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平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第1章 闇を抱えて
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第6話 初戦闘の初勝利

3日目。

昨日の苦行から、なんとか紙に着火する程度の火が使えるようになった。

それに伴い釜戸も必要になったので、ムーアに頼んで釜戸も作った。

これでなんとか、ゆで卵くらい作れる。

ただ、昨夜試しに使ってみたら、火加減の調節がてんでできない。これは本当に困った。目玉焼きに関しては、もうグチャグチャだったし。

…いや、多くは求めない。うん。無一文がここまで恵まれてるんだ。まだついてる方だろ。


「…今度はちゃんと鍋作ろう。これ火の通り悪い。」

お湯を火にかけながら、店で買った野菜を煮込む。

包丁も、なんとか固い野菜を切れる程度の切れ味は作れる様になった。

…あれ、俺って主夫向き?なんてな。

「後は…、どう仕事を見つけるか。だよな。」

元金があれば…、料理屋とかやって大儲けできる気も…。あ、無理だ。レシピ全然知らないや。カレーとかこの村で出したら最高だろうに…。悲しいかな、ルーが無い。

「よっと、やっぱ鍋とフライパン二つ置けるのにして正解だったな」

なんとか煮込み料理…、というか、煮込んで塩いれとけばそこそこ食えるんじゃね?という料理と、目玉焼き(油が無いので焦げ付く)を作っている。

この世界の食材も、基本的に現代と変わらないみたいで、無いに等しい知識をフル稼働して、調理に勤しんでいる。

まぁ、目玉焼きは、もう手遅れみたいだが…。

「やっぱ油いるよなぁ」

焦げ付いて剥がれてくれない目玉焼きと格闘しながら、鍋の様子を見る。

どうやらまだ沸騰はしてないみたいで、中々に時間のかかる作業だった。

「うっし。」

今日はこの後、来客があるとだけムーアに聞かされている。

彼曰く、そろそろ魔物と接触してみるべきだろうと。

一体何を基準にそう言いだしたのかは判らない。が、流石にお金も心許ないので、俺にNOの一言は出せなかった。

多分、魔物と戦うってのなら、この村の自警団の人が来ると思われれる。

酒場でチラッと会っただけだが、鎧を着込んでた人が数人。どの人も厳つい雰囲気だった。

ムーアの言葉ではないが、俺自身も素直に提案に乗ろうと思う。

後、貴重な交流の機会。

「…流石に、急にペラペラと喋れないし」

困ったことに、自発的に会話する事は困難を極める性格故に、こういうイベントでもなければ、周りと馴染めないのだ。

トラム君がいい例だろう。まったく仲良くできてない。

彼には苦手意識を持たれてるね。絶対。

「コミュ症って、どこいってもコミュ症なんだな…。」

こんな事なら、もっと学校で積極的になるべきだった…。なんて、後の祭りか。

自分で育てなかったステータスだ。仕方ない。…別に、レベル制MMOじゃないけどね。


買ってきたパンに裏面が焦げすぎた目玉焼きを乗っけて、朝食を食べる。

今日も夜早くて朝も早い睡眠を取ったわけで、健康的な生活を送っている。

道具屋と八百屋、酒場の店員とは朝の散歩のおかげで、新参者にしてはそこそこ顔見知りになれた気はする。

まだ出会って2日目だけど…。


細かいことはさておき、朝食を食べよう。出来立てのパンに焦げた目玉焼きを乗せ、齧る。

パサパサのパンと焦げの味が強く主張している以外、特に問題はないパンだ。

ついでに、まだ十分ではないだろうが、煮込んでる温野菜も簡易皿に乗っけて食べる。

(所々、固っ)

そんなに塩は入れなかったから、野菜独特の風味しかしないのだが。

まぁ、味については良しとする。食感も、このまま煮込み続けておけば柔らかくなるだろう。


さて、そんな食糧事情は置いといて。

姿は見えないが、誰か来客みたいだ。

なんで判るかって?単純に足音が聞こえてきたからだよ。

とりあえず、簡易食器(皿)と簡易調理器具(フライパンとかetc…)を一ヶ所にまとめて処理をする。(というか、自動的に魔力が尽きて消えるわけだが)

「おはようございま…す?」

…え、ホワイ?トラム君?!

