第4話 変わってしまう認識
夜。村長との話し合いの結果、村に宿がないので、取り壊し前の空き家を提供してもらった。
ようやく一人になり、落ち着いてこれからのことを考えてみた。…頭の中がグチャグチャだ。何一つ理解できない。俺の身体も、この世界も、目の前の現実も。
右手に血の流れを意識しながら、ゆっくりと力を込めてみる…。するとさっきと同様に、手の平の上に歪な、捻じ曲がった物質が生成された。
特に何も意識していないので、色合いはメチャクチャで、不恰好なビー玉位の大きさの物体が完成する。
完成したそれは、俺の制御を離れて、ポトリと手の平に落ちる。茶色や黒、白が混ざったそれは、見た目より少々重く、ズシッと重さを感じた。そうして、コロコロと手の上で転がすこと数十秒。俺が生成したそれは、口に入れた綿飴が溶けるように、徐々に、その存在を消した。
「…はぁーーーこれ、異常だろーー。」
理解が追いつかない。いや、この場合は納得か…。どんな災害よりも、現実に起きていい現象じゃないだろ、コレ。
一度、状況の整理の為に順を追って振り返ろう。
遡ること数時間前ーー。
司祭の後について到着した場所は、他の民家よりも、少しばかり大きな造りの建物だった。彼が言うには、村長の家だそうだ。
中に入ると、客間らしき部屋に案内された。部屋の印象は、なんというか…、個人的なイメージでしかないが、一般人が抱く別荘の雰囲気に近いものがあった。暖炉とかあるし。
「村長が来る前に一ついいですか?」
そう司祭は尋ねてきた。
「…なんですか?」
俺は、事務的な返事だけを返す。
「クロキさんは、名前を覚えているので無いとは思いますが、記憶喪失、なんてことは無いですよね?」
ドキりと、心臓が大きく跳ねた。
「…無い、…と思いますけど。」
記憶はある、落ちたとこまでしっかりと。それ以降に何が起きたか聞かれれば、俺は…。
「そうですか。」
扉に近づく足音を感じ、扉の方を向く。ドアノブが下がり、木製の扉が難なく開く。
「お待たせして申し訳有りません!」
バタバタと慌ただしく入ってきたのは、初老の男性。
「いえいえ、こちらこそ突然申し訳ありません。」
「おぉ、そうですか。おや?そちらの青年は?」
「…ええ、本日は彼の事で、少々お話があり参りました。」
ペコリと一つお辞儀をして、会話に入る隙を伺う。
「ほう?そうですか。初めまして、私はこの村の村長を任されているラムという者です。」
声色と物腰が低そうなおじいさんに、簡単に自己紹介をして、続きを促す。
「なんと、森で倒れていた…と?」
隣のムーア…さんが簡単な補足説明もしてくれたので、どうにかストレートに伝わった。
「…はい。」
「そして、私共にはこちらの方が重要なのですが…。」
一旦言葉を切り、一度深く息をする。
「彼の言語は、クロの一族と同様のものでした。」
クロの一族?それなんて厨二?
