第20話 出会い
先週は他作品書いてました(汗)
嫌気がさすほど長い待ち時間と、血判やらサインやら確認やら説明やら、とにかく長々とした過程をを経て、漸く一息つけた。
アレだけ色々と書いたり押したりしたにも関わらず、受け取ったのは手のひらに収まるカードが一枚。
表には白く縁取られたアルファベットと数字が羅列している簡素な面があり、裏面には名前や生年月日、その他諸々の個人情報が刻まれている。
ぱっと見「クレジットカードじゃね?」と思わないでもなかったが、役所の職員曰く、これが正式な身分証なのらしい。
これでギルドへの登録もスムーズにできるし、家を購入する時や病院にお世話になる時も問題なく手続きができる。
「…さって。」
いつまでも役所の前で身分証を眺めていても不審者扱いされそうなので、さっさと本登録をしに戻る。
仮のままだと、依頼の発注どころか受注すらできないらしく、素材の買取ぐらいしかしてくれないらしい。
というわけで、ギルドもといクールビューティー受付嬢さんのとこに戻りました。
先ほど同様ニコリとも笑いかけてはくれません。
「はい、手続きは以上です。少々お待ちください。」
なにやら機械にカードを当てて、コピー機にスキャンさせるような感じで緑の光が上から下に照射される。
「お待たせしました。こちらが会員証です。これからのご活躍を期待しております。」
マニュアル通りのセリフだろう、期待されてる気が全くしないのだが…。
「どうも。」
しかし、態度が悪いわけではないので特に何も言えない。
「早速何かお受けになりますか?」
「いえ…。それはまた今度で。失礼します。」
「ありがとうございました。またのご訪問をお待ちしています。」
思ったより手間取ってしまったが、何とかギルドの会員になり酒場の方に腰を落ち着ける。
酒場といっても食事も取れるようなので、俺としては食事メインに寄った感じだ。
適当に食べ物を注文し、運ばれてきた料理を平らげ水に口をつける。
この世界において初めて氷入りの水に出会ったわけだが、特に何の感慨もない。
あぁ冷えているなという以外の感想はなく、水は水だった。
料理の方の感想は…まぁ、不味くはなかったよ。不味くは。
そうして朝食兼遅めの昼食を済ませ、早々に店を出ようと思ったその時。
複数の視線がこちらを向いているのに気づく。食事に気を取られていて全く分からなかった。
大半は男…。一部女性もチラチラとこちらを見てくるが、それ以上何かしてくることはなかった。
不審に思いつつも、面倒ごとに巻き込まれたくないので、すぐ立ち上がる。
どの道、後は帰るかウインドウショッピング位しかやることも無い。
いや、警備の人たちのとこにも行かなきゃならんからそれを済ますか。
そう思って扉まで歩いていった瞬間。
「おうにいちゃん、ちょっと面貸しな。」
長方形のテーブルに腰掛けている金髪のオッサンに呼び止められる。
謎の既視感に苛まれつつ振り返る。
「何か?」
唐突なことで内心ちょっとビクついてるわけだが、動揺を表に出すことはない。
何やら金髪の奴は、俺の頭からつま先までじっくりと凝視し、ニヤニヤしてる。
「お前、仕事ねーんだろ?」
ピクッと頬が動く。なんか言い回しにイラついた。
「いえ別に。」
ガラの悪い相手と仲良くしようだなんて腹は元からないので、早々に立ち去りたいものだ。
「イヤイヤ隠すなって!たまーにいんだよ。お前みたいな貧民がギルドに入んの」
…はい?