あ、伝言でも伝えに来てくれたのか、そうでもなければこんな怪しい奴のとこになんて来るはずないし。

「どうも。…ムーアさんから聞きました。とてもお断りしたい案件でしたけど、今日はお供させてもらいます。」

…何故だろう。嫌悪感を隠すことなく淡々と敬語で話してくるのは…。

一応、礼儀とか気にしてくれたのかな?

「えっと、自警団の人達…は?」

そこそこ予想はつくが、本人の口から語られない限りは確証も得られないので、聞いてみた。

「仕事だけど」

…あー。なんだろ。この世界はこんな子供…。でもないのか。大抵の場合、高校手前ぐらいの年齢なら、成人扱いされちゃうのがセオリーか。

「もしかして、オジサンたちが来てくれるって思ってたの?」

おーう。オジサンとは?多分自警団の皆さんの事だろう。確かにその通りなのだが、認めるのは割と癪だな。

「まぁ、そんな感じかな(苦笑)」

認めたけど。

「でも、ホントに行くの?ロクな装備持ってないって聞いたけど。」

「それは…まぁ確かにないけどさ。俺の魔法の特性とか、聞いてんでしょ?それで補うよ。」

これは強がりだ。正直、着の身着のまま無手で戦えるほど、俺に武術の心得はない。

更に、武器(と言ってもナイフが限度)を魔法で維持しながら、例えば籠手を着ける、なんて芸当はできない。

同様に、火の魔法を使いながら俺のオリジナルを使うこともできない。

いや、出来なくもないんだけど、どうしてもブレが生じるから、あまり試したくないのだ。

「…僕も低級魔法しか使えないから、そのつもりでいてよ。ナイフもそんなに上手くないからね。」

…へぇー、低級魔法が使え…。はっ?!魔法使えんの?!…いや、まぁ、こっちの常識を知らないから、それがどれくらいすごい事かは判らないけど…。

でも、ほぼ使えないに等しい俺からしたら驚きだ。

「魔法って、え、何が使えるんだ?」

まぁ、流石に気になる。俺が会う中で2人目の魔法使いなわけだし、下手したら俺よか強い可能性すらある。

そりゃ、遠距離で敵を仕留められたらそっちの方が強いだろ。

「風と火だけ。でも、風は殆ど使ってない。」

「?なんで?」

はぁー。と溜息をつかれた。え、俺何かおかしいこと言ったの?

「風魔法って攻撃には向かないんだよ。上級なら別だけど、低級なんて何に使ったらいいか判んないくらい。僕、技なんて使えないし。」

…あー、俺のライターもとい火魔法みたいに、そっちは扇風機みたいなものなんですね。

「じゃあ、技ってのは?」

「魔法と違って集中しなくても使える魔法?みたいなもの。よく知らない。」

…おぉ、これは思わぬ情報を…。ようするに、魔法剣とかか!火炎斬りっ!とか。

「でも、風魔法だって使えるようになったら、便利なんじゃないか?」

ラノベじゃ大抵、遠くの音を拾えたり、移動速度が上がったり、斬れ味上げたり、…え、なんで睨まれてんの?

「…そんな簡単にできるわけないじゃん、バカじゃないの。」

おう、罵倒…。

「ゲート使える癖に、なんなの?」

…え?

「はっ?ゲート?」

なにそれ。初耳、てか初単語。

「…え?知らないの?」

???

「何を?え、ゲートって?」

「空間魔法使えんでしょ?」


・・・。


はい?


空間魔法?


「ってなに?」

まったくそんな能力は知らない。名前からして、なんとなく転移系な気もするけど。

「ホントに知らないの?使えるって聞いたけど」

誰から?なんて聞かない。俺はそこまで鈍感でもない。てか、そんなこと言うの一人しか思いつかないし。

「いや、俺が使えるのは君に見せたアレと火魔法(ライターの火レベル)だけだよ。空間魔法とか、ゲートとか、そもそも聞いたことすらないよ。」

まぁ、異世界3日目だし。

「?えーと、あ、自分の影に魔力流してよ」

「ん?こう?」

言われるがまま、しゃがんで影に、というか地面に魔力を流す。

…なんだろ、すごい勿体無いことしてる気がするんだけど。

「なんともない?」

と聞かれるが、別に何も起きない。

「何も…。ん?」

ない。と言いかけた瞬間、手が触れてる地面に違和感が生じた。

「なん…だ?沈む…。っと!」

なんとなく、プニプニした感触が地面にあったので、その部分に体重を乗せてみた。

すると、穴を掘った記憶もないのに、触れてた面の向こう側に腕が沈むじゃないですか!