「!?そ、それは!なんという!…いえ、取り乱してしまい申し訳有りません」
この村長、順応早っ。流石は異世k…いや違う違う。そんなこと有り得ない。後、それとこれとは別問題。
「いえ。では、大分お待たせしましたね。クロキさん」
「…いい加減、俺にも説明してくれるんですよね?」
不機嫌オーラを滲ませつつ、ようやく話が前に進む。これは、余計な茶々を入れずに円滑かつシンプルに現状を把握しなければ…。
「ご期待に添えるかは判りませんが、お話しできる範囲でなら」
なら問題無し。ふざけた事に、コイツは俺以上に俺の事を知ってるみたいだ。漸く本題に入れる。ちなみに、村長は空気を読んで沈黙でいるようだ。
「まず、ここはどこなんですか?」
「ここは…、ソラニア国南西の村です。形式的に言えば4番村ですね。」
ソラニア…?聞いたことないな…。
「…さっきの呪術ってのは一体?」
「アレは、魔法の一つで古代儀式に近いものですね。」
…魔法。
「なら、さっきのクロの一族ってのは?」
「貴方達のような、此方に迷い込んだ人達の事ですよ。」
…なんだよ、此方って。
「もう、理解してるのでしょう?貴方が元いた世界とここは異なると。」
司祭、コイツの説明を受けて、徐々に手の先から力が抜けていく。今にも叫んで、怒鳴り散らして…。そして、…。やっぱ、予想してても辛いもんがあるか…。
アッサリと避けて来た結論を、この男は口にした。
「そちらの世界では…、確か、魔法どころか魔物の存在すら無いのでしょう?」
…魔物。
「俺の…。俺の頭がおかしいんですかね?…。ここ、異世界って言ってんでしょ?」
「そうですね。此処は異世界で、魔法があり、モンスターもいる。」
淡々と、事実だけを突き付けてくる。脳の処理…いや、心の整理がつかない…。
「…帰る方法は…。」
声に力がない。
「帰る方法は、あるんですよね?」
こういった世界のセオリーは、様々だ。永住、帰還、または更なる転生。
…けど、実際に現実を目の当たりにすると…。こう、永住しか選択肢がないように思える。
「残念ながら…。私は聞いたことがないですね。」
…。
「んな、馬鹿な話がっ…。」
クソッ…。東雲っ!。
「まぁまぁ、取り敢えず、今は先々の話をしましょう」
はぁ?!まだ話は終わってな…。そう叫びかけたかったが、彼は俺にターンを譲らなかった。
「あなたの選択肢は2つ。」
選択肢だ?
「一つは冒険者で生活をする。」
人差し指を立ててこれ見よがしに主張する。
「二つ目は、この村で穏やかに生活をする。」
もう一本、今度は中指を立てて主張する。
まるで、それ以外の選択肢なんてお前には無いと言うみたいに。
「冒険者って…」
こんな、本やアニメでしか聞くことがないワードを聞くなんて…。
「正直、無一文だというのは明白ですから。」
張り詰めた空気だけが、部屋の中に充満してる。焦りとか、不安、苛立ち。なのに、この司祭は笑顔を絶やさず、俺の空いた心に塩ばら撒きながらズカズカと入って来やがる。
絶句して、答えを決めかねている内に、村長が動く。
「まぁまぁ、少し落ち着きましょうよ。ムーア殿も。」
言われて、少しは冷静になった。確かに頭に血が上ってたと思う。まぁ、それでもホントに少し、落ち着こうと思い込む程度に。
「クロキさん、どちらにしても、本日はお休みになった方がよろしいでしょう。生憎と宿はありませんが、空き家がありますので、どうぞお使いください。案内はうちの息子にさせますので。」
テキパキとご丁寧に話が進み、なんと住居の確保が自動的にできてしまった。
「え?ありがとう、ございます。」
咄嗟に「悪いですよ」とか、そんな遠慮のワードが口から出かかったが、ギリで堪えた。今の俺、無一文の怪我人?高校生だった。もうちょいで大学生だけど…。
「いえいえ、ここで見捨ててしまうのはでは目覚めが悪いですから。息子を呼んできますね。」
俺は、深く頭を下げ、これまでにない感謝の意を込めた。正直、現状が現状だけに、ありがたみとか重要性が重く感じられないが、必要になることは間違いなかった。
「ラムさんは心が広いお方ですからねぇ。良かったですね。」
…なんか鼻に付く言い方だな、コイツ。だが、ここは大人に…。あと話しが進まねぇし。
「いえ、思えば、貴方にもお礼を言わなければいけませんでしたね。取り乱して申し訳ありません。それと、助けていただき有難うございます。」
軽い会釈程度の深さでお辞儀をし、感謝の言葉をかける。だが、さっきまでの説明不足気味な説明は許さないからな。
「…ふむ。そうですねぇ。大したことはしてませんが…。ではその見返りに、1つ私のお願いを聞いていただけますか?」
え、何?図々しくない?失う物がほぼ無い俺に何要求すんの?持ってるものって言えば、…布の服…のみ。うん、ホントに無一文だな、俺。
「まぁ、大したことではないですよ。少し、調査したい事があるだけです。」
「調査?」
「ええ。どの道、日没まで時間がかかりますし。」
…日没…か、そういや、今は何時だ?目覚めてから一時間も経ってないよな…。となると3時前とか?
