第24話 またも世界はご都合主義
ザッ王道。
フードを深くかぶった2人は、この場において怪しい以外の何者でもなく、
かといってチンピラの仲間にも見えなかった。
「アンタ達は…?」
俺の声に反応するかのようにユラリと1人が歩き出し、一見おかしな動きはしていないように見えた。
しかし、気がついたら目の前に棒のような何かが迫ってきている。
「ッ!」
(重いッ。)
それが蹴りによる一撃であったと気づくのは、受けた後だった。
「キャッ!?」
(コイツらもかよ!?)
中々に重いその一撃を右腕で受け、背後に彼女を庇う。
追撃されなかったのは不幸中の幸いであり、そいつはバッとすぐさま後ろに飛び退く。
フードから覗く髪の毛の色は赤色。それ以上は何も分からなかった。
ただ、見た目からして…。なんとなく女性の様な…そんな気がしてならない。
どちらもフード付きのマントのせいで断定はできないが、意外と華奢な体つきなきがする。
「あ、あの」
恐る恐る、本当にあの日会った彼女と同一人物かと疑うくらい、遠慮がちに声を発している。
「下がってて!」
かなりの手練れ相手に彼女にまで気を使う余裕も無く、少し怒鳴ってしまった。
…奥のあいつ笑ってないか?
またも飛びかかってくる方に意識を向けながらも、その背景に映る奴の小さな動作が目についてしまう。
単に甘く見られている、その余裕に敏感に反応してしまったのか。
今度は、ハッキリと真正面から繰り出される飛び蹴りを受け止め、同化をかけ…。
「ィテっ!」
ようとした瞬間、手を離してしまった。
電気…と似ているようで、異なる衝撃が腕に走る。
(なんだ今の?)
相手にも衝撃が走ってるようで、着地の瞬間よろけていた。
(…。)
ダメージとして入っているようだけど…、こっちも下手したら数秒麻痺しちゃう位のダメージが帰ってくる…。
「!」
そんな一瞬の逡巡すら許されず、回し蹴りが放たれる。
咄嗟に左腕でソレを受け、今度は確実に同化をかけようとガッシリそいつの足を掴んだ。
けれど、そこもまた謎の衝撃が腕に走る。
(イッテッ!)
堪らずまた下がってしまい、右腕を庇う。
(魔法が効かねーのかよ!)
しかし、そこそこダメージを負っているのか、蹲って無防備な状態でいる。
その隙を見逃すわけもなく、左手でゲートから黒い直剣を逆手で取り出し、走り出す。
あと一歩、それだけで仕留めるのに十分な間合いを取れるにも関わらず、それが叶うことはなかった。
「カリン、それはダメだ。」
ソイツと俺の間に、今まで干渉してこなかった奴が割り込んでいる。
(コイツっ!)
唐突な事にそれ以上進むのを躊躇させられる。
「申し訳ありません。」
クルッとこちらを向き、かざしている手を下ろす。
「君も、刃物はダメだろ。」
はっ?コイツ何言って…。
「…!?」
気づけば懐に入り込まれ、足を取られてしまい、一瞬の浮遊感を感じる。
「ガハッ!?」
次の瞬間、背中に勢いよく固い感触が伝わってくる。
自分が投げられたと気づくのにそう時間はかからなかった。
(んなっ、コイツっ。)
衝撃の割にダメージは少ないのだが、数秒動けなくなってしまう。
「はいストップ。これ以上は何もしないよ。」
いつの間にか近づかれ、手を差し出されている。
「立てるかい?」
しかし、今更そんな態度を取られたところで信用できるわけもなく、差し出された手を払い退けて起き上がる。
「アンタら、一体何なんだよ。」
怒りと疑惑の視線を隠すことなく彼に向け、睨みつける。
「アハハ、そう警戒しないで…といっても無理か。」
そう言って、周りに人がはけたことを確認した後にパサッと深々と被っていたフードを上げ、顔を晒す。
「コレで、どうかな?」
フードから現れたのはかなりの美形な顔形に、黒に近い青髪と赤い瞳。
特に顔馴染みでもなく、どこかで会ったかと言われれば一人くらいはいる気がするが、てんで思い出せない。
「どうって…、だから誰なんだよ?」
結論からすると、誰だか分からないわけで、有名人だったとしても悪いが興味も関心もない。
「…覚えてないかな?」
覚えてないも何も…。
「あ、アルス王子!?」
そう叫んだのは、先ほどの女の子だった。
「君、知ってるのか?」
「し、知ってるも何も…「アストライオス国第二皇子、スメラギ・アルス・アストライオス様です。」
同様にフードを上げている赤髪の女性が語る。
「…第二皇子?」
…と言うことは、王族とか言うやつか?