言ってる意味がわからん。かといってどう反応したらいいかも分からないので、とりあえず黙っとく。
「…。」
しかし、沈黙を肯定と受け取ったのか、更に調子付くのがチンピラというもの。
「そんな哀れな奴にもよぉ、仕事の紹介をしてやろーってんじゃん。いい話だろ?」
紹介だ?何言ってんのこいつ?適当に断って帰ろう。
「結構です。」
最大限ダルさを表した様子で、やんわりと言い切る。
「んだその態度っ!テメー分かってんのか!?テメーみてぇなクズすぐ死んじまうっつってんだよ!!」
しかしどうも逆効果だったようで、更に食ってかかられてしまった。
「…ご忠告ありがとう。話は終わりか?」
「はぁ?」
すると、隣の取り巻き2人が立ち上がり。
「おいおい新米、礼儀ってもんがなってねぇな?それが先輩に向かってする態度か?」
「痛い目みてぇのなら表でな!俺らが教育してやっからよ!!」
と脅しをかけてきた。確かに中々の巨体で、そこら辺の男よりは強そうだ。
「いや、ホントそーいうの結構なんで。じゃ。」
相手にするのをやめ、そのままスタスタと扉まで向かう。
「おい待てコラァッ!!!」
ソフトモヒカンの男が他の客が少し萎縮するほどの怒鳴り声を上げ、掴みかかってくる。
その動作をなんとなく感じながら、右足を軸足にして左足を90度回しながら、腰を屈めて肘を突き出す。
当然、新米如きと侮っていた奴が、そんな不意打ちに対応できるわけなく綺麗にみぞおちへと肘が吸い込まれる。
「!?ガハッ…、」
男はそのまま痛みに蹲り、もう一人の男も驚愕の顔をしている。綺麗に入ったから、暫くは上手く息ができなかろう。
「なっ!?テンメェ!!!」
すると焦って仲間を助けようとしたのか、それとも単に反撃しようとしたのかは知らんが、大振りで殴りかかってくる。
しかし、見え見えなそんな攻撃に当たってやる義理もないので、半歩下がり、そのまま片手で受け止める。
俺より二周りくらいデカイ拳は、それに見合った威力を有していたが、なんとか耐え切れるほどだった。
そうしてあまり気乗りはしないのだが、ガラ空きだった相手の股間にーーーー。
悲痛な叫びが店内に木霊し、角刈りの男も少し涙目で地に伏せていった。
取り巻き2人がやられたのだから、流石に懲りてくれると嬉しいのだが…。
「オイオイ、テメー。新米が調子乗ってんじゃねぇぞ?」
そう脅す口調は、先の2人ほど軽いものではなく、明らかに警戒はしている。なら手を引けばいいのに、どうしてこういった人種は…。
「先に手を出したのはそっちだろ?」
体格から想像していたより、アッサリ倒れてしまったので、思いの外拍子抜けだった。
「ルッセェ!!タダで返すわけにゃあいかねぇんだよ!!!」
やはりというかなんというか…。
取り巻きが地面に伏してしまったのだから期待通りに逃げてくれると思ったのだが、例に漏れず戦う気が満々のようだ。
「ッチ…。」
小さく舌打ちをして
けど、これ以上の注目を集めるのも問題がありそうなので。つーか出禁になりそうなので。
ユラリッと大股で一歩近づき、首元へ無手を近づける。
その手を掴もうと手を伸ばしてくる腕を左手で掴み、即座にナイフを作る。
「っ!?!?」
どこから出たのか分からないナイフに驚きつつ、己の命があと数センチで失われる恐怖に硬直する。
「満足したか?」
パッと掴んでいた腕を離してやり、ナイフも消す。
シーンと静まり返った店内。見ればほぼ全員がこちらを見ており、誰もが次のどちらかの行動に目を離さない。
俺は気まずさのあまり出口へ直行、ポカンとしている首回りが毛深い店員に「ごちそうさま」と言い、店を出た。
早足で何処へでもいいから歩き出し、横道に入ろうとする。
すると。
「ちょっとちょっと!」
全く聞き覚えのない声が誰か呼んでいる。
「待ってよー、お兄さん!」
しかし俺とは思わず角を曲がりきる前のところで足を止める。
「ん、…俺?」
振り返れば、短髪の人懐っこそうな顔立ちをした青年が走ってくる。
「そそ、黒髪のにーさん。アンタすっげぇな!」
急に謎の大絶賛、いや思い当たる節はあるけどさ。
「…あー、さっきの見てた人?」
コクコクと頷いて満面の笑顔だ。
「いやー、スカッとしたよ!彼奴らいっつも好き勝手やっててさ、皆んな困ってたんだよ。」
「…あんなのもギルドにいんだな。」
キョトンとした顔で俺の独り言に答える。
「?そりゃあ、金さえ払えばなれるしな。にいさん、田舎の出かい?」
「…あぁ。だから世間に疎くてね。」
興味深げにジロジロ見てくれちゃうコイツは、よく見ると少し白い肌であるものの黄色人種特有の彫りの浅い顔立ちだ。
「へぇ?って、そんなこと聞きに来たんじゃないんだよ!」
急に話題を変えようと勢い任せに言い切ってきた。
何コイツ?情緒不安定?