「一体俺にな「お待たせしました。」
ガチャっと扉を開けてラム村長が入ってきた。後ろに中坊くらいの少年もいる。多分、彼が村長の息子なのだろう。…村長いくつ?
「…お話中でしたか?」
「いえ、大丈夫です。」
そうですか、と一言。
村長の息子は、明るい茶髪で少し小柄な大人しめの印象だ。
「あぁ、こちらは息子のトラムです。トラム。」
「初めまして…。」
村長がどんな説明をしたのかは知らないが、どうやら警戒されてるみたいだ。
「初めまして。僕はクロキといいます」
「ハイ…。」
うーん。避けられちゃうか。こりゃ、打ち解けるのはかなり先になりそうだ…。
「後、頼むぞ。では、スミマセン。私は少し外しますので」
取り敢えず、コレで村長の家は終わりだ。村長とも、この後は会ってない。
その後、トラム君と村の外れにある、少し、いや、かなりボロっちい小屋に案内された。
…まぁ、雨風をしのげるなら文句は言わない。うん。言わない。
「水は二箇所の井戸から汲んで下さい。食事は、コレで数日分はありますから、お好きに。暖炉は…、裏に薪が少しあるのでご自由に。」
どこか外国にありそうなコインを手渡され、そっぽを向かれてしまう。
聞き取りにくい小声で言ってくれるから、聞き取るのに一苦労だ…。
「あ、ありがとう。」
コミュ症、とまでは言わないが、割とコミュニケーションをとるのが苦手な身分としては、相手にし辛い…。というか、息苦しい。
「いやぁー、まさかここがまだ残ってたとは驚きですね。かなり前に取り壊す予定だったのでは?」
あー。これアレか。異世界主人公のテンプレだ。優遇されてる版と不遇版の不遇版。
「魔除けの呪いがまだ効いてるから、建て直すって父さんが。」
…また呪い…。フツーの魔法無いの?それとも、儀式系は全部呪いなのか?
「…しかし、老朽化が酷いですねー。コレでは…安心して眠れないでしょ?」
贅沢言えないんだから仕方ないだろこのエセ司祭め。
「…、贅沢言えない立場ですけど…そうですね。」
「まぁ、調査の一環として、少し実験しましょうか。」
調査って…。そもそも何をだよ。
「詳しい事は追い追いとして、クロキさん。貴方の魔法を使えるようにしましょうか」
魔法を、使えるように?俺が?いや、そんな馬鹿な話があるか。
「私の目は特別でして、まぁ、色々見えるんですよ。」
「見えるって…何が?」
幽霊でも見えるのか?
「人の素質…ですかね。まぁ、やってみましょうか」
そう言って彼は、俺の腕を掴んできた。軽く、ただ触れるように。
「エ、何を…うわっ!」
唐突に司祭に触られてる箇所が熱い。うっかり沸騰したヤカンに触ったような感覚だ。それか付けっ放しのアイロン。
当然、反射的に振りほどいて逃げようとした。が、逃げられない。
「ちょ、はな、せ。あぁあァア″あ″あ″ァ″っ!!」
クソッ、離せコイツっ!根性焼きとかこんな感じなのかっ!?これ素手だよな?!いやどうでもいい、とにかく痛いっ!熱いっ!火傷するっ!てか多分してるっ!
身体中から汗が噴き出し、地面に転がり、無様に這い蹲っている。トラム君は、その光景を止めようともせず、ただ見守っている。
だがそれは、決して彼が薄情なわけではない。コレが魔法治療の一環だと彼も知っているからこそ止めないのだ。
「…クッ。」
どうやら、この作業には、意外に彼も消耗を強いられるようだ。トラムからすれば、司祭が魔法で額に汗を浮かべるなんて、今まで一度も見たことがなかった。
「ムーアさん?」
「大丈夫です。少し手こずってますが…。」
心配をよそに、食い気味に答える司祭。こちらからすれば、何が大丈夫なんだよ!って話だ。というか、目の前で人が苦しんでるのによく放置できるな!
