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平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第2章 逃亡の先に
18/26

第18話 絶対的な差

先週試験でした(・_・;

ズカズカと遠慮なしに森の中を彷徨っていると、多少マシになっている所に出てきた。

何かが何度も歩いた後があり、それが結果として道のようになっている。

体はそこまで大きくなさそうだが、4足歩行の生物と、二足歩行の生物が混在していることから、なんとなく、この道はゴブリンの群れに繋がっているんじゃないかと思う。

(これ、ゴブリン…か?)

ふと、足跡を見て思う。


少しあいつらの足よりデカイ気がするのだ。

(…まっ、見ればわかるだろ。)

もしかしたら、ゴブリンだけが人型のモンスターってわけじゃないかもしれないし。

なんにしても、まだまだ知識不足なのは否めないわけだ。

そして、そのことが進む事にストップをかける。

(いや…、大丈夫か?)

盗賊を血祭りに、初戦闘は勝利に。それらが判断を鈍らせる要因となり得る。

色々と割り切っていないわけじゃないが、どこか引っかかっていることもある。

人の死は突然だ。

ふと思えば、俺はムーアの死以外何も知らない。誰が助かり、誰が死んだのか。


鳥の鳴き声と、葉が擦れる音だけが辺りを包んでいる。

引き返すべきか、進むべきか。


「進む…か。」

結局、出した答えはそれだった。


どの道、金策しないと金もねぇ。


(…財布の行方も分かんねーし…。ホント、どこで落としたんだか…。)

トボトボと足跡を目印に先へ向かう。

不自然に枝が折られてる箇所から、そこそこ背の高いやつも混じってるのが察せられる。

…が、素人の自分にはそれ以上の何かが分かるわけもなく…。

なんとなく残っている獣臭に顔を顰めつつ、特に代わり映えしない道を進みだす。

小枝がパキパキなる音を聞きながら、曲がりくねった道を延々と歩く。


けれど、そんな道にも終わりはあり、少し開けた場所に出てきた。


微かに何かを燃やした後があり、この場に何かいたんだということだけが分かる。

「ここは一段と…。」

さっきまでのなんとなく臭った獣臭とは違い、かなり明確な臭いがある。

(てか、クセェ…。)

あの犬猫兄妹は全然そんな臭いとかしなかったってのに…。って、比較するのは失礼か。

多分…、清潔さの違いなんだろうなぁ。

「熱くは…ないな。」

焦げた木々を指で突っついてみるが、特に熱はない。

つまり、もうそばにはいない…ということか。

「ん?」

何やら木に紛れていて気づかなかったが、薄汚れた袋が転がっていた。

「これ…、ん、重いな。」

持ち上げた瞬間、ズシッとした重みに眉をひそめる。

「何が…、コイン?」

袋の中にまた袋があったが、それを取り出すと、ジャラジャラ音がしてきた。

案の定、開けてみると金銀銅と見慣れたコインがそこにはあった。

薄汚れたり、血が付いていたりと、あからさまに穏やかならぬ過程を経てから入手されたモノだと伺える。

「…他は…。」

脇に一度避けておき、袋の中を再度見る。

中には木の枝?やら、ペンダント、腕輪に布?が入っていた。

「なんだこれ?」

(ゴミ…じゃないよな?)

どれも煤汚れていて、特に意味のありそうな物は見当たらなかった。

落とし物を拾って詰め込んだような、そんな印象を受ける。

特に周りに気配もなく、取りに戻って来る様子もない。

「…。」

意味もなく手を合わせ、黙祷を捧げる。本当になんとなくだが、そうしたくなった。

数秒、何に祈っているのかも分からなくなったが、ゲートに袋丸ごと突っ込む。

「さて…。」

どーするか、まさかの金策終了。進む理由が知的好奇心のみ。

「…はー。揺れるなぁ…。」

特に危険を冒す理由はない。けれど、ここで進まずして、いつ進むと言うのだ!とかいう変な義務感に駆られている。

「まぁ、最悪逃げればいいし…。」

悩んだ挙句、結局進むことを決意したのであった。



ーーーーとか舐めて進んだ結果…。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。やっと、撒いた…。」

たった今、全力疾走でヤバいクマから逃げてきたところだ。

いや、俺も調子乗って「まっすぐ行った方が近道じゃん!」とか思ってモンスターの巣の近くまで横断したのが間違いだった。

取るに足らなかった雑魚ばっかだけだと思ったり、ちょいとばかり苦戦を強いられたり、逃げ続けられず本気で戦ったり、くそっ、最初は順調だったはずなのに…。


ガサガサガサっ。


(!?)

