感じがするから、少し抵抗があるんだよなぁ。遠距離技持ってないし。

それなら剣でも買った方が戦闘にもいいだろうし。

「まぁ、見るだけ見に行きましょうよ。」

渋る俺を御構い無しに背中を押して、昨日の道具屋へ行くことになった。



「おや、ムーアさんと…クロキさん。いらっしゃい」

着いた場所は、昨日訪れた道具屋。当然だが、モンスターの換金はまだ済んでなかった。

…というか、よく俺の名前覚えたてましたね?

「どうも。失礼しますね。」

「珍しいですね。ポーションと錯乱薬なら、まだ無いですよ?」

ちょ、錯乱薬ってなに?中々に違法な薬物臭がするよ?

「いえ、今日は杖を見に来たんですよ。一通り有ります?」

「杖?ちょっと待ってください。」

そう言って一度裏に戻り、ガチャガチャ聞こえる音を聞きながら待ってる。

「ちなみに、杖の相場って幾らなんだ?」

待ち時間にふと思った疑問を聞いてみる。

ここまでして見るだけとか気まずい。

「そうですねー、大体2ゴールド前後ですかね。」

に、…ちょ、高くね?

「単式モデル…。まぁ、旧型とでも思ってください。それは5シラバー位ですよ。」

「旧型で5…。それなら…。」

手が届かなくもない。てか届く。昨日の収入の半分だけど。

「まぁ、今回は私が出しますから。そんな気にしなくていいですよ。」

「え、」

正直、かーなーり葛藤はある。遠慮すべきなのだろうが、お言葉に甘えて後で返す選択肢もある。

そしてこの場合、割と中途半端な事をしてしまうのが俺だ。

「そ、「お待たせしましたー!」

…店主さん、タイミング良すぎ。

「一通りとの事でしたので、古い型も一応」

木のテーブルの上に置かれた杖は、杖と呼べるのか疑問のあるものが多かった。

「割と新しいのはこの腕輪ですかね。」

え、杖らしい木製の杖もあるけど、何コレ?

「腕輪も杖って…」

腕輪、ペンダント、指輪。それに、銃。

「って銃!?」

「おぉ?どうしました?」

「銃?」

まさかこんなところでお目にかかれるなんて思ってなかった代物が、なぜか目の前にあった。

「あの!コレも杖なんですか?」

指差した物は勿論、銃だ。

「え、えぇ、この旧式の杖ですか?」

ヒョイっと持ち上げてトリガーに手をかけずにグリップを持っている。

「み、見てもいいですか?」

好奇心が抑えられなかった俺は、少々食い気味に聞いてしまった。

「ど、どうぞ。」


手渡された銃を良く調べる。

特にその手のマニアというわけではないが、やはり男なら胸躍る一品だろう。

ありがちなオートマタイプで、特に変わった見た目ではなかった。

ただ、一点。銃としての役割を果たせないだろう構造になっていた以外は。


そう、銃口が塞がっていたのだ。

これでは鉛玉なんて発射できない。その代わりかどうかは判らないが、そこに何やら小さく文字が書かれている。

「ムーア、ここ読める?」

文字の雰囲気から、なんとなく術式の類だとは察せられたが、俺にはまだ読めるはずもなく。

「あ、あぁはい。」

…アレ?なんか引かれてる?

「えーと、それは…?」

「あぁ、それは発射の向きを安定させるモノですよ。」

代わりに返答してくれたのは、店主さんだった。

「向きを?」

「えぇ、あらぬ方向に飛んでいかないように補正をかけてるんですよ」

この補正の本来の目的は、どちらかといえば無駄に魔力が分散しないように固定することがメインであった。

しかし、杖を使い慣れていない者が使った場合、狙いが定まらない事が多いので、その対策として追加された式なのである。

「このタイプはその昔、一部のマニアが集めていた一品ですよ。」

「ただ、あまり実戦で使うには癖のある代物…なんですよねぇ」

え、ムーアさん?どうしました?何か苦い思い出でもあるんですか?

