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平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第2章 逃亡の先に
22/26

第22話 こうして、また俺は1人に戻る

道中、特に特筆することは無いくらい何もなかった。洞窟にも思える入り口に辿り着き、すぐに探索を始める。

遺跡の中はほんのりと明るく、苔自体が光を放っているようだ。

それに加え、ささやかに火の点いた燭台も設置されており、松明は必要なかった。

遺跡に潜りだして数分、同行者の二人が異変に気付く。

「…なぁ、なんかスライムが少なくねーか?」

「ね、変だよね?」

それの何がおかしいのかイマイチ理解できない。

「…そんな変なのか?」

「あー、あのな、遺跡ってスライムの巣窟な節があるんだよ。」

「巣窟?」

スライムが此処を根城にしてるのか?

「スライムって古代の兵器だー。とか言う変人もいるしね〜。」

「へ、兵器?」

スライムってそんな存在だったっけ?

「そうそう。有名な七不思議的な一つね。」

「何で兵器?」

学校で耳にしそうな単語がまさかこの場で出てくるとは…。

「確か、生き物みたいに食事を摂らないからとか、遺跡を守ってる様だとか、そもそも生き物か?とか、ホント色々あるぞ。」

壁に耳を当てながら、止まるように手をかざされる。

「謎が多いんだよねぇ。」

「そうなのか…。」

一体、スライムって…。

RPGにおいて最弱モブ扱いな事が多いスライムに、まさか謎が秘められているとは。

「核に一撃入れれば大抵倒れるから、あんま気にしないしな。」

「弱点丸出しだもんねー。」

となると、疑問が一つ。

「けど、デカイのは逃げるんだよな?」

「…。」

「…。」

ちょ、なぜ沈黙?!弱点丸出しなのよね?!

パッと目を逸らされ、若干の不安が掻き立てられる。

「あれだ…。」

はい?

「デカイと能力上がっちゃうんだ。」

能力上がっちゃうって…。

「ふー…ん?って、スライムの能力って何だ?」

確かに鎧が溶かされてるから酸性…って思う気もするが、露出してる肌の部分は何ともなかったし。

「溶解と吸収だな、魔力が取られる。」

魔力だけ…か、なるほど。

「と言うことは、取られる速度と量が上がる…とか?」

単純にそれだけだったら魔力切れ程度で済みそうだけど…。

「いや、ところがそう単純じゃなねーんだよ。」

そんな短絡的な考えは即座に否定されてしまう。

「ん?」

「大きさにもよるんだけどね、人も溶けちゃったりするのよ。」

あっけらかんと言い放つその内容に、事の大きさがスッと飲み込めない。

「…え、マジで?」

「マジマジ、大マジ。」

「それは…。」

強すぎやしないか…。

「そんなわけで、Bランク初見殺しとエンカウントしたら逃げるのが定石な訳よ。」

なんかおかしな異名というか二つ名が付いてるけど…、まいいか。

「…で、でも、倒し方はあるんだろ?」

Bランク、つまりはモンスターの中で大きく分けて二番目に強いということ。

使い方によっては分解と吸収というチートな能力より強いのがいるのだから、攻略法はある…はずだよな?

「倒し方っても、…なぁ?」

「ね。」

二人顔を見合わせ、首を傾げている。

「基本的に核をどうにかするしか無いんだ。」

どうやら弱点は核1択、それ以外にないということだ。

「それって…。」

シンプル故に難しいのか。

「専用の道具か、魔法でゴリ押すしか無いな。」

「道具?」

「そーだね。道具ってより毒なんだけど。」

毒ねぇ。

「ま、最近の目撃例は無いから平気だろ。」

なんとまぁ楽天的なのか、それともそれだけレアモンスターなのか。

「…ふーん?」

「クロキって心配性か?」

心配性…というか、なんというか。

「まぁ、多分」

「エリックが楽観的なのよ。」

「そうかぁ?」

確かにそれは共感できる。主に計画性のなさとか。

「ん…?」

唐突に、反射的に声が出てしまった。

「どした?」

ポッと呟いてしまった一言に、目ざとく気づかれてしまう

「…いや、今更だけど、…二人の名前知らなかったなって…。」



数秒の、沈黙。



「…プハッ。アハッハッハ!」

腹を抱え…てはいないけど、そうしそうなほど大笑いしている。

「何だよ…。」

ゲラゲラと大笑いが響き、それを聞くにつれて顔が赤くなる。

「それ今言うか?!ホンット不器用な奴だな!」

「ちょっと、失礼じゃない…プフっ。」

ちょっとー?庇ってるようで笑い漏れてますよ?