「離せっ!クソッ!!テンメーッいい加減離せ!!!!」
苦痛に耐えながら、なりふり構わず暴言を吐きまくる俺の願いが通じたのか(そんなわけないが)、パッと手を離され、俺は腕をかばいながら地面にのたうちまわる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ…。」
経験したことのない痛みの余韻に耐えながら、乱れた息を整えようと必死で呼吸をする。この一瞬の間で流したとは思えない量の汗が体を覆う。そこに運動終わりの爽快感は無く、ただただ不快な感覚だけが感じられる。
「お疲れ様でした。ここまで手こずったのは私も初めてですよ。」
はぁ?手こずった?人を拷問にかけといてそれはないだろ。こんなもん大人しく受け入れる奴なんているかよ…。
「…クッ、アンタ、何のつもりだよ」
息も途切れ途切れで、もう、脱水症状で死ぬんじゃないかって錯覚するほど汗かいたよ。
「端的に答えれば、少々魔法の指南をしました。」
…は?何言ってんのコイツ。魔法の指南って言うのはな、使用前の動作とか、スペルとか、詠唱とか、精神統一とか、そういうのを指すのであって、根性焼きを指すのでは断じて無いぞ!
「メッチャッ、痛かったんだけど?」
「クロキさんの身体は少々特殊でしたので、多少強引な手段を用いるしかありませんでした。申し訳ありません。」
涼しい顔で言ってくれるコイツに腹が立つ…。けど、痛いのは勘弁願いたいから、てか、文句言う気力もないから、何も言わない。言えない。あと怖い。
「あっそ…。」
「お水をどうぞ。」
ここまでただ見ていたトラム君は、ご丁寧に水を差し出してきた。
のだが、困ったことに腕が上がらな…いこともなかったので、美味しくいただきました。
「あ″ー生き返る〜。」
いや本当に助かった。あのままだと、バットエンド一直線だった。うん。
「そういや、そもそも俺って魔法が使えるの?」
ラノベで言えば、異世界人が有能な世界か?
「ええ、魔力の流れは感じたのでコツさえ掴めればいつでも」
今すぐ使える?って意味で聞いたんじゃないんだが…まあいいか。
この苦行…。せめて、俺強ぇー!系の主人公なら救いがあるな…。願わくば、コピー系の能力だと嬉しい。
…って、それは超能力か。ジャンル違うな。
「いつでもってことは、今でも?」
疲労7割、好奇心3割の俺だが、休息より好奇心にリソースを持っていかれてる。
「ええ。説明を省いてしまいスミマセン。簡単に申しますと、クロキさんの身体には不純物が多く混じっており、そのままでは下位の魔法すら使えない状態でした。そこで、体験していただいたので判るでしょうが、私の力で強引にその不純物を洗い流したのです。」
なるほど、アレは副作用とでもいう感じか。二度と受けたいとは思はないが。
「あぁ、できれば次は、説明してからにしてくれ。流石にショック死する。」
いや、次は未然に防ごう。最悪、命に関わる。
「まぁまぁ。魔法、使ってみませんか?このままじゃただ痛い思いしただけになっちゃいますよ?」
痛めつけてくれたのはどこのどいつだよ…。
「そもそも、俺は魔法の使い方を知らないんだけど」
さっきまで魔法なんておとぎ話の産物程度の代物が、簡単に操れるわけもなく、身体に不思議な力を感じることもなく、俺にはただ汗とイラつきしか感じなかった。
「そうですねぇ、では…。これを握ってみてください。」
差し出されたのは、どこにでも転がっている石ころだった。というか、たった今足元から拾い上げた石ころだった。
「…石?」
よく判ららないが、取り敢えず受け取って軽く握ってみる。
手に伝わる所々ゴツゴツとした感触。他に何か起きるわけもなく、司祭の方を見る。
「何も起きないけど?」
まぁ、石ころ握っただけで魔法が発動するわけない。てか、そんなんで魔法が使えたら怖すぎるだろ。制御してる自覚ないから暴発とかしそう…。
「ふむ…。見てる限りだと、今のままでは時間がかかりそうですね。もう少し右手に意識を集中してください。目を閉じると安定もしやすいですよ。」
つまるところ、精神統一か。
言われれるがまま目を閉じ、集中する。
「…んっ。ーーーー?何かが腕に流れてる…気がしなくも。」
水の流れとか、そんな何かを感じた…。気がする。なんとなくしか判らないから気のせいの可能性も大だ。
「流れですか、熱じゃないのは運がいい。」
熱の場合もあるのか。まぁいい、この流れをもっとハッキリ、指の先まで明確に感じるように。
「…?」
…なんと言えばいいか、またも曖昧だが、気づいていなかっただけで、最初から大量の液体が緩やかに流れている気が…。
「流石、飲み込みが早いですねぇ。そのまま、そのままですよ。一度覚えて仕舞えば、その感覚は簡単に忘れませんからね」
つっても。なんか、今にも何か決壊しそうな気が…。こう、スペルとか無いの?