「ちょ、ちょ、ちょ?なに?底無し沼?!」

慌てて踏ん張ったおかげで、池ぽちゃしなくて済んだが、わけがわからない。

いや、この世界に来てこんなことばっかだけどさ、

「それ、それがゲート。空間魔法の一つだよ」

これが?え、なに?四次元ポケ○トですか?

「な、なんか、使えるのはよく判ったけど…、これ、何に使う魔法なんだ?」

まぁ、察しはつくけど。なんとなく説明は聞いとこう。俺の知識と違うかもしれんし。

「何にって…。えーと、物入れたり、出したり?」

ちょ、漠然とし過ぎでしょ。この中とかどうなってんだ?

でも、まっ、そんな魔力消費してないから細かい事は置いとこう。

「これ使えば余計な手荷物を持たなくてもいいってことか?」

だとすれば画期的じゃないか!思えばRPGの主人公たちは、大量に買い込んだポーションとか薬草をどこにしまい込んでたのか?という疑問も解消される!

あ、馬車に置いとくってやり方があるか…。

「僕は判んないけど、そんなに量入るの?大きさって人それぞれだよ?」

大きさ?

「ん?え、容量決まってんの?」

…え、まじか、四次元ポケ○トにそんな弱点が…。

いやいや、これ四次元ポケ○トじゃない。

「魔力の総量で決まってるってムーアさんが。」

「へぇー。おぉ、ホントに入った。」

試しに小枝を入れてみる。プツリと紙パックのジュースにストローを入れる感覚に似た感触が手に伝わった。

「…んん、なんか、変な感じが」

とても奇妙な感覚がする。具体的に言えば、なんかアクセサリーを着けてるような…。

そう、肌に何か触れてるような感覚だ。

「これ、慣れるのに時間かかりそう、だな。」

「で、どれくらい入りそうなの?」

「あー、ちょっと判らないな。少なくても、そこの木が丸々入るかどうか位」

「…え、多くない?」

曖昧にしか自分でも判らないから、漠然としか答えられなかったが、トラム君に驚かれてしまった。

なに?異世界人が割りかし高スペックなのってデフォなの?お約束なの?

「これ、多いのか?まったくそんな気がしないんだけど…。」

どっちかと言えば狭い気がする。窮屈で無理矢理に縮こまってるような、そんな気が。

これも俺の技術面の問題なのだろうか。

「ホントに初めて使うなら大きいって、馴染むのに時間かかるはず…。おに…、クロキって何者?」

おに…なに?鬼?いやいや、そんなまさか、セオリーで言えば「お兄さん」だろうに(苦笑)

なんて都合のいい妄想をしながら、なんと答えるか思案した。ストレートに異世界人って答えるのも抵抗がある。

「何者って…。ただの素人だよ。」

知識らしい知識を有さない、ただのど素人。そもそも異世界人がそんな知識を持つわけない。(厨二知識はあくまで厨二知識)