草むらから何かの気配…。

「嘘…だろっ!」

次の瞬間、周囲を震わせんばかりの咆哮が辺りに轟く。


グオォォォォォッ!!!!


バキバキッという音と共に黒っぽい巨体が姿を現わす。

「おいおいおいおいおい!こんなのどうしろってんだよっ!」

確か、熊が本気出せば、車並みのスピードが出せるんだったか…。

そんな知識がひょっこり顔を出す程度には、余裕はあるようだ。

全力でどこに向かっているのか分からない道を走り抜けながら、策を考える。

(クソッ、そういや、クマに背中見せて逃げんのってダメじゃん!)

バキバキガサガサと、草木をなぎ倒す音が背後から近づいてくる。

「っとお、おわあぁぁぁぁっ!!!」

その音に気を取られたせいか、はたまた足元をよく見ていなかったせいかは分からない。

が、一つ言えることは、軽い浮遊感と共に、転んだという事実だ。


「いっててて…。」

謎の円形状に整備された空間に真正面から放り出され、着地の代わりに前転一つで受け身を取る。

雑草が綺麗に刈り取られ、土と小石しかない地面。

障害物が円の外にしか存在せず、簡易コロシアムみたいな印象を受けた。


ガアァァァァっ!!!


唐突に飛び込んできた黒い巨体は、まっすぐ俺めがけて右のストレートを叩き込む。

ドオォォォォンっ!!


大地を揺るがす一撃は、隕石でも落ちたかのようなクレーターを生み出し、その破壊力を示した。

「マジかよっ!」

あのまま受けていたら、間違いなく死んでいただろう。

すんでのところで地面を蹴り、相手の攻撃範囲から逃げ出し、転がっている。

のっそりとクマは立ち上がり、こちらを見下ろしている。

その頭部には、緑色の鬣がトサカの様に逆立っており、腕はそこらの木より太く、これまたそこらのナイフより鋭そうな長い爪が見え出ている。

(どうしろってんだよ…!)

一撃で相手を絶命させる武器と腕力。正直、死の予感しかしない。


何か打開策を考えつく前に、奴は動く。


グガァァァァァッ!!


前屈みの体勢で、まるで鮭でも取るかのように爪を振り回す。

「おわっっつ!」

ブンッと全身に風圧を感じながら、サイドステップでギリギリ躱す。

(逃走不可!勝ち目も無し!こんなん無理ゲーじゃねーかよ!!!)

しかし、後手に回っていてはいつかやられてしまう。避けるのもギリギリだ。

(クソッ!おい、俺ん中の奴!黙ってないで力貸せよ!)

ブンブンと振り回され続ける爪を躱しながら、心の中で叫ぶ。


…シーン。


頭を掠めた爪を見送りつつ、何の反応もないまま、ただただ守りに徹している。

(オイッ!聞こえてんだろ!?オイッ!)

爪の先が掠り始め、肌を覆っていただけの同化が裂ける。

そこまで防御力を上げているわけでもなく、もうボロボロだ。

「っ!」

ポタポタと血が垂れていくのを感じながら、必死で避けることに専念する。

すると、爪を振り回すだけかと思いきや、何と蹴りまで繰り出してきた。

当然、予想していたわけもなく、咄嗟に両手で受け止め、最大限の防御をした。

斜め上に跳ねあげられ、バキバキと枝を折りながら後ろに飛ばされる。

咄嗟に頭部を同化で薄く覆い、安全を確保したが、中々に手痛い一撃を受けてしまった。

「…ッ!」

受けたことのないような衝撃が全身を駆け抜けたが、なんとか意識は保っていられた。

(ーーー、ヤバい、死ぬ…。)