「いや、悪い悪い!けど、聞くタイミングが変だろ?」

おっしゃる通りで何も言い返せない。

(…クソッ、その通りだよ(涙))

「しゃーないだろ…。」

逆にどのタイミングなら自然だったっていうんだよ…。

「ハッハッハ…!あー、笑った。」

一頻り笑い、漸く会話ができる状態まで戻ってきた。

「んじゃ改めて、エリックだ。」

「フフッ、リリーよ。」

未だ笑いが口から漏れ出てはいるが、因果応報なのでなるべく気にしないようにする。

「エリックとリリーね、ん、覚えた。」

未だ耳が暑いのだが…まぁ仕方ない。

「そ・れ・でー。」

何やら楽しそうな声色になっているのは気のせいだろうか。

「君の名前は?」

それを聞いて、更に失念していたことに気づく。

「…クロキ…です。」

これで何度恥をかいているのだろうか、穴があったら入りたい…。

「まっ、俺は知ってたけどねぇ♪」

そりゃあ昨日、色々と個人情報について扱う場面で一緒に居たんだから当然だろうに、エリックはしたり顔だ。

(このっ…。」

「それで“先輩方”、歩けど歩けど似たり寄ったりの間取りなんですけど、本当に何かあるんですかね?」

嫌味たっぷりに先輩呼びを強調し、先ほどから殺風景な部屋、いや、個室を何十と出たり入ったりしているのだが、収穫がまるでない。

基本的にどこも石造りみたいな材質で、倒壊とか簡単にしそうにはないんだけど、埃っぽい。


「そうだなー、お、んじゃここ見てみ。」


両開きの重いドア、しかしそれも開け放たれたままそこそこ広い空間が広がっている。

長方形のテーブルみたいな何かが幾つも壁際にあり、それ以外に目立つものは見当たらない。

「ココ…。」

目の前に有るのは…、そう、棺桶だ。

過去に2度、見覚えのある棺だ。入ってしまえば顔だけが見えるようになっている。

しかしその棺も蓋は開き、中には苔や水が入っているだけだ。

このシチュエーションで思いつくのは…。

「墓荒らし…、か?」

そう思えるほど荒れているわけでもない。ましてや何か壊れているわけでも無い。

ただ、何もないのだ。


似たような物が後9個。どれもこれも蓋は開き、苔がビッシリと生えている。

「何も…入ってないな。」

空の棺に空の部屋。

何のための部屋なのかすら分からない。

「何か見つかったか?」

出入り口から顔を出し、

何か、と言われても、今までのガランとした部屋と比べれば、何かあるけど…。

「他とは、確かに違うけど…、何も。」

何も、ない。

「何なんだよ、ココ?」

墓…というには殺風景で無骨な寂しい造りだ。

それと…。

(なんだ、この変な感じ…?)

違和感…というか、既視感というか、背中が少し震えるような、そんな何かが。

「正確なことは判らないけど、昔の院じゃねーかな。」

「院って」

しかし、それを聞く前に遮られてしまう。

「ね、多分、小さいのがいる。」

はっ?小さいの?虫?

「…やっぱか、色は?」

途端に何もない中途半端な場所を見上げて、凝視している。

「ーーー、黒、だと思う。」

「マジか、なら早めに出るか。」

2人だけ訳知り顏で話し合い、一人置いてけぼりを食らう。

これ今日何度目だろう。

「なぁ、いったい何がいるんだ?」

「精霊だよ。」

間髪入れずに帰ってきた答えは、意外なものだった。

「精霊?」

「…え、コレも知らねーの?」

さも一般常識だろ?と言わんばかりに聞かれてしまう。

「あぁ、悪い…。」

そんな精霊とかいうファンタジーな産物存じ上げませんよ…。

あ、ここファンタジー世界か。

「あー、そうだな…。ざっくり言うと魔力の塊だ。それも生きてる。」

「魔力の…?」

実態も無しに?