あまり気乗りしない感じが漂っている。

「癖?」

「威力は勿論、単純な術式しか書き込めず、ちょっとした小道具程度にしか使えないんですよ。」

「私からもあまりオススメはできませんね〜。あ、こちらの木製の杖はどうですか?自然素材ですから抵抗も少なく、誰にでも扱いやすいと定評のある一品ですよ。」


…悩む。メジャーな装備を買いたい気持ちはあるが、銃というこの世界ではマイナー武器が目の前にある。


安全牌を選ぶならメジャーな方だろう。


いやしかし…!

「ちなみに、値段って…いくらなんですかね?」

ちょっと逃げた。値段に。

「そうですねぇ、この旧式タイプですと…、書いてもいませんからね…。3、いや、2.5シラバーでいいですよ。こちらは1.2ゴールドですかね。」

あ、決まりました。もう完全に。旧型の相場より安いとか、もうそれでいいでしょ。

「おや、値上がりしましたか?」

「えぇ、最近、王都から杖が仕入れられなくてですね。どこの田舎もこんな値段に。」


…いやまぁ、いいですよ。心は決まってますから。


「じゃぁ、その旧式?ください」

「え!?黒木さん、話聞いてました?」

聞いてましたとも。聞き逃すわけないじゃないですか。

「あぁ。はい、2.5シラバー。」

ポケットからゴソゴソと大小7枚のコインを店主に手渡す。

「…いいんですか?安いのでしたら他にもーーー」

「いや、それが気に入ったんで、それでお願いします。」





こうして、ムーアに色々言われながら、銃のお買い上げに成功した。

てか、どんだけ不便かの講釈は判ったから、いい加減黙ってくんないかな…。

「兎に角、術式が単純なものになりがちだから大した威力は見込めないって事だろ?」

「それが判っていて、なぜ買ったんですか?私も昔は形に惹かれて使ってましたが、それでなんど死にかけたことか…。」

いやそんな失敗談を愚痴られても…。

「判ったって。それより、コイツの術式の変え方、ちゃんと教えてくれって。」

どうやら、この汎用型はオリジナルの術式どころか、普通の火、水といった魔法ですら、単一の物しか書けないらしい。

木製の杖なら、オリジナルや光、闇以外の対応できるあたり、旧型の名は伊達じゃないようだ。

「それに、プレゼントしようと思ったら自分で買っちゃうし…、自覚はないのに魔法はできちゃうし、先生としてやり甲斐がありませんよ〜。」

先生の自覚あったんかよ。それと、アレで魔法が完璧なんて微塵も思ってないから、ご指導のほどよろしくお願いしたいんですが。

「いや、そんなこと言われても…。まだ聞きたいことだってたくさんーーー。」



不意に、背筋に寒気がした。


目の前に現れたのは、この村では初めて見た、紫色の髪をした女性。多分年はそんな離れていないと思う。


特段、何か気にするような点は欠片もない。


肩にバックをかけて、手にはシンプルな魔法のファンタジーにありがちなアレを持っている。


「おや、お久しぶりです。」

彼女を見て、ムーアが挨拶をした。

「ご無沙汰してます。ムーアさん」


ムーアの知り合いなのだろう。彼に聞けば良いはずなのに、彼女から視線を離すことができなかった。


側から見たら、見惚れてるようにも見えるだろう。

確かに整った顔立ちだ。東雲とは正反対な、優しそうな。


「そちらの方は?」

「…彼はクロキ。今は…知り合いですかね。」

先ほどまでの軽口とは打って変わって、俺の事を『知り合い』と言った。

それにどんな意味があるのかは判らない。

けど、何か、あまりいい予感だけは、微塵もしなかった。


「すみません、クロキ。少し用事ができましたので、先に戻っていてください。」


そう言われ、ただ、「あぁ、判った」とだけ。

そう言い残して、自宅へ戻ろうとした。

途中、彼女とすれ違いざま、モデルもビックリ(モデルを知らないが)だろう笑顔を向けられ、それに会釈を返すしか、俺にはできなかった。


これはもう、予感とか、そういう根拠のない妄想だ。妄想だが、ひどくしっくりきた。


彼女は、多分、敵か味方か、そう遠くない未来で、俺とまた会いそうな気がする。


そういうメインキャラな、そんな気がした。

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