「…そぅ。」

曖昧な答え方をしたせいか、少し残念顏のトラム君。

だがそれも一瞬のことで、仕方ないと割り切っていつもの表情になる。

「…もういい?お昼前には向こうに落ち着きたいんだけど。」

「あぁ、悪い、用意するから少し待ってくれ」


ーーーーー。


取り敢えず、便利な『ゲート』なる道具袋が手に入ったので、パンの残りと薪に使ってた木片を数本入れておく。

木片など何に使うのかと言うと、俺のオリジナル、便宜上『生成魔法』は、どうやら何か核として付与を行う方が出来が良いらしい。

単純に元の物質分の体積と強度が使えるから、それを上書きするだけで済む。


2分とかからず用意を終え、トラム君と一緒に森の奥に向かう。

…終始無言で。

ええ、無言でです。

何か地雷を踏んだ記憶は無いが、出発前とは打って変わってのノー会話。

俺から話題を振ってあげれば良いのだろうが(割と振っててるけど)、聞きたいことはさっき聞き尽くしたので、ロクな話題提供ができん。


そんな気まずい雰囲気の中、特筆することも無いので、道中はカットしよう。

え、魔物?モンスター?一匹も見かけなかったよ。トラム君曰く、縄張りの外だから酔狂な奴以外、群れから離れないそうだ。


奥に、奥に進むほど、当たり前だが森は繁っていき、見通しが悪く視界が狭くなっていく。

こう障害物が多いと、地形に四苦八苦すること間違いなし。

が、それも地理に詳しい物のおかげで無問題だ。

「着いたよ。」

少年が指差した先は、歩いてきた場所より、木の密度が少ないとこだった。

「ここは?」

「ここからがモンスターの縄張り、亜人系の奴が多いから、住みやすいように木を切ったりしてるんだ。」

その結果、森の奥なのに木々の量に差があるのだった。

一般的に亜人系のモンスターが多いようで、切った木を薪にしたりするらしい。

ちなみに、襲ってくるモンスターもゴブリンやオークなどが主力で、動物系のモンスターは危害さえ加えなければ大人しいとのことだ。

「えらく頭が回るんだな…。」

「そ、大勢で襲ってくることもある…、しっ、止まって」

口元に人差し指を立てながら、右手で止まるようにジェスチャーをしてる。

何も知らないので、戦闘態勢を急に取れるわけもなく。取り敢えず、無い緊張感を掻き集めて、全身の神経を警戒させる。


遠目に薄茶色の小柄な奴がいる。その手には石器時代の人顔負け(主観)の石斧が握られている。


この間、唐突に頭が余計なことを考える。


本当に戦うのか?とか、勝てるのか?とか、魔法は正常に機能するか?とか?

…躊躇いなく殺せるか、とか。


都会育ちの日本人の感性からして、殺生に抵抗がないかと言えば、勿論ある。

夏に蚊を潰すのとわけが違う。


正直、怖い。殺すのも殺されるのも。





『怖い?散々殺しといて、今更だろ?』






バッと後ろを振り返る。

(いまの?)

小さく、でもハッキリと聞こえた言葉。


しかし、それを深く考えるほど“ココ”は甘くない。

「…変だな、一匹だけなんて…。」

「へ?」

間抜けな声を出してしまったが、それにツッコムなんて無駄はせず、淡々と会話を進める。

「アレ、ゴブリンって言うんだけど、ゴブリンがこんな縄張りギリギリを一匹でいるなんて珍しいんだ。」

基本、生物は群れを組んで行動をする。一匹狼なんてやれるのは、かなり強いモンスターくらいだ。でなければ生存競争に負けてしまう。

しかし、現実にいるのはゴブリン一匹。疑問は多いが仕留めるには絶好のチャンスだろう。

「…なら、アレをやるのか?」

足下にある木の枝を拾いながら、トラム君に聞いてみる。

「狙い易いし、そだね。クロキ、前いける?」

「前…?あぁ、わ、判った。」

お手本も何もなく、初陣。いや判ってる。自分で学ぶしかないんだ。

キョロキョロと辺りを見回すゴブリンに向かって動きを観察してみる。

どうも挙動不審で落ち着きがない感があるが、それが何を意味するのか判らない。

拾った棒に魔力を流し込んで、いつもの『生成魔法』、『同化』を使う。

余裕があるので、ナイフを形作る。コーティングされていく材質が、なぜか黒一色になってるが今は気にしない。

気にしないったら気にしない。


「僕も魔法で援護するけど、あんまり威力ないから期待しないで」

コクリと一つ頷いて、手に握る擬似ナイフを構える。

「ーーー。っ。…よし、行ってくる」



バッと無言で走り出して一気に距離を詰める。

肌色ゴブリンも突然現れた俺に気づき、持っていた石斧を構える。

二メートル位だろうか。それ位の間を置いて俺は出方を伺う。

膝がガタガタ笑ってる気もするが、動けない状況でもない。

静止したまま、「ガーガー」叫んでる(そう聞こえる)ゴブリンに注意しながら、話しかけてみる。

「…お前さ、なんでこんなとこいんの?」


平然と何でもない様に、知り合いに声をかけるかの様に、問いかける。


これは無意識な時間稼ぎだ。勢い任せに飛び出したくせに、覚悟が足りなかった。戦いたくなかった。


カッコつけて出たくせに、逃げ出したかった。


まったく襲って来ない俺に対して、痺れを切らしたのか、先制攻撃はゴブリンから仕掛けてきた。


石斧を大きく振り上げて、軽いジャンプ一つで俺の脳天をカチ割ろうと襲ってきた。

その映像を、ゆっくり確認しながら、俺は左にサイドステップで避けた。

(今の?俺?)