力の差は歴然。心なしかクマ野郎も楽しそうに狩りをしてるように見える。

勢いのまま木に受け止められながら、一瞬止まった呼吸を整えゲートを開く。

(…狙うなら、目だな。)

素人でも分かる生物の急所、眼球。

そこを叩ければ幾らか勝機はあるだろう。

「…?」

銃を握ることには成功したが、敵も何か構えている。

腕を少し引いて俯いているのだ。

途端に感じたことのないような寒気に襲われ、急いで木の上から飛び降りた。

また前回り受け身で着地をしつつ、次の瞬間、バキバキバキっ!!という穏やかならぬ音が聞こえる。

見れば、先ほどの構えから両手を伸ばし、爪が少し煌めいているではないか。

その先には、先ほどまで俺がいた場所がポッカリと抉られ、パラパラと木の残骸が落ちてくる。

「おいおい冗談だろ…!」

溜め攻撃持ちとか聞いてないっ!

なんて言ったところで、どうにかなるわけでもない。

ギロッとこちらを睨み、また同じ構えをしている。

(連発できんのかよ!)

風で押し出すだけの威力の弱い(ゴブリンには十分な)弾丸を撃ち込むが、虚しくもほぼ無意味だった。

奴の体毛はゴブリンの肉より頑丈らしく、軽々弾いてしまっている。

バッと地を蹴りゴロゴロと射程範囲から逃げたすと同時に、また木々を抉った技が放たれる。

ゴウッという音と共に、またもバキバキという音が響く。

(クソッ!もう一つしか思いつかねぇ!)

睡眠不足、疲労。これらが相手に多大なるアドバンテージを与え、しかもステータスは敵が格上。

数少ないカードを切ろうにも、物質の生成以外に魔法はロクに使えない。

(ーーーっ!)

武器をナイフに持ち替え、覚悟を決める。


撃った反動で少しのクールタイムでもあるのだろうか、俺が走り出したのに反応が遅い。


ドスンッと両手を地面につき、突進をしてくる。

が、謎の体の軽さを武器に、繰り出された爪を跳躍で躱し、背後を取る。


そのまま距離を取り、少々大きめな粘着力を有するゼリーを設置する。


反転して追撃を加えようと爪を振り回してきたが、背後の木の枝に、今伸ばせる全長2メートルの、形が不安定で変幻自在な棒を引っ掛け、どこぞのくも人間らしく空を飛ぶ。


すると、ベチャベチャとひっつくゼリーを体の前面から受け、少しの間、自由が制限される。


「これでぇ!どうだ!!」

ストンっともがくクマの上に着地し、ギロッと睨んでくる頭めがけてナイフをーーー。


瞬間、突風が巻き起こる。


奴の緑のトサカが淡く光を放ち、台風でもきたのではないかと錯覚するほどの風圧が体を押し上げる。


「おわあぁぉぁぁっ!!!」

誰かに突き飛ばされたようにクマの背中きら吹き飛ばされ、尻餅をつく。


ブチブチブチッ、とゼリーを引き剥がし、ムクリと起き上がる。


すぐさま立ち上がり、ナイフを構える。

「マジかよ…。」

振り出しに戻ってしまった。

いや、むしろマイナスか…。体力が削がれ、打つ手も無い。


グルルルルルッ。


睨み合ったまま、お互い動かない。

(…そうだよな。そうだよ、最初から無理なんだよ。)

もう倒すビィジョンが見当たらず、思考を逃走へと切り替える。

一定時間なら拘束も可能だと分かり、多少の希望は見えてくる。

死を覚悟しながら、同時に倒せるかもしれないと慢心していたとは、本当に馬鹿だった。


少しも奴から目を離さず、余すことなく全身に力を入れる。


少しの油断もなく、奴の目を睨みつけ、魔力を手に集める。



動く、そう思った瞬間。


クルッと反転し、なんと歩き出したではないか。

「へっ?」

特にこちらを振り返る様子もなく、元来た道へ引き返している。


(逃げ…た?)