「んんっ?」
なんか、手の平に違和感。石ころは特に消えたりしてないが、何かスライムみたいなのが張り付いてるような…
「えっ」
恐る恐る目を開け、自分の手を見て絶句する。
そこには、…先ほどとは打って変わって滅茶苦茶な色合いにカラーチェンジした石ころと、手のシワをを覆い隠すようにベットリとくっついてる、カオスな色のゼリーがあった。これじゃ、生命線とか見れないね。
「…え、なにこれ?」
俺が作ったの?え、マジ?そうだ、その道のエキスパートに聞いてみよう。
「ちょ、え、これって一体?」
なんのマジック?てか、マジックだとしたら中々に微妙な仕上がりで。
「なんと言いますか…。魔力の塊ですね。」
…えー、こんなドロドロしたもんが魔力なの?てか、黒とか白とか灰色とか、モノトーン色&原色がちょい混じってるのはなぜ?一色に統一しようぜ。
「…俺って魔法の練習してたんじゃないの?」
てっきり火とか水でも出てくるもんだと思ってたよ?シチュエーション的に。
「魔法がそんな簡単に使えるわけ無いじゃん…」
ボソッと、しかし確実に俺の耳に入った。え、今のトラム君が言ったの?
「えと、それってどういう?」
「お兄さん、馬鹿じゃないの?」
…おおぅ?辛辣なセリフのオンパレード。俺何かした?
「落ち着きなさいトラム。クロキさんに失礼でしょう。」
いや、お前の行いの方が俺に対してかなり失礼だからな?でも助かる。もっと言ってやって。
「…スミマセン。…もう帰りますね。」
なぜ唐突に嫌われたのかわけもわからず、司祭、いやもう諦めてムーアでいいや、もうタメ口だし。ムーアなにか耳打ちされて小走りでトラム君は帰っていった。
「…」
いや別に、全然傷ついてないんだからね。よく判らない不審者を前にしたら当然の態度だろうし。うん。なんだこの謎ツンデレ。
「申し訳ありません。彼は警戒してただけで悪気はないのですよ。」
「まぁ、仕方ない…か。よそ者が嫌われるのはお約s…。いや、なんでもないです。」
いけないいけない。変なこと口走ってる。自重しよう。
「しかし、また変わった能力ですねぇ。付与系の魔法ですか。となるとオリジナルの可能性も…。」
え、なになになに?真面目な顔で厨二ワード連発されると違和感あるんだけど。
「付与系って?なに、俺の魔法って火とか出ないの?」
字面からして、支援魔法だよなぁ。バイ○ルトとかプロ○スとか。俺的には魔法剣のイメージが強いけど。あと、オリジナルってのも気になるな。
「え、えぇ、練習しないと基本魔法は使えないかもしれないですね。見た所、物体に直接作用してますし。」
ほうほう、どこぞの錬金術士みたいな設定かな?対価は俺の魔力!的な。
というか、それよりも気になったことが一つある。
「…もしかしてムーアさん、俺の魔法は専門外とか?」
なんか、どうしたらいいんだろう的な空気がビンビンに伝わってる。気がした。主に苦い顔してるとこから。
「…正直に申しますと、私では基礎を教えるだけしか出来ないかと…。」
本当に正直に話され、こちらとしてはリアクションに困ってしまう。
こういう時は残念がるべきなのか?