あまり意識せずにうまく回避したので、自分でも半信半疑だ。

もっとこう、無様に転げ回ってせこい勝ち方でもすると内心思ってたからな。


初撃を躱されたゴブリンは、追撃をしようと石斧を横薙ぎに振るう。

しかしそれが当たることはなく、

「…悪い、殺されたくないからな…」


なぜか(自分としては)キレの良い動きに戸惑いつつ、ナイフを逆手に持ち、攻撃を意識する。


まず、何故か動きが見切れる目を駆使して、相手の攻撃を誘う。

舐められてると思ったのか、「ギャーギャー」叫ぎながら、三度目の攻撃を繰り出す。


今度も頭を狙った攻撃だが、半歩で避けて無防備な腹を蹴り上げる。

そこそこの威力があったようで、ゴロゴロと木の根元まで転がっていった。

「…。」


それでもゴブリンの手には斧がまだ握られていた。なので、トドメを刺すより無力化しようと動いた。

腹を抑えながら地面を転がってるゴブリンに、足で斧を持つ手を踏みつけ、ナイフを突き立てた。


グサッ。


肉と骨の嫌な感触、しかしそれに負けずに手前にナイフを安々と引いた。

悲鳴をあげるゴブリンに足で軽く蹴られたが、特に大した痛手もない。

サッと石斧を拾いあげ、数歩分の距離をとる。

(…トドメ、刺せばよかったかな…)

腕が皮一枚以上で繋がってる状態ではあるが、ほぼ腕としての機能を失ってるだろう。

正直グロい。骨とかチラッと見えてるし。

「わけわかんねぇ…。」

一切の躊躇い無しにここまでやった事実。ナイフの使い方。足運び。

ただの素人がこんなことできるわけがない。


そんなことを考えたのが悪かったのか、唐突に悪寒が走る。


気付いた時にはもう動いていた。


背後に2匹、いや、木の上にもう1匹のゴブリンがそこにいた。

俺めがけて飛んでくる矢を躱しながら、持ってた石斧に同化をかけて、ゆっくりと後ろに下がる。

手負いのゴブリンと3匹の援軍に挟まれる形で戦うことなった。

(弓が厄介だな…。)

遠距離攻撃の手段はまだない(いや、あるけど意味ない)ので、どうしようか考える。


…いや、無理か。てか一体だけなんか鎧着てるし。アレがリーダーか?


鎧付きの剣使いと、同じ石斧野郎、弓兵1匹のなんとまぁバランスが取れたパーティなんだ。

多分、こいつのツレなんだろうな…。

「たくっ、初見で4匹とか勘弁しろよ!」


ギャーギャー騒ぎながら2匹が同時に俺に向かってくる。

ちなみに、後ろの一体は逃げ腰のようだ。どうやら無手で戦うほど馬鹿でもないらしい。

とりあえず、向かってくる2匹を対処しようと、ナイフと斧を構える。


さて…、圧倒的不利な状況なわけだが…。


見様見真似でナイフを石斧のゴブリンにぶん投げて鎧の方を斬りつけようと試みる。

が、その瞬間。矢を放とうと弓を引いていたゴブリンが火達磨になったではないですか。


仲間の悲鳴に意識を持ってかれたのか、すんなりと投げたナイフは胸に刺さり、1匹倒れた。

鎧の方はしっかりしてるらしく、俺が振り下ろした斧を受け止め、鍔迫り合い状態だ。

まぁ、そんな力任せの状況に付き合うほど優しくないんで、とっとと蹴りを入れて転倒させる。


そして、無防備になった頭に斧を一撃ーーーー。


…あと二匹。



そこまで手こずること無く。というか、1匹は火達磨、もう一匹は心臓一突きでカタがついた。

…心臓ってか、胸を切り裂いたんだけど。



「お兄さん!全然素人じゃないじゃん!!」

4匹全てを討伐し終わった後、小走りで駆け寄ってきたトラム君。

「あ、トラム君。大丈夫?ケガとかない?」

「いや、それ僕のセリフ…。じゃなくて!説明してよ!」

「いや、正直俺もわけがわからなくて…。取り敢えず、落ち着いてから話そう。コイツらの何剥げばいいのか教えてくれ。」

まさか素人素人詐欺になるなんて、俺にも想像がつかなかった。いや、だって無理だと思うだろ?常人にはさ。

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