油断させ襲いかかってくる可能性がないわけではないが、振り返る素振りすら見せず、そのうち姿が見えなくなった。


ペタッと地面に座り込み、力が抜ける。

全くもって意味がわからない。


「助かった…のか?」


辺りは木々の擦れる音だけがあり、周囲にはそれ以上の音を発する物はなかった…。


ーーーーーー。



「なに?それは本当か?!」

卓を囲んで遅めの昼食を食べていた矢先、なにやら不穏な知らせがやってくる。

「村長殿。どうかしましたかな?」

同席していた大臣が尋ねる。

「え、えぇ、申し訳ございません。少々問題が起きてしまいまして…。」

チラッとこちらに視線をやってから、言いずらそうにしている。

まぁ、俺の評価を落としたくないとか、そんなくだらない理由だろうけど…。

「構いません。何があったんですか?」

優しく、できるだけ笑顔で接する。

「はい。どうやら、この付近でガストベアが出たらしく、村の者が被害に…。」

ピクッと微かに反応する。

「死傷者の数は?」

「王子。」

隣で大臣が制してくる。それも当然のことか。

自ら出ようとか考えちゃうような上司を止めるのが部下だしな。

「死者2名…軽傷者4名です。」

苦々しく告げられた人数は、決して少なくはなかった。

「人の味を覚えたか…。」

「ダメですからな。」

厳しめの表情で先ほどより大きく制してくる。

「オーブリー。見過ごしたら、国の恥だろ。」

「だからと言って、許可できませぬ。」

少し不満げに顔を歪め、仕方ない、と呟く。

「…わかった。カリン、行けるか?」

彼女も食事はまだだろうに、こんな仕事を頼むのは心苦しい。

というか、俺が出れば早い話なのに…。

「殿下の御心のままに。」

恭しく一礼をし、目と目で会話をする。

「オーブリー、良いな。」

やれやれ、といった感じで軽く頷く。

「よし。では、どなたかに案内を頼めますかな?」

テキパキと指示をまとめ、少し青ざめている村長に顔を向ける。

「はっ、ハイ!殿下の訪問を知りおきながらこの様な事態となってしまい、誠に申し訳ございません…。」

ありきたりな謝罪を言葉に出され、半ば呆れてしまう。

いやまぁ、俺の感覚が一般的なのが原因だろうけど。

「構わん。これも仕事の内よ。」

少し素の出た大臣に驚きつつ、カリンに一つ指輪を手渡す。

「それじゃあ任せる。無茶はするなよ?」

「殿下のご期待に添えるよう、尽力いたします。」

何の捻りもないシンプルな返事は、彼女の瞳に言葉以上の意思を感じさせた。

「ご案内します。こちらへ」


外へ出て、まず彼らに声をかける。

「オルソ、パリス。手を貸してください。」

プラプラと村の中を散策していた騎士団の2人だ。

「おりょ、姐さん、どーしました?」

「何か問題でも?」

どうやら、ここまで熊の話題は届いてないらしく、状況を伝えた方がいいらしい。

「ガストベア討伐です。この付近に出現したらいので、貴方達も来てください。」

簡潔に事情を述べ、状況を把握させる。

「おうよ。」

「なるほど。了解しました。」

この紳士的な、如何にも平均的な騎士の態度を取り、長身で碧眼なのがパリス。正反対なのな口調で小柄なのがオルソ。

二人とも実力は確かな…、いや、アルス王子が連れてきた面々だから、不確かな者などいるわけはないのだが。

「行きますよ。」


空歩ウインド・ウォークを駆使し、森の中を全力で走り抜ける。

本当は馬を使おうかと思ったのだが、まだ休息が必要そうだったので、断念した。

途中、空腹を紛らわせるための気休めに、幾つか非常用タブレットを口にし目を凝らす。

「おや姐さん、飯食ってないんですかい?」

バレないようにコッソリと口にしたはずなのに、ちゃっかり見られている。

「…殿下と一緒に食事が取れるわけないでしょ。」

流石に公の場でそんな事をすれば、他でもないアルスに迷惑がかかる。

クスッと言う鼻で笑うような音が聞こえたが、華麗にスルー。