「しかし、補助程度なら出来るでしょうから、試しに家の補強をしてみましょうか。」
…落ち着け、落ち着こう。なに?家の補強?…え、そんな簡単にできるもんなの?俺が作れたのって、ゼリーと金箔みたいな素材だけよ?
「家の補強?」
「えぇ。永続化は私が使いますから。」
…え、永続化?
また新しいワードに困惑してる俺。
「簡単に言うと、魔法が解けないように加工するんですよ」
…あぁ、なるほど、理解。
自分の右手を見てみると、そこにはただの石があるだけだった。手に張り付いてたゼリーも、石に付着してた金箔みたいなのも、全部消えてた。
このことから察するに、俺の魔法は(俺以外のもそうだろうけど)時間経過で消滅するのが殆どなのだろう。
「…それやって、家が崩れたりとか…しない…ですよね?」
怖いね。寝てる時に倒壊して生き埋めとか。
「そこは私がフォローしますからご安心を。ですが、材質を一定にしなければならないので、少し練習しましょう。」
あー、さっきの脆そうなやつとか、軽く爪たてるだけで跡が残りそうなゼリーとかじゃ、確かに補強の意味がないよな。
「りょ、了解。」
ーーーー1時間後。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、…死ぬ…。」
何があったかって?魔法の練習で死にかけてるだけですよ?ムーア曰く、魔力が底を尽きたらしい。この感覚は…、息切れと脱力感。あと、肉体的疲労と精神的にざわついてる。
「なんとかできましたね。」
そんな俺を尻目に、目の前の茶色混じりの白っぽい家に視線を注ぐムーアさん。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
死ぬ…。ほんとに死ぬ。もう一生動ける気がしねぇ。今日だけで何度死にかけるわけ。マジで。
「大丈夫ですか?」
大丈夫じゃねぇよ、コノッ。そんな涼しい顔して、ぶっ倒れてる人間に何もなしか!
「まぁまぁ、そんなに睨まないで下さいよ。家は中々の出来ですよ?」
倒れたままの視界には、さっきまでの耐久性に問題がありそうな家とは打って変わり、立派なお家がドンとある。
なんということでしょう〜。目の前には中々立派な白いお家(茶色混じり)が立ってるではないですか。
なんてふざけたナレーションは置いといて。まぁ、御察しの通り、家に俺の魔法を付与したのであります。ムーア曰く、そのおかげで強度、見栄えがぐっとグレードアップしたのだ。代償は、俺の全魔力…らしいけど。
「魔力、切れって、こんなっ、辛いっ、もんなのかっ。」
息切れがひどく、うまく喋れない。いや、ホント、集中してる時はなんともなかったのに、終わった途端にコレだよ。糸が切れた人形みたいに転がっちゃったよ。
「慣れの問題ですかねぇ。基本的に、人は魔力無しだと辛いですからね」
ゼェセェと息を切らしながら、本当に動けないほど疲労してるわけじゃないことに気づく。
そのまま倒れているわけにもいかないので、できる範囲で身体を起こし、地面に座る。
「二度と経験したくないッ。けど、まぁ、これで家の心配もいらないか。」
内装はこれからとしても、外観は中々の出来ではないだろうか。
「後は内装ですか…。あ、そういえば、家に余ってる布団が有るので差し上げますよ。」
「…え、悪いd…いや、ありがとうございます。」
なんと、布団ゲット。遠慮しようとか、無一文の奴が取れる行動でもないしな。
…となると、ベット作るか…。
「後ほど、うちに寄りましょう。ついでに、ご飯でも食べに行きませんか?」
「いいけど…、この村って…ファm、えーと。食堂?とかあるんですか?」
やべー、やべー、ファミレスじゃ通じる訳ないだろ。ここ異世界、OK?認めたくないけど。
「一軒だけですけどありますよ。味もそこそこで、酒も飲めますし。なんなら呑みます?」
「いや、それはちょっと…。遠慮する。」
俺まだ未成年だし…。この世界の解禁年齢っていくつからだ?20歳?
「それは残念。まぁ、これからの話も含めて、今日は親睦会と行きましょ。」