「モンスターの括りになってるけど、イタズラ程度しかしてこない無害な…ううん、黒は有害かもね。」

「有害って、何?何されんの?」

「主には精神干渉、不安とか恐怖を煽ってくるんだ。」

なんか聞くだけで不安を煽ってくるワードばかりが並ぶ。

こんな薄暗いところでそんなの、なんのイジメですか。

「え、マジで?」

このセリフも何度目だろう…。

「でも、そんな大っきくないから平気だよ。」

くるくると指を宙で回しながら何かを確認している。

「でも、よく分かるな?気配があるわけでもないのに…。」

姿形はおろか、何かがこの場にいるのかすら分からない。

「あー、うん、…ちょっとね。」

「おかげで2人でやってけてんだよ。」

「…へぇ、そういうもんか。」

ただ仲の良いカップルとかじゃ無いのね。いやカップルかどうか知らんし聞く気もないけど。

「…さて、何もなさそうだし、そろそろ出るか。」

その一言に異議もなく、大体1時間いたかいないかくらいで外に出る。


これ以上は特に何かしようと言うことにもならず、元来た道を戻り帰ることにした。



「いやー、何もなかったねぇ。」

軽くため息をつきながら、リリーは少し伸びをしている。

「しゃーない、そんな時もある。」

それに返答するようにエリックも口を開く。

「…そういや、さっきの続きなんだけど。」

説明の途中、ふと疑問が浮かぶ。

「んー?」

「精霊って何種類…いや、何色あるんだ?」

さっきの口ぶりから察するに、黒色以外にも有るはずだ。

「種類ー?魔法の色と一緒だよ。」

「そうなのか。…それともう一つ。見る方法と倒し方ってあるのか?」

「倒し方って…。」

何かおかしなことでも聞いたのか、途端に表情が変わる。

「あるには、あるけど…。な?」

「クロキくん、無闇にそんなことしたら祟られるよ?」

へ、祟られる?

「…え、ドユコト?」

祟り、なんてのが元の世界より意味のあるのか、迷信と切り捨てるには早計か。

「…。」

しかし、一瞬の沈黙から雰囲気が微かに変わる。

「クロキ、お前って何者なの?」

「流石に変だよ。」

唐突に2人から距離を取られる。

「へ?」

「子供でも知ってることをなんで知らないんだよ?」

庇うように、リリーを背中に控えさせる。

「スライムとか遺跡の事知らないのは分からんでもない。けどな、精霊と精霊樹を知らないってのはおかしいだろ。」

「杖も旧式のだったし…。」

「いやそれは…。」

「この大陸の常識なんて、細かいとこは知らないけど、概ね同じ筈だ。」

わざと見せつけるように柄に手を置き、警戒アピールをしている。

「お前、他所から来たんじゃないのか?」

どう答えたらいいのか、彼の言葉はあながち間違ってもいない。

そして、間違っていないからこそ言葉に詰まってしまう。

(あぁ、その目は…。)

見覚えのある、目だ。

あの時ほど悪意も疑心も孕んではいないが、それでも受けていて気持ちのいいものじゃない。

「答えろっ!」

全くもって答える気がなさそうな俺を問い詰めるように、怒鳴る。

(…正直に話すか。)