「まだ王子との食事は緊張しますか。」

真面目な顔でふざけた冗談を碧眼の男が言う。

これがまたふざけ過ぎていて半殺しでいいから手を出したくなるほどの冗談だ。

「その口を縫い付けて欲しいのかしら?パリス。ーーーー止まって。」

作った笑顔で振り返ろうと思ったが、直前で精霊に揺らぎが生じた。

どうやら近いらしい。

「オルソ、調べて。」

「はいよ。」

瞬間、空気がピリピリと震える。

「距離200に1、小川だ。」

プルプルと震えているが、彼はいつものことなので放っておく。

「単体か。」

余計な取り巻きがいないことに内心安堵しながら、走る速度を緩める。

「一瞬で仕留めるわよ。」

その言葉を合図に、各々がするべき行動は決まった。

コクリと二人は頷き、尚も彼女の後を追いながら魔法の準備も始める。


残り約50…。


何となく獣臭が漂ってきており、物理的にもそう遠くないことが窺える。


気休め程度だが、補助魔法で身体能力に補正を掛け、一気に飛び出す。



戦闘態勢でこちらを睨んでいたベアは、確かにそれなりの大きさではあったが、未だ成長の止まらない子供であると察せられる。

小川を背にし、私たちから目を離さぬまま奴の手足がボヤける。

辺りには不自然に風が巻き起こり、より一層精霊も落ち着きを知らないでいる。

けれど、それ以上の変化は視覚的に見当たらず、Cランク以上の実力は見受けられなかった。


それに反して、こちらは微動だに動かず、ただその場に立ち止まっている。


すると、どうしたことだろう。


何やら水の中から異様な影と水音が聞こえてくる。


その小川に住んでいるにしてはあまりに巨大なその生物の影は、ユラリユラリと蠢いている。


当然、ベアもその影に気づき、余計な邪魔が増えたことに不満を覚える。


前後どちらにも警戒を配りながら、水面に映る謎の影は、その姿を表そうと小さな水柱と共にベアに向かっていった。


しかし、所詮は水棲生物。クマの爪にかかれば一撃で終わる。


そうベアは思ったのだろう。


上がった水柱に爪を食い込ませ切り払ったにも関わらず、それらしい手応えがまるでないのだ。

その代わりと言わんばかりに大小様々な石が降り注ぎ、たじろいでしまう。


その一瞬の隙が生じた瞬間。


どこからともなく白い光を纏った両刃の斧が胸に刺さり、それと同時に二振りの剣が首に食い込む。


しかし、それでも生命力を損なわなかったベアは、痛みに絶叫し地面に倒れ込んでしまう。


胸に生えた斧は小刻みに振動し、首筋からは鮮血が吹き出している。

それで終わればよかったのだが、命のやり取りをしてそれで終わるわけもなく、最期には長槍が喉をめがけて突き立てられ絶命した。


ベッタリついた剣の血糊を一振りで振り払い、ベルトに括り付けられている短剣位しかしまえないだろう鞘へ刃を戻す。

不思議と途中でつっかえたりする事はなく、すんなりと鞘の倍以上はあった剣は二本とも納まった。


「呆気なかったな。」

槍を引き抜き、ベアからパリスが降りる。

カリンさんが態々出てくるような仕事だったから、よほどの大物なのかと内心期待していたところだが、実際に戦ってみたら気配の察知すら甘い若輩者だった。


「だな。そんじゃ、俺たちが後やっとくんで姐さんは先戻って報告お願いしやす。」

深々とベアの胸を切り裂いた斧を乱暴に回収しながら、淡々と噴き出た血と戦っているオルソ。

特に私が上司という訳でもないのだが、こういうことに限って言えば、いつも彼は私に気を使ってくれる。


その気遣いを素直に受けつつ、労いの言葉をかけ走り出す。

「ありがとう。気をつけてください。」



やはり気休め程度にしかならなかった非常食は、一度の戦闘でそのカロリーを消費してしまったようで…

一度止まった空腹がまた蘇ってきた。

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