「?」
「仲間がいなかったら、一緒に仕事しないかい?」
言い方こそ違えども、ほぼ内容がさっきのチンピラと同じセリフに目が細くなる。
「は?」
当然、こんな反応しか返せない。
「いやいやいや!待って待って!そんな睨まないでくれって!」
いや、睨んだつもりないんだけど…。俺ってそんな怖い顔だったっけ。
「…あぁ悪い。」
一応の謝罪はしておく。
「あ、いやこっちこそ…って、ちょ、まだ目が鋭いんだけど!?ちゃんと最後まで聞いてくれって!!」
結構、お調子者気質な感じだが割と本気で言ってる気がしてならない。
別に何もしてないのに。
「聞くから落ち着いてくれ…。俺が脅してるみたいじゃないか。」
話が全く進まないのだが、さっきのよりは話が通じそうだから聞く耳位は持とうと思う。
「あ、ああ…!アンタ、まだEなんだろ?俺はCのまだヒヨッコなんだけど、俺ならCの手軽な依頼は受けられるからどうかと思って。」
「…んん?」
どうと言われても、何がどうなのだろうか?
「つまり、手軽なランクアップをしたくないかい?ってことだよ。」
手軽なって、そりゃあ楽な道があるなら通りたいけど。
「ランクアップ?ってそんな簡単に出来るもんなのか?」
単純に疑問だ。システム自体把握してないからな。
「そそ。コネがあれば誰でもやる手だ。本当の実力者なら、竜の一匹でも狩るんだけどな。」
あー、竜とかいるんだ。まぁ、想像はしてたけど。
「…けど、それは君にどんなメリットがあるんだ?」
まさか慈善事業なわけなかろうに。
「何言ってんだよ!にいさんってかなりのやり手だろ?ランク低いだけでB以上の実力を持ってる!そんな人とお近づきになりたいのは当然さ!」
…嘘ついてるようには見えないし、確かに分からないでもないけど。
「…そういうもんか?」
「そういうもんだよ!」
どうしたものかと考えるが、特に疑う必要もないと判断する。というか、ここで突っぱねたらもう二度と誰かから話しかけられないんじゃないかと思った。
「…、分かった。けど、コッチも条件がある。」
条件に入れなくてもいい気はしたけど、一応は言質を取っとく。
「おう、なんだい?無茶なことじゃなきゃ何でも良いぜ!」
まぁ、無茶なこと頼むつもりはないけど。
「その、ここら辺のこと…よく知らないから教えてくれ。」
案の定、きょとんとしてる。
「へ?そんなんでいいの?」
「この国は初めてなんだ。ガイドがいると頼もしい。」
嘘じゃない。一人でどうにかしようにも地図無しじゃどうにもならん。
「…よし分かった!何処へなりとも案内してやろーじゃないの!」
ニカッと綺麗な笑顔で承諾してくれる。
これはあれか?仲間が1人パーティーに加わりましたって感じか?
懐かしのBGMが流れてきそうだ。
「そんじゃ、親交を深めるためにも…昼から一杯いっとく?」
手で何かを摘み、口元で傾けている仕草をしながら、呑みの誘いを出してくる。
「いや、それより入国手続きが受けられるとこ知らないか?」
やんわり話を変え、今から探そうと思っていた場所を尋ねる。
「あり、まさかナンバーズカード持ってなかったの?」
「ナンバーズカード?」
宝クジかなんかですかね?
「んー、あったあった、こういう身分証明書なんだけど。」
そう言って出してきたのは、先ほど作った身分証。
「あぁ、それならさっき。…これだろ?」
ゲートから取り出し、確認する。
「なんだ、じゃあ申請だけか。それなら本部じゃなくてから…。とりあえず着いてきてくれ。」
「おう。」
そのまま着いて行って数十分。
「思ったより簡単だったな。」
「確かに。まぁ、楽なのは良いことじゃん!」
よく分からん書類1枚書いて終わりでした。
寧ろ歩いた時間の方が長いくらい。
取り敢えず、これでやる事は終わったが…。んー、」
手続きの呆気なさに困惑しながら、軽く伸びる。
「他に行きたいところあるかい?」
「それが…、俺って何が分からないのかすら分からないって気づいた。」
こう、攻略本ないとどうにも…。いや、ゲームじゃないんだけどね?
「…それは…助言のしようがねぇな。」
彼も俺の言葉に困っている。
取り敢えず、繋ぎ程度で一つの考えが浮かぶ。
「あー、じゃあ武器とか防具が買える店紹介してくれよ。」
「店?…あー、店かー。」
しかし、今度はあまり浮かない表情だ。
「ん?」
「いやな、あんまここらじゃ店自体が少ないからさ、量産品位しかないと思うんだけど。」
確かに、呑み屋とか食物やの看板が多いようには感じたが、それだと…。
「?でもギルドがあるし、そこそこデカイのが有るんじゃないか?」
需要と供給のバランス的に、ちゃんとしたとこが多そうなイメージなんだが。
「いやいや、貧民街には…、あそうか。中間層のエリアならちゃんとしたのも有るか。」
「???」
自問自答され、話がよく見えない。
「まぁまぁ、一旦大通りに出ようぜ。こっちはあんま来ないけど、この格好なら追い出されたりしないだろ。」
お、追い出される?!