「…。多分、それは半分合ってて間違ってる。」

「…どうゆうことだ?」

一呼吸置いて、俺は有りのままを話す。

「異世界、で通じるのか知らんが、俺、他の世界から来たんだ。」

「…お前、頭大丈夫か?」

当然、すぐに信用もされないようで。

「特に何も感じないよ。」

「正気でコレか。重症な患者かマジモンか…。」

何を視たのさ知らないが、少なくとも正気認定されたようだ。

「まぁ、そう思うわな…。けど、本当なんだ。」

平然と、冷静に話す。

「…クロキ、悪いが俺は、信頼から始まり信用に変わる。最終的な着地が信用である以上、その可能性がないお前を信じるわけにもいかない。」

「???エリック、どうゆう意味?」

「後でな。」

高2の頃なら俺もそんな難い言い回しを使っただろうに、まさか使われる側になるとは。

「…小難しい言い回しだな。敵意丸出しで話し合いすら難しいだろ。」

「悪いけど、ヤバイ相手にフランクにしてられるほど余裕もないからな。」

「悪人は悪人の顔をしてないのが相場だしな。」

「自覚があるんだな?んで、どうする?口封じとしてヤル気か?」

鞘から刀身を少しだけ抜き、会話が困難なことを思い知らされる。

「…そんなことしたくはない。それに、俺はエリックが思う様なヤバい奴でもない。」

「信じたいが、御伽噺を鵜呑みにするほどピュアじゃないんでな。」

「…どうしてもダメか。」

「根拠がないからな。」

「ならどうしろと。」

しかし、彼も無責任な言葉を吐き続ける。

「…知らん。信用に足りる何かがなきゃ無理だ。」

「現状、海の向こうからの侵略者って線が濃厚なわけか…。」


そうして沈黙が暫し流れる。


「…。」

「…。」

お互い、何も喋らず、ただただ警戒し合っているだけだ。


どうしてこうなったんだろうな…。


「ねぇ。」

「?」

そんな中、リリーはエリックに耳打ちをする。

何を聞かされたのか、それだけで彼は数センチ出ていた剣を納め、呆れ顔だ。

「…はぁ、分かった。とりあえず、町まで戻ろう。」

そんな意外な提案がされる。

「…別々にか?」

その真意を測りかねて、嫌味な質問をしてしまう。

「いや、条件次第だな。」

「条件?」

「お前が前を歩く、それだけだ。」

「…それくらいだったら。」


後ろから刺されないよう1メートルほど距離を取って、お互い歩いた。


背中に突き刺さる視線と、何か、ざわついて仕方がない心。

それだけが、ただ前を歩く俺の心を蝕んだ。


今は強がれる。たが、累積する心の傷を癒すにはどうすればいいか。


その答えだけが、俺にはどうしても見つけることができなかった。



何も、誰も言葉は交わさず、街までスムーズに戻ってこれた。

門の出入り口付近、衛兵に声が届かないくらいの距離で再び向かい合う。

「じゃあな。」

簡潔に一言、エリックからはそれだけだった。

「その、ゴメンね。けど、私も…。」

申し訳なさそうに彼女もそばにいる。

「いや、仕方ないさ。けど、今日は助かった。それについては感謝してる。」

最低限、感謝の言葉だけを述べておく。

「…。」

それ以上、一緒にいる必要はなく、俺も彼も男ながらにささやかなプライドがある。

「それじゃ。」

しかし、そんな物を意識するほど余裕はなく、ただこの場から消えることを俺は選んだ。

「うん。」





…結局、また独りになってしまった。


コレが運命ってやつなら酷く小出し小出しにトラウマを刻みつけてくれるものだ。

仲間ができたと思えば失い、あらぬ疑いをかけられ、そうして拒絶される。

前の世界の方がよっぽど楽しかった気がする。

いや、楽しかった。少なくとも命の危険なんて滅多に感じたことなんてなかったし、寝ることや食事、その他生理現象に悩まされることもなかった。


知ったことと言えば、常識やら後悔やら謎の内なるもう一人の自分。

けど、特にあれ以降、何か聞こえてくることもなく、実は夢かなんかだったのではないかと思う。


そんな曖昧なものもあるが、旅をする中で一人のメリット・デメリット、仲間のメリット・デメリットは理解したつもりだ。


例えばそう、行き先を自由に決められる、とか。


知れば、この辺りは王都と言ってもその端らしい。

中央、つまりはお城のある場所へ行くのも手だろう。



どうにか、路銀もある。

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