「うん。君の名前は?」
絶えず笑顔で、聞いてくる。
「俺は…、黒、キ。」
そのせいか、正直に名乗ろうか躊躇ってしまった。
「クロキ?」
「あぁ。」
「下は?」
その言葉に一瞬戸惑う。
「え…。」
「ファーストネームしかないのかな?」
今まで下の名を名乗る機会なんて皆無だったから、少し抵抗感がある。
「…潤だ。」
「クロキ・ジュン。いい名前だね。」
そんな定型のありきたりなセリフを言われる。
「それで、王子様。」
少し不自然に、けれど確実に王子様の後ろにいる彼女の元まで足を運ぶ。
「アルスでいいよ。」
左腕を軽く伸ばし、彼女を庇う形で背後に守る。
「…なんで彼女のことを襲おうとしたんだ?」
実はさっきのチンピラ共も、コイツが雇ったって可能性もある。
「いやいやそれは誤解だよ。」
しかし、なんともありきたりなセリフを返される。
「誤解?」
いきなり襲い掛かってきておきながら何が誤解か。
けれど次の彼の言葉に意図が読めなくなる。
「少し、君を試したかったんだよ。」
「俺を?」
「うん。」
全く話が見えない。
「そうだな…、まぁ、ストレートに行こう。」
一瞬、考えた風に顎に手を当てたが、そう言おうと決めてたのだろう。
「君、オリジナルを持ってるよね。」
一切の迷いなく、スパッと言う。
「オリジナル?」
「そ、君の魔法のことだよ。」
逆手で人差し指を俺の胸を指す。
「俺の…。」
そう言えば、ムーアもそんなことを言ってたっけ。
「それで馬車を直してくれたよね。」
「馬車?」
「あれ、覚えてないかな?」
軽く小首傾げられ、何とも様になっている。
そういうのって美少女の特権だろうに。
「いや、覚えてる…けど。」
(その時の奴なのか?)
正直、あんまりあの時のことは覚えてない。
…確か、赤髪のキレーなおねぇさんと、貴族っぽいイケメン…がいた気はするけど…。
「その時に興味持ったんだ♪」
どこか楽しそうに、彼の顔は笑顔だ。
「…王子様ってのは興味持った相手を見境なく襲うのかよ。」
そんなコイツが怪しくて仕方がなく、同時に苛つきを覚えさせる。
「いやー、それは誤解だよー。」
「…その、作ったような口調もやめろ。」
目を細め、少しトーンが暗くなる。
「…ふーん?なんでそう思うのかな?」
しかし、その意味ありげな何かに構うことなく、ズバッと核心をつく。
「どう見ても取り繕ってるだろ。」
「…アッハハ、ばれたか。なら普通にさせてもらう。」
「…それで、俺に何の用があるんだ?」
少し、いやだいぶ不機嫌さを言葉に滲ませながら、用件を問う。
「用って用は無いんだけど、カリン、少し時間余ってるよな?」
「はい、最長で1時間といったところでしょうか。」
「十分だな。良ければ店に入らないか?どこか寂れた感じの。」
「…。」
チラッと襲われた彼女の方を見る。彼女一人をこのまま置いていっていいものか…。
さっきの奴らがまだ近くをウロついてる事を考えたら、それは許容できない。
「勿論、彼女も一緒で構わないよ。」
しかし抜け目なく先手を打たれる。
「わ、私もよろしいのですか!?」
妙に嬉しそうに、行く気が垣間見える彼女。
「うん、是非♪」
こうなるとイケメンの特権をフル活用しているのも絵になるな。なんだよその笑顔。
「それで、クロキはどうかな?」
乗り気な彼女を差し置いて「結構です」とも言い辛い、ここは一先ず。
「…判った。」
アイツらが置いていった装備をちゃっかり回収しておき、彼らの後をついていく。
知る人ぞ知る裏道みたいな、わけの分からん、初見の奴なら確実に迷子になるルートを2人でついて行く。
なんかボロボロの看板の店にすぐ到着し、四人掛けのテーブルに通された。
店内は少し薄暗く、イメージ的には地元の焼き鳥屋みたいな感じである。
…焼き鳥屋とか入ったことないけど。
「さて…、ここならゆっくりできそうだ。」
さっきまで着ていたマントを椅子にかけ、その中から出てきた服装に気品が感じられる。
ぶっちゃけ高そうだ。
「あの…、殿下。」
おずおずと助けた娘が声を上げる。
「ん、何かな?」
「失礼ですが、本来なら殿下は、表のパレードにご参加されているはずでは?」
「あぁ、それか。それは…。」
何故か得意げに語尾が跳ねているのは気のせいか。
「殿下がわがままを言って代役を立てているんです。」
サラッと一言でお付きの方がまとめてくれる。
「ちょ、カリンっ。」
「申し遅れました。私、アストライオス殿下との個人的な契約でお付きをしている、カリンという者です。」
主人の言葉を遮り、簡潔に自己紹介をする。
「あ、ご丁寧にありがとうございます。私はマリナと言います。」
そんな彼女もつられて名乗る。
「…それで、こんな所に連れてきて何を話してくれるんですか、王子様?」
しかし、そんなことは今どうでもいい。
どうでもいいし、興味もない。
「…妙に棘があるな(苦笑)」
「当たり前ですよ。殿下があんな事させるから。」
「カリンもなんだかんだでノリノリだったじゃん。」