「都会って、そんな面倒なのか?」
これ以外にちゃんとした服とか持ち合わせてないんですけど…。
「んにゃ、貴族に比べたら全然。けど、格付けしたがるのが人の道理…、お、アレ店じゃね?」
何か面倒そうな現実の一面を聞きつつ、指差された方向を見る。
「おぉ、」
確かにそれっぽい剣のマークの看板と、表にはたたき売りされてるような壺に無造作にまとめられている剣やら槍がある。
「いらっしゃい。」
店内も割とフツーの刃物やみたいな感じで、店主も見た目フツーのおっちゃんだ。
「さーて、にいさんはどんな得物を使うんだい?」
「え、…んー。」
言われてみれば、俺のメインウェポンってなんだ?剣とか短剣は見様見真似で使ってきたけど…。
「一応、剣かな。」
「へぇ、てっきりナイフかと思ってたけど…、そりゃそうか。あんな場で抜くもんじゃねーよな。」
その文脈でいくとナイフは合法みたいに聞こえるのは気のせいですか、そうですか。
「けど…。」
マジマジと値段を見ると、中々いいジャブをくれる。
「…少し高いな。」
「金足りない感じ?」
「いや、」
(単純に自分でそこそこ、いやかなりの武器を作れんだから買う必要とか本当はないんじゃなかろうか。」
「取り敢えずザッと見てく。」
そう広くない店内をザッと見るのに5分とかからなかったのだが、品揃えの良さだけは伝わった。
剣は勿論、槍や斧、短剣の他、値は張ったが刀なんてのもあった。
刀を見つけた時には心が躍りかけたが、値段の高さに手を引く他なかった。
形状だけ色々と覚えられただけ良しとしよう。なんなら自前で作れちゃうし。
「結局買わなかったな。」
「付き合わせて悪かった。」
結局、手ぶらのまま店を出て適当に歩きだした。
自作で作れるという節約精神から、どの武器も全く惹かれなかったのだ。
「いやそれは良いよ。けど、手持ちの武器で足りてるん?」
「あー、まぁ心配いらない。」
木の棒のストックもあるから、作るのも苦じゃないし。
「ふーん?…んじゃ、どうする?他に行きたいとこある?」
そう振られたのだが、咄嗟に何も思い浮かばない。
「他…。」
なんか色々やりすぎて疲れた感がある。しかし時刻は夕方、宿に帰ってもすることが無い。
こんな時、テレビとまでは言わないが、漫画やラノベが有れば…。
と、実際はネットサーフィンしかしていなかった事実と向き合わず、思考を明後日でもない方向に飛ばす。
(てか本が有れば良いんじゃ?)
「無いならさー、今度こそ親交を深めに呑みにでも」
必要に呑みの誘いを繰り出してくるけど、まだ日も暮れていないんですよ?
「その前にもう一箇所、ここら辺に図書館とか無いか?」
「図書館?あるけど、何調べんの?」
言われて少し言葉に詰まる。
「何って…まぁ、色々。」
「んー、ならギルドの蔵書の方が良かな?」
「ギルド?」
最初来た時はそんな雰囲気なかったけど…。
「一部貸し出しは禁止されてるけど、貴重じゃないやつなら貸りられるはずだぜ。」
「そうなのか?」
そういや、この世界でまだ本屋って見たことないな。あんのかな?
「あぁ、二階が保管庫だったから戻って見に行くか?」
少しの逡巡を経てからコクリと頷き、そのまま申し訳なく思いつつも元の道へ引き返した。
そのままギルド二階の少し厳重なロックが施されている扉で、会員証を指定の位置に押し当てて開けるという、SF感満載のギミックに驚きつつ、端から本を見ていった。
と言っても、ジャンル分けされており尚且つ冒険者に関係のある本ばかりが並んでいたので、とりわけ魔法とモンスターについての本を探し出し、借りていった。
だいぶこの辺りから記憶が怪しいのだが…、案の定、酒場に連れて行かれ、酒を飲んだ記憶はないのだが…。
気がつくと宿のベットの上で深夜に目を覚ましていた。
いやまぁ、要所要所の記憶はしっかりあったけど…。