この内輪ノリ、そんなものに付き合うためについてきたわけじゃない。
「…アンタら、結局何がしたかったんだよ…。」
呆れ半分で、手に持ってるお茶を飲み干したら出て行ってやろうかと思う。
「んー、強いて言えば…、」
「正直なところ、殿下は直感で動いています。」
またもサラッとお付きが代弁する。
「はっ?」
「ちょっとー?カリンさーん?」
「まず、遅くなりましたが、私と主の数々の非礼、申し訳ございません。」
深々と謝っている風でいるが、実のところ、もうふざけてる様にしか見えない。
「…直感でってなんですかね?というか俺一度馬車直した恩も有りますよね?それの見返りがこれですか?」
馬鹿にされてるとしか思えない。
持っているグラスも少し震える。
「申し開きもできません。私に出来ることがあれば何なりとご要望にお答えいたします。」
慣れているのか謝罪の言葉が“彼女の口”からスラスラと発せられる。
「…命令したのはその人なのに、アンタが尻拭いするのか。」
偉い奴ってのはどこの世界も…。
「主の不始末は従者が片付けるものですから。」
「…はぁ…。そうですか分かりました。」
「ご理解頂き感謝します。」
理解なんざ微塵もしてないが、これ以上不毛に食ってかかるのも無駄だと思う。
「まぁ、カリンに後始末させたりしないけどね。」
そんなボソッと、何でもないように言ったところで、もう意味を持たない。
「…もうそれはいい、それより、いい加減本題に入ってくれ。」
「本題?」
何を言われているのか分からないというように、疑問文だよ…。
「…何か話しがあってここに来たんだろ。」
苛つきを隠しもせず、少し貧乏揺すりも無意識にしてしまう。
「…?あぁ、そう言えばそんな言い回しもしたっけ。」
「…は?」
とぼけているように見えて、実のところ真面目に言ってるのか、それが尚、俺を苛立たせる。
「実はこれといって特に何も無いんだよね。」
大真面目に、ふざけている。
「…なぁ、王子様、ふざけてんなら他でやってくれ。俺は構ってる暇ないんだよ。」
「いやいや、ふざけてはないんだけど。…そう感じさせたのなら謝罪しよう。」
どこまでも、ありきたりな言葉を並べやがる。
「…フン。」
「うーん?カリン、何か視えるか?」
何か、急に目を細めてジロジロ見られる。
「…細くて視づらいですが、黒精霊がまばらに。」
「なるほど。…ちょっと失礼。」
唐突に立ち上がり、両手を肩に置かれる。
「は?なんだよ。」
「少し汚れを綺麗にするだけさ。」
「汚れ?」
しかし、その内容を聞く前にビリっと静電気みたいな衝撃が走る。
「ッ!!」
しかしそれも一瞬で、心なしか気分が軽くなった。
「…あれ…。」
「落ち着いたか?」
さっきまでの苛つきなんてどこ知れず、普段の冷静さが戻ってくる。
「…あ、あぁ、一体何したんだ?」
「言ったろ、汚れを綺麗にしたって。」
汚れ…とはなんの比喩なのか。
「クロキさん、失礼ですが最近、暗所に長時間いた記憶は?」
思い当たるとこと言えば…。
「昨日、…遺跡の中に。」
「その後、丹念に体を拭きませんでしたね?」
「黒精霊って割としぶといから、根付くともっと酷い事になってたぞ。」
「根付く?」
素で疑問系になってしまった。
「ん?知らないか?勝手に体に取り付いて魔力を食うんだ。」
「病の原因にもなりますね。」
カビかよ。と思わんでも無いが、それよりも。
「そう、なのか。」
(教えてくんなかった…ってより、コレも常識、なんだろうな。)
己の非常識さが歯痒い。
「それで、ポカンとしてるマリナさんの為にも、そろそろまともに会話しますか。」
「い、いえ、殿下とこんなお近くにいるだけで一杯一杯なのに、お気遣いなど勿体無いです。」
手をブンブンと小さく振り、頬が紅潮している。
「おおっ、今時珍しい謙虚な娘だね。」
「いえそんな…。」
多分、それだけの有名人と会っている+緊張しやすい娘なんだろうな。
萎縮している彼女を助ける形で、王子に話しかける。
「それで、アルス…王子。」
「アルスでいいって。公の場だけ王子扱いしてくれれば、後は皆と同じだよ。」
「いや、それでいいのか?」
「寧ろ推奨。こんな肩書き、欲しくて持ってるわけでもないしね。」
「…?」
逆に欲しくて手に入る称号でもないだろうに、それこそ親類にでもならない限り。
「俺、一応は庶民の暮らしで育ってるから。割と今の暮らしが煩わしいんだよ。」
「贅沢な悩みだな。」
「まぁ、そうなんだけど…、実際困るんだよね、周りの目とかさ。」
そう言ってチラッとマリナさんの方を見る。
「す、スミマセン…。」
「いや、気にしないでくれ。慣れてる。」
いや、気にさせたのアンタだろ…。
「…それで、周りが対等に扱ってくれないから、友達が欲しい…とか?」
「おぉ、ご名答。よく分かったな。」
「いや、まぁ。」
ラノベでありがちなやつだし…。
「そ・れ・で、俺としては君と友人になりたいわけなのよ。」
…はい?




